目撃者の証言:温暖化がロッキーの気候を脅かす


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北アメリカ(カナダ):ボブ・スミスさん

かつては冬になると、毎年大雪が降っていた、ロッキー山脈の東側。ここで長年暮らしてきたボブ・スミスさんは、特にこの30年の間に、気温と雪の降り方が、大きく変わったといいます。ロッキーの山々はどうなるのか。スミスさんは戸惑いを感じています。

ロッキー山脈・山麓の町からの証言

私の名前はボブ・スミスといいます。1926年に、カナダのアルバータ州にあるバンフ国立公園で生まれました。子供の頃はミネワンカ湖に住み、バンフの学校に通いました。これまでの人生で、特にここ30年ほどの間、気温と降雪に大きな変化が起きているのを感じています。ロッキー山脈では氷河が後退し、森ではマツクイムシが大発生しました。その全ては、まさに、カナダのこの地域の環境が変化していることへの警告なのです。

ボブ・スミスさん
(C)Robert Smith

1930年代、毎年冬になると、必ずといっていいほど大雪が降りました。たいてい年は、クリスマスの頃までに、積雪のため私たちは家から出ることができなくなってしまったものです。そこで1月と2月の間は、毎日学校に通えるように、私は母とバンフの町に移って暮らしていました。

この当時の気温は、おおむね日中の最高気温が氷点下6度で、夜は氷点下12度~17度くらいまで下がりました。冬期は、数週間にわたり、氷点下35度の日が続くことも度々ありました。

子どもの頃の冬と夏

私が子どもだった頃、冬が「茶色い」ことなど全くありませんでした。たいてい1月の終わりか2月の初めに、一時的に雪が解ける暖かい気候になり、私たちはこの時期を「カーリング試合の雪解け(bonspiel thaw)」と呼んでいました。

それというのも、この雪解けは、カーリングの大きな試合や、「カーリング・シーズン」の最中に訪れたからです。この暖かい気候は、1週間以上続くことはあまりなく、雪解けの後、気温は再び下がりました。本格的に暖かくなるのは、3月20日の春分が過ぎてからのことでした。

夏の山に行くと、天候は変化に富んでいました。通常は、おだやかな晴天になったり、数日間続く雨が続いたりする、変わりやすい天候でした。
7月や8月の夏の間も、山の標高の高いところでは、すぐに解けてはしまいますが、雪が積もることがありました。当時、カナダのプレーリー(大平原)地方では、待機が極端に乾燥したり、高温になったりすることは、あまりなかったのです。
また、暑い天気が続いた時には、その後に雷を伴った嵐がやってきて、しばしば落雷による森林火災が起きました。

大人になってから、私はアルバータ州シービー近くの山脈の東に位置する、ボウ渓谷を下ったあたりに住んでいました。ここでは、冬期によく訪れるチヌーク (Chinook:ロッキー山脈の東側斜面に吹き降りる、暖かく乾いた南西寄りの風)の影響で、冬になっても降雪量が少なく、普段ならば、山脈の東側までたどり着くことができました。
しかし雪が沢山降ると、ボウ渓谷からカナナスキス川の峡谷へと吹き抜ける強風が、固い雪の吹き溜まりをつくり、道路を塞いでしまいます。

以上が、私の記憶している「正常」と思われる冬と夏の状態です。
冬はたいてい10月の終わりに始まりますが、夜のうちに厚い霜が降り、池や川が凍ってスケートが出来るようになってから、雪を待つのが普通でした。

カナダ、アルバータ州のオールド・ゴート・モレーン (Old Goat morraine=氷堆石)を登る>

エメラルド氷河(Emerald Glacier)でのボブ・スミスさんと友人。アルバータ州のヨーホー国立公園にて

氷雨が普通の雨に

1978年、私たちはシービーからキャンモアの町へ、再び山の中へと引っ越しました。
ところが、1979年の秋、12月初めになるまで、キャンモアでは雪が降りませんでした。その後、雨が混ざった重く湿った雪が降り、およそ30センチ積もりました。
翌朝、家族の急用のため、エドモントンの町に出かけなければいけなかったので、家の前の歩道や車道の雪かきをせず、そのまま出かけました。ところがその後、気温が下がり、数日後にキャンモアに戻った時、歩道や車道は10センチもの厚さの硬い氷に覆われていたのです。その氷を全部削り取るのに、一冬かかってしまいました。

この冬の始まりが、私にはとても異常なものに思われました。
今までは12月に、山で氷雨(*)が降ることは一度もなかったからです。しかし、その年以来、11月に入っても秋が続き、その後、氷雨が降ったり、あるいは雪が降ってから凍った雨になる、といったパターンの天候が普通になってきました。

  • *氷雨(freezing rain)とは、過冷却の水滴が落下する雨のこと。過冷却の水滴は、地面や木などの物体に降ると、瞬時に凍結して氷となる。

マツクイムシの大発生と氷河の後退

この30年間、この地域の冬の気候は異常なほど温暖でした。1月前に雪が降っても、数日で解けてしまいます。一方、3月の終わりや、4月になってから、大雪が降ることはごく普通のことで、2008年は5月第1週目に大吹雪がやってきました。
また、氷点下30度を下回る厳しい寒さが続くことはほとんどなくなり、あったとしても数日間続くだけです。

このことが、マツクイムシの大発生を引き起こしました。この樹木の害虫は、昔からこの近隣の山々に生息しており、1940年代にバンフで大発生したことを憶えています。
しかし、冬の間に、通常の寒さだった氷点下30度が2週間も続けば、虫は越冬できず、大半が死んでしまうので、これまでは森の環境に大した被害は及ぼしませんでした。

また、私はアサバスカ氷河、イラセラワート氷河、そしてアスルカン氷河の状況を、大変憂慮しています。氷河の融解の進み具合について、綿密な観測をしているわけではありません。しかし、いつも近くから見ている人に比べて、私は見る機会が限られているため、前に見た時との差がより際立って見えるのです。
氷河の変化の様子は科学者や登山家、そしてガイドによる沢山の記録があります。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年6月3日
Climate Witness:Bob Smith, Canada

科学的根拠

モニルル・ミルザ博士(Monirul Mirza)
カナダ環境省適応影響調査部(Adaptation & Impacts Research Division = AIRD)
カナダ・トロント大学スカーバラ校物理環境科学部(Department of Physical & Environmental Science)

ボブ・スミスさんの目撃した話は大変興味深いものです。彼は彼自身が長年観察してきた天候、気候と生態系への影響について記しています。
彼の観察どおり、この地域の気温は上昇しています。最近、専門家が調査した文献によると、1885年から2005年の間に気温が1.6℃上昇しています。山の氷河はかつてない速さで後退しており、気候変動のためマツクイムシ (pine bark beetle)は生息範囲を広げています。
スミスさんの情報は、すでにこの地域に起きている気候の影響についての、信頼性のある学術専門誌の論文内容とある程度一致しています。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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