目撃者の証言:五大湖の湿地を異変が襲う


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北アメリカ(カナダ):ニッキー・ワレンタさん

カナダのトロント・ピアソン空港にある、グレーター・トロント空港公団で、安全管理の仕事をしている、ニッキー・ワレンタさんは、1973年からオンタリオ湖近くに住み、いつも湖岸からさまざまな動物の姿を見て楽しんできました。しかし、湖周辺の環境が変わってきていることを目にあたりにし、どうなってしまうのか不安でならないといいます。

五大湖の湿地からの証言

私の名前はニッキー・ワレンタといいます。オンタリオ州で1973年から暮らし、湖周の辺でさまざまな生きものたちの姿を見てきました。ところが、この地域にある、サミュエル・スミス大佐公園という保護湿地では、環境が明らかに変わってきていています。

ニッキー・ワレンタさん
(C)Nicky Walenta

この湿地には、多くの野草が自生しており、たくさんの種類の魚類や鳥類、カエル、ヘビ、カメ、そしてビーバーなどが生息しています。また、繁殖のため、季節になると毎年ここにやってくる生きものたちも少なくありません。
この湿地帯は、オンタリオ湖と太いパイプでつながっていて、湖の水が絶えず供給されています。魚や両生類も、このパイプを通ってオンタリオ湖と湿地を行ったり来たりしています。

湿地帯の消失

2007年の春、私は、私が会員として所属している、トロント写真芸術組合のメンバーに、この素晴しい湿地を紹介しようと思い、撮影会を兼ねて公園を訪れました。しかし、8月後半に再度公園を訪れた時には、湿地帯が完全に干上がっていて、大きなショックを受けました。オンタリオ湖の水位が著しく下がったため、この湿地を潤すだけの水が、パイプに入らなくなったのです。
私たちは干上がった湿地の泥の底を歩きましたが、野生動物を目にすることはありませんでした。

このあたりに住む自然愛好家は誰でも、急激に自然環境が変わってしまったこと、そして、その変化がこの地域の野生生物に与える影響について、詳しく語ることができるでしょう。

私も、毎日犬と湖の水辺を散歩しているので、変化にはすぐ気づきました。この10年で、特に大きく変化したのは、湖の水位です。
私が湿地の沼が完全に干上がってしまったのを初めて見たのは2007年のことでした。冬の時期の雨が十分に降って、オンタリオ湖の水位を上げ、この貴重な湿地を再び水で潤してくれるかどうか、とても心配しました。

しかしこの数年、夏季の降水量は減少しており、冬は短く、雪も少ししか降らないので、水位はあまり上がりません。
かつて水際だったところが砂浜となり、水際に行くまでに岩場を下りなければならなくなった場所もあります。この岩場は長い間、水の底にあったのです。私は35年間、一度もこのような光景を見たことがありませんでした。

水位が下がった湿地帯(C)Nicky Walenta

カナダガン。北米大陸に広く分布する渡り鳥。

鳥類の渡りパターンの変化

トロントの天候は1973年ごろから大きく変わってきました。
春から秋にかけて姿を見られる夏鳥たちも、冬がとても温暖になったため、冬により暖かい地域へと渡らなくなりました。

例年は、1月と2月の最も寒い季節になると、湖や湿地では、水鳥の食物が乏しくなるため、カモ類の姿を見ることもありません。秋に越冬地へ飛び立ったこの鳥たちが、再びやってくるのは、3月中旬の頃でした。

ところが、2006年以降は、1月、2月になっても、毎年多くの水鳥の姿が見られます。
私が働いているトロント・ピアソン空港は、渡り鳥の飛行ルートになっているため、以前は春と秋の渡りの季節には、渡り鳥に注意するよう離着陸する飛行機に伝えていましたが、今では、水鳥たちがいつも周辺にいて、飛行を妨げています。

渡りをしなくなった多くの水鳥の中には、冬の間、十分な食糧を得られず、餓死するものもいます。鳥たちが1月に交尾しようとするのを目撃しましたし、カモやガンが、本来目指すべき南ではなく、北の方向へ飛び立つのも目にします。鳥たちはどうすればいいのか、もう分からないようです。野生生物は混乱してしまっているのです!

悲しいことですが、このような状況は、人間がもたらしたものです。
温暖化という人為的な影響に加えて、人々は夏の間、安易に水鳥などに餌を与えてきました。このため、少なからぬ野生動物が、この簡単に手に入る食物に依存するようになっていたのです。

人間が変化を引き起こしている

2007年1月、犬と散歩していた私は、突然カモの大群に襲われました。空腹に耐えられず、餌を目当てに迫ってきたのです。私はこの時、生まれて初めて鳥たちが震えているのを目撃しました! この群れは飛び立つ機会を逃してしまい、その時にはもう南に飛ぶ力も残っていなかったのです。

2008年もこの状況が繰り返されました。今回はナキハクチョウ、ウミアイサ、ヒメハジロ、マガモ、カナダガンといった水鳥たちが、冬の間、湖に留まりました。ヒメハジロは冬になると、東海岸へと渡るはずなのですが、この年の冬は、数百羽もの群れが残っているのを見ました。
トロントではこの冬、多くの積雪があったため、12月後半までに鳥たちの食物は無くなってしまいました。しばらくの間は、強風が岸壁に打ち上げたものを食べることが出来ましたが、それもすぐに無くなりました。

(C)Nicky Walenta

また、気候の変化の影響を受けているのは、水鳥ばかりではありません。庭でよく見かけるさまざまな種類の鳥たちも渡りをせずにこの地域にとどまるようになりました。

政治家たちは、全ての活動には因果関係があり、自分たちが問題の一部であると同時に、これを解決する責任の一部をも担っていることに、気付く必要があります! 変化はゆっくり起こっていますが、政治家は現実を直視し、有権者が必要としている改革を行なってくれると判断したから当選できたのだと認識する必要があります。
この問題は自然に解決されるようなものではありません。この問題を政治家ができるだけ早く認識することが大切です。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年4月15日
Climate Witness: Nicky Walenta, Canada,

科学的根拠

チャールズ・K・ミンス博士(Dr Charles K. Minns) カナダ・トロント大学(University of Tronto, Canada)

ワレンタさんの観察は五大湖(Great Lakes)沿岸湿地帯に影響を与える気候変動などのストレスと一致しています。また、彼女の目撃談はこれまでに発表された文献とも一致しています。

1970年代以降、温暖化と積雪量の減少はトロントの湖岸開発、外来生物、オンタリオ湖の水位規制などと複雑に関連してきました。この地域の開発は直接的には海岸の生息環境に変化を及ぼし、間接的には沿岸の堆積物の侵食と砂浜の形成に影響を与えています。改善された水質と、外来種のカワホトトギスガイ(ゼブラガイ)(zebra mussels、Dreissena polymorpha)が増殖したことによって、水中植物が増加し、それが温暖化ともあいまって水鳥の渡りを少なくしています。2007-2008年の冬のように、湖の水位が下がったり、雪で覆われたりする時には、彼らの食糧源はなくなります。温暖化によって水の流入量が減っているため水位が低下したり、水位規制によっても水位は通常より低くなったりするのです。

ワレンタさんの観察はオンタリオ湖周辺で起きている気候変動の影響に関する科学的な証拠と一致しているといえます。

  • Bonsal, B.R. et al. 2001. Characteristics of daily and extreme temperatures over Canada. Journal of Climate 14:1959-1976.
  • Final Report by the International Lake Ontario - St. Lawrence River Study Board to the International Joint Commission, March 2006. (高まる環境問題への関心に伴う水量調節の代替案を査定するための5年におよぶ二国間研究に関する報告。詳細情報については、www.ijc.orgまたはwww.losl.orgを参照下さい。)
  • Kling, G.W., K. Hayhoe, L.B. Johnson, J.J. Magnuson, S. Polasky, S.K. Robinson, B.J. Shuter, M.M. Wander, D.J. Wuebbles, D.R. Zak, R.L. Lindroth, S.C. Moser, and M.L. Wilson (2003). Confronting Climate Change in the Great Lakes Region: Impacts on our Communities and Ecosystems. Union of Concerned Scientists, Cambridge, Massachusetts, and Ecological Society of America, Washington, D.C. 92p. (詳細情報については、www.ucsusa.org/greatlakesを参照下さい。)

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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