目撃者の証言:変わる湖の風景と遊牧の暮らし


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アジア(モンゴル):マルシュ・ナランフーさん

故郷のモンゴルの草原で、先祖代々遊牧の暮らしを営んできた、マルシュ・ナランフーさん。最近、天候の変化により、遊牧を支えてきた草原と湖の風景が、変わりつつあるといいます。伝統の遊牧民の暮らしはどうなるのか。マルシュさんはその未来を心配しています。

モンゴルの大草原からの証言

私の名前はマルシュ・ナランフーといいます。67歳になります。私の故郷はモンゴルのホボト県チャンドマニ郡にあるツァガーン・ゴルという場所です。私の先祖は長い年月ここで遊牧民として家畜の世話をして暮らしてきました。生まれてからずっと遊牧生活を送ってきた私は、学校には行ったことがありません。しかし、私の14人の子どもたちのうち、遊牧の暮らしを続けているのは4人で、あとの子どもたちは都会に住んでいます。

マルシュ・ナランフーさん
(c)Marush Narankhuu

水と氷が消えていく

夏になるとハエや蚊がたくさん発生するので、夏期は山間部に移動して過ごしていましたが、遊牧生活の拠点としていたのは、ハルオス湖(黒い水の意味)の周辺でした。

私が若かった頃、ここは本当に美しいところでした。一面に広がる草原、とても素晴らしい豊かな四季。近隣のチャンドマニ郡、マンハン郡、ゼレグ郡からも、放牧のために、たくさんの人たちが訪れたものです。そして湖の周りで、私たちは平和な暮らしを営んでいました。

以前、このあたりでは、湖の水際がもっと高い場所にありました。今では、その多くの場所が、草に覆われています。水位が大幅に下がってしまったためです。私たちの家畜は、ここでは水を飲むことができなくなってしまいました。

ハルオス湖の水が急激に干上がり始めたのは、ここ4~5年のことです。小さな手汲みの井戸でさえも、水が涸れ始めています。昔は、湖の周りには小さな池もたくさんありましたが、今では、一つも残っていません。かつて、全て水に覆われていた場所に、今ではゲル(伝統的なモンゴル遊牧民の円形の家)が建てられています。

水が豊かだったころ、この辺りにぬかるみはありませんでした。しかし、今ではこのぬかるみが私たちを悩ませています。家畜が、そこにはまりこんで、死んでしまうこともあります。

ジャルガラント山(Jargalant Khairkhan)の頂上を覆っていた永久凍土は、この2~3年の間に溶けだしていますが、幸い2008年の夏は、わずかな量が溶けただけでした。しかしこの永久凍土も、今後どうなるかはわかりません。
ラシャント渓谷(Rashant Am)にも永久凍土がありましたが、今では溶けてなくなってしまいました。

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湖とそのほとり。住居に疲れるゲル(モンゴルの円形天幕住居)が並ぶ。

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ゲルとその内部

上昇する気温

冬の気温も上昇しています。雪の量も少なくなっており、雨も減っています。どのような土地でも、水さえ十分にあれば、美しい風景になると、私は思います。ですがこの2年間、ジャルガラント山では、草が生えていません。

私の見るところ、家畜の数が減ってしまうほどの影響は、まだ現れていません。しかし、ここ4~5年は、厳しい状態をなんとか持ちこたえているだけです。
どこもかしこも乾燥しており、草の根は乾いてもろくなっています。嵐の後には、土が風で飛ばされ、このボロボロになった根が地表に現れ、完全に乾ききってしまうのです。

唯一、牧草が残っている場所は、湖の土手です。この周辺で家畜は草を食べていますが、この限られた土地だけで、全ての家畜の飼育に必要な食草を、十分に確保できないことは明らかです。

しかも、ここでは、私たちは家畜を放牧することはできても、水を与えることが出来ません。湖の水は干上がってしまい、周りには泉も池もないからです。湖は今、ぬかるんでいます。そのぬかるみの泥の中で、家畜が死んでしまったことも何回かありました。

自然や天候の変化によって、2008年も牧草が少なくなっており、家畜はとても弱っています。この状況は、私たちをとても困らせています。私たちの暮らしは、完全に自然や天候に依存しているからです。
私たちがいかに、湖の水に依存しているか。お分かりになるでしょう。

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乾ききってしまった草原

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マルシュ・ナランフーさん。自宅のゲルにて。
ナランフーさんの地元、ツァガーン・ゴルには「サミット・ジャルガラント(Summit Jargalant)」という環境保護団体がある。天然資源を持続的に利用し、家畜の毛から良い製品を作ることで、地域の収入を生み出す取り組みを行なっている。このような取り組みが、遊牧民の暮らしを支える、新たな力として期待されている。

変わりゆく放牧の暮らし

こんな変化もありました。
私たち遊牧民の決まり事として、6月から10月までの間は、湖に浮かぶ島に、移動してはいけないことになっていました。しかし今では、多くの家族が10月を待たず、家畜をつれて島に移ってしまいます。湖の周辺には家畜が食べる草が十分にないので、島に移動するしか仕方がないのです。

かつて、牧草も水も十分にあった頃は、こんなに早い時期に湖の島に、人が近づくことはありませんでした。しかし今では、より湖に近いところに住もうとして、中には湖の中の島に移り住む者もあらわれています。
そしてどうやら、人々は思いやりをなくしてきたようです。人を出し抜き、他の家畜を持っている人たちを島からおいだすようになっているのです。

私も年々老いてきています。
そして、私たちや、他の遊牧民たちが、放牧生活をこれからも続けられるかどうか、その瀬戸際にきているように感じています。
私は今すぐにでも、政府がこの状況を改善するための打開策を打ち出すべきだと思います。政府がどのような対策によって、水分量を増やし、水分の蒸発を止められるかはわかりません。

しかし、この非常に厳しい状況を乗り越えて、人々が安心して生活できるように、国際的な協力の場や、地域の対策プロジェクトのなかで出来ることは、たくさんあると思います。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年11月8日
Climate Witness: Marush Narankhuu, Mongolia

科学的根拠

バティマー・プンサルマ博士(Batimaa Punsalmaa)
モンゴル・自然環境省(Ministry of Nature and Environment) 水問題専門家(Water Authority)

ハルオス湖周辺の牧草と水資源の変化に関する証言は、この地域の科学的な調査結果および今後の気候変動予測と一致しています。モンゴルの他の地域でも同様な水と牧草の問題が広く見られるようになっています。
ハルオス湖は1998年に湿地の保全を目指すラムサール条約の登録地に指定されました。またこの地域はアルタイ・サヤン・エコリージョン(Altai- Sayan Ecoregion)に含まれます。この地域は気候変動に対して最も脆弱であると特定されました。ハルオス湖はこの地域の人々の生活と環境に大きな役割を果たしているのです。

References:

Vulnerability of Mongolia’s pastoralists to climate extremes and change. in Climate change and Vulnerability. N.Leary, C.Conde, J.Kulkarni, A.Nyong and J.Pulhin eds., Climate change and Vulnerability. Earthscan. London. The international START Secretariat, 2008:67-87pp

Adapting to drought, zud and climate change in Mongolia. in Climate change and Adaptation. N.Leary, J.Adejuwon, V.Barros, I.Burton, J.Kulkarni, and R.Lasco eds., London. Earthscan. The international START Secretariat, 2008:196-210pp

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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