目撃者の証言:雪が消え、走れなくなる犬ぞり


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ヨーロッパ(イギリス / スコットランド):アラン・スチュアートさん

スコットランドで犬ぞりセンターを経営するアラン・スチュアートさんは、近年続く気温の上昇という脅威に直面しています。そりを走らせる雪が減り続けているのです。さらに、そりを引くシベリアンハスキー犬の毛も真冬に生え換わるなど、これまでは考えられなかったさまざまな異変を、スチュアートさんは目の当たりにしています。

スコットランド・ケアンゴームの山からの証言

私の名前はアラン・スチュアートです。1956年にグラスゴーで生まれました。長く海での潜水を専門とする会社で仕事をしてきましたが、15年ほど前から趣味で犬ぞりを始め、これまでに、アルゼンチン、チリ、北アメリカ、さらにヨーロッパ各地を含む世界各地で犬ぞりレースに参加。現在は妻のフィオナと共に、スコットランドのケアンゴーム山脈の麓にある、人里離れた小屋で、犬ぞりセンターを経営しています。

アラン・スチュアートさん
(C)WWF-UK/Nick Ridley

わずか1時間で融けてしまう雪

私はスコットランドのケアンゴームで、イギリスで初めての犬ぞりセンターを経営しています。事業を始めたのは2年半ほど前で、30頭のイヌを飼っています。普段は、このイヌたちに観光客を乗せたそりを引かせ、ケアンゴーム山脈の山道を走るのです。

ところが温暖化が、犬ぞりレースというスポーツにとても大きな影響を及ぼしており、私は心配しています。2005年には、アラスカで世界最大のレースが行なわれることになっていたのですが、雪不足のためにスタート出来ないところが何カ所もあったのです。

スコットランドでは夏にイヌを走らせません。つまり、犬ぞりセンターは、5~6カ月は完全に休業です。しかしこの2年半、なかでも特に2005年は、地球温暖化のために、信じられないような変化がありました。

私は2005年に、イギリス中から来た人々と共に、約40の犬ぞりコースを走りました。しかし、気温があっという間に変化するため、目の前で雪が消えてしまい、コースの途中で3、4回止まらなければならなかったのです。

私が趣味で犬ぞりを走らせ始めたのは15年ほど前のことですが、この頃は、気温がマイナス18度ぐらいになり、それが一週間ほども続いたことを覚えています。しかし、今ではもうそんなことはありません。冬中で一番寒くてもマイナス1~2度で、そりのパイプも以前のようには凍りつきません。

犬ぞりが走るコースのトレイル(道)の変化は、経済的に大きな問題となっています。雪が無い場合、特別な車輪を使ったそりで、お客さんを乗せ、走ることはできますが、天候がトレイルを傷めるのはどうしようもありません。雨がトレイルに降り続くと、私たちは常に、何マイルものトレイルを補修しなければならないのです。しかも、このトレイルが乾燥する時間はありません。

イヌたちがそりを引いてゆく。雪が無くてもそりを走らせることはできるが、雪解けでやわらかくなった土は荒れやすく、整備が大変になる。
(C)WWF-UK/Nick Ridley

スチュアートさんが飼っているそりイヌたち。
(C)WWF-UK/Nick Ridley

真冬にシベリアンハスキーの毛が生え換わった

ここ数年、温暖化によってスコットランドで起きている多くの変化を、私は目撃してきました。私たちのすむ小屋のすぐ近くでは、ミサゴ(魚を食べるタカの一種)が巣作りをしていますが、この鳥たちが雨の影響を受けているのを見ました。また、あまりに暖かいので真冬にハエを見たこともあります。

中でも一番信じられないのは、私が飼っているシベリアンハスキーの毛が、真冬に生え換わったことです。これは自然がこの生きものたちに、そして私たち人間に、何かを語りかけようとしているのだと思います。

地球温暖化は、野生動物やその生息環境に影響を与えているだけではありません。気候変動はヨーロッパ中の人々とその暮らしに影響を及ぼしています。
私が自分の知っていることをお話し、WWFの運動を支持する理由は、まさにそのためなのです。皆さんには私の暮らし方を守る力があります。手遅れになる前に行動してください。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2005年12月5日
Climate Witness: Alan Stewart, Scotland

科学的根拠

1990年代の初めから、イギリスではそれ以前の数十年に比べて異常に暖かい月が三倍ぐらい増えました。2080年までに英国での年間平均気温は2~3.5度、地域によっては5度、上昇する可能性があります。夏の異常高温は多くの人の健康を脅かします。2003年8月の9日間だけで英国で2,000人以上の人が熱波のために死亡しました。英国の保健省は2050年までに熱さによる夏期の死者が250%増えると予測しています。温暖化傾向は別にしても、英国の気候はどんどん混乱して予測しにくくなっています。2005年6月、鉄砲水がノース・ヨークシャーの道路や橋を押し流してしまいました。国の南側の海水面は上昇を続けることが予想され、2050年までには50センチ、2080年までには86センチ上昇すると予測されています。予想される暴風雨の増加と合わせると、洪水の被害を受ける人の数は倍増し、350万人にもなる恐れがあります。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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