生物多様性条約の成立
「生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)」は、1992年6月ブラジルで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で条約に加盟するための署名が開始され、1993年12月29日に発効しました。2001年9月12日現在、182ヶ国が加盟しています。 日本は1993年5月23日に批准し、締約国になりました。また、アメリカはこの条約を批准していません。
自然保護を目的とする国際条約(ラムサール条約、ワシントン条約、世界遺産条約など)は多数ありますが、生物多様性条約は、個別種や特定の生態系に限らず、時間的、空間的な広がりを想定した、地球規模の包括的な初めての国際条約です。また、生物多様性の保全だけでなく、持続可能な利用を明記した条約でもあります。
生物多様性条約の概要
条約加盟国は、生物多様性の保全と持続可能な利用を目的とする国家戦略又は国家計画を作成・実行する義務を負っています。また、重要な地域・種の特定とモニタリングを行うことになっています。
一方、生物多様性の持続可能な利用のための措置として、持続可能な利用の政策への組み込みや、先住民の伝統的な薬法のように、利用に関する伝統的・文化的慣行の保護・奨励について規定しています。
この他、遺伝資源の利用に関しては、資源利用による利益を資源提供国と資源利用国が公正かつ公平に配分すること、また途上国への技術移転を公正で最も有利な条件で実施することを求めています。
さらに、この条約には、先進国の資金により開発途上国の取組を支援する資金援助の仕組みと、先進国の技術を開発途上国に提供する技術協力の仕組みがあり、経済的・技術的な理由から生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組が十分でない開発途上国に対する支援が行われることになっています。また、生物多様性に関する情報交換や調査研究を各国が協力して行うことになっています。
このように、生物多様性の問題は国境を越えた地球規模の努力を必要としています。しかし、実際には、環境保全を進めようとする先進国と、これから開発を進めようとしている開発途上国との間で対立が起きています。また、それ以上に複雑な問題は、豊富な生物資源を有する途上国と、それを利用開発する先進国との対立です。「資源を持つ国」と「技術を持つ国」という新たな対立が生まれています。「持てる者」と「持たざる者」という単純な構図では説明できなくなってきているのです。

(c)WWF-Canon/Catherine HOLLOWAY
生物多様性条約の目的
- 物の多様性の保全
- 生物の多様性の持続可能な利用
- 遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分
条約採択の交渉の過程では、途上国が「遺伝資源」の利益配分を強く主張したので、交渉が難航しました。その結果、自国の天然資源の主権的権利を有することが認められ、「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分」が第三の目的として組み込まれました。
このことは、途上国の遺伝資源を利用する先進国にとって、受け入れ難い点でした。なぜなら、日本やアメリカのバイオテクノロジー産業が影響を受けることになるからです。アメリカがいまだに批准しないのも、このような理由からです。
生物多様性国家戦略について
生物多様性国家戦略
生物多様性条約は、どのように、各国の自然保護の役に立っているのでしょうか。その仕組みを簡単に見てみましょう。
生物多様性条約の第6条(a)は、各締約国政府に対し、生物多様性に関する国家的な戦略、行動計画または実施計画を策定するよう求めています。
生物多様性国家戦略は、生物多様性条約に基づき、生物多様性の保全とその持続可能な利用という観点から、日本が締約国としてどのようにこの問題に取り組んでいくかという基本方針と施策展開の方向を示したものです。現在のものは、平成7年10月に決定されました。
この戦略策定に当たっては、環境省(当時の環境庁)だけでなく、関係省庁(環境省、農林水産省、国土交通省、文部科学省、経済産業省、厚生労働省、外務省)が分担執筆するという形を取りました。しかし、縦割り行政的な取り組みのため、結果としては不十分なものになりました。
本来、生物多様性という問題は、細かく割り振り出来るものではありません。したがって、国の政策決定者、地元で活動するNGOやNPO、自治体などのあらゆる立場の意見を採り入れ、調和の取れた多様性保全を目指していかなければなりません。
そのような多様性保全を目指し、平成14年に多様性国家戦略の改訂が行われました。
しかし、この戦略は法律ではありません。あくまでも理念や方針を定めたものであり、履行の義務は伴いません。つまり、実際に戦略を活かした生物多様性の保全を行うには、その理念を十分に反映した国内法が必要なのです。しかし、現在のところ、それに該当する法律は、残念ながら日本にはありません。

日本の未来を描く
生物多様性国家戦略は、単なる環境保護のための方針を打ち出しているのではありません。それは、日本が20年後、50年後、100年後にどのような国を将来世代に残すことができるかという目標でもあります。誰も使わない道路や、空港の建設が私たちの生活を豊かにするとは思えません。生態系を破壊して空港を造り、そこでの豊かな自然を観光目的とするエコツーリズムを展開することが、私たちの望んでいることでしょうか。
また、私たちが口にする食品や薬の安全性など、私たちの生活そのものにも大きく影響してきます。したがって、生物多様性の恩恵を受けている私たち自身の声を行政に届けなければなりません。あらゆるレベルの関係者の声を取り入れることが、多様性国家戦略の改訂には必要になってくるのです。
一方、地方自治体の取り組みも生物多様性戦略の実施には欠かせません。例えば、秋田県は「秋田県生物多様性保全構想」を策定し、積極的に地域の生物多様性保全に取り組んでいる自治体もあります。これから改訂される生物多様性国家戦略は、日本の将来像を描きながら作成する必要があります。その様な戦略を実現するためには、具体的かつ現実的な、そして実行可能な内容のものでなければなりません。

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