活動トピック

外来生物問題

ペットや街の緑化、または農作物や害虫の天敵など、人類は世界中で多くの生きものを利用して生きています。しかし、これらの生きものが世界中のあらゆる場所に持ち込まれ、野外に放されたり逃げ出したりすることによって、在来の自然環境や野生生物に深刻な悪影響を及ぼすケースが多く起きています。人間の活動に伴って、意図する、しないに関わらずそれまでその生き物が生息していなかった場所に持ち込まれた、これらの動植物を「外来生物(外来種、移入種)」と呼びます。

この地球上では、クジラやゾウなどの大型哺乳類から微生物に至るまで、ありとあらゆる野生生物が、数十億年もの時をかけて複雑な生態系を築いてきました。複雑な網の目のような生物の多様性は、私たち人間に、食料や燃料、薬品に衣料品など、さまざまな分野で恩恵をもたらしてくれる貴重な資源の宝庫です。
しかし現在、人口増加や人間による活動が原因で、急速に多くの生物種が絶滅、もしくはその危機に追いやられています。生物種は、一度絶滅してしまえば再び人の手で造りだすことはできません。滅んでゆく種の中には、まだ人類によって発見されていないものも数多く、医薬品など、人類の将来にとって大きな役割を担う価値をもつ生物も含まれています。種の多様性の喪失は、将来の世代に大きなリスクを残すことになりかねません。

さまざまな生物が生きることのできる、その土地独自の生物の多様性を維持することは、今の社会に課せられた大きな責務のひとつといえます。開発や環境汚染、地球温暖化など、自然破壊の原因は数多くありますが、そのひとつに「外来種問題」があげられます。未来も変わらず自然の恵みを享受するためには、外来種問題への対策が欠かせません。

(C)WWF Japan

日本で知られる代表的な外来種、ブラックバスとブルーギル

外来種とは?

人間の活動に伴って、意図する、しないに関わらずそれまでその生き物が生息していなかった場所に持ち込まれた、外来種は、全てが必ずその場所で野生化し生息できるとは限りません。多くの場合、持ち込まれた先の気候が合わなかったり、食べ物がなかったりするからです。新しい環境に適応し、在来の生物に悪影響をおよぼす例は、むしろ稀だと言えるでしょう。しかし、少ないとはいえ、実際に被害が起きた場合は極めて深刻な影響をもたらします。このような外来種のことを、特に「侵略的外来種」と呼びます。今、世界の各地で起きている問題の多くは、この侵略的外来種によるものです。

外来種には、国外のみならず、国内の他の場所から移動させられたものも含まれます。同じ日本国内であっても、周囲を海で隔てられた島々などでは、独自の生態系が形成されている例が多く、そこに国内の他の地域から新たな動植物が持ち込まれれば、その地域の固有の生き物に対して、大きな脅威となるからです。

外来種はどのようにしてやってくる?

意図的な導入

ペットや家畜、緑化や園芸、漁業、害虫の天敵などの目的で野外に放されたり、植栽されるケース。特定の場所で飼育していても、管理が不十分でそれが逃げ出したり、誤って放たれてしまう場合もある。

非意図的な導入

人や物が移動するときに、それらに付着、混同または寄生するなどして、他の地域に導入されるケース。植物の種子や、昆虫などの小さな植物、寄生虫などが多い。

侵略的外来種が引き起こす主な問題

日本は、野生生物の輸入大国です。さまざまな目的で輸入される生物は国際社会でもトップクラス。
2004年に輸入された生きている動物の数は、財務省の貿易統計に6億4749万326と記載されています。しかしこの中には、届け出義務のない一部の昆虫類や魚類などは含まれていません。主にペットとして年間70万頭が日本に輸入されているというカメを例にとっても、いったいどのような種類が輸入され、国内に入った後はどこへ行くのかなど、膨大な生き物たちの行方は知るすべがありません。

さらに、これらの生物が野外に逃げ出した場合、各地の自然にどのような影響を及ぼすのか、人や野生生物に被害を及ぼす病原菌や寄生虫などを持っていないかなども、詳しくわかっていないのです。

在来の生物や自然に悪影響を及ぼす侵略的外来種によって起こる問題は、さまざまです。もともとそこに生息していた動植物を食べて駆逐してしまったり、同じような食物や生息環境をもっている在来の種からそれらを横取りすることによって、その土地の生態系を崩してしまいます。また、近縁の種との間で交配が起こり、雑種が生まれれば、遺伝子の汚染が進みます。交雑は、種としての純血と、病気などに対する抗体を失わせるおそれがあり、無視できない問題です。

ほかにも、野菜や木材などの質・量の低下や、漁業資源の減少といった、農林業や漁業への悪影響も懸念されます。

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奄美大島の河川に放流されているニシキゴイ。在来種への影響が懸念される。

外来種によってどのような問題が起きる?

捕食 もともとそこに生息していた動物や植物を食べてしまう。 ブラックバス、アライグマ、マングースなど
競合 同じような食物や生息環境を持っている在来の生物から、それを奪い、駆逐してしまう。 タイワンリス、ホテイアオイ、オオタナゴなど
交雑 近縁の種同士で交配が起こり、雑種が生まれてしまう(遺伝子の汚染)。種としての純血と、病気などに対する抗体が失われるおそれ。 タイワンザル、タイリクバラタナゴなど
感染 それまでその場所に存在しなかった他の地域の病気や寄生性の生物を持ち込む。 オオブタクサ、カ、ネズミ類

どのような影響が心配される?

生物多様性への影響 在来の野生生物の減少や絶滅、地域の植生の変化などを引き起こす
農林業、漁業への影響 野菜や木材などの質や生産量の低下。漁業の対象となっている魚などの減少。
人間の健康への影響 本来その地域や国に存在しなかった病気の発症と感染。

心配される影響の事例

感染症と外来種問題

近年、SARSや西ナイル・ウイルス、エボラ熱といった感染症が世界的な話題となり、外来種問題においてもその対策が重要視されはじめました。しかし、これらの病気を媒介するおそれのあるネズミ類などの輸入数は、現在も膨大な数にのぼっており、海外で実際に感染症を媒介していることが確認されたネズミの近縁種が、ペットとして国内で販売されていた例もあります。
また、非意図的な形で紛れ込んでくるおそれのある昆虫などの侵入の予防についても、1995年に話題になったセアカゴケグモの例を見ても分かるとおり、まだ十分には出来ていません。今後マラリアなどを媒介する蚊などが、人知れず侵入する可能性は決して低くありません。

「緑化」が引き起こす問題

工事現場や荒地を手早く緑化し、崩れやすい土壌を固定するため、日本ではシナダレスズメガヤと呼ばれる南米原産の多年草が植えられています。しかし近年、利根川水系の河川敷で野生化したこの植物が、在来の植物群を圧迫しており、結果的に問題を引き起こした悪例の一つとなりました。種子や栽培用の果実、胞子として日本に輸入された植物は、2002年の一年間で、8.4トンにのぼります。

法による規制について

今の日本では、外来種の検疫や防除の体制が十分に整っているとは言いがたい状況です。

ペットショップなどで大量に販売されている外国産の珍しい昆虫や両生類、爬虫類などについて、病原菌がついているかどうかを細かくチェックしたり、屋外に逃げてしまうのを防ぐ手立てがありません。
最近盛んになりはじめたインターネット上での生き物の取引の実態も正確に把握できていないばかりか、問題が既に広く認識されているブラックバス(オオクチバス、コクチバス)のような動物でさえ、つい最近まで川や湖へ勝手に放流することも違法ではありませんでした。
それはひとえに、外来種問題対策のための国内法が制定されていなかったことに大きな原因があります。

外来種問題はすでに10年以上前から、国際社会では深刻な環境問題として認識されてきました。
1993年に発効した世界の環境保全を目的とした国際条約「生物多様性条約」の第8条では、外来種の侵入を防ぐことと、駆除などの対策の必要性が明記されています。
条約に基づき、批准国は「生物多様性国家戦略」の作成が義務づけられ、その中で外来種問題への姿勢と方針を打ち出し、具体的な政策を実施しなくてはなりません。締約国である日本も1995年に最初の「生物多様性国家戦略」を策定し、2003年には改訂版である「新・生物多様性国家戦略」が作成されました。その中で日本は、予防を原則として外来種問題に取り組む姿勢を明確にしました。
しかし、これはあくまでも環境行政の方針にすぎず、実効性のある「法律」ではありません。実際に外来種の侵入を予防したり、すでに野生化した侵略的外来種を駆除するためには、この戦略にのっとった新しい法律を作るか、既存の法律を改正する必要がありました。

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琵琶湖のブラックバス

特定外来生物法

そこで2004年6月、外来種規制を定めた初の国内法である「特定外来種による生態系等に係る被害の防止に関する法律(特定外来生物法)」が国会で成立、2005年6月1日より施行されました。この新法では、海外から持ち込まれる生物の中で、日本の生態系や農林業、人の生活に大きな悪影響を及ぼすおそれのある外来種を「特定外来種」に指定して規制します。特定外来種には国内移動によるものは含まれず、海外からやってくる生物種のみが対象となります。

特定外来生物に指定された種の扱いに関する規制

  • 飼育、栽培、保管、運搬の原則禁止
  • 輸入の原則禁止
  • 野外へ放つ(植える、撒く)ことの禁止
  • 飼養等の許可を受けていない他者への譲渡や販売の禁止
  • 許可を受けて飼養等する際、マイクロチップの埋め込みなど個体識別の措置をする義務

詳しくは環境省のサイトをご覧下さい

特定外来生物法では解決できないこと

特定外来生物法が成立、施行されたことは、日本の外来種対策にとっては大きな一歩となりました。
しかし残念なことに、この法律は外来種問題を根本的に解決する上では、必ずしも十分なものとはなりませんでした。なぜなら、すでに飼われている外来種を野外に放すことを規制し、自然環境や人への被害を防ぐにはどうするのかといった具体的な内容が何も決まっていないからです。費用についても、環境省の外来種対策のための予算が、滋賀県1県分のそれを下回っているのが現状で、効果的な政策がどれだけ実現できるのか懸念されています。

そもそも外来種問題とは、外来種そのものに罪があるわけではなく、それを故意であれ無意識であれ、持ち込んでしまった人間に問題があります。法律で規制の対象になっていないから、むやみに飼育したり屋外に放しても良いという考え方を改めなければなりません。私たち日本人ひとりひとりが、この問題の深刻さを理解し、考えて行動することが何よりも大切です。

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アフリカマイマイ

 

NGOの活動と国内規制の行方

WWFを含む国内の環境NGOは、特定外来生物法の法案が作られる過程で問題点を指摘し、政府関係者に対して法案の改正を働きかけてきました。特に強く要求したのは、持ち込まれた外来種が問題を起こしてから駆除などの対応を行うのではなく、侵入を防ぎ、被害を未然に食い止める「予防原則」を徹底すべきだという点です。

また、2004年にWWFは、国内の専門家や他の環境団体とともに数ヶ月をかけて独自の暫定版リストを作成し、特定外来種の選定に厳しい姿勢で臨むことを環境省に求めました。このリストには、明らかな影響を及ぼしている外来種はもちろん、予防の側面を重視し、今後影響が心配される種を含めた約400種の動植物の名前が記載されています。

さらに第一次指定種の決まった2005年1月31日には、生態系への懸念がありながらも指定にもれた外来種の多さを指摘し、第二次指定種の選定を迅速に行なうよう意見を述べました。

 「予防原則」とは

悪影響が不確かだからといって後回しにせず、未然に対処すること。1992年に開催された国連環境開発会議で採択された環境と開発に関するリオ宣言の原則15に「環境を保護するため、予防的方策は、各国により、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない。」と記されています。

指定対象種の決定

2005年6月1日の特定外来生物法の施行と同時に規制された37種の「第一次外来種指定対象種」に続く第二陣として、8月5日に「第二次指定外来種」の候補42種類が決定しました。第二次指定種の選定は、6月の法施行の準備と並行して作業を進めるという迅速なもので、さらに指定候補種にNGO側の要望が取り入れられたことや、環境省のみならず農水省や国土交通省も含む準備会が立ち上げられ、今後の指定種について検討する体制が作られたこと、一般市民や業者への普及啓発ツールが作成されたことなど、第一次指定にくらべ、いくつかの点において改善が見られました。

第一次外来生物指定対象種(37種類)
哺乳類 タイワンザル、カニクイザル、アカゲザル、アライグマ、カニクイアライグマ、ジャワマングース、クリハラリス(タイワンリスも含む)、トウブハイイロリス、ヌートリア、フクロギツネ、キョン
鳥類 ガビチョウ、カオグロガビチョウ、カオジロガビチョウ、ソウシチョウ
爬虫類 カミツキガメ、グリーンアノール、ブラウンアノール、ミナミオオガシラ、タイワンスジオ、タイワンハブ
両生類 オオヒキガエル
魚類 オオクチバス(ブラックバス)、コクチバス、ブルーギル、チャネルキャットフィッシュ
昆虫類 ヒアリ、アカカミアリ、アルゼンチンアリ
無脊椎動物 ゴケグモ属のうち4種(セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ、ジュウサンボシゴケグモ、クロゴケグモ)、イトグモ属のうち3種、ジョウゴグモ科(2属全種)、キョクトウサソリ科全種
植物 ナガエツルノゲイトウ、ブラジルチドメグサ、ミズヒマワリ
第二次外来生物指定対象種(43種類)
哺乳類 アメリカミンク、ハリネズミ属、シカ亜科、キタリス、タイリクモモンガ、マスクラット
両生類 シロアゴガエル、コキーコヤスガエル、ウシガエル、キューバアマガエル
魚類 カダヤシ、ケツギョ、コウライケツギョ、ストライプドバス、ホワイトバス、ヨーロピアンパーチ、パイクパーチ、ノーザンパイク、マスキーパイク
昆虫類 コカミアリ、テナガコガネ属
無脊椎動物 カワヒバリガイ属、カワホトトギスガイ、クワッガガイ、ヤマヒタチオビ、ニューギニアヤリガタリクウズムシ、モクズガニ属、アスタクス属、ウチダザリガニ、ラスティークレイフィッシュ、ケラクス属
植物 アゾラ・クリスタータ、オオフサモ、ボタンウキクサ、オオカワヂシャ、スパルティナ・アングリカ、オオキンケイギク、オオハンゴンソウ、アレチウリ、ナルトサワギク

とはいうものの、対策をとることが法的に義務づけられる特定外来種は二次指定候補種まで合わせても100種類にも満たないうえ、ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)や外国産クワガタムシなどの社会的・経済的に影響が大きいと思われる種は指定されていません。オーストラリアなどに比べ、国内への侵入を未然に防ぐ「予防原則」も徹底されておらず、予算規模も小さいままで、必要な人員も不足しているなど、課題はたくさん残されています。

現在WWFは、海外の生物の持ち込みを原則禁止し、安全が確認されたもののみ輸入を許可する「ホワイトリスト」形式への変更を求めています。問題を引き起こしている外来種の中から特定外来種をリストアップし、その移入や移動を禁止する「ブラックリスト」形式を採用している現行法では、リスト外の生物が国内の生態系にもたらす被害を未然に防ぐことができないからです。

(C)WWF Japan

ミドリガメの名前で知られるミシシッピーアカミミガメ

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