どうなる?太平洋クロマグロの危機 福岡で国際会議(2013年)はじまる


日本で多く消費される刺身マグロの主要な漁場、中西部太平洋で今、クロマグロ(本まぐろ)激減が指摘されています。その中で、2013年9月2日から福岡で中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の、第9回目となる北小委員会の会議が始まりました。ここでは、特に北部海域でのマグロ資源問題が話し合われますが、今後の中西部太平洋のクロマグロの未来を左右する会議としても注目されます。

太平洋クロマグロ、過去最低の水準に

今、マグロ類の過剰な漁獲が世界的な問題になっています。
その中でも、最も危機の度合いが高い例の一つが、日本近海を含む、太平洋のクロマグロ(本まぐろ)です。

2013年7月に、北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)が発表した報告によれば、この太平洋のクロマグロ資源の状況は「過去最低の水準」。

かつて(漁業が始まる前)の資源量のわずか「2~6%」まで悪化していることが指摘されました。これは、近年乱獲による資源の減少が指摘されてきた、地中海を含む東部大西洋のクロマグロよりも、はるかに悪い状況です。

さらに、科学委員会は、マグロの子供の数についても、2011年、2012年は低調の可能性が高く、現状のまま漁獲を続ければ、最低水準をさらに下回る危険性が高いことも指摘しました。

これは、中西部太平洋の海の生態系に、深刻な影響が及んでいることを示すものであると同時に、消費している刺身マグロの実に40%をこの海域からの供給に頼っている日本にも、直接かかわりのある大きな問題です。

福岡でWCPFC北小委員会会議はじまる

この資源問題を解決するためには、最大の消費国である日本をはじめ、メキシコ、韓国、台湾といった、この海域でマグロの漁獲を行なっている、25にのぼるすべての国や地域が、適切なマグロ資源の管理に取り組む必要があります。

これらの国々は、中西部太平洋のマグロ資源の保全と利用を目的とした国際機関WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)に参加しており、毎年末に開かれる年次総会で、漁獲量や資源管理の在り方を取り決めてきました。

しかし、ここで交わされてきた各国代表による合意と、それぞれの国や地域で取り組まれてきた漁業管理の在り方が、決して十分なものではなかったことは、太平洋クロマグロ資源の現状を見れば明らかです。

2013年9月2日から5日まで、福岡でWCPFCの「北小委員会」の会合が始まりました。この会合は、特に北部海域のマグロ資源問題を検討する会議ですが、ここでの各国政府代表による決定は、2013年12月のWCPFC全体の年次会合の結果にも、大きな影響を及ぼします。

7月の科学委員会の報告を受け、今回初めて開催される、福岡でのWCPFC北小委員会の会合が、太平洋クロマグロ資源に対し、どのような管理方策が採択するのか。

太平洋クロマグロの「持続可能な利用」に向けた大きな転機として、その行方と、積極的な合意に大きな注目が集まっています。

世界の海のマグロ類の資源管理にかかわる国際機関。海域や魚種によって管轄が異なる。
くわしく見る

クロマグロとメバチ

WWFの取り組みとWCPFCに対する要望

民間団体であるWWFは、政府間で行なわれるWCPFCの会合に、オブザーバーとして参加することが認められており、これまで、マグロ、カジキ類の科学的・予防的な保全管理の推進について提言を行なっていきました。

今回の福岡での会合についても、WWFはオブザーバーの立場で参加し、マグロ資源が減少・枯渇する前に、早急に保全管理を行なわれるよう、科学的根拠に基づいた以下の要求を、WCPFCおよび北小委員会に対して行なう予定です。

  • 太平洋クロマグロの長期的な資源回復計画、限界/目標管理基準値およびに漁獲制御規則を採用するよう働きかけること。
  • 改訂されるCMM-2012-06から現行のすべての適用除外を削除すること
  • クロマグロ幼魚の漁獲を確実に低減するため、北太平洋海域の巻き網漁業に対する漁獲制限(科学的根拠に基づき、客観的に認知可能なもの)を設けること
  • クロマグロ蓄養における適切なアセスメント(環境影響評価)のため、追加の調査・分析を実施すること
  • 太平洋クロマグロにおける漁獲証明制度の実施と、トレーサービリティーの確立。太平洋クロマグロの漁獲活動のモニタリングと管理強化

また、太平洋クロマグロ以外にも、北太平洋のビンナガ、ヨシキリザメについても、適切な資源管理が行なわれるよう、働きかけていきます。

会議の結果について(2013年9月5日)

2013年9月5日、福岡で開催されていた中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の、第9回目となる北小委員会の会議が閉幕しました。注目された太平洋クロマグロの資源管理については、2014年以降の資源回復計画採択に向けた作業計画の合意と2014年の暫定的措置として、一部の適用除外を廃止することや、暫定的に幼魚の漁獲を15%削減することなどが採択されたものの、中長期的視野に基づいた回復計画策定の検討は次回会合に持ちこされ、実効性ある管理措置の採択にはいたりませんでした。WWFはこうした状況のなか、太平洋クロマグロの漁獲が現状のまま継続されることに強い懸念を抱いています。


記者発表資料 2013年9月5日

第9回 WCPFC北小委員会閉幕 WWF、太平洋クロマグロ資源の持続可能な利用のゆくえに強い懸念

【福岡発】2013年9月5日、福岡で開催されていた中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の、第9回目となる北小委員会の会議が閉幕しました。注目された太平洋クロマグロの資源管理については、2014年以降の資源回復計画採択に向けた作業計画の合意と2014年の暫定的措置として、一部の適用除外を廃止することや、暫定的に幼魚の漁獲を15%削減することなどが採択されたものの、中長期的視野に基づいた回復計画策定の検討は次回会合に持ちこされ、実効性ある管理措置の採択にはいたりませんでした。WWFはこうした状況のなか、太平洋クロマグロの漁獲が現状のまま継続されることに強い懸念を抱いています。

2013年7月に、北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)が発表した報告によれば、この太平洋のクロマグロ資源の状況は「過去最低の水準」。かつて(漁業が始まる前)の資源量のわずか「2~6%」まで悪化していることが指摘されました。さらに、科学委員会は、マグロの子どもの数についても、2011年、2012年は低調の可能性が高いとしており、中長期的な資源回復計画と管理戦略がないなかで、現状のまま漁獲を続ければ、今の最低水準をさらに下回る危険性がきわめて高いといえます。

本会合では、各加盟国や協力機関を含めたすべての出席者が、この危機的状況をあらためて共通認識とし、2014年に中長期的かつ包括的な太平洋クロマグロの資源回復計画の立案と採択を目指すこと、またその根拠となる科学的情報の収集などを含めた作業計画が合意されました。しかし、包括的かつ戦略的な資源回復計画の立案と導入は、次回会合以降に持ちこされ、2014年漁期については現行措置の改訂にとどまりました。これについて、WWFジャパン水産プロジェクトリーダーの山内愛子は、「管理基準値の検討や目標を設定したうえでの回復計画の導入について作業計画が合意されたことは進捗といえるが、太平洋クロマグロ資源の現状をみれば、北小委員会は予防的かつ緊急的な対応を検討すべきであった。また回復計画の策定についても、より迅速で予防原則に従った対応を望んでいる」と述べています。

北小委員会で交わされてきた各国代表による合意と、それぞれの国や地域で取り組まれてきた管理の在り方が、決して十分なものではなかったことは、太平洋クロマグロ資源の現状をみれば明らかです。しかし、WWFが過去一貫して求めてきた管理措置の「適用除外」の撤廃については、日本の零細漁業を管理の枠組みに参加させることで進展があったものの、巻き網漁業によってクロマグロの漁獲実績がある韓国は、適用除外の継続を要望し、本会合での合意に達しませんでした。この資源を回復させるためには、最大の漁業国である日本はじめ、韓国、台湾またIATTC(全米熱帯マグロ類委員会)といった、太平洋クロマグロの漁獲に関わるすべての国や地域が、適切なマグロ資源の管理に一丸となって取り組む必要があります。

そのため、「WWFは12月のWCPFC本会合までに、すべての太平洋クロマグロ漁業を管理措置の適用対象とすることを、北小委員会に強く求める」と山内は述べています。また、太平洋クロマグロの約80%を消費する日本のマーケットに対しても、「太平洋クロマグロは過剰漁獲状態にあり、資源の枯渇がもっとも心配されるマグロ類のひとつとなった。国際的な資源管理体制が不十分であるなかで、さらに負荷を与えるような消費を、我々は見直す必要がある」と指摘しています。

さらに山内は、「特に30kg以下のクロマグロ漁獲の削減が科学委員会から厳しく求められているなかで、流通関係者がこれまで通りクロマグロ幼魚(メジマグロ、ヨコワ)の調達をつづけ、大きな需要を生み出すことに、WWFは強い懸念を持っている」とし、太平洋クロマグロの持続可能な利用に流通関係者、消費者の協力を求めています。

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