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SOKNOTにおけるアフリカゾウ保護 活動報告(~2023年12月)

この記事のポイント
広大なサバンナを中心とする景観が広がり、アフリカゾウやライオンなど多くの野生動物が息づくアフリカ東部。その主要なエリアである、SOKNOT(ケニア南部およびタンザニア北部)地域で、WWFジャパンは現在、WWFタンザニアが取り組むアフリカゾウの保護活動を支援しています。現地から届いた、2023年7月から12月までの取り組みと、その成果について報告します。
目次

SOKNOTの自然とその危機

国境を越えて広がるSOKNOT(ケニア南部およびタンザニア北部)地域は、ライオン、ヒョウ、リカオン、キリン、インパラ、サバンナシマウマ、ヌーなど、アフリカを代表する大型野生動物の生息地として知られています。

陸上最大の野生動物であるアフリカゾウにとっても、重要な生息地になっており、現在3万頭以上のアフリカゾウが、このSOKNOTにいると推定されています。

ここには、セレンゲティやマサイマラなど世界的に有名な国立公園や保護区が設けられていますが、一方で、保全対象となっていないエリアも広く、近年は貧困や開発の問題、さらには気候変動による干ばつなどの影響が、貴重な自然を脅かしています。

さらに増加する人口や開発の拡大に伴い、人と野生動物の間で生じる「あつれき」、すなわち遭遇事故などの衝突問題が深刻化しています。

ゾウによって作物が荒らされた農地。ゾウは奥に見える山地周辺の保護区からやってきます。
© J.Mima/WWF Japan

ゾウによって作物が荒らされた農地。ゾウは奥に見える山地周辺の保護区からやってきます。

タンザニアのアフリカゾウの急増

アフリカゾウについても、この「あつれき」の問題が、SOKNOTの各地で生じています。

SOKNOT東部に位置し、ケニアのツァボ国立公園と、国境を挟んでそれに隣接するタンザニアのムコマジ国立公園を中心としたエリアは、特にその課題が深刻な現場です。

このツァボ・ムコマジ地域に生息するアフリカゾウの推定個体数は、約1万5,000頭。そのうちの87%以上が、ツァボ国立公園に生息しています。

一方、タンザニアのムコマジ国立公園側では、その数が少なく、20世紀後半の個体数は約2,000頭あまりでした。

しかも、それが密猟などによって減少。2001年から2016 年までの間に確認されていたゾウの数は、わずか10~50頭ほどに過ぎませんでした。

しかし、その後の3年間で、ムコマジ国立公園周辺ではアフリカゾウの数が急増。

2019年のタンザニア野生生物研究所(TAWIRI)による調査報告によれば、ゾウの頭数が58頭から1,200頭に増えたことがわかりました。

この原因の一つと考えられるのが、ケニア側のツァボ国立公園内を横断する形で進められている、新しい鉄道路線の建設計画です。

これが、季節ごとに水や食物を求めて移動するアフリカゾウの行動に変化をもたらし、これまで生息数の少なかったムコマジ国立公園を含む他の地域に、ゾウを追いやった可能性が考えられているのです。

ツァボ・ムコマジ地域のアフリカゾウ。この一帯では、象牙を狙った密猟やその違法取引が抑えられてきたことで、近年その数が回復しつつあるとみられています。
© Juozas Cernius / WWF-UK

ツァボ・ムコマジ地域のアフリカゾウ。この一帯では、象牙を狙った密猟やその違法取引が抑えられてきたことで、近年その数が回復しつつあるとみられています。

ゾウと人間の「あつれき」が深刻化

タンザニア側でのアフリカゾウの急増は、同時にムコマジ周辺での人とゾウのあつれき、すなわち農作物の食害や家屋などの破壊、さらには人を死に至らしめる事故をも増加させました。

タンザニア天然資源省(MNRT)も、ムコマジをタンザニア国内で発生している、人とゾウのあつれき問題が最も深刻なエリアの一つに指定。

しかし、もともとゾウが少なく、こうした問題もほとんど起きなかった地域ですから、自治体も住民の人々も、実際に対応する手立てを十分に持っていません。

そこでWWFタンザニアでは、人とゾウのあつれきが生じている、ムコマジ周辺の6つの地域を対象に、問題の実情を明らかにしつつ、必要な対策を実施するプロジェクトを展開。

2021年からタンザニア政府および対象地域の6自治体とも協力し、問題の解消に努めながら、地域住民へのアフリカゾウ保護への理解の促進し、共存を実現する活動を開始しました。

この活動の主な目的は次のとおりです。

  • 人とゾウのあつれきの状況を把握・評価し、優先的に取り組むべき地域や対策を選定し開始する
  • 地域住民の課題理解を促進し、持続可能なあつれき緩和策を構築する
  • 自然資源の持続可能な利用の促進と生計向上、インフラ整備を促進させる

この活動は最終的に、タンザニアの保全活動を促進させるためのWWFタンザニアの活動全体の目標達成に貢献することにもなります。

地域コミュニティとの連携のもとで

2023年の後半、WWFタンザニアは次の活動を中心に取り組みを行ないました。

WWFジャパンを通じて日本から送られた寄付金も、その実施のため現地で活用され、特に以下の取り組みを行なうことができました。

人とゾウのあつれきが生じている集落の現状把握と分析

人とゾウの遭遇事故や農地への侵入など、実際のあつれきが生じているすべての集落をマッピングし、その深刻さのレベルの選定を行ないました。

そのために、2023年6月までにムコマジ国立公園周辺の6つの自治体、すなわちロンボ、ムワンガ、サメ、コログウェ、ルショト、ムキンガの自治体関係者を集めた、2日間にわたるワークショップを実施。

これを引き継ぐ形で、情報の収集と会議を継続しつつ、その結果の分析に取り組みました。

目的は主に次の3つです。

  • 人とゾウのあつれきが生じているすべての村、コミュニティの地図を作成する。
  • 地区ごとに、あつれきの深刻さを高、中、低にランク付けする。
  • 対象地域の過去5年間の傾向と生じた問題を分類し、見舞金の支給状況を把握する。

それぞれの地域があつれきを緩和するため、現在行なっている取り組みや計画を共有するこの試みは、相互の知見や課題を理解する重要な機会となっています。

ワークショップの様子。他地域の事例や対策について、参加者はいずれも高い関心を以て耳を傾けていました。
© R.Nishino / WWF Japan

ワークショップの様子。他地域の事例や対策について、参加者はいずれも高い関心を以て耳を傾けていました。

分析からは、次の状況が明らかになりました。

● 6つの自治体内でゾウとのあつれきが生じている集落:計124
● あつれきの深刻さのレベル別にみた124集落の内訳
 ・ 最も高い集落:計68
 ・ 中程度の集落:計20
 ・ 低程度の集落:計35
● 地域別に見た内訳(上位)
 ・ ムキンガ:33集落
 ・ サメ:29集落
 ・ コログウェ:27集落
 ・ ムワンガ:20集落
● ゾウとのあつれきの影響を受けている学校:58校
● 地域別に見た内訳
 ・ ムワンガ:21校
 ・ コログウェ:11校
 ・ ムキンガ:10校
 ・ サメ:7校
 ・ ルショト:7校
 ・ ロンボ:2校

こうした6自治体の現状と、明らかにされた過去5年間の傾向の情報を基に、優先すべき対応策について各自治体で検討を進めることができるようになります。

また、あつれきの被害を受けた、支援を必要とする地域住民に対する見舞金など補償が十分にいきわたっていない問題があることも明らかになりました。

今後は、中央政府側の対応策や、地方自治区行政との連携の在り方についても検討を進めていく必要があります。

ゾウとの遭遇を回避するための機材の調達

WWFの支援により、地域のコミュニティに対し、ゾウを追い払ったり、集落に近づけさせないための機材の調達を行ないました。

調達した主な機材は、ゾウが嫌う強力な光を出す大型の懐中電灯、円筒形の花火、爆竹、ブブゼラ(騒音を出す器具)など。

これらは、あつれきが多発している地域に適宜配布され、人とゾウの衝突を減らし、地域コミュニティのあつれきに対する耐性を高める一助として活用されます。

また、人間と野生動物のすみ分けと共存を実現し、最終的には農作物の被害の軽減と収穫の増加、それによるコミュニティの安全や生計の安定に貢献することが期待されています。

環境教育を通じた地域コミュニティの意識向上の支援

6つの自治体の中で、人とゾウのあつれきが深刻な3つの集落で、住民の方々を対象とした、普及啓発活動を行ないました。

参加者は3つの集落からそれぞれ106人、127人、56人の計289人(男性150人、女性139人)。

ゾウやあつれきについての知見を深め、この問題に対する正しい対応や、意識の向上を目指した取り組みです。

9月22日にはコログウェで、タンザニアの国としての記念日である、ゾウとサイの日の記念イベントも開催。

上記の3つの集落をはじめ、タンザニアの政府機関や、アフリカ野生生物基金(AWF)や、タンザニア・ゾウ基金(TEF)などの自然保護団体から、若者約60名を含む400名以上の参加者がありました。

9月22日の「ゾウとサイの日」に、コログウェで開催されたイベント。
© WWF Tanzania

9月22日の「ゾウとサイの日」に、コログウェで開催されたイベント。

このイベントはWWFやタンザニア政府機関のSNSでも発信され、約3,100万人に情報が届けられたほか、140枚のTシャツや、500枚のゾウのパンフレットなど、教育や広報にかかわるツールが、取り組みを広く知らせるために配布されました。

これらの配布は、地域コミュニティが人とゾウのあつれきに対する理解を深め、効果的な対策を知る上でも大きな役割を果たしました。

しかし、今回実施できたのは、数ある集落や地域コミュニティの中でも一部にとどまりました。より広く全域に取り組みを拡げるためには、資金や従事者、協力者などが不足しており、地域全体としての解決は、まだ道半ばです。

人とゾウのあつれきによる被害の緩和

ムコマジ国立公園周辺は、非常に乾燥した水が貴重な地域です。

そのため、水を求める保護区内から出てきたアフリカゾウが、周辺地域の集落に出没。時に、国立公園の境界から何十キロも離れた場所にも姿を見せることがあります。

嗅覚に優れたゾウが、人の住む家屋や貯水施設にある水のにおいを嗅ぎつけ、建物や設備を破壊してしまう被害も発生。

同じく水を必要とする、住民の暮らしを脅かす一因にもなっています。

ゾウが壊してしまった給水パイプ(左)と、学校の貯水設備。毎日の水のくみ出しは大変な作業でした。
© WWF Tanzania

ゾウが壊してしまった給水パイプ(左)と、学校の貯水設備。毎日の水のくみ出しは大変な作業でした。

WWFではこうした被害を軽減し、地域コミュニティを支援するため、貯水タンクや給水システムが破壊されたコミュニティに対し、まとまった量の水を貯蔵できるタンク16基(容量5,000リットルのタンク15基と容量1,000リットルのタンク1基)を提供。

また10の学校にも、雨水を貯水できるタンクと共に、雨どいや、配水用のパイプ、給水栓、水道管、灌漑設備やセメント袋、ブロックなどを配布しました。

これにより、2,951人の生徒と77人の教師、また学校に隣接する地域で暮らす約1,000人の住民を含む4,000人以上に、安全で安定した水の供給を行なうことができました。

こうした取り組みによって、十分な給水設備のなかったムワンガのパンガロ地区の学校では、以前は水汲みに多くの時間を費やしていた状況が大きく改善され、生徒も野生動物と遭遇する危険にさらされず、今では学校内で十分な水を使えるようになりました。

コログウェ地区のカラニニ小学校に設置された給水タンク。子どもたちも安全かつ安心な水を利用できるようになりました。
© WWF Tanzania

コログウェ地区のカラニニ小学校に設置された給水タンク。子どもたちも安全かつ安心な水を利用できるようになりました。

「あつれき」を解決し東アフリカの野生動物を守っていくために

WWFタンザニアでは、この他にも、密猟の防止や、保護区以外の地域での保全、国レベルでのゾウやサイの保護政策の促進に向けた働きかけ、地域の生計手段の多様化や天然資源がもたらす利益の公平な配分を通じた貧困への対策なども計画・実施しています。

一連のこうした取り組みの効果もあり、人とゾウの深刻なあつれきが多発しているにもかかわらず、ムコマジ周辺ではゾウに対し地域社会は寛容な対応を見せており、報復にアフリカゾウが殺されるなどの問題も、今のところほとんど報告されていません。

しかし、取り組みにはまだ多くの課題も残されています。

一つは人材と財源の不足です。
危険な野生動物であるゾウに、正しく対応できる経験豊かなレンジャーや、遭遇事故などが起きた時に対処ができる自治体の担当官の人材不足は、あつれきの問題を解決する上での大きな障害です。

また、財源の不足は、こうした人材の育成を阻むのみならず、地域コミュニティを対象とした活動に必要な機材や資料の不足にもつながり、活動の継続性を危うくする要因になっています。

現場ではまた、あつれきに対する危機感の欠如も、被害の報告の停滞や、対策の検討・評価に欠かせない情報の精度の低下につながっており、こうした課題を解消するための意識の向上も重要な課題です。

© WWF-UK

【解説】WWFのSOKNOTでの取り組みについて

アフリカ大陸東部のケニアおよびタンザニアの国境地帯「SOKNOT(Southern Kenya and Northern Tanzania)」は、アフリカゾウやライオン、キリンなどをはじめ、多くの野生生物が息づく、世界的にも貴重な自然が残るエリアです。

13万4,000平方キロ(北海道の1.5倍以上)の広さを誇る、このSOKNOTには、セレンゲティやマサイマラ、ンゴロンゴロなど、有名な自然保護区が存在し、その保全活動は国際的にも注目されています。

しかし、SOKNOTは広大な面積を持つため、保全活動が成功している地域は限られています。貧困や農業への被害、さらには人との衝突(あつれき)などの問題が、今も続いているのです。

そこでWWFケニアとWWFタンザニアでは、連携してSOKNOTの保全を目指すプロジェクトを展開。日本をはじめとする世界各国のWWF事務局もこれに協力しています。

このSOKNOTの取り組みは、国境を越えた観点から、この地域に集中する保護区をつなぎ合わせ、野生動物の移動を可能にした形で、地域の生態系を保全することを目指すものです。

SOKNOT全域図。赤:SOKNOT地域、緑:自然保護区、薄い緑:コミュニティの管理地域、オレンジ:狩猟管理区域。こうしたさまざまな形で管理されている土地と自然を、互いに連結し、一つの大きなつながりとして保全していくことが、SOKNOT全体での取り組みの目標です。

SOKNOT全域図。赤:SOKNOT地域、緑:自然保護区、薄い緑:コミュニティの管理地域、オレンジ:狩猟管理区域。こうしたさまざまな形で管理されている土地と自然を、互いに連結し、一つの大きなつながりとして保全していくことが、SOKNOT全体での取り組みの目標です。

SOKNOT生態系保全の目標

WWFはSOKNOT地域で、2025年までに次の4つの取り組みを展開しています。

1. 野生生物の保全:
優先種(ゾウ、サイ、ライオン、リカオン)や対象絶滅危惧種(キリン、チーター、センザンコウ)の個体数を安定、増加させること。対象地域の住民の生活向上を実現すること

2. 生息地の保全:
野生動物が行き来する地域、特に保護区と居住区に隣接した地域において、森林、草原、水資源の連続性と機能を維持すること。そのための持続可能な管理に取り組み、地域住民の利益を確保すること

3. コミュニティ支援:
活動の対象地域の住民が、持続可能で環境に配慮したビジネス(エコツーリズムなど)から、生計向上に繋がる利益を得られるようにすること

4. 国境を越えた保全政策:
タンザニアとケニアの政策や法的枠組みが整備され、2国間の協力体制が確立されること。またこれにより、国境を越えた取り組みの持続可能な管理が実現し、それが国際的組織によって支援されていること

そして、これらを実現する施策として、WWFでは次のような取り組みを実施しています。

● 人とのあつれき(HWC:Human-Wildlife Conflict)の軽減
● 密猟パトロールの支援
● 地域住民が主体となった土地管理と水資源利用の改善
● 環境配慮型・地域への利益が還元される観光/事業開発の促進
● 2国間の協力関係を構築するための政策立案 ほか

こうした取り組みを、WWFはSOKNOT内で大きく3つ選定した地域で、それぞれ行なっています。

1. マサイマラ-セレンゲティ地域
2. アンボセリ-キリマンジャロ地域
3. ツァボ-ムコマジ地域

WWFジャパンは、この中の「ツァボ-ムコマジ地域」で、WWFタンザニアが取り組む、人とアフリカゾウの共存に向けた活動を中心に、支援活動を展開しています。

この取り組みは、日本国内の支援者の皆さまより寄せられた、ご寄付によって支えられています。

WWFジャパンの「野生動物アドプト制度」について

WWFジャパンは、絶滅の危機にある野生動物と、その生息環境を保全する世界各地のプロジェクトを、日本の皆さまに個人スポンサー(里親)として継続的にご支援いただく「野生動物アドプト制度」を実施しています。
現在、支援対象となっているのは、アフリカ東部のアフリカゾウ、ヒマラヤ西部のユキヒョウ、南米アマゾンのジャガーの保護活動。今回ご報告した取り組みにも、ご参加いただいている皆さまより寄せられたご支援が活用されました。
この場をお借りして、心より御礼申し上げます。
また、この活動の輪を広げていくため、ご関心をお持ちくださった方はぜひ、個人スポンサーとしてご支援に参加いただきますよう、お願いいたします。

野生動物アドプト制度について詳しくはこちら

【寄付のお願い】アフリカゾウの未来のために|野生動物アドプト制度 アフリカゾウ・スポンサーズ

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