目撃者の証言:温暖化が人の健康をおびやかす


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日本(兵庫):和久晋三さん

兵庫県丹波市の診療所で、日々さまざまな世代の患者と接している医師の和久晋三さん。ここ数年、地域で開催される「熱中症予防講習会」に力を入れています。近年、熱中症のリスクが急速に高まっていると感じているからです。「温暖化で気温が上がれば、熱中症が増えるのは自明のこと」。熱中症だけでなく、―年間を通じて、感染症や腸疾患が増加していると和久さんは感じています。

医療の現場からの証言

私の名前は、和久晋三です。大学の医学部を卒業後、大規模な大学病院から過疎の診療所まで、さまざまな現場で経験を重ねてきました。医師になって今年で18年間目。今、働いている兵庫県丹波市の診療所は、父が1958年(昭和33年)に開業した診療所です。父の代は小児科だったため、子どもの患者が多いのが特徴です。8年前にここへ戻ってきて感じるのは、以前に比べ、暑い日には頭痛や脱水症状を訴える子供が増えている、ということです。このまま、温暖化で気温が上がれば、熱中症のリスクはますます高まり、腸疾患や感染症も増えるのではないかと心配しています。

和久晋三さん
(C)WWF Japan/OurPlanet-TV

急増する熱中症

丹波という地方は、兵庫県のちょうど真ん中にあります。
この地域は、もともと冬寒く、夏はとても暑い地域として知られていますが、ここ数年の夏の暑さはすさまじく、頭痛や脱水症状を訴える子供が増えています。しかも、春先でも気温があがり、熱中症やその寸前というケースが出てきているのです。

例えば、2007年に私が診た中学生は、野球部の部活動の途中に、頭痛と吐き気を訴え、学校から連絡を受けた親が連れてきました。暑い中で練習しているのに、水をとらなかったことが原因でした。点滴で回復したのですが、少し遅れたら、もっと深刻だったと思います。

熱中症というのは、暑熱環境で発生する障害の総称で、熱失神、熱けいれん、熱疲労(熱ひはい)、熱射病などに分けられます。

この中でもっとも重いのが熱射病。初期症状は、だるさを感じたり、生あくびがでたりといった程度のため、見過ごされがちですが、その段階で休息を取ったり水分を補給しなければ症状は進み、気を失ったり、痙攣したり、更には意識障害を起こすなど重い症状に陥ります。死に至るケースも少なくなく、過去10年間(平成10年~19年)での186人が、熱中症によって亡くなりました。
死亡率の高い病気なので、ちょっとした症状も軽く見ず、すぐに救急車を呼んで欲しいと思います。

とりわけ注意を要するのが、高齢者の熱中症です。私が診た中では、74歳の女性が水分を採らずに草取りを続け、意識がなくなったケースがあります。この方は、救急車で搬送され点滴で一命を取り留めましたが、危険な状態でした。
高齢者の中には、昔の習慣で、あまり水分を採らない人が少なくありません。しかも、この女性が倒れたのは、真夏ではなく、10月末のことでした。熱中症は、もはや真夏だけでなく、春先から秋にかけての長い期間を通して、起こる危険性があると痛感した出来事です。

兵庫県丹波市。夏は暑いことで知られる
(C)WWF Japan/OurPlanet-TV

親子二代続く和久先生の診療所。先代の頃は小児科が専門だった
(C)WWF Japan/OurPlanet-TV

和久先生の診療所には、今もたくさんの子どもたちがやってくる
(C)WWF Japan/OurPlanet-TV

増える腸疾患

こうした熱中症のほか、医者として私が感じているのは、感染性の腸炎の増加です。
ここ数年、季節を問わず、腸の不調を訴える患者が多くなってきているのです。しかし、かつては、下痢や嘔吐の患児が、年間を通じて来院するという現象はほとんどありませんでした。

そこで、全国で使われている医薬品の使用量などを調べてみたところ、整腸剤や抗生物質の使用量が、増え続けていることがわかりました。全国的に、医師の処方が増えているのです。
このことは、腸疾患が増えていることを裏付けています。個人的な印象ですが、これらも、温暖化によって細菌がより繁殖しやすくなっているのではないでしょうか。

知っていれば助かる命がある

熱中症予防の第一は、炎天下や暑い場所で、長時間のスポーツや作業をしないことです。同時に、暑い日は、十分に水分を補給してください。特に、高齢者は脳の機能がにぶっているため、のどの渇きも感じにくい傾向があります。のどが渇いてから水分補給するのではなく、普段から、余分に水分をとることが重要です。
そのときに重要なのが塩分を採ること。大量に汗が出たときに、水だけを飲むと血液の塩分濃度が薄まり、かえって、体温が上昇し暑熱障害の原因となってしまうからです。

実は、熱中症になりやすいのは、中学生の新入生です。新入生はまだ体力が十分ない上に、厳しい練習を強要されがちです。さらに、途中に水を飲むとサボっているように見られるために、遠慮してしまうため、熱中症が深刻になるまで、本人が無理をしてしまうのです。
このように、指導者の無知によって、熱中症事故が起こることが少なくありません。

今後は、地域ぐるみで、より組織な予防対策を講じ、指導員は、生徒がいつでも水分をとれるような雰囲気作りを心がける必要があると思います。
それでも、だるさや、めまい、頭痛を訴え、熱中症が疑われる場合があると思います。そうした時は、

  1. すぐに涼しい場所で休む
  2. スポーツドリンクなど塩分を含んだ水分を補給する
  3. 濡れタオルを当てるなど、できるだけ体温を下げる

などを行ない、症状が重い場合は、すぐに救急車を呼ぶようにしてください。
特に、体力の低い人、肥満の人、暑さになれていない人、熱中症をおこしたことがある人などは特に注意が必要です。

温暖化が進めば熱中症が起こるのは自明のことです。なんとしても予防をしていかなければなりません。
人間の健康は、気象の変化と大きな関連があることを、多くの方に知って欲しいと思います。天気予報で最高気温が高いと予報されていたら、今日は熱中症に気をつけようという知識を共有することが大切だと感じています。
そのためにも、正しい知識は提供し続けなければなりません。知っていれば助かる命があるのです。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年7月1日
Climate Witness: Dr Shinzo Waku, Japan

科学的根拠

東京大学などの合同研究チーム(2004)によると、日本の真夏日(日最高気温が30度を超える日)は、相対的に見ると、現在の40日程度から、2100年には100日を越えると予測されている。(日本各地で一箇所でも30度を超えると、真夏日としてカウントされる方式)

環境省の「日本への温暖化影響総合予測」(2008年5月発表)によると、温暖化によって、健康への脅威が増すことが予測されており、特に日最高気温上昇に伴い、熱ストレスによる死亡リスクや、熱中症患者発生数が急激に増加することが指摘されている。特に高齢者へのリスクが大きくなる。

2007年夏の猛暑日(一日の最高気温が35度を超える日)には、65歳以上の年齢層で、患者発生の急激な上昇がすでに確認されている。高温の日が続くこと、および異常に高い気温の日が出現することにより多発することが知られており、進行する高齢化社会との関連から、今後対策の強化が急務である。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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