気候セミナー開催報告:企業の排出削減目標の新しいスタンダード『Science Based Targets』


2015年11月9日、WWFジャパンは、企業の気候変動対策が促進されることをめざして、セミナー「企業の排出削減目標の新しいスタンダード『Science Based Targets』」を開催しました。

「Science Based Targets(以下「SBT」)」とは、WWFおよびCDP(*1)、国連グローバル・コンパクト、WRI(世界資源研究所)による共同イニシアチブ。世界の平均気温の上昇を「2度未満」に抑えるために、企業に対して、科学的な知見と整合した削減目標を設定するよう求めるものです。本セミナーでは、なぜ、こうしたイニシアチブが必要なのか、SBTとはどのようなものか、SBTをめぐる世界の動向や事例紹介などを中心に発表が行なわれました。

*1:CDP=企業や都市の重要な環境情報を測定、開示、管理し、共有するためのグローバルなシステムを提供する国際的な非営利団体

開催概要

日時 2015年11月9日(月)
場所 イイノカンファレンスセンター Room A
(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング4F)
参加者数 約200名

イントロダクション:COP21(パリ)およびその先を見据えた世界の動向とScience Based Targets

発表者:WWFジャパン 気候変動・エネルギープロジェクトリーダー 池原庸介

セミナーではまず、WWFジャパンの池原より、イントロダクションとして、なぜ今、Science Based Targets(SBT)というイニシアチブが重要なのかをお話ししました。

温暖化による影響を、人類が適応できる範囲にとどめるためには、世界の平均気温の上昇を「2度未満」に抑えることが欠かせません。それは、国連の気候変動枠組条約に参加する世界の国々の共通認識となっています。

この「2度未満」に向けて、人類は今後、大幅な温室効果ガスの排出削減を実現していかなければなりません。その重要な担い手のひとつは政府であり、2015年11月30日から始まるCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)では、2020年以降の削減目標の合意に向けて、話し合いが行われます。

そうした政府の取り組みを後押しし、さらに、より積極的な削減を目指せるよう変化を起こしていくためにも、産業界による長期的な視点に立った実効性の高いコミットが非常に重要になってきています。

池原は、SBTが、世界の平均気温の上昇を「2度未満」に抑えるために、企業に対して、科学的な知見と整合した形で、削減目標を設定するよう求めるものであり、その実行を支援するためのガイダンスやツールなども策定していることを紹介しました。

発表:Science Based Targets(SBT)とは

WRI(世界資源研究所) GHGプロトコル 副ディレクター シンシア・カマス氏

次に、WRIのシンシア・カマス氏より、具体的なSBTの内容が紹介されました。

カマス氏は、これまでの温室効果ガスの削減目標は、実績や計画に基づいて、今後どのくらい温室効果ガスを削減できるかを積み上げ、それに基づいて立てられることが多かったことを指摘。

しかしこれからは、科学的に見てどの程度の、どのような取り組みが必要なのかを知り、それに対して企業がどのような貢献をすべきなのかに基づいて目標を定めていくことが重要であり、それがSBTの目的でもあります。SBTでは、2015年末までに100社、2018年までに250社の参加をめざしています。

カマス氏からは、SBTの取り組みを広めていくためのキャンペーン「Call to Action」や、科学と整合性のある目標を設定するためのガイダンスを提供する「SBTマニュアル」、企業の取り組み状況を確認することができるオンラインツール「target tracker」などが紹介されました。

発表:CDPのScience Based Targetsに対する考え方、企業への期待

CDP事務局 プロジェクトマネージャー 高瀬香絵氏

CDPは、企業や都市の重要な環境情報を測定、開示、管理し、共有するためのグローバルなシステムを提供する国際的な非営利団体です。毎年、企業に質問書を送り、炭素、水、森林、都市などに関する環境情報の開示を求めています。

CDP日本事務局の高瀬氏からは、2016年より、気候変動に関する質問書にSBTに関する質問が取り入れられることが示されました。その上で、CDPが科学的根拠に基づいていると認める7つの目標設定手法や、部門別に異なる目標を設定することができるというアプローチなどが詳しく紹介されました。

高瀬氏は、SBTを設定することは、今や世界の潮流となりつつあること、関心を示さない企業は、やがて投資対象として見なされなくなり、取り残されていくだろうと指摘。

セミナーに参加していた企業の担当者に向けて、SBTへの参加を表明してから目標を設定するまでには、24カ月という猶予が認められていて、マニュアルやツールも提供されるので、ぜひサインアップしてほしい、と呼びかけました。

事例紹介:『Road to Zero』における温室効果ガス排出削減

ソニー株式会社 品質/環境部門 環境部 環境推進課 環境スペシャリスト 八木克 氏

現在、日本の企業で、SBTイニシアチブに参加している企業は7社(ソニー、花王、コニカミノルタ、電通、日産自動車、本田技研工業、リコー)。そのうち、すでに目標を策定し、SBTから承認を取得しているのがソニー株式会社です。

そこで、ソニーの八木氏より、2050年に向けた環境計画「Road to Zero」や2015年に策定した温室効果ガス削減目標について発表いただきました。

ソニーでは、1990年代という比較的早い段階から、経営層が環境への関心を示してきたこと、SBTありきではなく、これまで取り組んできた内容が結果的にSBTに適合するということで承認された経緯などが紹介されました。また、長期計画を策定することで、社内で将来に向けたあるべき姿を共有することができ、クリアな議論や目標設定ができる、といったメリットも紹介されました。

また、「2050年までにライフサイクル全体で90%削減」という長期的なビジョンからのバックキャスティングによって、自社の事業活動から生じる温室効果ガス排出(スコープ1,2)に関して「2020年までに2015年比で5%削減(2000年比で42%削減)」という目標を立てたことや、事業活動範囲外での間接的な排出(スコープ3)に関しても目標を立てていることなどについても具体的な事例が示されました。

「2度未満」に向けて

セミナーの最後には、質疑応答の時間が設けられ、長期目標やスコープ3の目標をどのように立てていくかや、社内での理解や合意をどうやって築いていくか、SBTイニシアチブに参加した場合にどのようなことが求められるのか、などについて、具体的な情報が交わされました。

また、発表者からは、日本も遂に、長期目標を持っているか、その目標は科学的な根拠に沿っているか、社会的な責任に見合うものになっているかなどがチェックされ、投資するかどうかを判断される時代に突入したことが指摘されました。

その上で、自社の気候変動対策の長期的な方向性やスコープ3の目標を示すことで、社内や外部のステークホルダーを巻き込みつつ、共にその実現に向かうという姿勢を持つことこそが大切だとのメッセージで、セミナーは締めくくられました。

現在、世界では98社がSBTへの参加を表明しています(2015年11月25日時点)。そのうち、目標の策定と承認まで至っている企業は、日本のソニー株式会社を含め、6社です。「2度未満」を見据えて、科学と整合した目標を発表する企業が今後も増えていくことが期待されています。

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