目撃者の証言:アデリーペンギンに迫る温暖化


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南極(南極):メレディス・フーパーさん

1994年から4度にわたり南極大陸を訪れた、作家のメレディス・フーパーさんは、南極半島の西側にあるアデリーペンギンの営巣地で起きた異変を、目の当たりにしてきました。あらゆる生命に、温暖化の影響が忍び寄ろうとしている、と、フーパーさんは警告しています。

南極半島からの証言

私の名前はメレディス・フーパーといいます。今はロンドンに住んでいますが、オーストラリアの沿岸地域で育ちました。オーストラリアの荒海の南方には、雄大な南極大陸が広がっています。私にとって南極は謎めいた、近寄りがたい存在だったので、南極に行く日が来るとは思いもよりませんでした。
ですから、1994年から、4回も作家として南極に行けたことは、とても幸運でした。

メレディス・フーパーさん
(C)Jennifer Tabor

南極への旅、それは、調査船での長旅だったり、科学者やスタッフとともに調査基地で何カ月も過ごしたりするものでした。現在南極に永住している人間はいませんし、これまでもいませんでした。人間が南極に行くのは、ほとんどが夏の間です。夏は、ペンギンをはじめ、無数の海鳥やアザラシ類が、冷たく澄んだ海で食物をとる季節です。

アデリーペンギンと気候変動

毎年、南半球が初夏を迎える10月になると、アデリーペンギンは巣作りし、ヒナを育てるために、パーマー基地のはずれに浮かぶ、小さな岩の群島へとやってきます。このパーマー基地は、南極半島の西側にある、アメリカが建設した南極の基地では、最小の基地です。
群島に残された古い鳥の巣を発掘したところ、アデリーペンギンは700年も前から、この群島に来て、繁殖してきたことがわかりました。

ところが、2001年から2002年にかけての夏、パーマーのアデリーペンギンは突然、大打撃を受けました。激しい嵐が北から到来し、かつてないほど大量の雪が、小石を積み上げた巣で卵を温めていたペンギンを覆ってしまったのです。溶けた雪は、ペンギンの卵を水浸しにしてしまいました。
この状況に耐えられなくなったペンギンたちは、次々に巣を放棄して、島から去ってしまいました。毎年島に来るアデリーペンギンのうち、およそ40パーセントが、この時期にヒナを育てることに失敗しました。

さらに夏の間、雨が激しく降りはじめるようになりました。パーマー周辺は、もともと雪やみぞれが降ることはありましたが、雨は降らない土地でした。ペンギンのヒナをくるんでいる羽毛は、雪ははじいても、水をはじくことはできません。このため、身体の小さな多くのヒナが、濡れた羽毛に体温を奪われ、生き残ることができませんでした。
また、季節外れの雪のため、遅い時期に巣作りや交尾を強いられ、ヒナの孵化が遅れた巣も多く見られました。

このような天候は、過去に例がありませんでした。この天候は、2001年10月から2002年2月までの5カ月にわたって続き、嵐は南極半島の先端を襲い続けたのです。
さらにこの地域では、過去最高の気温も記録されました。

アデリーペンギン

南極半島のパーマー基地。

パーマー島にある、アデリーペンギンのコロニー(集団繁殖地)

「凶暴な夏」がやってきた

2001年から2002年の夏、パーマーでは実際に、気候の変化が起こり始めました。
私は、パーマーのアデリーペンギンに関する本の取材と、ビル・フレーザー博士による海鳥に対する見解について調査するために南極に来ていました。フレーザー博士は、研究生活のほとんどを海鳥類の調査研究に費やしている生態学者です。

私は3年前にもパーマーで暮らしたことがありましたが、当時は天候が穏やかで、太陽が輝いていました。アデリーペンギンの集団営巣地は混み合い、親ペンギンは食べものをねだるヒナに、一生懸命に食糧を与えていました。そこはまさに、ペンギンたちの楽園でした。

ところがこの年の夏、フレーザー博士と現地の調査チームは、荒海や強風、豪雪や雨のため、調査活動を思うように進められませんでした。
フレーザー博士は、この天候について、的を射た表現をしています。その一つが『凶暴な夏(ferocious summer)』という表現です。この言葉は、私の頭から離れませんでした。そのため、パーマーでの経験をつづった話を書き始めたとき、その本の題名を『凶暴な夏』に決めたのです。

アデリーペンギンのヒナたち

雪解け水で水没したコロニー

群への影響

パーマーでアデリーペンギンの個体数が調査され始めたのは、1975年のことです。当時、調査対象となった5つの島には、全部で1万5,202つがいのアデリーペンギンが、繁殖のため上陸していました。毎年同じ時期に、つがいの数、卵とヒナの総数、夏の終わりに集団営巣地を離れて海での生活を始める若い個体の数、といったデータが集められてきたのです。

しかし年を追うごとにパーマーに上陸するペンギンの数は減ってゆきました。
フレーザー博士は、減少の原因は気候変動の影響だと主張しています。アデリーペンギンとその獲物になる海の小動物に必要な海氷が、温暖化のために減少しているというのです。
気温の上昇によって増加した降雪は、弱くてもろいペンギンの巣に大きな被害をもたらしました。

そして、2001年から2002年にかけて「凶暴な夏」が、気候変動の決定的な証拠となりました。アデリーペンギンの数が激減したのです。前の年に調査対象の島にたどり着いたペンギンの数は7,161つがいでしたが、この年はわずか4,288つがいしか上陸しませんでした。

心配される環境の変化

南極半島の西側は、地球上で最も急速に温暖化が進んでいる地域の一つです。厳冬期にあたる7月の半島西側の表面温度は、1951年から摂氏6.3度上昇しています。温暖化が進めば生態系も変化します。
より暖かい、北の海域からやってきた、ジェンツーペンギンやヒゲペンギンといった種が、パーマーにあるアデリーペンギンの営巣地を占拠しようとしています。ゾウアザラシやオットセイは、夏の間、島を逃げ出し、より大陸に近い南の方へ泳いで行ってしまいます。

気候変動を理解する上で、実際の数値を知るためには、十分な時間が必要です。パーマーでは、海鳥の生態学者であるフレーザー博士が、長年にわたり収集したデータがきわめて重要な役割を果たしてくれました。南極半島で、気候変動の研究をしているこの科学者は、パーマーのアデリーペンギンに起こっている変化が、地球温暖化の証拠だと認めています。

パーマーにいると、この島や、ここで生活する全ての生命に、気候変動が複雑な影響を与えていることがわかります。
凶暴な夏は、頻発する北からの暴風、大量の湿った雪といった、異常気象をもたらしました。さらにこの異常な天候は、南極半島の海氷にも影響を与えました。
南極では毎年冬に海水が凍り、夏に解ける、という拡大と縮小のサイクルが起こっていますが、この海氷の増減が、気候と環境を安定させる要なのです。

しかし南極半島の西側では、高度な衛星観察が利用可能になった1979以来、毎年平均して海氷の面積は40パーセント減少していることがわかっています。海氷に毎年及んでいる影響の全ては、アデリーペンギンの生存に、大きくかかわっています。この気候変動の複雑な影響が、アデリーペンギンから、生息に適した環境を奪ってしまっているのです。

科学者の予想を超える大きな変化

極地では今、大変な速さで変化が起こっています。
多くの科学者は、彼らの予想を超える規模、速さ、深刻さで、気候変化が起こっていることを認めています。南極とグリーンランドには、地球全体にある淡水の70パーセントが、氷の形で蓄えていますが、その氷が徐々に温められているのです。
南極の氷が溶け出せば、間違いなく私たち全人類にとっても、大きな問題となります。そして、南極半島では実際に溶解が起こっているのです。

私は、著書『凶暴な夏』の中で、気候変動について多くの読者に理解してもらうため、パーマーのペンギンの話を書きました。パーマーのアデリーペンギンは、私たちから遠く離れた、とても美しい場所に住んでいます。
彼らは南極全体のアデリーペンギンの中の、小さな一つの群れにすぎません。
しかし、私にとって、この場所のペンギンの話は、ある意味で寓話としての意味を持っています。アデリーペンギンは過去700年もの間、理想的な環境である、素晴らしいパーマーの海岸線で暮らしてきました。今、状況は変わってしまい、これ以上どうすることも出来ません。彼らは消え去ろうとしています。このような状況は、地球上に息づく、他の多くの生命が置かれている状況を、顕しているかのようです。

私は科学者ではありませんから、この変化を実際に見て、聞いて、理解し、話しをするだけです。
ですが、人々が南極についての知識を深め、考えたり、想像できるように、この経験を活かしたいと思っています。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2007年7月8日
Climate Witness: Meredith Hooper, Antarctica

科学的根拠

ホルヘ・ストレリン博士(Dr Jorge Strelin)、アルゼンチン国立南極研究所(Instituto Antartico Argentino)(アルゼンチン)

フーパーさんの証言は南極半島の西側、つまり、アンバース島(Anvers Island)とサウスシェトランド諸島(South Shetland Islands)の間で起こっていることの客観的な証言です。
フーパーさんの観察は、最近の南極半島北部の気候への人為的影響に関する研究と一致しています。しかし、彼女の観察は、南極半島の北部先端のみに限定されていることを念頭におかなければなりません。気候モデルがそれほど正確には機能しない南極のその他の地域において、人為的活動の影響を示すシグナルは、おそらくあまりにも小さくて確認することは困難でしょう。ここ最近(過去30年)の温暖化が南極の他の地域においても異常な状況であるということを論じるには、さらなる研究が必要とされます。

Marshall, G.J., A. Orr, N. P.M. van Lipzig, and J. C. King (2006) The impact of a changing Southern Hemisphere Annular Mode on Antarctic Peninsula summer temperatures. Journal of Climate, 19, 5388-5404.

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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