太平洋クロマグロの運命が決まる?混迷のIATTC会合


東部太平洋のマグロの資源管理にについて話し合うIATTC(全米熱帯マグロ類委員会)の臨時会合が、2014年10月26日、アメリカのカリフォルニア州ラホヤで始まります。前回、7月のリマ会合では、太平洋クロマグロ(本まぐろ)の漁獲枠削減と保全措置について、各国は合意に至らず議論は決裂。依然として、危機的な資源レベルにある太平洋クロマグロの運命は、今回再びラホヤで行なわれる話し合いの結果に、委ねられています。WWFはIATTC加盟各国に対し、科学的勧告に従い、年間の漁獲枠を現在の5,000トンから2,750トンに削減することを強く要望しています。(2014年11月2日 会議報告を追記)

危機にある太平洋クロマグロの未来

水産資源として利用される海の魚は、適切な資源管理をすれば、ずっと利用することができます。適切な管理とは、資源を持続可能なレベルで維持するため科学的知見に従って漁獲量や、獲ってよい魚の大きさや時期を決めるものです。

資源の枯渇が懸念されているマグロ類についても、この持続可能な利用に向けた「適切な管理」が今、世界的に求められており、そのための国際的な合意や決定が注目されています。

そうした場の一つである、IATTC(全米熱帯マグロ類委員会)は、太平洋東部のマグロ類の資源管理を管轄する国際機関で、21の国や地域とEUが加盟。日本もその中に含まれています。

とりわけ太平洋クロマグロは近年、深刻な資源の危機にさらされており、IATTCが知見の拠り所とする科学委員会(ISC)も、すでに太平洋クロマグロの産卵可能な親魚が、かつての4%しか残っていないことを指摘。

また、漁獲されている総量の約90%が、未成魚で占められており、資源回復がきわめて困難な状況であることを警告してきました。

しかし、2014年7月にペルーのリマで開催されたIATTC会合では、この太平洋クロマグロの保全のため提議されていた漁獲枠の削減と、保全のための措置についての合意が成立せず、会議は決裂。加盟各国は、太平洋クロマグロの未来に向けた十分な施策を、採択することができませんでした。

マグロ資源管理にかかわる世界の国際機関。
海域や魚種によって管轄が異なる。くわしく見る

 

メキシコで養殖(蓄養)される太平洋クロマグロ。
マグロは卵から育てる完全養殖がまだほとんど普及しておらず、未成魚をつかまえて生け簀で育てる「蓄養」と呼ばれる養殖が一般的に広く行なわれている。この方法は結局、自然の資源に依存するため、現状で養殖マグロを増やしても、天然資源の保護にはつながらない。

IATTC加盟各国は大幅な漁獲枠の削減を

WWFはこれまでIATTC加盟国に対し、ISCによる科学的な勧告に従い、年間漁獲枠を現在の5,000トンから2,750トンに削減すること、そして少なくとも未成魚の漁獲を50%削減させることなどの必要を、強く要望してきました。

その根拠となる懸念について、WWFの国際漁業プログラム東部太平洋コーディネーターであるパブロ・ギレロは、次のように述べています。

「現在、太平洋クロマグロは、ただ一つの群れで繁殖を行なっている可能性が指摘されています。太平洋クロマグロ全体のライフサイクルが、急激に断ち切られようとしているのです」

「私たちは海の生態系や、社会的な観点からはもちろんのこと、経済的にも重要なこのマグロ資源の回復の現状について、深く憂慮しています」

今回、2014年10月26日~11月1日まで、アメリカのカリフォルニア州ラホヤで開催されるIATTC会合の場で、漁業国が大幅な漁獲枠削減に合意するかどうか。その結末が、太平洋クロマグロの運命を大きく左右するものとなることは、ほぼ間違いありません。

また、この結果は、12月に開催されるWCPFC (中西部太平洋マグロ類委員会)の会合にも大きな影響を及ぼすことになると注目されていることから、WWFジャパン水産担当の山内愛子は、「IATTCで科学的勧告に従った合意に再び失敗した場合、消費国として日本はどういった対応をするのか、世界の注目を浴びることになる」と指摘しています。

日本が全体の70%を消費している太平洋クロマグロ。

その資源の保全と、海洋の生態系にも配慮した「持続可能な管理」につながる措置が実現するかどうかは、主要生産国をはじめとする各国の政治的な意思と決定に委ねられています。

参考情報:IATTC加盟国・地域(2014年10月現在)

ベリーズ、カナダ、中国、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、エルサルバドル、EU、フランス、グァテマラ、日本、キリバス、韓国、メキシコ、ニカラグア、パナマ、ペルー、台湾、アメリカ合衆国、バヌアツ、べネズエラ


【2014年11月2日 追記】

IATTC臨時会合終了 太平洋クロマグロの漁獲半減に合意

アメリカのカリフォルニア州ラホヤで開かれていた、東部太平洋のマグロの資源管理を話し合うIATTC(全米熱帯マグロ類委員会)の臨時会合が、2014年11月1日、閉幕しました。この海域でマグロを漁獲している参加各国の政府代表は今回、IATTC科学委員会が勧告していた、資源保護のための漁獲量の削減を大筋で受け入れ、貴重かつ危機に直面する太平洋クロマグロの漁獲を、約4割削減することに合意しました。

太平洋クロマグロの漁獲量は年間約3,300トンに

こ今回開かれたIATTCの臨時会合で、各国は2015年、2016年の2年間に、太平洋クロマグロ(本まぐろ)の漁獲量を6,600トン(一年間で平均3,300トン)とすることに、合意しました。

これは、IATTCの事務局が科学的知見に基づいて、各国に勧告していた「従来の漁獲量を45%削減し、年間漁獲枠を3154トンとするべき」という、内容にほぼ近いものです。

また、2015年の漁獲が3,500トンを超えないことと、懸案であった漁獲証明制度の確立にも合意。

WWFはこれらの内容について、太平洋クロマグロが現在の深刻な危機を脱する上では、まだ不十分であるものの、合意が決裂した前回の会合からは、確かな前進を見た内容と評価しました。

WWFの国際漁業プログラム東部太平洋コーディネーターであるパブロ・ギレロは、今回の会合の進展と、その結果について、次のように述べています。

「メキシコ、日本そしてアメリカが、科学委員会の勧告に従うよう努力し、漁獲枠の削減に合意したことを嬉しく思います。

太平洋クロマグロは、産卵可能な親魚が、かつての4%しか残されていないこと、そして、漁獲量の実に9割が未成魚で占められていることが指摘されてきました。そのように状態に置かれている太平洋クロマグロが生き残るには、この決断は不可欠でした」

WCPFCに引き継がれる課題

さらに、今回の参加国が下した合意は、2014年12月にサモアで開催が予定されている、太平洋中西部のクロマグロについて話し合う、WCPFC(中西部太平洋マグロ類委員会)の年次会合にも、よい影響を及ぼすことが期待されます。

この中西部太平洋のクロマグロについては、現在WCPFCの北小委員会が、同じく漁獲を半減させることを勧告する決議案を出しており、その合意に注目が集まっているためです。

しかし、逆に考えれば、このサモアでのWCPFC会合で、漁獲半減の合意が実現しなければ、太平洋東部で保護した魚群が、中西部で失われることになるため、太平洋クロマグロは救われません。

WWFはWCPFCの加盟国に対し、太平洋クロマグロの漁獲削減について合意を求めてゆくとともに、IATTCに対しても、資源回復のために設定された限界値に漁獲量が迫った際、迅速に発動することが可能な漁獲制限規制を含めた、長期的な回復計画の採択を、引き続き強く働きかけていきます。

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