目撃者の証言:メープルシロップ農家が見た温暖化


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北アメリカ(アメリカ):バー・モースさん

サトウカエデ(メープル)の樹液から作られ、メープルシロップの原料になるメープルシュガー。このメープルシュガー作りを代々続けてきた、アメリカ・バーモント州のバー・モースさんは、近年の温暖化が、この仕事に大きな影響を及ぼしているといいます。モースさんは、サトウカエデの木々と、メープルシロップ産業の未来を心配しています。

メープルシロップづくりの現場からの証言

私の名前はバー・モースといいます。アメリカのバーモント州中部にあるモントピーリアという地域に住んでいます。生まれてからずっとここで生活してきました。現在60歳です。私の家は1700年代後半からずっと、メープルシロップを生産する農業を営んできました。

バー・モースさん
(C)Claude Stone

長年、北アメリカのこの地域では、メープルシロップ作りが、生活にとって大変重要なものでした。
しかしこの20年間、何度も不作の年がありました。その原因は、気温が高すぎたためだと、私は考えています。メープルシロップの収穫高が、例年のわずか2分の1から3分の1しかなかった年も何年かありました。

天気にうるさいメープルシュガー農家

メープルシュガーを生産する農家は、その仕事柄、世界で最も天候についてうるさい人たちだと私は思っています。

私たちメープルシュガーを生産する農家には、理想的な天候が続くことが必要です。
まず、サトウカエデ(メープル)の木が春に樹液を流してくれるためには、夜の気温がマイナス4度ぐらいまで下がらなければなりません。夜の気温が0度ぐらいにしか下がらないようでは、生活していけないのです。

そして日中は、4度から9度ぐらいでなくてはならず、それ以上では暖かすぎます。
風は西風でなければ困りますし、何より天候が予測できなければなりません。このような条件がそろわず、東や南の風が吹いたりすると、樹液は流れ出しません。

2008年、メープルシロップは、カナダにまで広く及ぶ不作の年になりました。もはやカナダにも在庫が無いこともあって、メープルシロップの価格は非常に高くなっています。これまでは、在庫のおかげでメープルシロップの価格は人為的に低く抑えられていたのですが、それも出来なくなりました。

バー・モースさんの家は、アメリカ合衆国のバーモント州で、18世紀後半からメープルシロップを生産する農園を経営してきました。

気候の変化に適応する... しかし、いつまで?

バーモント州では、メープルシロップの生産が減っているとは言い切れません。私たちは生産方法を変えて、これまでと同じ量の生産を続けているからです。

その生産方法とは、真空ポンプを使って樹液を採る方法です。これは、サトウカエデの木を全てビニールチューブでつなぎ、真空ポンプにつなげて樹液を集める、というものです。
樹木の内部の圧力が、外の大気の圧力より大きいと、人為的に樹皮に付けた傷口から、樹液が流れ出るということが、科学者の研究によってわかっています。この方法は、真空を利用することで、サトウカエデの木の幹の内側に、より強い圧力をかけ、巧みに樹液を流出させる方法なのです。

このやり方だと、天候の変化にも対応できるため、これまでと同じように大量のシロップを作ることができます。この方法に変えていなかったら、シロップの生産量は大きく減っていたことでしょう。
しかし、私は将来、サトウカエデの木自体が、減ってくるのではないかと心配しています。

抽出する真空ポンプを使って、樹液をあつめる装置。気温が高い状態が続くと、樹液が自然に流れ出ない。

メープルシロップの生産量を維持するのは、容易なことではありません。

半袖でクリスマスツリーを探しに行く

2年前、私たちの農場にあるクリスマスツリーにする木を切りに行きました。クリスマスを数日後に控えた時期でしたが、半袖シャツ一枚で作業をしました。古い日記や、祖父母との話によれば、この辺りは昔もっとたくさんの雪が降り、寒かったということです。

しかし皮肉なことに、その後2年間つづいた、メープルシロップ不作の最大の原因は、気温が低すぎたことでした。もとより私は、例年よりも温かくなるのではなく、寒くなっているからといって、気候に何か変化が起きているという考えを捨てるつもりはありません。
現在の天候は予想出来ない。だから、そう思うのです。

天候は以前より極端になっていると思います。暴風雨や、時には集中豪雨があります。このようなことは、私が子供の頃にはありませんでした。これらは全て、地球温暖化が原因だと思います。

とくに私が注意を払っているのは暴風の影響です。一年中、サトウカエデの林の中にあるビニールチューブは、暴風で大きな枝が折れて落ちたり、樹木が倒れたりするたびに、だめになってしまうからです。

サトウカエデの葉と枝

解決への取り組み

多くの砂糖製造業者は保守的で、「気候変動なんてものは起きていない。大丈夫だ、心配するな」と言います。しかし私は、このメープルシュガー製造業者として、気候変動について話をしたいと思っています。

私は政治的には保守的ですが、気候変動の影響についてはそうではありません。本当に脅威に感じています。
そして、私たち人間や、私たちが使用する燃料の排気物が、気候変動の一因であると思っていますから、代わりとなる燃料の開発に期待しています。
さらに私たちは石油を使い果たそうとしています。その事実は明らかなのですから、代替燃料の開発に取り組むことが賢明なのではないでしょうか。

私は記者の方を含め、いろいろな人たちと話をし、テレビにも出演しました。昨年はABCニュースに出演し、公共ラジオ番組にも出ました。
メープルシュガーの製造業者は他の誰よりも気候の変化に敏感だと感じています。なぜなら、私たちがこの仕事をする上で、メープルシュガーの生産に適した天候が必要だからです。
メープルシュガーの製造業者は、天候と、樹木を相手に仕事をしていいます。天候が悪くなり、大枝があまりに頻繁に落ちるようなことになれば、修復にも大変な労力を費やさなければならなくなるでしょう。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年5月20日
Climate Witness: Burr Morse, USA

科学的根拠

スティーブ・マクナルティ(Steve McNulty)博士 米国農務省 森林局南部研究所 ノースカロライナ州・ローリー(Raleigh)

モースさんの証言は文献と一致しています。豪雨は1900年以来およそ30%増加し、米国北東部のニュー・イングランド(New England)地方では、モースさんが生まれてからの過去60年間、年間平均気温が上昇しています。
風速が増しているという主張を証明する証拠はありませんが、この現象は地域的で非常に変化しやすいものです。樹液を流れ出させるために複合的な条件が必要とされるため、シロップの生産は気候変化に対して非常に敏感であると予想されます。

  • 気候変動に関する政府間パネル(the Intergovernmental Panel on Climate Change、IPCC)ワーキンググループ Iの報告書 “Climate Change 2007: The Physical Science Basis Summary for Policymakers”. 図 SMP-4.
    www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg1/ar4-wg1-spm.pdf

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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