活動トピック

ホッキョクグマの保護活動

A WWF Status Report "Polar Bears at Risk" (2002) より

Photo(C)WWF / Kevin SCHAFER

はじめに

ホッキョクグマは地上最大の肉食動物です。
現在の推定個体数は22,000頭。そのうち約60%がカナダに生息しています。ホッキョクグマは一時、狩猟などにより絶滅が心配されましたが、その後、国際的な保護活動により、危機を脱しました。しかし、現在は新たに、地球温暖化や北極圏の環境悪化などの影響を受け、個体数が減っていると見られています。

生息域と個体数

ホッキョクグマ

【学名】Ursus maritimus

【体重】オス:400-600kg(最大800kg)
      メス:200-350kg(妊娠時500kg)
【体長】オス:200-250cm
      メス:180-200cm

【個体数】約22,000頭
【生息地】北極圏

【レッドリストの評価】 VU(危急種)

生息エリアと総個体数(頭)
カラ海 不明
ラプテフ海 800-1200
チュクチ海 2000+
北極海 不明
バレンツ海 200-5000
グリーンランド東部 2000
1 ボーフォート海南部 1800 8 ケイン海盆 200
2 ボーフォート海北部 1200 9 ブーシア湾 900
3 クイーンエリザベス諸島 200 10 フォックス湾 2300
4 ビスカウント・メルビル海峡 230 11 ハドソン湾西部 1200
5 マクリントック海峡 350 12 ハドソン湾南部 1000
6 ランカスター海峡 1700 13 デービス海峡 1400
7 ノルウェイ湾 100 14 バフィン湾 2200

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ホッキョクグマのくらし

極寒の北極圏。ホッキョクグマは、その過酷な自然環境に適応してきました。ホッキョクグマたちのくらしは、北極圏の特殊な自然のサイクルと、深いかかわりをもっています。

暮らし

ホッキョクグマは陸生の動物ですが、実際には生涯のほとんどを氷で覆われた海の上で過ごします。泳ぎが得意で、何時間も氷の間を縫って泳ぐこともできます。

成長したホッキョクグマは主に捕らえた獲物の脂肪を食べますが、これは体に厚い皮下脂肪を貯え、厳しい寒さを耐えるため。特に、体脂肪の多いワモンアザラシの赤ちゃんは大事な栄養源で、アザラシの繁殖期である4月の終わりから7月半ばまでは、ホッキョクグマにとって、貴重な狩りのシーズンとなります。

氷上で休息する獲物をみつけると、ホッキョクグマはそっと海へ潜ります。そして、氷の縁などから獲物に近づいて相手を仕留めるのが得意な方法。アザラシの他にはセイウチやシロイルカ、魚や水鳥、そしてその卵なども捕食します。

夏、大陸沿岸の氷が解けはじめると流氷が多くなり、安定した定着氷域は狭まります。このため、ホッキョクグマは再び海が凍結する秋が来るまで、北極海沿岸部の陸地で暮らさなくてはなりませんが、この間、食料が少なくなるため断食のような状態が続きます。その期間はおよそ3~4ヵ月。妊娠中のメスは秋に巣ごもりして出産し、翌春まで外に出ないので、絶食が最長8ヵ月にも及ぶ場合があります。
この季節を乗り越えるために、ホッキョクグマは新陳代謝を低く押さえて体力を温存し、春の間にできるだけ多くの脂肪をとっておく必要があるのです。
 

繁殖

9月から10月頃、妊娠したホッキョクグマは深く降り積もった雪、もしくは氷や凍土を掘って出産のための巣を作り、出産に備えます。生まれる子グマはたいていの場合2匹。その重さと大きさは親の体格からすると驚くばかりに小さく、たった600gほどしかありません。子どもたちは翌年の春、外の厳しい環境に耐えられる大きさ(10kg前後)に育ってから、母親の後について初めて巣の外に出てくるのです。

母グマが子育てにかける期間は約2年半と言われます。この間に母グマが新たに妊娠することはないため、一度子どもを産んだメスのホッキョクグマは次に妊娠するまで最低でも3年ほど期間が空くことになります。また、生まれた子グマが繁殖可能になるまでには5~6年は必要ですので、もし何らかの原因で個体数が激減するようなことが起きれば、回復には長い期間を要するおそれがあります。

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北極圏の環境汚染

有害化学物質の吹き溜まり

一般に北極圏では、環境の厳しさゆえに人の活動も少なく、環境汚染とは縁がないと思われがちです。しかし、近年の調査によると、ホッキョクグマのすむいくつかの地域において、ホッキョクグマが高濃度の環境汚染物質にさらされていることが判明しています。

世界各地で発生するダイオキシン類や農薬などの「残留性有機汚染物質(POPs)」と呼ばれる有害な化学物質は、はるか遠くの発生源から北極圏へと集まってきます。

遠い熱帯地域で散布された農薬の大部分は土壌に留まることなく大気中に拡散し、気流に乗って北極圏に運ばれてきます。また、先進国の大都市や工場周辺から流れ込んだ河川の水も、海流と共に流されてきます。結果として、北極や南極といった極地は、汚染濃度が発生地域よりも高くなる場合が少なくありません。

また、海水に溶け込んだPOPsは、まず植物プランクトンの体内に入ります。するとそれを食する動物プランクトン、さらにそれを食べる小魚へと少しずつ濃縮されながら、内臓や脂肪へ蓄積されて受け渡されてゆきます。海水中にわずかな濃度で拡散していたPOPsは、食物連鎖を通じて徐々に生体濃縮を起こし、最終的に、アザラシやホッキョクグマなど生態系の上位にいる動物ほど、高濃度のPOPsにさらされることになります。

しかも、一度取り込まれたPOPsは、分解・代謝されないまま生物の体内に残留しつづけ、その子どもたちにまで汚染が引き継がれてゆきます。有害化学物質による環境汚染は、世代を超えた脅威なのです。

起こり始めた異常

ノルウェー領のスバールバル諸島には、毎年春になると、北アメリカ大陸やヨーロッパ大陸の上空を通過する風に乗って多くの有害化学物質が運ばれてきます。この地域のホッキョクグマの血液中から、高濃度のPCB(ポリ塩化ビフェニール)などが検出されました。
PCBは家電などにかつて使用されていた工業材料で、電気を通さない絶縁性に優れ、高熱でも分解しにくい物質です。油や有機溶媒にはよく溶け、生体の脂肪内に蓄積しやすい性質を持ちます。

スバールバル諸島のホッキョクグマは、繁殖に悪影響を受けていると見られ、体内での抗体生成を阻害されて病気への抵抗力が弱まっています。1991年から1994年の調査結果では、伝染性の病気に効果を発揮する免疫グロブリンGの値が著しく低下していることが判明しました。これはPOPsに汚染された母乳を通して母グマからPCBを受け取った、抵抗力の弱い仔グマの免疫をさらに低下させ、死亡率を増加させることにも繋がりかねません。

また、スバールバル諸島で調査したメスのホッキョクグマのうち約1.5%に生殖器の奇形が確認されました。これも、POPsによるホルモンのかく乱が原因だと見られています。すでに先進国を中心に多くの国では、特に有害な化学物質の使用が禁止されているものの、ロシア、東ヨーロッパ、アジアなどでは、未だに広範囲で使用されています。
この他にも、北極圏ではアザラシやホッキョクグマから高レベルの水銀やカドミウムなどが検出されているほか、核実験や原子力発電所の事故、核再処理施設からの放射能漏れが原因で、放射能レベルが上昇していることも大きな問題です。

また現在、各地で油田開発に伴う調査などが盛んに行われていますが、もし何らかの原因で原油が海洋にもれると、原油そのものが環境汚染を引き起こすばかりでなく、ホッキョクグマやその他の生物たちに深刻なダメージを与えます。
原油がホッキョクグマの体に付着すると、毛皮の断熱性が失われて体温を奪い、ホッキョクグマの体力を消耗させます。さらに、毛づくろいや、原油で汚染された食物の摂取を通して原油が体内に入ると、肝臓や腎臓が直接影響を被ることになります。
ロシア北西部に多く存在する原子炉や油田をはじめ、多くの船舶の航行など、北極圏の生態系を脅かす要素は枚挙に暇がありません。

これらの汚染はホッキョクグマやその他の野生動物だけの問題ではなく、この地域の、特に野生動物を捕獲して食べている人々にも同様に起きています。カナダ、デンマーク、グリーンランドなどの国々で構成されている北極域監視評価計画(AMAP)は、グリーンランドやカナダのイヌイットの集落は、世界一有害化学物質の危険にさらされていると警告しています。
北極圏での環境汚染を食い止めることは、今や地域の人々の健康を守るためにも不可欠なのです。

汚染を食い止めるために

これらの問題を解決するためには、国際的な取り組みが欠かせません。2001年5月、スウェーデンのストックホルムにて「残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約」が採択されました。これはDDT、PCB、ダイオキシンなど12種類の残留性有機汚染物質の生産・使用を禁じ、制限するものです。WWFも発効に向け活動を続けてきたこの条約は、2004年5月、効力をもつ(発効)ための条件である、世界50カ国の締結を満たし、発効しました。

WWFは北極圏の環境汚染についての調査を進める一方、有害化学物質問題に対する取り組みとして、ストックホルム条約の発効を目指し、国内外でさまざまな活動を行っています。

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ホッキョクグマの危機

地球温暖化の脅威

北極圏の氷は、地球温暖化によるとみられる気温上昇の影響を受け、春には解け出す時期が早まり、秋に再凍結するのが遅くなりつつあります。さらに、氷の厚さ自体も薄くなりました。

アメリカのGFDL(地理的流体動力研究所)は、このまま地球温暖化が進むと、2050年には北極圏の結氷範囲が1900年代の80%に減少すると予想しています。
また、もし大気中に放出される二酸化炭素の量が現在の2倍にまで上昇した場合、夏に解ける北極圏の氷の量は全体の約60%にものぼり、約5ヵ月もの間解けたままの状態が続くとの試算もあります。
こうした影響は、北極圏の中でも特に南部、ホッキョクグマの生息域の南限にあたるカナダのハドソン湾周辺で、すでに現れ始めています。

ホッキョクグマは、獲物の少ない季節でも生命が維持できるよう、食物の豊富な春に集中して獲物を捕らえ、体脂肪を貯えます。しかし、氷の解け出すのが早くなれば、それに合わせて氷原から陸地に移動しなければならなくなり、狩りのできる期間が縮まってしまいます。これは、貯えられる脂肪の量にも影響することが心配されます。
実際、カナダのハドソン湾では、ホッキョクグマが陸地に移動するのが1週間早まると、クマの体重が10kg軽くなり、それに伴って体力も落ちてしまうという調査結果が出ています。
さらに、1980年から1992年の間にハドソン湾で生まれた子グマの生存率はたったの44%。その原因は、食料不足や母乳に含まれる脂肪分の不足と見られています。

ホッキョクグマの繁殖の成否は、健康状態に大きく左右されます。氷の解けている期間がこのまま長期化してゆけば、ホッキョクグマの総個体数はどんどん減少するおそれがあります。
また、気温の上昇は、降水量の増加も招きます。雨は氷と雪でできた巣を壊し、ホッキョクグマやワモンアザラシなどの赤ちゃんから隠れ家を奪ってしまうのです。「北極圏の生態系に地球温暖化がどう影響しているかを調べるためには、北極圏の食物連鎖のトップに位置するホッキョクグマを調査するのが一番良いのです」と、ホッキョクグマの研究者であるイアン・ステアリング博士は述べています。

極北の自然を守る

ホッキョクグマを守るためには、氷の海だけでなく、その食料になるアザラシや他の生きものも守らなくてはなりません。
北極圏の環境変化、そして、有害化学物質による汚染。ホッキョクグマをはじめとする、極北の野生を脅かす問題は、今やきわめて深刻になりつつあります。
私たちがホッキョクグマを守ることは、北極圏の自然そのものを保全することにつながります。そして、そのことは、遠くはなれた場所の自然を守り、地球全体の自然を守ることでもあります。

WWFは現在、ノルウェーに「WWFアークティック・プログラム(北極圏保全プログラム)・オフィス」を設置し、国境を越えて広がる北極圏の自然を、特定の国の立場にとらわれず保全する取り組みを行っているほか、有害化学物質の排出削減や使用の規制、そして地球温暖化防止などの活動を行っています。
北極圏の問題は、決して北極だけの問題ではありません。地球全体を視野に入れた環境保全に取り組むWWFの活動を、あなたもぜひ応援してください。

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REFERENCES/LINKS

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