目撃者の証言:崩れゆく白亜の断崖


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ヨーロッパ(イギリス):カシアン・ガーベットさん

イギリス南部の町シーフォード近の海辺に住むカシアン・ガーベットさんは、海面の上昇や頻発する暴風雨、そして海岸にそびえる雄大な白亜の崖を守る防波堤が、その影響によって幾度も突き崩されるのを目撃してきました。ガーベットさんは、異常気象をおさえ、未来に向けた海との共存を目指すべきことを訴えています。

南イングランドの沿岸からの証言

私の名前はカシアン・ガーベットです。1960年、ロンドンに生まれ、この15年を南イングランド沿岸のクックメア・ヴァレイで暮らしてきました。住居の宿舎は、シーフォード岬自然保護区の中にあり、白亜の崖の先端に建てられています。このクックメア・ヴァレイは、ガーベットさんが11年間在籍している、シーフォード岬管理委員会を含めた3つの自然保護グループによって管理されています。

カシアン・ガーベットさん
(C)WWF UK

頻度と威力を増す暴風雨

私はシーフォード近郊にある、沿岸警備隊の宿舎に住む、最後の住人です。この宿舎は5つあり、自然保護区内の白亜(石灰岩)の崖の先端に建っています。宿舎は1818年に建てられた歴史的に重要な建造物で、世界中の観光ガイドでも取り上げられています。

第二次世界大戦中、沿岸を守るイギリス軍がこの宿舎に滞在した際に、海岸に大きな防波堤を建設しました。この防波堤は20年くらいの耐久性があるはずですが、温暖化によって上昇する海面と、頻発する暴風雨にさらされ、たびたび崩壊しています。

嵐がやってくると、私たちには海がとてつもなく大きな、まったく違うもの、まるで猛獣か何かのように見えます。

私は自宅で仕事をしているので、何か重要な変化が確認できるのではないかと、1日に2度、潮の干満を見ていますが、実際に季節が変動するのを目撃してきました。
それはとても静かでゆっくりとした振動のような変化でした。ここで私たちのような暮らしを送っていない人々には、到底気づかないような変化です。

暴風雨の数は増えてきています。
1999年、軍隊がかつて作った防波堤は、一度大きく壊れてしまいました。ハリケーンに匹敵する、風力強度11の強風が吹いたのです。防波堤がこれほど徹底的に壊されてしまったことは、これまでありませんでした。

イングランドの環境庁は、砂利を盛ったこの防波堤を修復しましたが、2000年の冬、再び襲ってきた暴風雨で堤にはまた穴が開き、壊れてしまいました。1999年より前には、50年間で一度も起こらなかったこのような被害が、わずか6年の間に4回も起きたのです。これは大きな変化です。
地球温暖化は、それ自体が環境に悪影響を及ぼす原因になりますが、それに加えて、暴風などの自然災害も増幅させてしまうので、被害を二重に受けることになります。

クックメア・ヴァレイの白亜の断崖。大西洋からやってくる冬の嵐が大きな脅威になっている
(C) WWF UK

崖上に建つ古い宿舎。ガーベットさんは木彫師として学び、東アジアを旅した後、ここに住み始めた。現在、シーフォード岬管理委員会の副委員長をつとめながら、地域の湿地を復元する環境庁の計画にも携わっている。
日々の生活は小さな風力発電機とロウソクの照明に頼り、自身は海岸の漂着物で家具を、家族は畑で野菜を作り、生活している。
(C) WWF UK

海とは、戦いではなく共存を

防波堤を修復することは可能です。しかしそもそも、その防波堤が建設された当時は、現在のような規模の自然災害は想定されていませんでした。これはすぐには解決しがたい問題です。

私は、海岸沿いの光景を見ていると、どうしたらいいのか考えてしまいます。防波堤を強化させるためにお金をつぎ込むべきなのか、それとも、今の自然のままにしておくべきなのか。
海と戦っているとは考えていません、私たちは海と共に生きています。しかし、私の子どもたちの時代に、その防波堤が維持できるかどうか、見当がつきません。

イギリスは、とても長い海岸線を持つ島国です。しかし長い間、防波堤のためには、わずかな予算しか当ててきませんでした。これは大変悔やまれることであり、現在、私たちが直面している大きな問題の一つになっています。
しかし、本当の問題は、温暖化がもたらす気候の変動です。

先月、英国のチャールズ皇太子は、「将来の世代に健全な環境をきちんと引き継いでいく上で、地球温暖化は私たち人類が直面している、最も重大な問題である」と述べました。政治家、企業、みなさんや私、すべての人々にとって、気候変動はより重要で優先されるべき課題でなくてはなりません。

どうか私やWWFの言葉に耳を傾け、ヨーロッパ中で二酸化炭素の排出を減らすための行動を起こしてください。子どもたちは、私たちの行動をしっかりと見ています。

WWFインターナショナル/ホームページ掲載日:2005年11月22日
Climate Witness: Cassian Garbett, England
http://wwf.panda.org/about_our_earth/aboutcc/problems/people_at_risk/personal_stories/witness_stories/?51200/Climate-Witness-Cassian-Garbett-UK

科学的根拠

イングランドは雨が多いことで世界的に知られています。しかし、これからはこの評判も当てはまらないくらい気象状況は無秩序で、予測しにくくなってきているようです。2004年8月、突然の洪水がコーンウォール州の村ボスキャッスルを襲いました。2005年6月には同じように洪水がノースヨークシャー州の道路や橋を洗い流しました。イングランド南部の海面は最大で2050年までに50cm、2080年代には86cmまで上昇が続くと考えられています。今後増加すると見込まれる暴風雨を併せて考えると、洪水による災害の危険にさらされる人々の数はこれまで想定されていた数の2倍、つまり約350万人に上るであろうと考えられます。

全ての記事は「温暖化の目撃者・科学的根拠諮問委員会」の科学者によって審査されています。

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