目撃者の証言:湖の水が無くなってゆく


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北アメリカ(アメリカ):オラフ・グラディンさん

ジョージア州にある人口の湖シドニー・ラニアー湖。ここで干ばつが始まったのは、2007年のことでした。以来、湖の水位は急激に低下。湖をめぐる人の暮らしやレジャー産業も、一転することになりました。この湖に子どもの頃から親しんできたオラフ・グラディンさんは、その変化を目の当たりにしてきました。増え続ける水の需要に加え、干ばつによってもたらされた湖の変貌は、周辺の気候をも変えてしまいつつあるといいます。

ジョージアの湖からの証言

私はオラフ・グラディンといいます。4年前から金融サービス機関で情報システムのIT技術者として働いていますが、ずっと園芸と自然に興味を持っています。子どもの頃は、西部のカリフォルニアからアリゾナ、テキサス、現在住んでいる東部まで、州から州へ引越しを繰り返しながら、アメリカ国内のいろいろな気候の中で暮らしてきました。その後は、人生のほとんどをジョージア州北東部で過ごし、この地域の自然環境と絶え間なく変化するジョージア州の天候を体験してきました。

オラフ・グラディンさん
(C)Olaf Gradin

厳しい干ばつで水が失われたラニアー湖

シドニー・ラニアー湖は1956年にビュフォード・ダム(Buford Dam)の完成によってできた人工湖です。この湖にはチャッタフーチー(Chattahoochee)川とチェスタティー(Chestatee)川の水が流れ込んでいます。この湖は、アトランタなどの遠く離れた大都市の貯水湖として機能しているだけでなく、近郊の都市に商業や観光の機会をもたらすものとして開発されました。

不動産、釣り、豪華ヨットなどの経済・観光資源を利用し、ジョージア州ゲインズビル(Gainesville)などの都市は好景気に沸き、ゲインズビルは1996年夏のアトランタオリンピックのボート競技会場にもなりました。

この湖は私の生活の楽しみの一つでもあります。子どもの頃、私は友達と一緒に、この湖で泳いだり釣りをしたりしていました。大人になってからも私は湖によく来ていて、今では息子がここで泳いでいます。

ところが、2007年の初めから、ラニアー湖は米国南東部を襲った厳しい干ばつによる被害を受けました。

ラニアー湖の1,114キロに及ぶ湖岸で、わずか7カ月の間に、6メートル以上も水位が下がったのです。2008年の春、普通であれば前の年に減った水位がもとに戻る時期ですが、「満水」とされる水位より4メートルも低い状態でした。
湖ができてから50年余りの間、この年ほど水が少なくなったことはありません。

これには2つの理由が考えられますジョージア州の大部分が1年間にわたって、厳しい干ばつの状態にあったため、ラニアー湖の水が付近の都市や州に供給され続けたこと。そして、ラニアー湖周辺でも雨が降らなかったことです。

アトランタ市は、この湖の水の唯一最大の使用者ですが、この町は、湖水の供給限界量に関係なく、人口が増加し続けているのです。

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かつて湖底だった場所。狭い入り江や小さな湾は乾いて露出している。

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湖岸だった場所が今では草原に。

干ばつの湖への影響

激しい干ばつによって、以前はラニアー湖の底だった土地の大部分が、狭い入り江や小さな湾などから見えるようになりました。露出した広い湖底の土は栄養分を多く含むので、植物があっという間に育ちます。植物の激増により湖が小さくなり、湖岸には湿地ができました。

また、こうして露出した湖岸は、そのほとんどが粘土質の土と砂が混ざりあった崩れやすい土壌だったため、簡単に侵食され、湖の底を埋め始めました。
こうした現象は、人工湖では、通常何十年もかかるのですが、干ばつがこの作用を大幅に加速させました。干ばつによって、このダムの寿命が、重大な影響を受けていると考えられています。

さらに、景観も変わりました。この湖は市が運営する多くの観光広告宣伝キャンペーンの対象になっていますが、昔の写真に見られる美しさはもう跡形もありません。
ボート遊びと桟橋は湖周辺での商売の中心でしたが、多くの桟橋業者は事業の衰退に耐えられず、仕事をやめてしまいました。実際、たった一つの桟橋しか残らなかったマリーナもあります。 以前は湖に面した土地は高価でしたが、今では露出した湖岸が見えるだけ。不動産の価値にも悪影響を及ぼしています。

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厳しい干ばつにより泳げなくなった湖

干ばつとの戦い

また夏は空気を冷やし、冬は空気を暖める湖は、周辺地域の天候や気温調節にも、大きな役割を果たしています。

しかし、干ばつで湖の水位が大きく下がったため、このような恩恵を得ることができなくなりました。
これは夏に一番顕著で、湖からのそよ風が以前のように心地よくないのです。そして、冬は気温が上がっています。雪が降ることは、今ではほとんどなくなりました。
湖への干ばつの影響は、アトランタの大都市圏などへのそれと比べ、影響が大きいのです。

こうした中、2008年の夏に、政府はジョージア州北東部の55の地域で、長期的干ばつレベルを4に引き上げました。水の使用制限はさらに細かく規定され、町によっては戸外の水の使用が完全に禁止になったところもあります。

地域社会も、環境を保護しようと立ち上がっています。地域の団体や個人でも湖底があらわになった湖岸線に、がれきやゴミが溜まらないように、進んで掃除を行っています。また、地域社会も効率的に水を使うことを心がけるようになり、普段の生活において環境保護が地域社会の優先項目となりました。

こうした干ばつは、シドニー・ラニアー湖周辺の町の地域環境、経済、レジャーに多くの変化をもたらしました。環境問題は、このような地域にもこれだけの影響を与えるのです。それが地球規模で進んだら、どのような気候の変化をもたらすことになるでしょうか。その答えは、容易に理解できると思います。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年8月28日
CClimate Witness, Olaf Gradin, USA

科学的根拠

マイケル・マクラッケン博士(Michael MacCracken) 米国気象研究機関 「クライメート・インスティテュート(Climate Institute)」

メディアでの議論は殆どが気温の変化の予測に集中していますが、「全米アセスメント(US National Assessment)」による地域研究は、人々と地域社会への一番重要な影響は水資源の変化によるものだ、と指摘しています。米国南西部のような地域では、気候変動により、降水量が減少する一方で、吸収源(森林など)は増加しています。従って水資源が限られた地域では、環境への悪影響が比較的早く現れます。

地球規模では、温暖化により亜熱帯地域が拡大し、その北端を極地に向かって移動させます。亜熱帯地域とは、赤道付近で豪雨を降らせながら上昇した空気が、乾燥して下降してくる地域で、通常、気温が高くて雨が少ない地帯です。したがって、南東部の夏は、雷雨などをおこす対流性降雨はほとんど起こらないのです。湿度が高いと水蒸気をたくさん含んだ空気になりますが、雷雨などの対流活動を引き起こすきっかけとなる前線は、グラディンさんの住む地域からは通常遠く離れています。結果として、大雨は、熱帯低気圧やハリケーンが発生するときだけに降ります。ひとたび大雨になると、今度は地中にしみこむ暇もなく、流れていってしまいます。

春にも雨はあまり降らなくなってきています。時には竜巻さえも引き起こす強い上昇気流を引き起こすメキシコ湾からの湿った空気と冷たい空気がぶつかる地点が、これまでよりも北上したためです。基本的に、かつてあったような、雨の降りやすい条件は北方に移動し、現在は降水量も減少しています。

雨の減少だけでなく気温の上昇も、地表面の湿度を減少させ、蒸発を促進します。CO2濃度の増加は、植物が水分を利用する効率を上げますが、南東部の森林は生き残るために、より地中深くから水分を吸い上げ、土壌の水分を減少させ、地下水や湖の水位をさらに低下させます。同時に、高温の期間が長く続くと、人、産業、造園、冷却塔のための水の需要が増えます。さらに、魚やその他の野生生物のためにも、川の流れをつくり、適温に保つためには水量が必要なのです。加えて、この地域の土地が平らであるため、海面上昇により海水が河口や湿地帯に逆流してくるのを抑えるために、より川の流れを維持することが必要になります。
全体として、この温暖化の目撃者が述べている経験は、この地域で現在見られる科学と一致しています。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

周辺の地図

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