目撃者の証言:高原の水が涸れてゆく


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アジア(中国):更求拉加さん

更求拉加さんは58歳。中国西部の青海省玉樹県で、ヤクを飼育して生活しています。近年、雨の降り方の変化と、周囲の山々の万年雪の減少によって、暮らしに必要な水の供給に影響が出始め、これまでよりも遠くまで水を汲みに行かなければならなくなりました。

チベットの高原からの証言

私の名前は更求拉加(グン・チウ・ライ・ジア)といいます。中国西部の青海省玉樹県の村に住んでいます。この村は海抜4,200メートルのところにあり、青海省チベット高原の南東に位置しています。この地域に住む多くの人々と同じように、私も牧畜で生計を立てています。

更求拉加さん
(C)Zhang Yifei / WWF China

消えていく水源

私には5人の子供がいますが、そのうち娘2人は結婚して家を出ていて、もう1人の娘と息子は近くの寺院に住んでいます。私は妻と一番下の息子と一緒に暮らしています。飼っている100頭あまりのヤクが、私たち家族の主な収入源です。

20年ほど前に私がここに移住してきたときは、家の前の小川は30センチほどの深さがありました。上流にある泉からは水が湧き、1年中小川には水が絶えませんでした。雨季には小川の水位が上がり、それが地域の住民とヤクにとっての水源となっていました。

ところが最近、川の水位が下がったため、以前はほんの数分のところで水を汲んでいた私の妻は、今はかなり上流まで行かなければならなくなりました。その上流の泉でも、かなり前から湧く水の量が減ってきています。しかも近頃は、ますます雨が降らなくなっています。

チベット高原東部の景色。最近は川の流れが細くなっている。

雨の降り方が変わってゆく

雨の降り方も近年変化しています。以前は毎年6月の雨季には長雨が降り続いていたものでした。しとしと降る小雨は1ヶ月以上続き、家の前の小川を増水させましたが、今ではそのようなことはありません。
その代わりに強いにわか雨が降るのです。しかし、このような降り方では小川を満たすことができないばかりか、川の水を泥で濁してしまうため、水が飲めなくなってしまいます。

そのため、私たちは乾期の飲み水用に、夏の間に雨水を貯めておかなければなりません。また冬には湖から氷を運んできて家で溶かして使っています。

このような状態が続くとあと数年で小川は完全に干上がってしまうでしょう。そうなった時、私たちの家から一番近い水源は、数キロメートルも離れた場所になります。私は今50代ですが、私の子供たちはまだ若いので、彼らの将来が心配です。彼らがこの土地でどのように生きてゆけばよいのか、私にはわかりません。

水を汲みにきた更求拉加さんの妻。生活に必要な水を確保するのが大変な仕事だ。
(C)Zhang Yifei / WWF China

チベット高原で広く飼育されている家畜ヤク。チベットには野生のヤクも生息しているが、数はわずかで絶滅の危機にある。
(C)John MacKINNON/WWF-Canon

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年7月6日
Climate Witness: Gung Qiu Lai Jia, China

科学的根拠

任国玉教授、国立気候センター(National Climate Center=NCC)、中国気象局(China Meteorological Administration=CMA)

青海省のチベット高原全体で気温が上昇していることは調査で明らかになっています。1951年から2004年までのこの地域の年間平均地表温度は10年毎に0.17℃のペースで上昇しており、そのうち最も温度の高かった7年はすべて1980年以降です。この間、この地域の年間降雨量は増加を示していますが、高原の中央と北部では夏の降雨量が減っています。

長江上流にある玉樹県の隆宝という町では、牧畜を営む人々が、山頂の万年雪が消えてしまったり、一部の湧き水が涸れてしまったのを目撃しています。また、以前夏には必ずあったしとしと降り続く長雨がなくなり、しゅう雨(強く降ってすぐにやむような雨)が降るようになりました。そのためこの地域の山に流れる小川の水位は著しく低くなりました。

同じ量の雨が降った場合、しゅう雨はしとしと降る雨に比べて少量しか地下水脈に水を蓄えられません。近隣の山々から万年雪が消えたことも重なり、こういったことが川と地下水の双方の水位を下げ、そのため湧き水が涸れてしまったのです。

現在の温室効果ガス排出のシナリオによると、複数の気候変動モデルが、青海省のチベット高原では気温が今後3.0℃上昇し、降雨量がさらに増加すると示しています。この気温上昇による水分蒸発の増加は降雨の増加を少なくとも部分的には、引き起こすでしょう。隆宝やそのほかの地域では、雪解け水の減少により、真夏の水不足が続くことになります。さらに、永久凍土の減少が高原の草地の生態系に影響を与えることになります。
牧畜を営む人々が日々の生活や仕事を工夫することで、これらの気候変動の影響に適応できるように手助けすることが極めて重要です。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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