電力会社の再生可能エネルギー接続保留に懸念あり:国の専門委員会で検討するべき事項である


声明 2014年10月1日

九州電力が再生可能エネルギーによる発電設備の接続申し込みを、9月25日から数か月間にわたって管内全域で保留することを発表し、東北電力や四国電力、北海道電力など他の電力会社も追随している。固定価格買い取り制度によって太陽光発電が急増し、電力の需給バランスが崩れる可能性が生じたためとしている。九州電力は、「安定供給を維持しながら再生可能エネルギーを最大限導入できるように、全力を尽くす方針」で、今後、「揚水発電の活用や火力の運用見直し、30日ルールの活用、地域間連系線の活用などの対策」を、数か月かけて検討するということである。

これは、今後の再生可能エネルギー導入可能量の検討につながる重要な検証作業であるため、個々の一般電気事業者内の内部検討に留めるのではなく、国による第3者の専門委員会で、透明性を持って検討すべきである。おりしも9月30日の経済産業省の新エネルギー小委員会において、有識者による検討を行う系統ワーキンググループの立ち上げが決まったことを、WWFジャパンは歓迎する。

国の専門委員会で検討するべき事項

厳格に事業者からは中立の立場の専門家が、再生可能エネルギーの系統接続に関する国際的な最新知見を基に、再生可能エネルギーの最大限の導入を図るための検討を進めるべきである。検討には原発を含む各種電源についての前提など、様々な前提を置くことが必要となる。だからこそ、どのような前提を置いたのか、どのような検討をしたのか、あるいはしなかったのか、外部から分かるように、すべて公開で行なっていくべきである。

また、今現在の接続可能量の検討と、2030年の再生可能エネルギーの導入可能量の検討議論とは、リードタイムが違う。現状ではできなくとも、2030年までのリードタイムを考慮すれば可能なこともありうる。したがって、あたかも現状に関する検討結果が、2030年の導入可能量の検討であるがごとく同一視されることは避けなければならない。

WWFジャパンは、系統ワーキンググループにおける「検討事項」案に対して、以下の6つの事項の検討を求める。

「接続可能量の検証に関する事項」について

1)気象データに基づくシミュレーションを活用した需給バランスの検証

気象データに基づいた365日×1時間ごとの再生可能エネルギー発電量の予測(ダイナミックシミュレーション)を行ない、定量的なデータに基づいて需給バランスに困難が生じる期間がどれくらい発生し、どの程度のギャップになりうるのかを予測するべきである。

具体的には、各地域(九州電力の事例では九州電力管内および隣接する地域)において、365日×1時間ごとの気象データに基づいて、発電量を予測するダイナミックシミュレーション(*1の説明参照)を行い、年間に何時間くらい、低負荷期の需要を、発電量が上回る可能性があるのかを詳細に検討するべきである。その結果は、再生可能エネルギーの発電量が、春や秋の低負荷期の日中の需要を上回る時間は、おそらく年間数時間内に留まると予測される(WWF系統シナリオでの検討に基づく試算*1)。

もし数時間内であるならば、その数時間だけ再生可能エネルギーの出力抑制を行えばよいことになるので、現行の30日ルール(抑制要請しても補償しなくてよい範囲)で十分なはずである。その数時間のために、再生可能エネルギーの発電容量を制限し、今の段階から接続を受けつけないのは、再生可能エネルギーの最大限の導入へ向けた努力とは呼べない。

  • *1WWFエネルギーシナリオにおいては、365日×1時間ごとの再生可能エネルギーの発電量を、全国824地点の気象データを用いて、シミュレーション(ダイナックシミュレーション)し、全国一般電気事業者ごとの9地域間において、融通が必要となる電力容量を計算している。

2)再生可能エネルギーのための揚水発電の活用に関する国際的な活用事例に基づいた検討

日本全国に2600万kWある揚水発電は、日本の再生可能エネルギーの変動吸収のために重要であるが、日本において、再生可能エネルギー調整のために活用された例はまだない。また、一般電気事業者は本来原発のために作られた揚水発電であるため、原発稼働時に備えて、再生可能エネルギーのために使いたがらないことが予想される。そのため、以下の3点に留意して検討できる一般電気事業者から中立の専門家を置いて検討を進めるべきである。

A) 太陽光や風力が多く発電するときに、水をくみ上げ、他の時間帯に放電するなどの、再生可能エネルギーに合わせた使い方を、再生可能エネルギー先進国の事例などを踏まえて検討する。
B) いつ再稼働できるかわからない原発のために、揚水発電の容量を保留することをいったん止めて、すべて再生可能エネルギーのために活用するケースも検討して提示する。
C) (1)に述べた気象データに基づいた定量分析では、(2)の揚水発電の調整分を入れたシミュレーションを行なうべきであり、その上で年間どの程度の電力容量の場合に、何時間、需要を上回ることが予測されるのかを示すべきである。

3)原発が動いていない現状は、調整できる電源(化石燃料電源)が主であるという現実を踏まえた検討

発電電力量の調整の効かない原発が動かず、化石燃料由来の発電が主である現状は、本来は"ほとんどが調整電源"であることが現実である。原発の稼働を最大限見込んだ調整電源の検討をするのではなく、現状を踏まえた調整電源の検討を行なうべきである。

再生可能エネルギーを優先した給電が行なわれ、揚水発電が再生可能エネルギーの事実上の蓄電池として機能し、化石燃料電源を調整電源として活用できた場合の、再生可能エネルギー最大活用導入量を示すべきである。電源の選択は国民がするべきであり、そのための情報はすべて開示すべきである。

「接続可能量の拡大に関する事項」について

4)気象予測を使用した出力予測システム活用を前提とすること

系統ワーキンググループでの検討事項案では、最も肝心な再生可能エネルギーの発電量の予測が「その他」の扱いで、軽視されている。気象予測を使った出力予測システムの専門家の委員も入れて、同システムを使った場合の再生可能エネルギー制御システムの最速導入可能性についても検討すべきである。再生可能エネルギーは"予測可能な"変動電源であるということを前提に検討を行なうべきである。今や再生可能エネルギー先進国では、気象予測を用いた出力予測システムを活用することで、変動する需給バランスを保つことが当たり前に行なわれている。翌日の出力分を予測することで、それを除いた残余需要分だけ、前日に化石燃料由来の電源を準備すればよいことになり、化石燃料への依存度も急速に下げていくことができる。また当日予測は、現在行なっている需要予測と、再生可能エネルギーの出力予測が合わせて考慮される。日本では未知の領域であっても、欧米における再生可能エネルギー先進国ではすでに日々実施運用されている。その国際的な知見を最大限に活かした検討を行なうべきである。

日本においても再生可能エネルギーの運用データが蓄積されてくれば、早期に運用実施が可能となるはずであり、運用しながら学んでいくという姿勢が大切ではないか。"否定"から入るのではなく、"いかにして可能に"していくか、という姿勢が、今最も求められている。

5)現状の地域間連系線を広域で活用した場合の再生可能エネルギーの導入量の検討

予測できる変動電源である再生可能エネルギーの変動は、広域で運用されるほど、平滑化効果も望め、変動吸収がより容易になる。たとえば今回の問題の発端となった九州で現在認定されている1260万kWの太陽光発電容量も、九州地方でみればピーク電力の約80%(出力は定格出力の8割として計算)に達するが、西日本全体のピーク電力でみると、約15%に過ぎない。

そもそも異なる一般電気事業者間で、地域間を結ぶ連系線が、非常時以外には使われないことが問題なのである。電力システム改革が行なわれ、広域で運用することを進める広域運用機関が設立されたが、いまだ非常時以外の地域間連系線の活用は想定されていない。再生可能エネルギーの最大限の活用には欠かせない広域運用のために、平常時から地域間連系線を使えるようにすべきである。

2016年に実施される電力システム改革の第2段階では、一般電気事業者から、送電会社が切り離されて法的に分離される予定であり、送電網は、公共財として使われるようにしていかねばならない。今はそこへ至る過程であるということを踏まえた対応を、一般電気事業者は進めるべきである。

現行の地域間連系線は、たとえば九州・中国間で550万kWであり、実は熱容量では十分あるにもかかわらず、実際の運用容量はその半分以下であることが多い。現行の地域間連系線の最大限の活用を可能とするにはどうすればよいのかを、一般電気事業者から中立の専門家が検討すべきである。

地域間連系線を日常的に再生可能エネルギーの変動吸収のために運用することを可能とする体制ならば、今回の九州電力においてもどの程度導入できるのかを、広域的運営推進機関の設立準備組合も関わって、きちんと検証すべきである。そして変動分を広域で吸収すれば、もっと変動電源が導入可能となることを、少なくとも国民がわかるように提示すべきである。

6)再生可能エネルギー専門の制御システムの構築

とくにスペインREE(系統運用会社)は、日本と同じ孤島のような条件下で、中央給電指令所に再生可能エネルギーに特化した制御センターを持ち、発電量に占める再生可能エネルギー割合30%を実現している。この再生可能エネルギー制御センターにおいて重要なのが、SCADA(supervisory control and data acquisition)システムである。このSCADAシステムによって、10MW以上のすべての再生可能エネルギー電源から、リアルタイムの発電量データが直接、REE再生可能エネルギー制御センターに送られるため、出力抑制の要請があれば、すぐに実行できるようになっているのである。

こうしたシステムを当初から構築していけば、大量の再生可能エネルギーの導入を可能としていくことができる。こうした知見を最大限に取り入れた検討を進めるべきである。そのためには、国際的な系統運用専門家を検討委員とするか、少なくともオブザーバーとして迎えるべきである。


今回の新エネルギー小委員会が提示した資料では、賦課金のコストが2兆7千億円、国民の月間負担額935円と示されているが、このコストは、負担という見方だけではなく、最終的には国内に循環する投資と見ることができる。この投資には、CO2削減、大気汚染防止、国内の雇用や経済への寄与、さらに純粋な国産エネルギーであることからエネルギー安全保障にも資するというメリットがあることも同時に広く知らされるべきである。

また、価格の高騰が避けられない化石燃料の購入費用の削減や、将来的な不安定リスクも避けることができるのである。ましてや現状の電力料金には、燃料価格に連動して自動的に調整される仕組みがあり、そのために電気料金が国民の意思にかかわらず上がっており、その額は震災前に比べて軽く1000円を超えている。そうした化石燃料費用負担があること、そして、再生可能エネルギーの導入促進は、こうした負担の将来的な削減につながるということも丁寧に国民に示すべきである。再生可能エネルギーへの投資を単なる負担としてだけ示すべきではない。

■お問い合せ先:

WWFジャパン気候変動・エネルギーグループ
Tel: 03-3769-3509/Fax: 03-3769-1717/Email: climatechange@wwf.or.jp

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