エネルギー基本計画(案)に対する声明


声明 2014年3月4日

これが3年間の議論を経た「エネルギー基本計画(案)」なのか

2月25日、政府による「エネルギー基本計画(案)」(以下、「原案」)が発表された。

震災・原発事故の起きた2011年3月以降、約3年の時を経て、エネルギー基本計画がとりまとめられようとしている。まず問われるのは、「日本は、震災・原発事故から何を学び、どのような『新しい』方向性を打ち出すのか」ということであろう。未曽有の経験を経て作られたエネルギー政策の新方針は、これまでの反省に立ち、革新的で、希望のあるビジョンでなければならないはずである。

しかし、残念ながら今回発表された原案の全体的な方向性は、震災・原発事故などなかったかのような内容となっている。「それで、何が新しくなったのか?」という問いに対して、政府は、日本国民や国際社会に対して、どのように答えるのだろうか。昨年12月の経済産業省による「エネルギー基本計画に対する意見(案)」(以下、「意見案」)からは、細部において改善点もある。しかし、今回の原案には、依然として以下の6つの大きな問題がある。

1.再生可能エネルギー推進の位置づけが弱い

震災・原発事故の経験はもとより、原案中で強調される、技術革新による国際競争力の向上を目指す観点からすれば、再生可能エネルギーを最大限に推進することについては、異論はないはずである。

しかるに、再生可能エネルギー推進の位置づけがいまだに弱い。エネルギーミックスの議論は今後の予定とのことだが、必ず、明確かつ野心的な2030年の数値目標を設けるべきである。その際、熱・燃料需要も考慮し、再生可能エネルギーから作る水素の活用にも重点を置くべきである。

前回の意見案と比べ、今回発表の原案では、再生可能エネルギーを「有望かつ多様な国産エネルギー源」と位置付け、「3年程度、導入を最大限加速していき、その後も積極的に推進していく」として、「3年」の後も推進する姿勢が示されたことは改善点である。全般に対する記述も詳細になっている。しかし、原子力がいまだに「ベースロード電源」と位置付けられていることとの比較でいえば、再生可能エネルギーこそ、主要な電力源へと昇華させていく方針を明確に打ち出すべきである。

また、電力システム改革の考え方として、「出力変動のある再生可能エネルギーの導入拡大に対応するため」と明記したのは評価に値する。他方で、系統整備や固定価格買取制度のみが今後の電気料金上昇の原因であるかのような描写がされ、主要因であるはずの化石燃料費用の上昇と比して、大きすぎる扱いを受けている点は、誤解を招く。

2.省エネルギーの推進姿勢が弱い

本来は、省エネルギーについても、2030年の数値目標を明確に設けるべきである。今回の原案では、省エネルギーの「取組を部門ごとに加速すべく、目標となりうる指標を速やかに策定する」とあり、ベンチマークの設定が示唆されている。これは、前回の意見案からは明確な改善点である。

しかし、日本が遅れている新築住宅・建築物の省エネルギー基準義務化については、「2020年までに段階的に省エネルギー基準の適合義務を導入」と、従来の立場から踏み込んでいない。また、産業部門については、「支援など多様な施策を用意する」という表現にとどまり、これ以上の義務的な対策については消極的となっている。1990年代以降で見れば、産業部門におけるエネルギー効率の改善は停滞気味であり、本来は、これらの分野において、義務的な政策の導入に踏み切るべきである。

3.化石燃料、特に石炭からのシフトが打ち出されていない

石炭増加は、日本の温暖化対策にとっては大きな問題だという基本的な認識が必要である。1990年以降の石炭からのCO2排出増加量は、日本の1990年排出量の約12%に相当する。それほど、温暖化対策に対する影響は大きい。全体的な傾向としては、「減らす」という方向性を明確に打ち出すべきであり、間違っても「ベースロード電源」と位置付けるべきではない。

4.原子力と石炭火力をベースロード電源とする、旧来型の考え方に執着している

震災後の3年間は、原発こそが日本のエネルギーの不安定要因であったにもかかわらず、原発は、「エネルギー需給構造の安定性に寄与するベースロード電源」と位置付けられ、破たんしている核燃料サイクルの推進さえ残っている。本原案で強調している通り、エネルギー政策の要諦を"最小限の経済負担"と"環境への適合"とする以上、処理対策の展望や費用が不明確な原子力、高効率でもCO2排出量が依然高い石炭火力を選択する理由にはならない。再生可能エネルギーの最大限の活用を可能にする電力系統強化の工程表を作成すべきである。「参考」としてつけられている電源構成の考え方では、ベース/ミドル/ピークという従来型の電源構成の形がまるで目指すべき形であるかのように示されている。震災を経て目指すべきは、そのような電源構成ではなく、変動する再生可能エネルギーからの発電電力量を最優先とし、他の電源を活用して補完するような電源構成である。それが「再生可能エネルギーの導入を最大限に加速した」電源構成であることは、多くの再エネ先進国が示している事実である。

5.日本を基軸とした温暖化対策の姿勢が不明確

日本での積極的な温暖化対策推進を、より明確に打ち出すべきである。前回の意見案と比較し、今回の原案では、「国内の排出削減はもとより」と、少なくとも国内の温暖化対策の推進は前提となっている点は改善である。しかし、温暖化による平均気温上昇を2℃未満に抑えるという国際目標達成のためには、日本自身の脱炭素化は不可欠であり、その脱炭素化への挑戦の中で得られた経験や技術をもって、国際的な貢献を行うというのが本来あるべき姿である。国際貢献をすれば日本での脱炭素化は目指さなくてもよいようなニュアンスは一切排除するべきである。

6.市民参加の引き続きの軽視

前回の意見案に対するパブリック・コメントも、案が出てからのパブリック・コメント期間は年末年始を挟んだ1カ月と、限られた期間でしか行われなかった。前政権において不十分な形ながらも行われた市民から「能動的に」意見を集める努力は今回には活かされず、なし崩し的に計画が決められようとしている。今回の原案策定も、震災後初の決定という歴史的な局面にありながら、国民との対話が不十分であるのは、極めて問題である。

■お問い合せ先:

WWFジャパン 気候変動・エネルギーグループ
Tel: 03-3769-3509/Fax: 03-3769-1717/Email: climatechange@wwf.or.jp

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