目撃者の証言:変化し続けるアウトドア・フィールド


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ヨーロッパ(スイス):ダリオ・シュヴォラーさん

ダリオ・シュヴォラーさんは、登山やダイビング、グライダーなど、さまざまなアウトドア・スポーツのガイド、インストラクターとして活躍してきました。今、シュヴォラーさんは、自身がガイドをつとめているヨーロッパ・アルプスの山々で、氷河が失われ、多くの危険が増大している現実を目の当たりにしています。

アルペン・スポーツの現場からの証言

私の名前はダリオ・シュヴォラーといいます。子供が2人います。スキーと登山ガイドの資格を持ち、ラフティングやキャニオニング(峡谷下り)のガイド、小型船の操縦、ダイビング、ハングライダーのパイロットなどをしています。ヨットや登山、スキーなど若者にスポーツを奨励する「ユース・アンド・スポーツ」のリーダーでもあります。私は自然が大好きなので、ヒマラヤ山脈でも海でも同じように気分良く過ごすことができます。私はアウトドアのトレーニング中に地理学を勉強し、アルプスにおける気候変動の影響の専門家になりました。

ダリオ・シュヴォラーさん
(C)Dario Schwoerer

私が生まれたのは、スイス東部のアルプス地方にある州の一つ、グラウビュンデン州です。そして、ザルガンス、ランドクアルト、ヴィルテルズの町で、女1人、男2人の3人兄弟で育ちました。この素晴らしい幼年期に、私は時間があるときには、ほとんどアウトドアで過ごしていました。

山岳ガイドになりたいと思い始めたのは、幼稚園の頃からです。山岳ガイドになれば、私の大好きな自然とスポーツを、他の人たちにも楽しんでもらえると思ったからです。

溶け始めたロジーグ氷河

11歳のとき、私は初めてベルニナ山中のロジーグ氷河に立ちました。ベルニナ山はヨーロッパ・アルプスの中央部、スイスとイタリアの国境に位置します。ベルニナ山にある有名な「ビアンコ・リッジ」と呼ばれる尾根は、アルプスで最も壮観な氷の尾根だと私は思います。それはまるで、天国へ続く階段のようにそそり立っています。

当時、氷河はロゼッグ・バレー(Rosegg Valley)にある山小屋のコアツヒュッテまで続いていました。しかし今では、氷河は100メートル後退しています。ベルニナ山の山岳ガイドは、岩壁、永久凍土、氷河などに影響を及ぼす自然環境の変化をはっきりと観察しています。

また、ベルニナ山脈では落石の危険が増し、クレバス(氷河の割れ目)に落ちる危険が高くなっています。このような変化の主な原因は、氷河が縮小し、永久凍土がとけていることです。

秀麗なベルニナの山容
(C)Dario Schwoerer

危険が増すトレッキング

実際、私はこのような変化がもたらした悲劇的な現場に遭遇しました。
1997年、ガイドとしてモンブラン山中のグーター・クーロアー(Gouter Couloir)を歩いていた時のことです。ロープを使って登っていたイタリア人のグループが落石に遭いました。1人の登山家が下の氷河に落下して死亡、もう一人は岩の間に挟まれて大怪我をしました。

岩が落ちる間、私が彼のために出来たことは、ロープを投げることだけでした。その後、ヘリコプターが怪我をした登山家を救助し、救助隊員と共に機内に引き上げましたが、その時も、また大きな岩が落ちてきました。しかし幸い、パイロットの咄嗟の判断で二次災害は免れることができました。

同じく幸運にも、被害には遭いませんでしたが、グラウビュンデン州のバディレ山でも、2人の登山家が大きな岩壁の崩落に遭遇。さらに、モンブランのドルゥでも同様の災害が発生し、その後、古くからある有名な登山ルート「ダイレクト・アメリカン」は閉鎖されることになりましました。

このような、岩盤を支えていた永久凍土が失われ、岩盤が崩落し、地盤が不安定になるといった、地球温暖化の影響は、目に見えて増えてきました。ハイキングや登山に行く人にとって、最良の「保険」は、財布の中身を把握しているのと同じように、山の環境の変化を熟知している地元のガイドを雇うことになっています。

雪の山を歩くシュヴォラーさん。氷雪の減少を目の当たりにしている。
(C)Dario Schwoerer

山の高所を覆う氷河のへり。氷河が溶けた場所では地盤がゆるみ、大きな事故の起きる危険性も高まるという。
(C)Dario Schwoerer

失われる氷河と観光業の危機

トリフト氷河は2002年から2005年のわずか4年間に500メートル、全体の10%にあたる氷を失い、後退しました。アルプスで一番長い、全長が22.9キロあるグレート・アレッチ氷河も1870年以降、約2,800メートルにわたって後退し、縮小するその速度はどんどん速くなっています。1980年以来に失われた氷は、965メートルにのぼり、2006年だけで氷河は115メートル縮小しました。
そして、多くの山岳ガイドが、ベルニナ山のガイド付きツアーの需要が減っていると言っています。彼らは、自然環境の変化と不況が原因だと思っています。

ほとんどの山岳ガイドたちは、危険なルートを通らないようにして、この状況に対処しています。ガイドの中には、最近アルプス・ツアーの実施を減らし、代わりにキャニオニング(渓谷を使ったアウトドア)や、登山ガイドの仕事に力をいれている仲間もいます。アルプスでの状況が、ますます危険になっているためです。特に、従来は氷によって安定していた、氷壁や山の北壁では、コンディションの良い時を、ほとんど見かけなくなってしまいました。

更に、冬の観光シーズンまでもが、温暖化の進行に合わせて変わってきています。冬が短くなっているので、特にアイスクライミング、スキーと登山のツアー、高山スキーなどが影響を受けているのです。観光シーズンは短くなり、この地域の経済活動に、収入面で大きな影響が出ています。

「頂上を巡る旅」のはじまり

2001年、私は妻とハネムーンで全長が2,600キロに及ぶ、セント・ジェイコブス・トレイルを歩きました。これは、古い巡礼の道で、ヨーロッパ大陸を横断し、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラまで続いています。
この時、私たちは自分たちの人生の何年かを、慈善活動に使おうと決心しました。燃料を使わずに世界を旅行しながら、子どもたちに、自然とパートナーシップを持って生きることを教え、気候を守るためのお手本になりたかったのです。

こうして2003年、私は「頂上を巡る旅(Top to Top Expedition)」をスタートしました。
これは自分たちの力で7つの海を渡り、7つの大陸の最高峰を極めようとするものでした。風力や人の力を使い、環境や温暖化に影響を与えずに、自然と調和しながらこのような究極の旅を実現することが可能だということを実証するのです。

この旅は、アラスカの北端からオーストラリアの南端まで、海岸から標高8,800メートルのエベレストの頂まで続きます。私たちは旅の途中で出来るだけ多くの人に会い、地球温暖化の被害者の団結をはかりたいと思っています。また、世界中で気候変動の影響についての情報を集めたいとも思っています。

地球温暖化は現在地球が直面する最大の問題だと思います。「頂上を巡る旅」のおかげで私は多くの温暖化防止プロジェクトに関するアイディアを集めることができ、改革、解決策を知って理解することができました。そして、地球温暖化という難問は、乗り越えることができるものだと、前向きに考えるようになりました。
家族や友人から離れることは時につらいものですが、気候の安定のために働き、解決策を見つけ人々に出会うことは、その努力に値する価値のあるものです。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年8月19日
Climate Witness: Dario Schwoerer, Switzerland

科学的根拠

クリストフ・マーティー(Christoph Marty) スイス連邦森林・降雪・地形研究所(Swiss Federal Institute for Forest, Snow and Landscape Research)※3

シュヴォラーさんが述べている経験や出来事は山岳地帯での気候変動の影響と一致しています。アルプスのいたるところで気温上昇のために氷河が著しく縮小して後退しています。氷河がなくなると、時には登山者に新たな危険を引き起こすことになります。今まで知られていたルートがクレバスや不安定な斜面のせいで危険になっているからです。
確かに近年岩石落下や岩壁崩壊の報告は増えています。しかし余暇をアルプスで過ごす人々も増加しています。永久凍土の多い山が温暖化の影響を受けている可能性は大いにありますが、アルプスの永久凍土が既に解け始めているという科学的な証拠は今のところありません。
個人的には、夏にガイド付き登山をする人が気候変動のために減っているとは思いません。しかし、冬のアルプス観光については当てはまるかもしれません。いずれにしても、観光と気候の変化は地球規模で起きています。30年前に比べ現在の観光客は旅行をしようと思えば時期に関係なくアルプス、ヒマラヤ、カリブ海と多くの選択肢があるということがわかります。

参考情報

  • ヨーロッパ・アルプスの近年と今後の氷河の変動
  • スイス氷河モニタリングネットワーク(Swiss Glacier Monitoring Network)
  • スイス永久凍土モニタリング(Permafrost Monitoring Switzerland)
  • 世界氷河モニタリングサービス(World Glacier Monitoring Service)
  • 全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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