吉野川河口への環境影響は?「第四の橋」に対する懸念


総延長194キロ、3,750平方キロにおよぶ流域面積を持つ、四国第一の大河、吉野川。その広大な干潟を含む河口域は、環境省によって「日本の重要湿地500」に選ばれ、渡り鳥をはじめとする、さまざまな野生生物の重要な生息地となっています。しかし、2012年4月に開通した阿波しらさぎ大橋をはじめ、近年、河口域では大型の公共事業が相次いで進められ、自然環境、特にシギ・チドリ類の生息について、影響が懸念されています。地元で活動する「とくしま自然観察の会」では、その影響評価に関する考察を発表。再評価と計画の見直しを強く求めています。

吉野川河口とその開発

四国全体の約20%におよぶ流域面積を持つ吉野川は、多くの生き物と人々の暮らしを支えている、日本を代表する河川のひとつです。

満潮時には河口から遡ること14.5kmの付近まで海水が入り込み、海水と淡水が混ざった広大な汽水域が見られ、その豊かな水系が豊かな生物の多様性を育んでいます。

特に河口部は川幅が1.3kmにも及び、そこに広がる干潟には、春と秋に多いシギ・チドリ類を中心とした渡り鳥が、食物となるゴカイや貝、カニなどの底生生物を目当てに飛来し、栄養補給をする光景が見られます。

シベリアと東南アジア、オーストラリアを往復するシギ・チドリ類にとって、その中継地にあたる吉野川河口干潟は、生存のために重要な生息地です。

しかし1990年代初め、高まる交通需要を満たし、利便性を高めるため、徳島県は新たに「阿波しらさぎ大橋」(計画時の呼称は東環状大橋)の建設計画を発表。

すでにかかっていた吉野川橋と吉野川大橋の2本に加え、第3の橋が、海から上流へ向かって4キロの間に建設されることになりました。

しかし、1994年に実際のルートが公表されると、徳島市の「とくしま自然観察の会」など地元の自然保護団体から、この大橋の建設が吉野川河口の環境に与える影響が大きく、鳥類をはじめとする生物の生息に好ましくないという懸念の声が上がりました。

WWFジャパンや日本自然保護協会、日本野鳥の会なども、要望書や意見書を提出。また、バブル崩壊後、本当に必要かどうかが疑問視される道路建設計画が多い中で、その必要性が問われることになりました。

広い川幅を持つ吉野川の流れ

河口から約10キロの地点。ここまで潮が入ってくる

河口に広がるアシ原と干潟

「阿波しらさぎ大橋」の建設とその影響

そうした懸念の声にもかかわらず、阿波しらさぎ大橋は、2003年12月に河口部から1.8キロの地点で着工され、2012年4月に開通します。

ただし、自然保護団体の指摘を受けて、吉野川を管理する国土交通省が、河川法に基づき、事後調査を条件づけたことで、徳島県は橋の建設が干潟の鳥類や底生生物、魚類、昆虫、植物、地形の変化などに、どのような影響を及ぼすかを調べる、「徳島東環状線阿波しらさぎ大橋環境モニタリング調査」の実施を約束。

環境アセスメントの対象外である公共事業としては異例となるモニタリング調査が、11年間にわたり実施されてきました。

そして徳島県は、平成24年度までの調査結果として、「橋の建設による環境への影響は軽微である」と発表しました。

しかし、とくしま自然観察の会は、その調査結果を詳細に分析した上で「影響は認められる」との見解をまとめました。

この分析では、干潟は4つのエリアに分けられ、シギ・チドリ類の飛来数と移動状況を検証。

2012年4月に開通した阿波しらさぎ大橋

吉野川河口干潟で休むシギ・チドリ類の渡り鳥

干潟の住人、ハクセンシオマネキ

河口干潟を4つのエリアに区切って、環境への影響を評価

その結果、橋よりも下流に位置する干潟のエリアでは、橋の建設前後で飛来数に差がなかったものの、橋の上流域に位置する干潟のエリアでは、シギ・チドリ類の飛来数が、橋の建設後、統計的に有意に減少していることが分かりました。

また、徳島県のモニタリング調査では、橋およびその建設ルートの上空を通過する鳥類の飛行高度が、「0~10m」、「10~15m」、「15~20m」、「20m以上」の4段階で計測されています。

このデータを自然保護団体が分析すると、0~10mの高度を利用するシギ・チドリ類が減少していることが分かりました。

また、徳島県の調査では、底生生物の生息には影響がないとされており、上流域の採食環境が悪化したわけではありません。

つまり、これらの分析結果から、橋の建設が、河口部の下流域から上流域へ移動するシギ・チドリ類の移動を妨げていることが推定されたのです。

阿波しらさぎ橋の建設前後でのシギ・チドリ類の干潟の利用個体数の変化 (エリア4で個体数が有意に減少している)

春秋の渡り鳥キアシシギ

さらなる開発事業への懸念

こうした調査結果の詳細な分析と、環境影響についての適切な指摘は、今後建設が計画される、ほかの橋の工事にも関係するため、非常に重要です。

そして事実、すでに架けられた3本の橋のさらに下流で今、第四の橋の建設が計画されています。

この「四国横断自動車道吉野川渡河部」と呼ばれる建設計画は、まさに吉野川が海と出会うその場所に、四国横断自動車道の高速道路を作るというもの。

しかも計画は、阿波しらさぎ大橋の環境影響が「軽微であった」という、徳島県が示した調査結果を根拠に、環境への影響が少ないと予測されています。

そこで、とくしま自然観察の会は、「阿波しらさぎ大橋建設に伴うシギ・チドリ類の生息場所選択への影響評価に関する考察」と題するレポートをまとめ、四国横断自動車道の事業主体であるNEXCO西日本に提出。

2014年12月15日に開催された「第4回 四国横断自動車道 吉野川渡河部の環境保全に関する環境部会」でも、同会の井口利枝子代表が、その内容を発表しました。

阿波しらさぎ大橋の建設だけでもシギ・チドリ類の移動が妨げられている可能性が示唆されたことを考えれば、新たな計画が、状況をより悪化させる心配があると井口代表は指摘しています。

2014年2月、NPO法人ラムサール・ネットワーク日本、WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会は4団体連名でNEXCO西日本に意見書を提出。

人口の減少に伴う交通量の変化や、吉野川河口で他にも実施されている、マリンピア沖州の埋め立て、人工海浜造成事業などと併せた複合的な影響を考慮し、新たな橋の建設計画の見直しを要望しました。

また、世界に誇る生物多様性を保つ干潟があり、ゆったりと流れる吉野川が豊かな景観を作り出し、地元住民に長く愛されてきた吉野川に、これ以上の道路、橋その他の事業を実施するには、地元住民の方々の納得がいくような説明が求められるでしょう。

今回、とくしま自然観察の会が、徳島県の調査結果で見逃されていた環境への影響を指摘し、その可能性があることが分かった以上、吉野川渡河部の事業計画は、慎重に再検討される必要があります。

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