目撃者の証言:火の山から水と氷が消える


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中央・南アメリカ(メキシコ):オクタビオ・マンシラさん

メキシコシティで生まれ育った、オクタビオ・マンシラさん。自然に強い関心と愛情を寄せるマンシラさんは、小さいごろから慣れ親しんできたメキシコの山々で今、大きな異変が起きているといいます。山の高地を覆っていた氷雪が、目に見えて減っているのです。

メキシコの火山からの証言

私の名前はオクタビオ・マンシラといいます。私はメキシコ・シティ生まれの、メキシコ・シティ育ち。現在31歳です。小さい頃から両親に、自然の大切さを教えられてきたので、私たちが環境にどのような影響を与えているのか、無意識のうちに学びながら成長してきました。アウトドアの活動に関わるようになってからは、あらゆる自然や生物に対する愛情を強くしました。IT業界で少し働いた後、写真の世界へ足を踏み入れ、現在は、自然とアウトドアを専門とする写真家として仕事をしています。

オクタビオ・マンシラさん
(C)Octavio Mancilla

2つの火山の記憶

自分の家から、毎日当たり前に見ていた山に、もっと近づきたいと思い立った私は、この10年の間、山登りの訓練をしてきました。

初めは肉体的にとても大変でしたが、しばらくすると、これまで得たことのない喜びが感じられ、それが自分に対するご褒美と思うようになりました。普段の暮らしを遠く離れ、世界で最も人口密度の高い都会の騒々しさやストレスから解放されて、山の頂きから夕焼けを見るたびにそう思います。

この月に2、3度の山歩きの中で、私はやがて、私たち人類よりもはるかに長い時間を経てきた岩や木々の間に、癒しを見出すようになりました。それは、私が感じていた、人としての罪悪感や、現代の人間の生き方に対する違和感を、少しずつ小さくしてくれたのです。

そんな私を含むメキシコ・シティの住民にとって、二つの火山、イスタシウァトル山(Iztaccihuatl、標高約5,200m)とポポカテペトル山(標高5,465m)の火山活動は、日常生活の一部でした。

まだ私が子どもだった頃、2つの山は、家の屋根からいつでも観察できたものです。山はどちらも、初秋から春の始め頃までの3~4カ月間、完全に雪に覆われていました。

ところが私は、山が雪で覆われている期間がどんどん短くなっていることに気がつきました。雪に覆われる期間は、現在では年に1カ月ほどになってしまっています。さらに、山の頂上には一年中雪が残っているものの、明らかにその範囲が徐々に減少していることにも気づきました。

ポポカテペトル山。火山活動により登山道が閉鎖されています。

イスタシウァトル山。近年、雪の減少が目立っています。

40年前の山の姿は?

祖父が標高4,000メートルにある山小屋で過ごした時の話を思い出した私は、登山グループのメンバーと一緒に、そこへ登ってみました。そして、初めてその場所に着いた時、私は驚くと共に、がっかりしてしまいました。昔、この場所で撮った写真に写っていた氷河は、避けて歩かねばならないクレバス(氷河の裂け目)どころか、その上を歩ける氷すらなかったのです。

祖父の年代の人々は、厚い雪や氷のせいで、この地域を進むことがどれだけ大変か、いつも話していました。今ではスノーブーツなしで、雪のない地面を歩いて行くことが出来ます。私の登山グループの一人は、普通のテニスシューズを履いて、この高さまで登ってしまったほどです。登山専用の靴など、必要なくなってしまいました。
わずか30年か40年。それだけの違いで、祖父と私の経験には、これほどの大きな違いがあったのです。

山で進む温暖化

この10年間、私自身は実際、山に氷がない状況を経験してきました。
私が山登りを始めた頃は樹脂のブーツが必要でした。防水のため、ゴアテックスのような生地を使い、寒さを防ぐために何層にもなった分厚いものです。底にスパイクもついているものもよく見かけました。
しかし、2年前には、普通の革のハイキングブーツと長袖の下着、ハイキングパンツ、そして風よけのトレーナーだけで山頂まで登れるようになりました。

暖かくなって、雪がなくなったことによる影響で気づいたことは、周辺の河川がほとんど干上がっているということです。
これらの河川は山の周辺住民の生活用水として使われています。しかし、私が初めてこの辺りを歩いた頃には、すでに河川が供給する水量が、住民の暮らしを支えられないほどまで減少しているようでした。私は、住民が雨水や、別の水源に頼っているのだろうと推測することしか出来ませんでした。

底をつく地下水

私が住むメキシコ・シティも、同様の問題にさらされています。メキシコ・シティの町は、火山群の斜面に位置しており、水源もこの山に依存しています。市内で使われる水の一部は、山で吸収された地下水です。メキシコ・シティが、山間の谷に位置している、ということを忘れてはなりません。

専門家は「地下水の蓄えはいずれ枯渇するが、それを再び満たすような自然のサイクルはない。仮にあったとしても、枯渇のスピードには間に合わないだろう」とこれまで警告してきました。
その結果、市の広い範囲で実際に地盤沈下が進んでおり、その様子は、ダウンタウンの古いビルを見ればよくわかります。

写真を撮るマンシラさん

森林の消失

森林破壊も問題を大きくしています。メキシコ当局は伐採を規制しようとしましたが、森林伐採は地元の経済にとって何よりも良いビジネスであるため、広大な地域で森が切り払われています。

残された森林を歩いていても、明らかに人間によって連れてこられたウシやイヌ以外に、動物を見ることはありません。もともと森林に生息しているはずの、ピューマやコヨーテ、シカ、そしてヘビなどは、今では教科書に載っている写真で見ることができるだけになっています。

この森林の変化も、水循環を著しく変化させる原因になっていると、私は確信しています。温暖化と森林破壊が進む中で、結果的にさまざまなものが犠牲となり、失われていくことでしょう。
そして最後に、この代償を払うのが、私たちであることは明らかです。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年5月30日
Climate Witness:Octavio Mancilla, Mexico

科学的根拠

アナ・ローザ・モレノ(Ana Rosa Moreno)博士 国立メキシコ大学(National University of Mexico)

マンシラさんが述べている観察は、メキシコ大学が発表した地球温暖化が氷河に与える影響に関する科学的証拠を裏付けるものです。報告書では、「この100年間に気候変化が進み、氷河の後退が進んだ。2006年2月現在、アヨロコ(Ayoloco)氷河の末端は標高5069メートル地点にある」と記述されており、メキシコ・シティのポポカテペトル山とイスタシウァトル山での気候変化の影響を特定しました。
地域社会で利用可能な飲料水の確保を脅かす、気候変化によるアンデス山脈の(Andean)氷河の多くの変化について書かれた報告書もあります。
マンシラさんが子供の頃からどのようにして環境問題に対する感性を養ったかがよく書かれています。彼は祖父と仲が良く、地域の環境変化に関する話を聞いて育ちました。昔の人々は、変化に気づくすべをよく知っていました。この情報は科学的な情報を理解することが出来ない一般の人々にとって大変重要です。

  • IPCC 4th Assessment Report, Working Group 2, Chapter 13: Latin America (Describes impacts in Andean glaciers in Peru and Bolivia) link
  • Permafrost Distribution in Tropical Stratovolcanoes:Popocatepetl and Iztaccihuatl Volcanoes (Mexico).Geophysical Research Abstracts, Vol. 9, 05615. Palacios D., Zamorano J.J. and Andres N. 2007. linkJune 3rd, 2008
  • Glacier monitoring at Popocatepetl volcano, Mexico: glacier shrinkage and possible causes
  • Christian Huggel1 and Hugo Delgado, Geograpisches Institut, Universitat Zurich-Irchel, Instituto de Geofisica, U.N.A.M., Circuito Exterior, C.U., Coyoacan, 04510, Mexico, D.F., link

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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