目撃者の証言:伝統のスケートマラソンに危機が迫る


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ヨーロッパ(オランダ): ヘンク・クロースさん

オランダの運河を舞台に、100年の歴史を誇ってきた伝統の大会「11市周遊スケートマラソン」。その開催の是非を決定する「アイス・マスター」として、大会に長年かかわってきたヘンク・クロースさんは、オランダの冬が今、大きく変わってきているといいます。大会はこれからも開催できるのか。氷と共に生きてきた人々の行く末を、クロースさんは心配しています。

運河のほとりの町からの証言

私の名前はヘンク・クロースといいます。69歳です。オランダ北部のフリースラント州にある、住民わずか400人のボツム(Boazum)という小さな街に住んでいます。ここフリースラント州で開催される、世界的に有名な「11市周遊スケートマラソン」(Eleven Cities Tour, Elfstedentocht)の、アイス・マスターと呼ばれる職を、1970年から1994年まで勤めました。1994年から2008年まではその組織委員会の会長も勤めました。

ヘンク・クロースさん
(C)Henk Kroes

イベント開催には15センチの氷が必要!

「11市周遊スケートマラソン」は、スピードスケートで速さと持久力を競う伝統的な大会です。約300人のレース競技者と周遊ツアーを目的とした参加者約1万6,000人が、一日で200キロ以上を滑り、フリースラント州の由緒ある11の町を訪ねるのです。
アイス・マスターは、スケートマラソンを開催するかどうかを決定する、ご想像のとおり、大変重い責任のある仕事です。

そして、「11市周遊スケートマラソン」のような、多くの人々が安全に参加するスケート大会には、人々の重さに充分耐えられる強い氷が必要です。そのため、この一大イベントは、毎年開催されているわけではありません。最低でも厚さ15センチの頑丈な氷が必要なのです! 厳しい冬が到来すると、フリースラント州の人々は皆、「今年はスケートマラソンができるかどうか!?」を、とても気にします。これが、アイス・マスターにはかなりのプレッシャーなのです!

私たちは氷の状態と、天候の状態を、関連付けて記録しています。スケートマラソンを運営することは、簡単なことではありません。手伝ってくれる大勢のボランティアも必要です。そのため、科学的な方法と、経験豊富なたくさんのアドバイザーの意見によって、開催の可否を決めています。つまり、「一晩でできた氷の上ではスケートしない(=石橋をたたいて渡る)」という、オランダのことわざのとおりです。

1909年に開かれた、第1回公式レース以来、開催のコンディションが整ったのは、たった15回に過ぎません。そのうちの3回は、私が「開催します」と宣言した大会で、この言葉を言えたのは、非常に幸運なことでした。

スケートマラソン大会の舞台となる運河。

「オランダの冬」が来ない

ところが最近、私は冬の厳しさが以前ほどではなくなったと感じています。最後に開催された1997年以後、孫が生まれたのはとても嬉しいことですが、彼らが湖や運河で野外スケートができるような「平均的なオランダの冬」が無いのです。

フリースラント州の子どもたちは、よちよち歩きの頃から、父親に椅子とともに氷に乗せられ、椅子を支えにしてスケートを練習したものでした。私も自分の子どもたちに、そうさせたものです。しかし、1997年以降、ボツム周辺では、小規模なスケートマラソンが一度開催されただけで、その時でさえ、氷の状態が良かったのはわずか1日だけでした。

私の孫たちは、ヘーレンフェイン(Heerenveen)にある、屋内のティアルフ・スケートリンクでスケートを学ぶことになりそうです。しかし、屋内と屋外のスケートでは、醍醐味が全く違うのです。

孫にアイススケートを教えるクロースさん。野外でのスケートの楽しみを教えたいが...

偉大な伝統の終焉か?

私が暮らす小さな街、ボツムは、「11市周遊スケートマラソン」の「競技コース」の近くにあります。細長い運河のそばで待っていると、角を曲がって、大勢のスケーターがやって来る光景が見られたものです。この光景は、スケートマラソンのポスターなどでよく使われる写真として有名ですが、これから先、それをもう一度実際に見ることはできるのでしょうか?

フリースラント州の少なからぬ人々は、地球温暖化による影響のため、もうツスケートマラソンを見ることはないだろうと思っています。
個人的には、寒い冬が将来訪れ、再び「11市周遊スケートマラソン」は開催されるだろうと期待しています。しかし、気象統計上は、冬は暖かくなることが示されているため、開催の頻度は間違いなく少なくなると思います。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測シナリオでは、2100年までに平均気温が5度以上上昇する可能性が指摘されています。そうなった場合には、開催のチャンスはほぼゼロになるでしょう。この点はとても心配です。伝統的なスケートマラソンがなくなるというだけではなく、私がとても大切にしている、フリースラント州の伝統的な文化や暮らしへの影響が心配なのです。

それは、自然や水、そして冬には氷と共に生きるということです。地域社会への影響も言うまでもありません。氷がある時、ボツムの人々は、小学校のスケート大会を、短距離レースを、そして一緒にココアを飲んで楽しむのです。

スケートマラソンだけでなく、冬には氷と共に生きるフリースラント州の伝統的な生活のためにも、全ての人に行動するよう、私は強く呼びかけます。まだ決して遅すぎることはありません!

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2008年1月22日
Climate Witness:Henk Kroes, Netherlands

科学的根拠

リック・リーマンズ博士 オランダ・ワーゲニンゲン大学環境科学学部

一般的に西ヨーロッパは大西洋を渡ってくる西風の影響で冬と夏の気候が穏やかな海洋性気候です。大陸と北部の内陸地域が寒冷で東風が吹く場合にのみ、このようなアイススケート競技に適した条件が整います。このような条件はこれからも起こると思われますが、その頻度は減るでしょう。
過去20年間、オランダの冬の平均気温は3.4度で、平年の冬の平均気温より0.9度高くなっています。主に西風が強くなっているために気温が上昇しているのです。冬の気温と氷の厚さには深い関係があり、気温が1度上昇するごとに氷の厚さの平均は5センチ薄くなります。この大まかな関連性から、IPCCによる気候変動シナリオをもとに今後スケートマラソンがどのくらいの頻度で開催できるかを予測できます。20世紀中に開催された15レースと比較すると、気温が2度上昇した場合は10レース、4度上昇すると5レース、6度以上ではわずか1レースしか開催することができなくなってしまうでしょう。

クロースさんによる観察は以下の研究結果と一致しています。

  • Brandsma, T. 2001. How many Eleven cities tours in the 21st century? that projected how many skating races could occur in the 21st century.
  • Brandsma, T. 2001. How many Eleven cities tours in the 21st century? Zenit 28:194-197 (in Dutch: a reprint can be downloaded from www.kmni.nl)

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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