目撃者の証言:変わりゆくチベットの湖畔


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アジア(中国):索宝さん

青海省チベット高原で、半世紀あまり暮らしてきた索宝さん。最近、ふるさとのある鄂陵湖のほとりの様子が、変わってきたといいます。水は不足し、家畜に与える草も質が悪化しました。湖のほとりの環境が大きく変化し、普段の生活はもちろんのこと、子や孫の代にまでその影響が及ぶことを、索宝さんは懸念しています。

チベット高原の湖畔からの証言

私の名前は索宝といいます。中国西部の青海省チベット高原の東部に住んでいます。私が50年以上も暮らす故郷は、黄河の水源近くに位置する大きな鄂陵湖からそう遠くありません。
私はかつて、地域の僧院の僧でした。そこで医師と仏教画家の仕事もしていました。そして、私の家族は、ずっと家畜を飼って生計を立ててきました。

索宝さん
(C)Zhang Yifei / WWF China

豊かだった湖のほとり

1950年代、私が10歳だった頃、この鄂陵湖の近くに移ってきた当時は、湖は今より大きく、周辺には青々と背の高い草が茂っていました。冬の雪の多い時期でさえ、ヤクやヒツジに草を与えることが出来たものです。
その頃は、祖父と私以外には数家族が周辺に住んでいるだけで、山では野生のノロバ、オオカミ、クマなどをよく見かけました。

しかし、1980年代になると、草の質や量が低下しはじめました。その上、牧畜には有害な草も、牧草地にどんどん増えはじめました。牧草地があまりに小さくなってしまったために、家畜を冬越しさせるため必要な牧草が、十分に確保できなくなりました。家畜はどんどん少なくなっています。

中国西部の青海省チベット高原で牧草を食む索宝さんのヤク。(C)Zhang Yifei / WWF China

干上がる井戸

草の量が減るのと同時に、水の量も減りました。1950年代、この辺りには泉があり、豊富な水が流れていました。
しかし、1980年代から泉が枯れはじめ、井戸を掘らなければ水が得られなくなりました。最初の井戸を掘ったのは1980年のことでした。この時は、2メートル掘るだけで水が出ましたが、2年後には枯れてしまったので、さらに最初の井戸より深いものを2つ掘りました。
2003年に最後に掘った井戸は、15メートルの深さでしたが、それも今では完全に枯れてしまいました。それ以来、私たちはヤクを使って湖から水を運んでいます。

牧草は、量だけでなく質も低下したため、我が家の牧草地だけでは、生活に必要な家畜を維持することができません。今、私の次男は家を出て、山の向こうの農場で働いています。娘夫婦も引っ越していきました。以前は総勢11名の幸せな大家族でしたが、今では家族全員が集まることはとても難しくなっています。

私は人生のほとんどの時間をここで過ごしてきました。私は、鄂陵湖を愛しています。でも、環境が悪くなっているので、子どもたちや孫たちの将来の生活が心配です。この地域の環境変化に、もっと注意を払って欲しい。何か手立てを講じるべきです。

湖のほとりで、高原の気候の変化を訴える索宝さん
(C)Zhang Yifei / WWF China

チベット高原の朝
(C)Zhang Yifei / WWF China

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年6月27日
Climate Witness: Suo Bao, China

科学的根拠

梁四海博士 中国地質大学 水源・環境研究員

2001年から黄河の水源周辺で11の地層の標本を掘削し、そのうちの4つは索宝さんの家の近くで採取しました。その研究から、この地域の永久凍土の状態が悪化していることがわかりました。永久凍土の表面が融けて減少しているために地下水の量が減り、地域の植物を維持することができないのです。それが、草が減り、井戸が枯れた原因です。
永久凍土が減少する主な原因は気温の上昇です。地域の記録によると、1961年から2006年の間、年間平均気温が10年ごとに0.32度上昇しています。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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