目撃者の証言:氷雪と共にウィンタースポーツが消える


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ヨーロッパ(スイス):アドリアン・ブラナーさん

スイス出身のサイクリストでスノーボーダーでもあるアドリアン・ブラナーさん。リゾートの町アンダーマットで、アウトドアショップの仕事を手がけています。ブラナーさんは、自身が直接触れ、また携わっている、スイス・アルプスの自然と地域の観光事業に、地球温暖化が及ぼそうとしている影響について懸念しています。

ヨーロッパ・アルプスからの証言

私の名前はアドリアン・ブラナーといいます。歳は30歳で、スイスに住んでいます。生まれはチューリッヒ近郊のバーチヴィルという町です。ヴィンターチュールの学校に通っていた頃から、自然の中にいるのが好きで、特にスノーボードと自転車が大好きです。

アドリアン・ブラナーさん
(C)WWF-Switzerland

山に住む

マウンテン・バイクに夢中になったのは10歳の時です。そして、エリート・アマチュアとして12年間厳しいトレーニングを積みました。
その後、半年ほどアメリカの西海岸で過ごしたのち、スイスに戻って3年間の商業訓練を受け、金属会社に勤めました。しかし、1日11~12時間も事務所で過ごさねばならない生活は、楽しいものではありませんでした。

そこで、私は山に引っ越すことにしました。スキーリゾートの町アンダーマットに住み、そこで週3~4日働いて、それ以外の時間をアウトドアで過ごすことにしたのです。
アンダーマットはスイス・アルプスの中心にあり、この国の最も重要な収入源の1つである観光業で成り立っています。

私は現在スノーボードとマウンテンバイクの店で働いており、その店を引き継ぐことになっています。この会社は、衣類を含むスノーボードとマウンテンバイク用品を販売し、観光客向けの教室も開いています。

マウンテンバイクで山に挑むブラナーさん
(C)WWF-Switzerland

暖かくなり始めたアルプス

ところが、スイスの多くのマウンテン・リゾートと同じように、アンダーマットも温暖化の影響を受けています。冬は遅く始まり、寒さは穏やかで乾燥し、今までのように秋に雪が降ることが希になりました。岩盤を支えている永久凍土が融け、滑落が頻発しているのも目撃しています。

ヨーロッパ・アルプスは、世界でも温暖化が最も早く進んでいる地域の一つで、産業革命が起きる以前と比べると、平均気温が約1.5度も上がっています。

このために雪が減り、降っても標高の低い地域では短期間しか残りません。冬と春には以前より降水が多くなると予想されています。この増加する降水が雪となって積もるかどうかは、実際の気圧配置次第ですし、それは年々変わっていくでしょう。たくさん雪が積もる年もありますが、その頻度は低くなっています。

スノーボードは冬の人気スポーツの代表だ。
(C)WWF-Switzerland

雪のないクリスマス

私の店の収入は、冬季の売上げがその75%を占めています。その3分の1は、12月から翌年1月の、クリスマスから新年にかけての時期だけで達成します。この季節は、私の商売にとっては、とても重要な時期なのです。
ところが今では、冬に予想外の出来事がたくさん起きるため、全てがめちゃくちゃになっています。

昔、冬は10月か11月に始まりました。しかし、今では大西洋上の低気圧が無くなり、雪が降りません。2006年の11月には、標高2,000メートルのところを半ズボンでサイクリングができたほどです。
現在、雪がたくさん降るのは、3月、4月のシーズンです。時には5月になってしまうこともあります。

困ったことに、クリスマスの時期、山が白ではなく緑だと、観光客はアンダーマットにやって来ません。そうなると私は、年間売り上げの大部分を失うことになります。
その上、緑のクリスマスは基本的に、「シーズンが終わった」という印象を与えるため、観光客はそれ以降もやって来ません。「年末年始に雪がないのであれば、そのあと降るはずはない」と観光客は思うわけです。
奇妙なことですが、このような決まったパターンが人々の頭に植え付けられているのです。

そのため、2007年の冬は、ビンディングやスノーボードなど、スノーボード用品の売上げが50%も減ってしまいました。衣類関連はそれほどではありませんが、20~30%の減少と予想しています。

コンクリートと合成シートで気候変動と戦う

アンダーマットのような観光地では、地球温暖化の影響によって、次のような経済的な負担が増します。

  • クレバス(氷河の大きな裂け目)が雪で覆われることがないので、氷河をすべる準備が困難になる
  • 輸送道路、居住地、観光施設を保護するためのインフラを拡充する必要があり、資金も必要となる
  • 永久凍土が溶けることによって地盤が不安定になるため、スキーリフト会社はその上に建てた施設の基礎をコンクリートで補強しなくてはならない
  • 2006年の夏、岩盤の滑落によって、アンダーマットに通じる道路が4週間にわたり閉鎖されたため、観光客の数が激減した
  • 2005年夏以来、アンダーマットでは氷河の上部を合成シートで覆っている。こうすることで、山の頂上にある施設へのルート上の雪解けを遅らせているが、これはとても費用のかかる保護手段で、部分的には役立つものの、氷河全体が無くなることを止めることは出来ない

私は、自分がこの仕事を引退するまでに、ウィンターシーズンのビジネスはできなくなってしまうだろうと思っています。今後予想される気候変動に対応していくためには、経済的に難しいでしょう。また中期的に言えば、冬季に10人の従業員を雇用し続けることが、とても困難になります。
店を生き残らせるためには、夏用の商品を拡大しなければなりませんが、それには新しいアイデアが必要です。

私はいつか、家族を持ちたいと思っていますが、温暖化のために、不確実な先々のことで不安になります。私の子どもや孫たちは、一体どんな星で暮らすことになるのでしょう。

2005年5月にアンダーマットで行なわれた、氷河を保護するためのシート張り。多少は温暖化による影響を緩和できるが、問題を根本的に解決できるものではない。
(C)Mario FARINATO/WWF-Canon

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年3月26日
Climate Witness:Adrian Brunner, Switzerland

科学的根拠

エリック・マーチン博士(Dr. Eric Martin) メテオ・フランス(フランス・トゥールーズ)(Meteo-France, Toulouse, France)、CNRM-GAME/GMME/MC2
気候温暖化による凍結圏(Cryosperic)の変化は世界中で観測されています。ヨーロッパ・アルプスの中心であるアンダーマットでアドリアンが目撃したことは学術専門誌の内容と全く一致しています。
私もフランス・アルプスで似たような例を見ました。10年前、私の研究所で実験分野からの気候学の研究結果をデジタル化しました。過去40年間、10年毎に残雪期間が1週間ずつ短くなっていました。記録をとったのはフランスのグルノーブル(Grenoble)近く、標高1,320mにあるコル・デ・ポルテ(Col de Porte)と言う場所で、昨年、フランスでの気候変動の観測地点に選ばれました。
この地域は、1980年代から温暖化の速度が上がっています。冬は穏やかになり、標高の低いところの積雪が減っています。崖を補強する永久凍土が溶けて岩盤滑落が頻繁に起きています。暑い夏は氷河が溶けるのを早めています。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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