政変の起こった中央アフリカ共和国でゾウ密猟の危機が増大


2013年3月に政変の起きた中央アフリカ共和国で、混乱に乗じた密猟団が活動を活発化し、象牙を目的とした野生のゾウの密猟が深刻化しつつあります。こうした事態は近年、中部アフリカ地域で急速に拡大しつつあり、野生動物の保護のみならず、レンジャーや地域に暮らす人々の生命まで脅かしています。4月には「国連犯罪防止・刑事司法委員会」でもこの問題が取り上げられ、加盟諸国に対し、犯罪組織の摘発や厳罰化を促す勧告が採択されました。WCS(野生生物保護協会)とWWFは、中央アフリカ共和国と周辺国に対し、事態の鎮静化と、密猟行為を阻止するための行動を起こすよう現在呼びかけています。

パトロールや保全活動がストップ

森林に生息するマルミミゾウをはじめ、ゴリラやチンパンジーといった主要な野生動物の生息地域である中部アフリカ。中でも最も深刻な密猟の危機にさらされているのは、中央アフリカ共和国です。

同国は、2013年3月に軍事クーデターによる政変が発生。首都バンギが制圧され、大統領は南の隣国、コンゴ民主共和国に亡命しました。

この国内の混乱に乗じた密猟団が、象牙を狙い活動を活発化させつつあります。特に地方政府の警察機能の低下に伴い、首都から遠く、自然保護区が散在する地域で、新旧体制派の民兵団が横行。象牙の高値に引き寄せられて、密猟をおこなっているといわれています。

中央アフリカ共和国、カメルーン、コンゴ共和国の3カ国にまたがって設定され、世界自然遺産にも登録されている、サンガ多国間ランドスケープの中央アフリカ共和国側では、すでに多数のゾウが密猟されているという情報があるほか、地域の市場で公然と密猟されたゾウの肉が売られているという報告が入っています。

また、ザンガ・サンガ保護地域で何年にもわたり密猟者から没収してきた象牙も、すべて盗まれるという事態。戦闘行為で使われている銃器が野生動物に向けられ、治安の悪化により国立公園のWWFスタッフたちは活動停止を余儀なくされています。

1980年代半ばには、中央アフリカ共和国には80,000頭近くのゾウが生息していたとみられていますが、現在の推定個体数はわずかに数千頭。今回の混乱が、この生き残ったゾウを根絶やしにしてしまう可能性も否定できません。

中部アフリカに生息する森林性のマルミミゾウ

2013年4月に中央アフリカ共和国の隣国カメルーンの南東部で押収された45丁の銃。密猟の危機が増大している。

懸念される周辺国への飛び火

現在、中央アフリカ共和国の首都バンギを抑えている勢力も、今のところ、地方に散在する保護区までは統括しきれておらず、野生動物と保護の現場は深刻な危機にさらされています。

さらに、この混乱と危機は、すでに中部アフリカの周辺国にも、その影響を及ぼし始めています。

西の隣国カメルーンのロベケ国立公園の北部には、中央アフリカ共和国から多くの人々が避難してきており、サンガ多国間ランドスケープのスタッフも、国境のサンガ川を渡って逃げ込んできています。

また、ロベケ国立公園のスタッフが聞いた話では、マルミミゾウも大挙して川を渡ってカメルーン側に逃げて来ており、ロベケの北30㎞のところに位置するリボンゴという国境の町では、ゾウの群れが昼の日中に川を渡って避難する様がみられたとのこと。

それを追う密猟団の侵入と、密猟の増加を阻止するべく、カメルーン側では警備を強化しています。

すでに、4月26日までの11日間に、国の南東部に位置する、ロベケ国立公園、ブンバ・ベキ国立公園、ンキ国立公園および周辺地域で行なわれた、大規模な一斉捜査では、20人の密猟者を逮捕、45点にのぼる銃器を押収。中には1990年代の内戦で多用された自動小銃、AK47(カラシニコフ銃)も含まれていました。密猟増加の兆しは、確かに見え始めています。

1ヵ国や地域に留まらない、グローバルな取り組みの重要性

今回の事態を受け、中部アフリカ各国政府は、密猟を阻止するための臨時会合を開催するとしています。周辺国の協力のもと、中央アフリカ共和国の状況が改善できるか、密猟団の動きを封じることができるか、今後の取り組みにかかっています。

また、これと前後して、ウィーンで開催された「国連犯罪防止・刑事司法委員会」でも、野生動物の密猟と象牙や犀角(さいかく)といった部位の違法取引は、厳罰に処する必要がある「深刻な犯罪である」という勧告がなされました。国連の規定の元では、こういった重大犯罪は4年以上の懲役に処することになっていますが、現状では密猟者たちは、違法取引で得られる報酬よりはるかに安い罰金刑で、釈放されているのです。

委員会の中で各国政府代表団は、野生動物の部位や木材の違法取引と、薬物、武器の違法取引、人身売買、資金洗浄やテロといった国際的な組織犯罪の関連を認めました。

国連薬物犯罪事務所・所長のユーリー・フェドトフは、マスコミに対し以下のように語りました。「野生動物と林産物違法取引は、少なくとも4年以上の懲役刑を科す重大犯罪と見なし、取り締まりに有効なレベルの罰則を整えるべきです。しかしそれ以上に難しいのは、違法な象牙や犀角の需要を減らすことです」

アフリカでは、ゾウとサイの密猟が記録的なレベルに達し、大問題となっていますが、これに対する法整備と取り締まり強化は、アフリカだけの問題にとどまらず、中国やタイ、ベトナムといった、違法取引の行き着く先のアジアの国々の責任でもあるのです。

毎年、30000頭に上るゾウが、象牙のために殺されています。中部アフリカ各国政府は、特に内戦崩れの銃火器で武装した、犯罪集団による密猟が引き起こしている、安全保障に対する脅威を取り除く必要があります。

「近年、野生動物の密猟は、保護区のレンジャーや近隣住民の命を奪うところまでエスカレートしています。その犯罪に見合うだけの厳罰をもって、問題を解決する以外にありません」と、WWF違法取引撲滅キャンペーン・リーダー、ウェンディ・エリオットは述べています。

保全の取り組みの灯を消さないために

今回、密猟の脅威が迫っているサンガ多国間ランドスケープは、WWFが30年にわたり、その自然保護に取り組んできた、重要なフィールドの一つです。

ゴリラやマルミミゾウの保護・調査や、法律の整備・執行の支援、さらにはエコ・ツーリズムのサポートなど、多様な取り組みを行なってきました。

同じく、WCSにとっても、この保護区は20年以上活動を続けてきた現場です。今起きている中央アフリカ共和国の混乱は、こうした長年の保護の努力を、無にしてしまうおそれがあります。

WWFインターナショナルの事務局長ジム・リープは、象牙の需要がもたらす密猟の危機が、このサンガ多国間保護区をはじめ、中部アフリカ各地の保護区やゾウの生息地に及ぼす影響を懸念し、次のように発言しています。

「国立公園を守る勇敢なレンジャーたちは、計り知れない危険にも負けず、立ち向かおうとしています。しかし彼らだけの力で、貴重な野生生物や、世界的にも重要な自然の宝物を守ることは困難です。国の安定と経済発展を脅かす、密猟や違法な取引という犯罪に対して、中部アフリカの国々は早急に力を合わせ、対応しなければなりません。こうした野生生物をめぐる犯罪を決して許さない強い姿勢を私はこの国々と共にし、支援してゆきたいと思います」

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