生物多様性条約会議(CBD・COP12)に関するWWFの声明


2014年10月6日から17日まで、韓国・平昌で「生物多様性条約」の第12回締約国会議(CBD・COP12)が開催されました。162の締約国と市民団体の関係者など約3,000人が参加した今回の会議では、生態系の保全に向けた各国の国家戦略の実行、持続可能な開発目標、自然保護や自然回復をめざす取り組みを気候変動の影響を緩和する政策と統合させることなどについて、議論の進展がありました。しかし同時に、現状のままでは2020年までの「愛知目標」の達成が困難であるといった指摘もなされるなど、世界の生物多様性の保全に向けた道のりには、まだ多くの課題があることが、あらためて確認されました。

今も続く世界の生物多様性の劣化

生物多様性条約の第12回締約国会議(COP12)では、開催日となったその初日に、『地球規模生物多様性概況(第4版)』が発表されました。

これは、各国の国別報告書や生物多様性国家戦略、また生物多様性に関する研究やデータを分析したもので、生物多様性戦略計画2011-2020と「愛知目標」の達成状況を評価するための基礎情報となるものです。

そこで示されたメッセージは、これまでの各国の取り組みについて進展が見られるものの、今のままでは2020年までに「愛知目標」を達成することは難しい、とする厳しい内容でした。

この「愛知目標」とは、2010年に名古屋で開かれた第10回締約国会議(COP10)で、各国により採択されたもので、生物多様性条約の締約国が、2020年までに野生生物とその生息地の消失を食い止めるために設定した20の目標のことです。

目標達成の困難は、そのまま地球環境の劣化が続いていること、それに十分な歯止めがかけられていないことを示すものといえます。

各国がそれぞれの生物多様性国家戦略および戦略計画を実行に移し、世界の生物多様性への圧力を継続して軽減できるような、有効かつ緊急の行動がとられない限り、この現状を変えるのは難しい、それが、今回の締約国会議が、冒頭で国際社会に対して示した警告でした。

COP12がもたらしたもの

地球上の生物多様性は、多くの野生の生命のいとなみを支える大切な母体です。同時に、それがもたらすさまざまな「生態系サービス」は、人類の健康や福利、社会の安定につながるものであり、雇用や食糧、水などの基盤を形作るものでもあります。

湖沼や河川、湿原などの健全な湿地(ウェットランド)は、衛生的な水を供給する源です。海は、多くの魚介類を含めた栄養価のある食物を人類にももたらしています。また、世界の森林生態系には、7,200億ドルもの経済的価値があるとされています。

そうした生態系サービスの危機に対する警告で始まった第12回締約国会議(COP12)は、結果として、生物多様性を特定し、保全のための仕組みづくりにつながる重要なステップとなり、幕を閉じました。

最大の成果の一つは、参加している各締約国の代表が、閣僚級会合でまとめた「カンウォン宣言」に、全会一致で合意したことです。

この宣言には、「生物多様性の保全」を、世界の「持続可能な開発目標」の重要な要素として、「ポスト2015年開発アジェンダ」により強く統合し、主流化するよう求める条項が含まれています。

「ポスト2015年開発アジェンダ」は、世界の国々の開発目標として2001年に発表された、2015年までの「ミレニアム開発目標」に続くもので、この開発目標の流れを継ぎ、貧困削減を中心的な課題として議論が重ねられてきました。

この中で「生物多様性の保全」がより大きな目標に統合されることは、自然保護や生態系サービスの保全が、貧困問題をはじめ人類の抱えるさまざまな社会問題の解決にも、大きく貢献するものであることを改めて示すと共に、その一体となった取り組みを進める必要性を明らかにするものです。

生物多様性国家戦略と各国の取り組みのこれから

また、今回のCOP12では、各国に対し、条約の決議に基づいて制定することになっている、生物多様性国家戦略および戦略計画を、「生物多様性戦略計画2011-2020」に沿う形で評価し、改訂することが、あらためて求められました。

現時点で、この取り組みができていない国については、2015年10月までに、その国として指標を定め、第5回国別報告書を提出することも促しています。

これは、2020年を一つの目標として、世界各国が自然保護の取り組みを強化するという約束を果たすため、さらなる努力を積み重ねてゆくことの必要性にも一致する合意です。

各国によるこうした取り組みを通じて実現すべき、地球の生物多様性の保全。それは、すべての人にとって持続可能な未来を保証する上でも、きわめて重要な要素に他なりません。

WWFは今回のCOP12について一定の評価をすると共に、今後も国際交渉の場だけでなく、各国や地域においても、多様な生命のつながり、生物多様性の保全に向けた取り組みを続けてゆきます。

関連情報


生物多様性条約会議(CBD・COP12)終了後のWWFの声明

WWFは、今回のCOP12の場においても、多くの問題で専門的な知見や、政策上の提言を求められました。会議終了後に発表した声明の要点を下記にお知らせします。

財政措置について

世 界の国々は、生物多様性保全のための資金をどれだけ確保するのか。その目標について今回、各国は合意を交わしましたがその内容は、『地球規模生物多様性概 況(第4版)』に示された情報から求められる水準と、閣僚級会合で愛知目標を達成するため必要とされる資金の水準に、大きく届いていません。
しか し、生物多様性保全につながる国際的な資金の流れを倍増させる、という先進国による誓約は、今後の取り組みに希望をもたらすものになると期待されていま す。これまで多くの国では、生物多様性国家戦略の実行に必要な資金の大半を、国内の資金でまかなってきました。その結果、国や地域の間で、使える資金の規 模に格差が生じていました。そうした中で今回、全ての締約国が、国際的な資金の流れの活用と、そのための技術向上の努力を強める合意を交わしたことは、格 差を縮小させる上で有効な一歩であり、前進であると考えます。
また、COP12では、生物多様性に悪影響を及ぼす補助金等の奨励措置を廃止、もし くは段階的に撤廃するためのマイルストーンを定めるよう求める決議も採択されました。WWFは、この奨励措置の廃止が、生物多様性にかかる圧力を減らす上 で重要であると考え、決議を評価しています。

海洋および沿岸域の生物多様性の保全について

今回のCOP12では、生態学的、生物学的に重要な、150を超える海洋と沿岸域が選ばれました。これらは、沿岸国の主権が及ばない海域を含めた、世界の海から選ばれたものです。
人類が海洋の生物多様性にかけている負荷が、年々大きくなり続ける中、愛知目標でも合意されたとおり、こうした海域で生物多様性と生態系サービスを持続可能な形で維持できるよう、各国が適切な措置を講じることが重要です。
ま た、COP12では、音が海洋生物に非常に大きな影響を及ぼすという検証に基づいて、人為的に発生している海中の騒音の影響を最小化し、軽減させていくた めの措置についても、合意が交わされたほか、サンゴ礁の生態系保全のため、優先的に採るべき行動についても各国は合意を交わしました。
これらの進展について、WWFは歓迎します。

生態系の保全と回復について

議題26「生態系の保全と回復」の結果にも、WWFは歓迎します。
特 に、各国が海洋を国土開発計画の対象に組み込むことや、生態系の劣化と回復の状況調査を拡充することの必要性が、締約国によって承認されたことは重要で す。さらに、先住民や地域共同体、民間の保護区などが、生物多様性の保全と管理において極めて重要な役割を果たしていること、そして、沿岸の湿地を保全 し、回復させることが、生物多様性や生態系サービス、人々の生計の維持、また気候変動や災害リスクの軽減といった観点から重要であることも、認められまし た。
しかし、十分な財政措置のためには、より多くの努力が求められています。WWFは各国が国レベルで取り組む開発計画や公共政策の中に、生態系の保全と回復が含まれるように努力すべきであると考えています。

生物多様性と気候変動について

COP12 では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書に示された知見や結論についての懸念が表明され、締約国やその他の政府、関連する機 関、利害関係者に対し、生物多様性に関連する全ての気候変動による影響に対処することが求められました。そして、生物多様性の保全と、国連気候変動枠組条 約のもとで実施される温暖化対策が、より強い相乗効果をもたらすよう、取り組みを求めました。
WWFもまた、生物多様性条約の締約国を含む世界の 各国政府に対して、気候変動への適応と、災害リスク軽減のために、多様な生態系の機能の保全を含めた総合的な取り組みを促進し、実行することを求めていま す。そして、こうした行動を、「兵庫行動枠組 2005-2015」(the Hyogo Framework for Action 2005-2015)に沿う形で、各国の政策や計画に統合することを奨励します。
COP12では、「REDD+に関するワルシャワ枠組み」と、先住民および地域共同体と伝統的知識についても言及がありました。WWFはこれを歓迎します。

名古屋議定書について

名 古屋議定書は遺伝資源の取得の機会の拡大と、そこから得られる利益の公正かつ衡平な配分に関する国際協定です。2010年10月29日に採択されてから、 およそ4年を経て、この10月12日に発効しました。WWFはここまでの進展と、先住民および地域共同体代表のさらなる関与を歓迎します。

伝統的知識の保全とその認識について

今 回のCOP12では、生物多様性の利用に関する、世界各地域の伝統的な知識に関連して、これまで用いられていた「indigenous and local community」という表現が、今後は「indigenous peoples and local communities」に変更される決議が採択されました。この変更は、先住民および地域共同体(ILC)が長年求めてきたもので、国連の「先住民問題 に関する常設フォーラム(Permanent Forum on Indigenous Issues)」の勧告にも沿うものでもあります。WWFはこの決議を歓迎します。
COP12ではまた、ILCが生物多様性の保全につながるデータの収集や分析に、どのようにすれば効果的に参画できるか、考慮することを各締約国とILCに求めています。

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