目撃者の証言:海水面が高くなり家と土地が流される


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アジア(インド):ジャラルディン・サハさん

ジャラルディン・サハさんはインドのガンジス川河口に広がる、スンダーバンズ地方で生まれ育ちました。今もこの地方にあるモスニ島で、学校の教師をしながら、小さな農園を営んでいます。しかし1992年、海岸の浸食によって、サハさんと付近に住む100人の島民は家と土地を失いました。2005年にも再び家を失ったサハさんは、現在も続く海面の上昇によって、島の暮らしが脅かされているといいます。

ガンジス川河口に浮かぶ島からの証言

私の名前はジャラルディン・サハといいます。インド東部のスンダーバンズ(サンダルバンス)地方で、一番大きく、一番西にあるサーガル島で生まれ育ちました。1971年から、サーガル島の東にあるモスニ島で教師をしています。また、この島に小さな農園も持っています。

ジャラルディン・サハさん
(C)WWF

堤防の補強も追いつかず

1975年、私はモスニ島の西端に家を建てました。7メートルの高さの土手が、私の家と近所の10軒ほどの家々を、海の波から守っていました。私の家は、その土手から10メートルほどのところにありました。

ところが、土手の外側に生えていたマングローブの木の根元の土が、波によって徐々に流されてしまうようになりました。最後まで残っていた木も、1985年頃には跡形もなく流されてしまいました。
土手そのものが波に浸食され始めたのは、その後からです。そして、1992年に、ついに東側の土手が流され、私を含む約100人の住民が家と土地を失いました。

1985年以降、私たちは土手を高くしてきました。それでも、満潮時の水位が上昇する速さには追いつけませんでした。
2005年までに、5回にわたって補強してきた土手は、17メートルの高さにまでなりましたが、それも2005年に再び崩壊。60の家族が退去を余儀なくされ、私は再び家を失いました。

これは、私たちの島が沈んでいるのか、海面が上昇しているのか。現実はそのどちらかなのです。

サハさんの最初の家が建っていた場所。波に洗われ、今では完全に荒地となっている
(C)Jalaluddin Saha

サハさんの二番目の家。ここにも潮が押し寄せるようになり、サハさんは再び退去することに (C)Jalaluddin Saha

農業にも被害が

2005年、私は最初の家があったところから1.5キロほど内陸の場所に、新しい家を建てました。
この時、私は2ヘクタールの土地を買ったのですが、今ではそれが、1ヘクタールよりも少し広いくらいの土地になっています。塩分を含む海水の浸入が、土地をだめにしているのです。

私たちは土地を波にさらわれて失っているばかりでなく、このような海水の流入による、農業の生産性の悪化にも直面しています。こうして影響を受けてきた島の土地は、1969年以降、5平方キロの広さに及んでいます。

10年ほど前まで、島に産するスイカは流通量が多く、また住民の収入源となる作物の一つでした。ところが、あられが降る季節が早まり、ちょうどスイカの収穫時と重なるようになってしまったため、収穫が大きな打撃を受けています。

また、私は稲作の季節にも変化が起きていることに気づいています。現在、田植えは以前よりも2カ月ほど遅く始められています。このため、年に3回収穫できた米が、2回しか収穫できなくなってしまいました。

私は、海岸の浸食がさらに進んでも、もう今住んでいる家から立ち退かねばならないようなことには、ならないだろうと思っています。ただそれは、私が生きている間の話です。私の息子たちや孫の代になったら、そのようなことが再び起こっても不思議はないでしょう。

島の農地。海水による塩害が深刻になっている。名産のスイカ栽培も、異常気象の被害を受けている。 (C)Jalaluddin Saha

改修が続く堤防。海が迫ってくる限り、作業が終わることは無い (C)Jalaluddin Saha

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2007年4月24日
Climate Witness:Jalaluddin Saha, India

科学的根拠

マンモハン カプシェ教授(Prof. Manmohan Kapshe) マウラナ・アザド(Maulana Azad)国立工科大学(インド)
サハさんは、彼の「地球温暖化の目撃者」ストーリーの中で3つの見解を述べています。拡大している土地浸食は最も顕著な出来事かもしれませんが、彼の述べている影響の原因と思われるものは、気候変動に加えて、他の要因も考えられます。地盤沈下や水流の変化、干潟の拡大などが土地浸食の原因となっている可能性もあります。
気候変動、とくに海面の上昇がこれらの要因をさらに悪化させてきたと考えられます。海水の流入については水位の上昇による影響が大きいのです。しかしながら、地下水の取水や雨水の地面への浸透が遅くなっていることなども海水流入の要因と考えられます。
気温上昇による作物の収穫期の変化はインドの多くの地域で観測されており、彼の地域でも同じことが起こっていると言えます。サハさんはこういった変化の影響で住民が退去を余儀なくされたとも言っています。これは気候変動が原因と思われる影響とそれに対する適応を今後検討する上でとても大切な問題です。

Jayappa K.S., Mitra D., and Mishra A.K. (2006). Coastal geomorphological and land-use and land-cover study of Sagar Island, Bay of Bengal (India) using remotely sensed data, International Journal of Remote Sensing, Volume 27, Issue 17 September 2006 , pages 3671- 3682.

Dwivedi D.N. and Sharma V.K., Analysis of Sea Level Rise and its Impact on Coastal wetlands of India, Proceedings of the 14th Biennial Coastal Zone Conference, New Orleans, Louisiana

http://www.csc.noaa.gov/cz/2005/CZ05_Proceedings_CD/pdf%20files/Dwivedy.pdf

The Hindu (New Delhi), 05 June 2006: Sunderbans Faces Threat of Submergence.

http://www.hinduonnet.com/2006/06/05/stories/2006060501972200.html

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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