COP17閉幕 多国間の取組へ道筋は確保、実質削減には課題多く
2011/12/13
南アフリカ・ダーバンで2011年11月28日から開催されていた、第17回気候変動枠組締約国会合と第7回京都議定書締約国会合(COP17・COP/MOP7)は、12月11日、「ダーバン・パッケージ」を採択し、閉幕ました。多国間の枠組みの中で温暖化対策に取り組んでゆく道筋をなんとか確保したという意味において、その意義は大変に大きいものです。しかし、依然として、「2℃目標」を達成するために「必要な削減量」と「既に約束された削減量」の乖離(ギャップ)は大きいまま。このままでは、4℃の世界に突入してしまいます。国際プロセスの中で、多国間の枠組みを早期に成立させると共に、国内的に対策を進めていくことが重要です。
難航した交渉
当初から、今回の会議は「京都議定書の第2約束期間の設立」と「新しい枠組みへ向けた交渉プロセスの開始」という2つの政治的課題があり、難航が予想されました。(図1:会議における各国の立場 / 図2)
加えて、当初はすんなりと合意されることが期待されていたグリーン気候基金(GCF)の設立・運用化についても予想以上に時間がかかり、かつ、削減目標・行動のMRV(測定・報告・検証)の仕組み、REDD(森林減少・劣化から排出量削減)、資金、技術、新しいメカニズムの設立是非などの専門的分野の交渉も、これまでの作業の遅れが響いて時間がかかりました。
結果として、会議は最終日の12月9日の金曜日には終わらず、ダーバン・パッケージの合意が出たのは12月11日の日曜日の早朝でした。
これまでも最終日の議論が翌日までずれ込むことは半ば常態化していましたが、2日も延期になったのは初めてのことです。
「ダーバン・パッケージ」の合意
最後の2日間、総会が開かれるまでの間は、密室で閣僚級もしくはハイレベルの実務担当者の会議が、2~3ヶ所の密室に分かれて行なわれていました。しかし、漏れ伝わってくる情報を聞いても、一向に終結に向けての見通しが見えてきませんでした。
このため、一時期は本当に決裂が心配されました。
さらに、2000年にCOP6が決裂してCOP6再開会合が翌年(2001年)に開催された時のように、今回は一時会議を中断するのではないか、という話も一部では出ていました。
しかし、今回、合意を達成することができなければ、モメンタム(政治的な勢い)が失われてしまうという懸念は強く、会期を無理やりに延長するなか、なんとか下記4つの内容を主とするダーバン・パッケージが合意として成立しました。
京都議定書の第2約束期間の設立
1つ目は、京都議定書の第2約束期間の設立です。
今回の会議では、途上国は特にこれを重要な成果として期待していました。会議序盤には、アフリカ諸国を代表してコンゴが「アフリカを京都議定書の墓場とすることは許さない」と繰り返して、その重要さを強調していました。
この意味で、日本、ロシア、カナダが第2約束期間の設立を拒否していたことは、今回の会議に当初から大きな影を落としていたことになります。
途上国は、京都議定書を正式に改正することを求めていましたが、今回は第2約束期間の存続を正式に決定し、正式な数値目標の書き込みを伴う改正は2012年に持ち越されました。
それに加え、一部のルール改正(森林吸収源など)が決定されました。最後まで揉めたのは、約束期間の長さでした。2013~2017 年という5年間にするか、2013年~2020年という8年間にするかをめぐっては、現状の不充分な削減目標をより長い期間で固定化させたくない島嶼国や後発開発途上国(LDCs)がこだわりましたが、この点も2012年に持ち越されました。
ダーバン・プラットフォームの設立
2つ目は、「ダーバン・プラットフォーム」の設立です。
具体的には、新しい作業部会(AWG)を設立し、2015年までに新規枠組みに合意することを決めました。
新規枠組みが法的にどのような形をとるのかについては、最後まで議論がありました。法的な拘束力が強い文書を作ることにこだわったEU・島嶼国・LDCsなどが最後まで強い言葉にこだわりましたが、他方で、インドは「衡平性」の観点からこれは譲れないと主張して、激しく対立しました。
最終的には、「議定書、他の法的文書もしくは国連気候変動枠組条約の下で全ての締約国に適用される法的効力を持った合意」という言葉に落ち着き、合意がされました。
ただし、この枠組が効力を持ち、実施されるのは2020年以降とされており、それまでの期間は京都議定書以外に国際的に拘束力を持った枠組みがない状態が続いていしまうことになります。
グリーン気候基金(GCF)の本格設立と運営開始
3つ目は、グリーン気候基金(GCF)の本格的な設立と運用開始です。2010年のカンクン会議(COP16/CMP6)で、GCFの設立自体は決まっていたので、具体的にどのように理事会を開催し、運営をしていくのかなどを決めていくことが今回の課題でした。
カンクン会議以降、この基金の設計については移行委員会という名前の委員会で、通常の交渉とは別に議論されてきました。
その議論の段階では、うまくまとまりそうだったので、この設立・運用開始は、今回の会議の中でも最低限達成されるであろうという中身でした。
しかし、COP17前の最後の移行委員会会合において、アメリカやサウジアラビアが委員会としての提言に反対したため、今回のCOP17では議長国である南アフリカ自身が非公式な協議の場を持って調整をしました。
その結果、なんとか設立・運用化は決まり、2012年の遅くとも4月から理事会が開催される予定となりました。しかし、基金の肝心の中身である資金源については、今回は議論は大きく進展しませんでした。
カンクン合意の深化
4つ目は、カンクン合意で合意された内容の更なる深化です。
ここに含まれる内容は多岐にわたりますが、代表的なものとしては、各国がカンクン合意の中で自主的に掲載した目標へ向けての削減努力をチェックする仕組みとして、MRV(測定・報告・検証)制度を設立することができました。(図3を参照)
また、適応委員会の具体的な要件の設定、途上国支援のための2020年へ向けた長期資金を検討する作業計画の策定、新しい市場メカニズムの設立へ向けた作業の開始など、個別分野においても合意ができました。
中国の動向と、EU・小島嶼国連合(AOSIS)・後発開発途上国(LDCs)の共同宣言
第1週目が終わった頃に、「中国は2020年の後であれば法的拘束力を持った合意を受け入れると言い、その条件を示した」という話が報道や会議参加者の中で一斉に出始めました。
これまで、中国は自国が縛られることになるような法的形式を目指すことには慎重であったたため、「中国の態度が軟化したのか?」と話題になりました。
しかし、そうではないという話も出始め、中国の動向に、にわかに注目が集まりました。
その後、アメリカは「これまでと立場が変わったとは感じられない」としてこの中国の動向を大きな変化としては認めないコメントを出し、メッセージの出し方とそれに対するリアクションの中で、微妙な駆け引きが開始されました。
このように、第2週目に入り、大臣たちが現地入りした頃から、主要各国に少しずつ動きが見えてきました。
中でも、今回の会議を振り返った際にインパクトが大きかったのは、EU・AOSIS・LDCsによる共同宣言でした。
これらの国々は、「京都議定書の第2約束期間のための改正に合意すると共に、法的拘束力を持った文書へ向けての堅実なマンデート/ロードマップに合意することが重要だ」とする宣言を終盤に発表しました。
このEUと、そして気候変動に脆弱な国々の連合が、最後に中国・インド、そしてアメリカといった主要国たちとの中で合意達成をするにあたって重要な役割を果たしたことは疑いがありません。
最後の総会において、ベネズエラが「EUが掲げている目標は、域内の法律で既に決定がされているものであり、削減水準になんの変化もないではないか」とEUを批判した時には、AOSISを代表するグレナダや、パプアニューギニア、コロンビアなどの代表が「EUは、そうしない国々がいる中で、第2約束期間にコミットするといったグループではないか。意見の違いはあるが、彼らだけを責めるのはフェアではない」と擁護したのは印象的なシーンでした。
依然として残る「野心の乖離(ギャップ)」
かくして、「ダーバン・パッケージ」はなんとか無事にまとまりました。
多国間の枠組みの中で気候変動対策を推進していく道を、なんとかつなぎ止めたという意味において、今回の合意の意義は大きいと言えます。
特に、国連プロセスそのものに対する期待感が薄れてきてしまっている中で、合意ができたことの意義は大きいといえるでしょう。
しかし、今回の合意は、今後の交渉の枠組みを保つためのプロセスはなんとか維持しましたが、実際の排出量削減などの中身については、不充分さが残っています。
会議序盤に発表されたUNEP(国連環境計画)による報告書(Bridging the Emission Gap)では、2020年の段階で「必要とされる削減量」と「現在宣言されている約束の削減量」の間には、60~110億トン(CO2換算)乖離(ギャップ)があるという試算が出されました。
日本の年間の総排出量が13億トンであることを考えると、この乖離の規模がいかに深刻か、よくわかります。
この深刻な「野心の乖離」をどのように埋めていくのかが、今後の国際的プロセスおよび各国努力の大きな課題となるでしょう。でなければ、世界は3~4℃の気温上昇の世界に突入してしまいます。
日本の立場
特に、日本のように、第2約束期間を拒否したことによって、事実上、2013年以降からは、正式な、強制力を持つ国際約束を持たない状態に入る国々が何をするのかは、大きな責任があります。
日本、カナダ、ロシアに加え、アメリカも、2020年からの新しい枠組みの実施まで、目標は自主的な位置づけのままになってしまいます。これをなんとか強化していくことが国際的なプロセスの中では必要です。
また、今回の最終的な合意を作る、極めて難しい過程において、日本の影は極めて薄かったのも事実です。途上国が重視する第2約束期間を拒否しつつも、日本自身がきちんと2013年以降も削減を行なっていくための確証となるものも持っていかず、資金支援の議論にも積極的でなかったため、残念ながら、交渉の中で重要な役割を演じることはできませんでした。
「ダーバン・プラットフォーム」の中身など、結果だけを見れば、日本政府が「求める」と言っていたものの多くが入っています。
しかし、それを以て多国間交渉の中でなんとか成立さえるために貢献したとは、到底いうことはできません。
この事実は、今後、これからの交渉に大きな影を落とすことになると予想されます。
せめて、国内的な対策整備によって削減をしていく意志を国際的にも見せるためにも、25%削減目標を堅持し、地球温暖化対策基本法を設立させるとともに政策的担保(例:排出量取引制度の導入)を整えていくことが必要です。
同時に、エネルギー政策の見直しの中で、自然エネルギー・省エネルギーについての野心的な目標を設定し、固定価格買取制度を意義あるものにしていくことが必要です。責任を果たしていくことが重要です。
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