目撃者の証言:世界の宝・ヒマラヤの自然を守れ


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アジア(ネパール):アン・ツエリング・シェルパさん

ネパールで35年にわたり、山岳観光に携わってきたアン・ツエリング・シェルパさんは、ヒマラヤの各地で雪と氷河が消え、代わりに巨大な氷河湖が生まれるのを目にしてきました。失われゆく自然の中で、アン・ツエリング・シェルパさんは、ヒマラヤの美しさを世界の財産として、未来の世代にのこそうと訴えています。

ヒマラヤの山々からの証言

私の名前はアン・ツエリング・シェルパといいます。1953年11月15日に、クンブー地方の標高3790メートルのところにある、クムジュンという絵のように美しいヒマラヤの村で生まれました。これはエベレストに登る途中にある、有名なシェルパ(ヒマラヤで登山ガイドや荷物運搬をする人たち)の村の一つです。私は少年時代を、サー・エドモンド・ヒラリー小学校の生徒として、クムジュンで過ごし、幸運なことに第一期卒業生の一人になることが出来ました。また私はタンボチェ修道院で、祖父母たちと共に、仏教の経典も勉強しました。

アン・ツエリング・シェルパさん
(C)Ang Tshering Sherpa

ヒマラヤから消える氷河

私は35年以上、ヒマラヤの山岳観光の分野で仕事をしています。1982年、私はアジア・トレッキング社を設立しました。この会社はトレッキングやパッケージツアー、エベレストを含むヒマラヤの山岳遠征、その他、山岳観光に関連する企画と、その運営に取り組んでいます。

設立以来、アジア・トレッキング社は、ネパールとチベットで最も大きな観光会社に成長してきました。中国・チベット登山協会の営業代行業務も引き受け、私は、アジア・トレッキング社の会長を続けながら、駐ネパール・ベルギー名誉領事、ネパール登山協会の会長も務めています。

私は個人的にも専門家としても、山岳地帯、特にエベレスト周辺での、広範な変化を目撃してきました。私が生まれてから目撃した最も顕著な変化は、氷河が急速に後退し、以前は氷と雪しかなかった所に、新しい氷河湖が出来ていることです。

私が子どもの頃、チョー・オユー山(標高8,201m)の近くにあったグスンバ氷河は、家畜のヤクを連れて容易に歩くことができました。しかし今では、氷河は数え切れないほどの小さな湖に変ってしまっています。

また、商売のため、チベットへ向かうときに、エベレストの西側の尾根にあるロ・ラ山道(標高6,026m)を横切ることもありましたが、今、この大きな氷と雪の斜面に残っているのは、切り立った岩壁へ続く不安定な氷の塊のみです。
どちらにしても、これらの伝統的なルートを使うことは、もう出来ません。

ヒマラヤのクンブー地方。多くの登山者が訪れる。

現地では「ゾス(dzos)」という名で呼ばれる家畜のヤクを使って、登山者の荷物を運びます。

巨大化する氷河湖

私は長年、氷河湖が形成され、危険なまでに大きくなっているのを見てきました。
1960年頃、イムジャ湖(標高5,000m)は、まだ存在していませんでした。この氷河湖が最初に現れたのは、1962年。当時はまだ小さな池でしたが、今では全長が1.6キロにもなり、いつ決壊してもおかしくありません。

1985年8月4日には、ディグ・ツォ湖(標高4,365m)という別の氷河湖が氾濫し、多くの命、土地、インフラが失われました。イムジャ湖は、このティグ・ツォ湖の2倍の大きさがあり、人々を世界で一番高い山へ導く、有名なエベレストへの登山ルートの上流に位置しています。
もしイムジャ湖が決壊するようなことになれば、私たちがこの急激に変化している地球環境に対し、何も対応しなかったことを示す、きわめて恥ずべき事例となるでしょう。

同じことは、グスンバ氷河やその他の氷河など、ヒマラヤの各地で見られます。小さな氷河湖は、イムジャ湖のように、やがて災害につながりかねない大きな湖になるでしょう。これらの湖が決壊した場合の災害や、人的損害を考えるのはとても恐ろしいことです。

巨大な氷河湖の一つ、ゴーキョ湖(Gokyo Lake)。近年、湖水面があまりに大きくなってしまったため、湖を渡ることが出来なくなったといいます。

変動する天候

私たちのような山岳関係者は、氷河湖の氾濫以外に、天候が予測困難になってきているという問題にも直面しています。
天候は不安定になっています。雨が降るべき時に雪が降り、雪が降るべき時に雨が降っています。このため、登山中の事故が増えています。
ほんの10年ほど前まで、登山に適した季節は9月、10月、11月でしたが、それが今では5月後半に時期が移り、さらにその時期が遅れて、夏がベストシーズンになろうとしています。

私たちの仕事に関連してもう一つ危険なことは、雪解けのスピードです。数年前までは、約30センチ積もった雪が解けるのに、2カ月ほどかかっていましたが、今ではその量が2倍であっても、解けるのにわずか数週間しかかかりません。
これはキャンプをしていると、とてもよくわかります。テントの周りの雪が解けてゆくので、それに合わせて頻繁にキャンプを移動しなければならないのです。

キャンプ地でのもう一つの脅威は氷河の上に点在する巨大な石です。数週間もすると、その石は氷の崖の縁にまで移動してきて、下にある私たちのテントに向かって、今にも転がり落ちそうになります。
このような変化の原因が、地域の環境汚染や観光の影響にあるとは思えません。これは地球温暖化が原因だと思うのです。

今、行動すべきです!

世界の指導者たちは、このような事態に対処するための適切な政策に、一致して合意するべきです。しかしそうであっても、特にイムジャ湖の危機のような問題に取り組むため、立ち上がるのは私たちの責任です。

湖の水を適切に排水するのはとても重要なことです。そうすれば今後の危険を減らすことができるからです。直ちに湖の水を減らす方策をとり、ツォロルパ湖で決壊を防いだときのように、他の災害の危険性が高い湖についても、同様に思い切った手段を講じることがとても重要です。
また新たに形成されつつある氷河湖については、注意して監視を続けねばなりません。

私たちが持つ最大の資産は環境です。ネパールの自然の美しさは私たちだけのものではなく世界全体と、将来の世代のものです。
その美しさの価値を、自分の子どもたちに教えられることを、私は誇りに思っています。しかし、私の子どもたちの世代が、孫たちに「親の世代は自然の破壊を止めるために何もしなかった」と話す日が来ないようにしなければなりません。

私たちネパール人は、これらの問題解決のためにできる限りのことをしています。しかし、国際的な問題認識や解決のための支援がなければ、この地球規模の問題に対する私たちの努力は、無駄になってしまうのです。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2007年9月17日
Climate Witness:Ang Tshering Sherpa, Nepal

科学的根拠

オム・バジラチャリャ(Om Bajracharya)博士 ネパール水文気象省(Nepal Department of Hydrology and Meteorology)

アン・ツエリング・シェルパさんが、登山トレッキング遠征における35年の職歴を通じてエベレスト地域の氷河の後退と氷河湖の形成について観察したことは、とても注目すべきものです。1953年にイムジャ湖の存在が確認されて以来、拡大を続けているという点は私もシェルパさんと同じ意見を持っています。
1953年から1963年の地形図では、イムジャ氷河の上にいくつもの氷河湖があり、湖の広さは0.03平方キロに過ぎなかったことを示しています。1999年のイムジャ氷河湖での現地調査は、湖の広さは約0.75平方キロに増大。つまり、毎年平均して0.02平方キロ増大していると示しています。
過去30年間記録されている気温を解析すると、気温が急速に高くなっていることは明らかです。1977年から1994年の平均温度上昇は年に0.06度でした(1999年のシュレスタ(Shrestha)他の論文)。温度上昇の傾向は標高が高いほど顕著であり、しかも冬に著しいことが明らかとなっています。
さらに1940年から1970年のカトマンズのデータでは温度が下降傾向にあり、その後上昇になったことを示しています。ネパールの気候変動は地球規模の気候変動に密接に関連しているといえます。そのことから、地球の中でも標高が高いヒマラヤ山脈は、気候変動に敏感で、その影響を受けやすいと考えられます。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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