目撃者の証言:伝統の天然氷が採れなくなる


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日本(埼玉):阿左美哲男さん

山の湧き水で天然氷を作っている阿左美哲男さんは、埼玉県秩父にある製氷会社の5代目です。しかし、1950年代半ばには年2回は取れていた氷が、今では1回しか取れなくなってしまったといいます。このままでは、10年後は氷作りができないかもしれない。阿左美さんは今、天然氷作りの将来に危機感を抱いています。

秩父山地からの証言

私の名前は阿左美哲男です。私は明治23年(1890年)から続く氷の卸問屋に生まれ、17年前に父親の後を継ぎました。冷蔵庫の普及によって、冷蔵用の氷の需要が減ったため、現在は、自分で作った天然氷を使って、かき氷を販売しています。天然氷が出来る条件というのは、冬の寒いことと、雪が降らないことの2つです。ここ秩父は、本来、放射冷却によってとても冷える場所で、雪もほとんど降らなかったため、氷作りにとっては最適の場所といわれてきました。
しかし、この10年は、冬に気温が下がらなかったり、逆に大雪が降ったりと気候の変動が大きく、まともな氷を作るのが難しくなりつつあると感じています。

阿左美哲男さん
(C)WWF Japan/OurPlanet-TV

氷が成長しない

天然氷作りは、沢の水を池に引き入れ、氷を自然に育てる仕事です。10月半ばから池の清掃をし、凍った氷の表面にゴミがつかないように毎日清掃を繰り返しながら、氷が15センチほどの厚さに成長するのを待ちます。

先代が氷作りをしていた1950年代は、ひと冬の間にマイナス10度以下まで冷えた日が何日もありました。
先代は長年、氷作りシーズンの12月中旬から1月下旬までの間、毎朝6時の気温を記録していたのですが、それを見るとマイナス13度、マイナス15度、マイナス12度というような日がずらりと並んでいます。
このため、12月に採氷できた年も少なくありませんでした。当時は、年に2回は氷が取るのが普通だったのです。

しかし、私が継いでからは、この17年間で、マイナス10度以下の日が3日くらいしかありません。先代のころから付けている日記と比べると、1月の平均気温はこの40年で3.5度上昇したことになります。
今では、よく冷えた日でもせいぜいマイナス6度くらい。このため、なかなか氷が厚くならないという現象が起きています。

埼玉県秩父山地の山並み
(C)WWF Japan

沢の水を引き入れ凍らせる池。毎日手入れが行なわれる。(C)WWF Japan/OurPlanet-TV

大雪の害

さらに、私たちを悩ませているのが大雪です。
天然氷は、透明度と天然水の味が命です。ここに雨水が混じった雪が入り込めば、氷が濁り、商売になりません。

雪の日には、雪が氷に凍りつかないように、夜通し雪払いをしなければなりません。3年前に3回も大雪が降った時には、通常の雪かきでは間に合わず、近所から人を集めてきて、10人がかりで一日中、雪を掃き出す作業をしました。
このように雪が年々増え、氷作りを難しくしています。

また、2007年の1月は、まるで夏のような爆弾低気圧が来たため、池の周囲で土砂崩れが起きるというアクシデントもありました。このような異常気象が跡を絶ちません。

氷が順調に15センチまで成長するには、安定した寒さが最低20日は続く必要がありますが、度重なる雨や雪、異常気象で、氷が採れる日は、この10年で平均すると1月の2週目くらいになっています。2007年は暖冬で2月6日までずれこみました。2008年はなんとか1月中に採れましたが、来年どうなるか分からないという気持ちです。

育てた氷を切り出す阿左美さんたち。人手が要る大変な作業になる
(C)WWF Japan/OurPlanet-TV

おいしい氷は自然の恵み

おいしい氷を作るには、山の自然環境がよい状態に保たれていなければなりません。

広葉樹の葉が落ちて、腐葉土が1センチ積もるのに100年の歳月がかかるといわれています。こうした腐葉土をゆっくりとくぐってきた水は、とても甘みがあり、とてもおいしい水となります。そして、川や海の生物にいい影響を与えるようなプランクトンをも発生させます。

しかし、伐採・植林を重ねた人工的な山では、沢が砂地化してしまうため、おいしい水は出てこないし、おいしい氷も出来ないのです。

私は今、天然氷を作り続けることに、危機感を抱いています。山の環境は激変し、気象も以前とは全く異なってきている。
日本では、天然氷を使ったカキ氷は、平安時代から親しまれてきましたが、今、国内で、天然の氷を扱っている製氷業者はたった4軒にまで減っています。このまま、地球環境の変動が続けば、もう10年後はないのではないでしょうか。

出来上がった氷。高い透明度と自然の味覚を誇るこの氷は、豊かな山の水ならではのもの
(C)WWF Japan/OurPlanet-TV

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年7月1日
Climate Witness: Asami Tetsuo, Japan

科学的根拠

気象庁の「異常気象レポート2005」によると、東日本の冬季平均気温は、過去100年の間に1.17度上昇している。

埼玉県秩父市においては、1926年の観測開始以来、1月の日最低気温の最低記録は、その1~10位すべてが1930~1950年代に集中している(-12.3~-15.8度)。これに対し、温暖化の影響で2000年以降は-10度以下を記録した日は皆無である。今後もこの傾向は続き、氷作りにも悪影響を及ぼすと考えられる。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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