目撃者の証言:リンゴを見舞う異常気象


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オセアニア(オーストラリア):ジョナサン・バンクスさん

ジョナサン・バンクスさんはオーストラリアのピアリゴという町で、有機栽培の小さな果樹園を営んでいます。バンクスさんはこの数年の間に、温暖化によるものと思われるさまざま影響が、果樹園でも見られるようになったといいます。以前は少なかった害虫のミバエが大発生したり、小川が干上がるなど、バンクスさんは対応に追われています。

オーストラリアのリンゴ農園からの証言

私の名前はジョナサン・バンクスといいます。63歳です。オーストラリアの首都キャンベラ近郊の、ピアリゴという町で農家をしています。私は、1974年にイギリスからオーストラリアに移住し、1984年に6,000坪(約2万平方m)ほどのリンゴ農園を買い取りました。この農園は50年以上にわたって果樹園として経営されてきた農園で、この10年は、有機栽培の認定も受けています。

ジョナサン・バンクスさん
(C)WWF Australia

リンゴの変化

私が果樹園を引き継いだのは、穀物貯蔵の研究科学者として働いていた豪州科学・工業研究機構(CSIRO)を1999年に定年退職してからです。

当初は、スプレーを使った害虫の駆除など、本に書いてあること全てやってみました。ところがそのうちに、スプレーを使用すればするほど、作業量が増えるということに気付きました。そこで、徐々に有機栽培に移行したのです。
1994年、私の果樹園は有機栽培の認定を受けました。普段は週4日、道沿いに露店を開いて地元の人たち向けに果物を販売しています。

1980年代から1990年代の初めにかけては、雨がとても多い年が続きました。私たちは、雨が止んでいるときを見計らって、リンゴを摘み取らなければなりませんでした。しかしその後、雨が減ってゆくにつれ、そのようなことはなくなりました。

私はリンゴの開花時期を記録していますが、ここ最近は以前に比べて1週間早く開花するようになっていることが分かっています。生育する期間も長くなりました。その期間の気温は年々高くなっており、乾燥も激しくなっています。
このような変化は、私の果樹園の経営にも、大きな影響を与えています。

バンクスさんが育てている果樹
(C)WWF Australia

手入れをするバンクスさん
(C)WWF Australia

温暖化の功罪

もっとも、このような変化は、プラスの面もありました。リンゴの生育期間が長くなったため、「レディー・ウィリアム(Lady William)」という品種のリンゴを育てることができるようになったのです。
以前まで、この地域では、生育期間が短すぎたため、レディー・ウィリアムは成熟しませんでした。しかし今、このリンゴは10月初めに開花し、果実は5月末から6月初旬に熟しています。加えて、天候が乾燥して暑いために、カビが生えることも少なくなりました。

マイナスの面としては、害虫が変化し、農園に被害を与えるようになってきているということです。1970~80年代にはミバエ類を果樹園で見ることは多くありませんでした。この頃は、気温が低くかったためミバエが多く繁殖できなかったのです。
ところが、気候が暖かくなったため、ミバエの数は年々増え続け、状況が一変しました。特に2005年はミバエが大量発生した最悪の年でした。

さらにここ最近、木々や果物は、水不足と高い紫外線の影響で陽焼けしています。質が落ちないように枯れた枝を切り落とし、陽焼けしないように管理しなければなりません。良質の果物も作るのが難しくなり、損失に苦しんでいます。

干上がった小川

環境が変化したのか、以前はたまに見かける程度だったオオコウモリが、行き場を失ってキャンベラに現れるようになりました。2年前のある夜には、果樹園で約60羽のオオコウモリの大群を見たことがあります。このような大群が定期的に現れると、果物が被害を受けることが予想されます。
ただ私は、オオコウモリがとても美しい動物なので、彼らが果樹園に来ることの代償として、果物をいくらか失っても良いと思っていますが。

私の土地を流れる小川は、以前は1年中水が流れていましたが、今では水がありません。この土地の利用方法を変えたことも影響しているかもしれませんが、降雨の減少と気温の上昇が主な理由だと思っています。水の量が少なすぎて、流れるに至らないのかもしれません。

いずれにせよ、現在の非常に乾燥した気候に適応するためには、早ければリンゴが開花するシーズンの春にも、水を引かなければならないでしょう。昔はこのような必要はありませんでした。
温暖化が果樹園に及ぼす影響としては、次のような例が挙げられます。

  • 販売できる果物の数が減るため道沿いの露店を、週に1~2日開店しなければならない
  • 2005年は、ミバエの影響で収穫量が3分の2に減った
  • 果樹園の経営に、より多くの時間と管理のための作業が必要になっている
  • 収穫する果物の大きさが小ぶりになり、品質も落ちている

また、果物の価格が上昇しても、農園の生産性は低下しているため、利益率も低下しています。

今では、気候が変化しも育てられる作物の栽培を真剣に考えていますが、私の果樹園はもともと、50年以上も続き、気候が通常どおりであれば、高い生産力が期待できる農園です。これを変えていくには長い年月が必要となるに違いありません。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2007年1月26日
Climate Witness: Jonathan Banks, Australia

科学的根拠

ロジャー・ジョーンズ博士(Dr Roger Jones) 豪州科学・工業研究機構(CSIRO、オーストラリア)
ジョナサンの体験はオーストラリア南東部の果樹栽培農家が体験していることと一致します。生育期の害虫増加は、冬が暖かくなっているために害虫が死なずに越冬し、春に卵を孵化することを示しています。生育期の長期化は生育適温日が増加しているために起こっています。高温と強い日差しの影響で果物が駄目になってしまうことはおそらく雲が発生しにくくなり、雨が減少したことが大きいでしょう。
過去10年間の降雨量の減少は干ばつの長期化をまねきました。彼の土地を流れる小川と果樹園にも悪影響を及ぼしています。これは自然の気候の変動性と、地球温暖化によると思われる降水パターンの変化との組み合わせによる可能性が高いのですが、低湿度、高温、雲の減少が水分蒸発の原因となっています。
オオコウモリの移動は気候以外の要因、例えば、オーストラリア南部の都市にあるオオコウモリのねぐらやえさ場などの変化による影響があると思いますが、オオコウモリがオーストリア南部に存在していることも暖かな気候環境の影響であると言えるでしょう。
まとめると、これらの影響はほぼ確実に地球温暖化に関係していますが、自然の気候の変動性が乾燥状態を引き起こしていることも一因となっているようです。
Hennessy, K., B. Fitzharris, B.C. Bates, N. Harvey, S.M. Howden, L. Hughes, J. Salinger and R. Warrick, 2007: Australia and New Zealand. Climate Change
2007: Impacts, Adaptation and Vulnerability. Contribution of Working Group II to the Fourth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, M.L. Parry, O.F. Canziani, J.P. Palutikof, P.J. van der Linden and C.E. Hanson, Eds., Cambridge University Press, Cambridge, UK, 507-540.

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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