目撃者の証言:変わりゆく北極圏の景観


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北アメリカ(アラスカ): アテナ・サムさん

アテナ・エンジェル・サムさんは16歳。アラスカ州ハスリアのジミー・ハンティントン・スクールの学生です。2006年、サムさんはWWFや他の学生たちと協力し、天候をはじめ、身近なところで起こっている地球温暖化の影響について、先住民の血を引く地域の長老たちの談話を記録にまとめました。

先住民アサバスカンの人々の証言

私の名前はアテナ・エンジェル・サムといいます。バスケットボールと野球が好きな16歳です。アラスカ州ハスリアの町に住み、ジミー・ハンティントン・スクールに通っています。私には6人の姉妹、4人の兄弟がいますが、一緒に住んでいるのは、母と2人の妹、1人の弟、1人の兄だけです。他の姉や兄たちは、大学などに通うため、離れた別の町で暮らしています。
2006年に私は他の学生たちやWWFと協力して、この町に住む長老たちから、これまでに体験してきた、気候や天候などの変化について目撃談を聞き、記録する作業に取り組みました。

アテナ・サムさん
(C)Jimmy Huntington School

長老たちが見てきた温暖化

ユーコン川流域で暮らしてきた、アメリカ先住民イヌイットの部族アサバスカンの人々にとって、冬といえば、スノーモービルや犬ぞりを使って、どこにでも容易に移動することが出来る季節でした。

ところが、この40年の間に進んだ温暖化によって、状況は大きく変わってしまいました。

1948年の冬、雪原を走る犬ぞり
(C) Steve Attla

■オービル・ハンティントンさんの証言

野生生物学者であり猟師でもあるオービル・ハンティントンさんは魚や猟の獲物となる動物、そして狩猟に頼って生きる人々の生活を心配しています。

「1960年ごろのクリスマスの時期は、気温がマイナス50度近くまで寒くなる時期が1カ月ほど続きました。しかし今では、それほど寒くなる日は、1日か2日しかありません。さらに最近は、以前ならば決して降らなかったような場所で、11月まで雨が続きます。

1980年代になると、私は暖かい期間が長くなっていると気づき始めました。これまで、たくさんの場所に魚を獲るための罠を仕掛けていましたが、その湖も消えてしまいました。永久凍土が溶けて無くなったために、湖の水が流れ出し、枯れてしまったのです。湖にいたビーバーは川に移りすむようになりました。

クマもこの温暖化に苦しんでいます。魚がいなくなったので、餓えるようになったのです。このため、身体の大きなヒグマは、多くのヘラジカやアメリカクロクマを襲って食べるようになりました。

魚は私たちにとっても大切な冬の食料なので、魚が戻ってこないことは、本当にたくさんの問題を引き起こします。状況は、以前とは全く変わってしまいました。このようなことが現実に今起きていることなのですが、森に行かない限り、私たちはそれを実際に目にする機会はありません。
一番大きな違い、それは寒い期間が、昔はもっと長かった、ということです」。

ヘラジカ (C)Anthony B.Rath / WWF Canon

■アル・ヤトリンさんの証言

ハスリアで長年暮らしている猟師のアル・ヤトリンさんは、河岸にある永久凍土に大きな変化が生じていることに気づきました。この変化は魚や野生生物、ヤトリンさんの獲物の量に悪影響を及ぼしています。北極圏の気候が今も変化し続けていることを考えると、10年先にはもっと気温が上がるだろうとヤトリンさんは予想しています。

「河の岸では、永久凍土が溶け続けています。沼地には島があるのですが、時には、この島が完全に消えてしまう場合があります。これらの島のほとんどが、永久凍土の上に出来ているからです。

湖の水は少なくなっており、そのため水がないと生きていけない動物が減っています。私が子どもの頃にはたくさんいた、大きなネズミの一種のマスクラットは、この数年でずいぶん数が減りました。

また、私たちは網をしかけて魚を獲りますが、日中に魚を捕ると水があまりにも温かいので、数時間で魚が温まり、柔らかくなって腐ってしまいます。2007年は特にそうですが、昔より随分暖かくなりました。多分このまま温暖化が続くのでしょうが、その後どうなるかは見当がつきません」。

ユーコン川にそそぐ、コイアカク川の流れ。ハスリアの町はこの川のほとりに位置している。
(C)Anthony B.Rath / WWF Canon

■エド・ヴェントさんの証言

エド・ヴェントさんは、1年を通して狩猟を続け、多くの長老たちに食料を提供している評判の良い猟師です。しかし、ヴェントさんは獲物の状態や数に変化が起きていると言います。さらに、湖が干上がってしまったり、針葉樹のトウヒが茶色く変色してしまうといった、地球温暖化の影響を目撃しています。ヴェントさんは、今後も狩りを続けたいとを望んでいますが、将来の見通しはたっていません。

「湖や川で見られる魚が変化し、「新しい種類の魚がたくさんいるようだ」と人々が話しています。
また、昔と違って春になっても、水鳥のガンの姿を見かけなくなりました。以前は何百羽ものガンが群れていたものですが、最近では一回に5~6羽ぐらいしか見られません。

天候の変化はクマの体型にも影響を与えています。春に雨が降らないとブルーベリーが実らず、それがないとクマは脂肪を身体に蓄えることができないからです。ヘラジカが軟らかくなった雪溜まりに入り込んで出られなくなり、死んでしまうという話も聞きました。

この深い雪が動物たちに与える影響は大きく、多くは食物を手に入れるのに苦労しています。一方、これらの動物があまり動き回れないと知っているオオカミは、簡単に獲物にありついています。

2006年の夏、トウヒの木が上から90cmほど、茶色になってしまっているのを見つけました。夏の気温があまりに高く、しかも十分な水分を得ることができなかったため、木の上の部分が乾燥し、枯れてしまったのです。常緑の針葉樹でさえもこの有様です。

このように続く異常な天候を、私は経験したことがありません。これからも外を出歩くときには天気とその影響を注意深く観察することが必要だと思います。
先人たちは、自然の中で生きる独自のおきてを持っていました。もしそのおきてを誰もが知り得るのならば、それを忘れてはならないと思いますし、私はそうするようにしています」。

■以上はWWFの資金提供と、キャシー・ターコと「アラスカの心が話す:音と科学(Alaska’s Spirit Speaks: Sound and Science)」の支援を得て、アテナ・サムさんがまとめたラジオ番組から書き起こしたものです。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2007年5月5日
Climate Witness: Athena Sam, Alaska

科学的根拠

ヘンリー・P・ハンティントン博士(Dr. Henry P. Huntington 北極圏の社会及び北極圏の海洋哺乳類に対する気候変動の影響の評価について研究をしている科学者)、アメリカ合衆国アラスカ州

サムさんたちが集めた目撃談は気候の大きな変動が地域の習慣や環境に影響を与えていることを示す良い例です。科学的文献には、永久凍土の融解や湖や川で起きている変化と同様にアラスカでの気温上昇、とくに冬季の気温上昇について報告されています。サムさんが住むハスリアではワークショップを開催し、科学者と地元住民がアラスカ州で起きている気候変動やハスリアでの目撃談を話し合う場を設けています。

魚の質、さまざまな動物の個体数や習性というものは、科学的研究ではよく見落とされたり、その土地や川で多くの時間を過ごす猟師や漁師でない限り、気づきにくいものであったりします。サムさんの話は気候変動がハスリアの人々にどのような影響を及ぼしているかを具体的に示してくれています。平均的な気候パターンを長期的に見るのではなく、陸地を行き来する人々への影響や人々が必要とする魚や動物への影響、過去と地域の環境がどのように異なっているのか、といった具体的な変化を示しています。

ACIA(Arctic Climate Impact Assessment=北極圏の気候による影響の評価)2005:ケンブリッジ・ユニバーシティー・プレス。アラスカを含む北極圏での気候変動とその影響に関する包括的な見解。

気候評価と政策に関するアラスカ・センター(Alaska Center for Climate Assessment & Policy):www.uaf.edu/accap
このサイトは、州の周辺での最近の出来事や影響についての議論を含み、アラスカの気候に関する情報を掲載しています。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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