動画で振り返るシベリアトラ保護の歴史


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

ロシア沿海地方とハバロフスク地方南部を中心に現在500頭ほどが生息しているシベリアトラ。これまでの歴史の中で幾度となく、個体数の減少と、保護のための活動が繰り返されてきました。シベリアトラはどのようにその数を減らし、また守られてきたのか。WWFロシアをはじめとするNGO(民間団体)や、国立公園の関係者たちが取り組んできた、その活動の軌跡を振り返る映像をご紹介します。

  • ※日本語字幕がご覧いただけます。画面右下の字幕ボタン(時計マークの右)をオンにしてご覧ください。

シベリアトラ最大の危機

極東ロシアから中国、北朝鮮の国境地帯にかけて分布するシベリアトラ(アムールトラ)は、8つの亜種が知られるトラの中で、最北に生息する亜種です。

寒さに適応した見事な毛皮と、トラの亜種では最大の体躯を持ち、まさに北東アジアの森の王者として、生態系の頂点に君臨してきました。

しかし、シベリアトラは現代にいたるまで、さまざまな人の行為よって、個体数を減少させてきました。

人の世界が広がるにつれ、その生息域は徐々に狭められてきましたが、1800年代初め頃までは、シベリアトラはまだ朝鮮半島から中国東北部にわたる広い範囲に生息していたとみられています。

しかし、19世紀末から20世紀初頭、シベリアトラにとって最初で最大の悲劇が起きました。

性能のよい銃が普及し始めた一方で、狩猟に関する規制が全くなかった当時、トラは集中的に狩猟の対象とされるようになったのです。

この時代、毎年60~100頭が殺されたともいわれ、その結果、シベリアトラは激減。

ソ連時代の1940年代には、個体数がわずか40頭程度確認されるのみとなり、まさに絶滅の淵にまで追い込まれました。

こうした現状を受けて、保護活動が始められました。 1947年、シベリアトラの狩猟を禁止する法律が新たに制定されます。密猟は厳しく取り締まられ、個体数は1960年中頃までに100頭近くまで回復しました。

トラの保護意識向上をめざす「トラの日」のパレードの様子

繰り返される悲劇と保護活動

個体数の回復に伴い、生息域も徐々に拡大。 1980年代には、ロシア沿海地方南部から北部にまたがるシホテアリニ山脈を中心とする幅広いエリアに、約400頭前後が生息するまでになりました。

しかし、1980年代後半、再び悲劇がシベリアトラを襲いました。 主食であるシカなどの大型草食動物が、病気の蔓延と大雪により大幅に減少。食物を求めて人里に現れるようになったトラが、50頭近くも駆除されました。

さらに、1990年のソ連崩壊と共に始まった混乱の中で、ロシアでは再び、シベリアトラに銃口が向けられるようになりました。

財政難などのあおりを受け、管理や取り締まりの行き届かなくなった保護区や森林で、密猟が横行し始めたのです。

1994年、国がもはや保護の取り組みを担いきれない厳しい状況の中で、WWFはシベリアトラの保護プロジェクトを開始。当局の活動を技術面、資金面から強く支援し、多くの密猟者の拘束に貢献しました。

この結果、密猟は再び減少。シベリアトラの個体数にも、回復の兆しが見え始めました。しかし一方で、別の問題も年々深刻化していました。生息地である森林の環境破壊です。

新たな脅威と未来への取り組み

大規模な商業伐採による森林の劣化、そして減少は、21世紀の極東ロシアにおける、最も深刻な環境問題の一つといっても過言ではないでしょう。

当然ながら、この問題は森の生態系の頂点に立つシベリアトラの生存にも、大きく影響を及ぼします。

たとえば、商業価値の高い樹種の一つである、チョウセンゴヨウ(ベニマツ)の伐採。 このマツは毎年、大量の松の実をつけ、それが草食動物の貴重な食物になっています。まさに、極東ロシアの動物相を支える植物であり、これが選択的に伐採されることは、森の生態系にも深刻な打撃となります。

WWFでは、こうした問題に対処するため、政府や地元のNGOとも協力しながら、森の保全活動を推進。違法伐採や違法材の取引を取り締まる取り組みに携わってきました。

さらに、保護区の設立や、木材の伐採や取引に関する法整備も支援。 2010年に実現したチョウセンゴヨウの全面的な伐採禁止、そして、2014年に同じく違法伐採の対象となっていたモンゴリナラがワシントン条約(CITES)の付属書Ⅲに掲載され、木材の国際取引に一定の規制がかけられたことは、そうした活動がもたらした大きな成果です。

ロシアの森とトラの未来

このように、ワシントン条約などを通じて、ロシアから国外への木材の輸出を法的に管理することは、木材の成長量を超える過剰な需要を抑え、ひいては違法な伐採を抑えることにもつながります。

極東ロシアから木材を輸入している日本にとっても、これは深いかかわりのある問題といえるでしょう。

日本には、ロシアで違法に伐採された木材が、おもに中国で建材や家具に加工され、輸入されている可能性が指摘されています。これは、間接的にシベリアトラとその生息地の森の自然破壊に関与していることを意味します。

消費や国際的な取引もまた、現場の森を保全し、そこに生きる野生生物を保護する取り組みに、大きな影響を及ぼすものに他なりません。

WWFではロシアと日本の事務局が協力して、保全の現場と消費市場の両側から、企業や消費者に対して働きかけを行ない、「持続可能」な木材の供給と消費を推進する取り組みを進めています。

トラの保護。その活動の現場は、決してロシアの森の中だけではありません。 野生のトラが21世紀を生き延びることができるように、今、世界の各地でさまざまな活動が続けられています。

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