大阪南港野鳥園の存続を


2013年1月21日、大阪南港野鳥園を存続させる会(代表:高田直俊氏)は「大阪南港野鳥園の存続に関する要望書」を大阪市市政改革室に提出しました。ここは、東アジア・オーストラリア地域にまたがる、渡り鳥の飛来地として重要な場所。国際的にもその価値の高さが認められています。WWFジャパンもこの要望書の主旨に全面的に賛同し、賛同団体として署名しました。

大阪南港野鳥園、その廃止の理由は?

大阪南港野鳥園(以下、野鳥園)は大阪市住之江区の大阪南港に造成された人工湿地で、1983年に野鳥公園として開館しました。

毎年の入園者数は10万人を超え、野鳥観察だけではなく、憩いの場として、大阪市内外から数多くの人が訪れる場所です。

2003年には、野鳥園は東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワークに参加し、シギ・チドリ類の国際的な重要渡来地として認知されることになりました。

この渡り鳥保全のための国際的な仕組みに参加するということは、管理者である大阪市が、その重要性を認め、また保全と管理に前向きに取り組むことを示すことでもあります。

しかし、国際的にも重要性が認知され、多くの入園客が訪問するにもかかわらず、現在、その廃園が検討されています。

これは橋下徹大阪市長が進める市政改革プランにおいて、野鳥園は「公共が関与する必要性の低い事業である。料金非設定で、税等を投入して継続する合理性が低い」という理由から「現有の干潟や湿地のあり方等を総合的に勘案して、収支均衡方策の検討と併せて、施設(展望塔等)の存廃も検討」とされたためです。

無駄な公共事業を減らし、また民間企業へ事業転換を行うことで、経済の活性化を導くことは決して悪いことではありません。

しかし、生態系や生物多様性は人の暮らしにも、さまざまな利益をもたらします。しかも、この「生態系サービス」がもたらす便益は、漁業や観光業に対する経済効果といった直接的なものだけにとどまらず、教育や自然に対する感性をはぐくむという長期的な点にまでおよびます。

こうした認識が、昨今広まりつつある中で、生物多様性の保全に資する事業までもが、存廃の対象となることは、果たして妥当なことなのでしょうか。

ましてや、大阪市は市としての「生物多様性地域戦略」も策定しており、その中で、市民の暮らしと生物多様性との共存を謳っています。

多くの自然環境が失われ続けてきた困難な状況の中で、人の手によって守り育てられてきた環境を、今ふたたび経済効率を優先しようとする中で失うことは、避けるべき選択といえます。

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人工湿地の生物多様性保全上の価値は?

そもそも野鳥園が位置する大阪湾は、現存する干潟の99%が、過去の埋立により消失したと言われています。

野鳥園の干潟はわずか12.8haしかありませんが、毎年数多くの渡り鳥が休息に訪れています。

また、近隣では今も尚埋立地の造成が行なわれていますが、その人工的な湿地環境にも数多くのシギ・チドリ類が渡来しています。

干潟のほとんどが消失した今でも、大阪湾が渡り鳥の主要な移動ルートとなっていること、また限られた湿地に依存せざるを得ない現状だと言うことが分かります。

さらに、野鳥園に依存する生物は渡り鳥だけではありません。
野鳥園を中心に活動を行なうNPO南港ウェットランドグループの調査によると、絶滅が危惧されるハクセンシオマネキやオオノガイをはじめとし干潟の生物が多数確認されています。

大都市圏に位置する人工的な環境ではありますが、生物多様性保全上、重要な湿地であることは、こうした点からも明らかにされています。

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湿地の保全管理のあり方を考える

この野鳥園が、現在のような姿になるまでには、長い年月と数多くの人々の協力がありました。

本来、干潟には川や周辺の海からの栄養や土砂の供給があり、他の生態系と繋がりを持っています。

野鳥園の場合、外海と細いパイプを通じて海水の交換が行なわれているだけなので、ただ自然に任せて放置していたのでは、現在のような多様な生物がすめる環境には、ならなかったものと考えられます。

今、これだけの環境があるのは、南港ウェットランドグループの前身組織である南港グループ'96のメンバーが中心となって、日頃から調査や観察を行ない、その結果を分析・検討し、管理主体である大阪市港湾局と協議し、よりよい環境にするための方策を他の市民ボランティアとともに試行錯誤してきた結果なのです。

その過程で積み重ねられた知識と経験、そして培われたネットワークは、湿地の保全と管理を進めていく上で非常に重要で、国内外の他湿地においても役立つ貴重なものです。

WWFジャパンは2011年に発行した「現場の声から学ぶ豊かな海のつくり方入門」でも、その一部を紹介していますが、これらの価値は単純な費用換算ができるものではありません。

WWFジャパンは、大阪市に対し、野鳥園の価値を多角的に評価し、維持存続させること、また生物多様性保全の分野でもリーダーシップを発揮することを期待します。

 

関連情報

大阪南港野鳥園の存続に関する要望書

 

大阪市長 橋下徹 様

大阪南港野鳥園を存続させる会
代表 高田直俊

題記の件につきまして早急な対処をしていただきたく、下記の通りお願い申し上げます。

1.要望の趣旨

平成24年7月30日、大阪市が策定した「市政改革プラン」の「アクションプラン編別冊」の「市民利用施設のあり方の検討」の中で、大阪南港野鳥園は、「公共が関与する必要性の低い事業である。料金非設定で、税等を投入して継続する合理性が低い。」という理由から、25年度末の指定管理者期間切れを見据えて、「現有の干潟や湿地のあり方等を総合的に勘案して、収支均衡方策の検討と併せて、施設(展望塔等)の存廃も検討」とあります。

しかしながら、以下の理由から、大阪南港野鳥園は国内外にとっても重要な施設で、公共が関与する必要性が高い事業であることから、大阪南港野鳥園(展望塔等)の現状を維持した存続及び管理運営を要望し、この要望書に対する市の回答を求めます。

2.要望の理由

【開園と市民による活動】
大阪南港野鳥園は、シギ・チドリ類の保護とその渡来環境を南港埋立地に復元することを目的とした1969年からの市民運動の結果、1971年に大阪市が野鳥園設置を決定し、1983年に開園しました。開園後、地元NGO/NPOによって、シギ・チドリ類や干潟の生きもののモニタリングを継続し、それに基づく行政への提案により干潟の様々な改良工事が行われ、また、干潟の順応的管理が市民や研究者も加わり行われてきました。

【国内外での重要性】
シギ・チドリ類は、干潟などの湿地に生息し、その種の多くが渡り鳥で、越冬地はオーストラリアやニュージーランド、繁殖地はシベリアやアラスカです。継続した環境改善と保全活動の結果、自然海岸が失われた大阪湾にとって大阪南港野鳥園は、世界的にも減少しているシギ・チドリ類の関西における重要な渡りの中継地となりました。このことから、

  • 国家的戦略である「アジア・太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」の「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップに基づく重要生息地ネットワーク(現名称)」に大阪市が参加。
  • 生物多様性条約に基づいた「第三次生物多様性国家戦略」で提唱されている環境省「モニタリングサイト1000 シギ・チドリ類調査」の重要調査地点に指定。
  • 「IBA(野鳥の重要生息地)」、「KBA(生物多様性の鍵となる重要地域)」に選定。
  • 環境省「日本の重要湿地500」に選定。

【市民の多様なニーズに対応した無料施設】
市内の海辺にある施設で、老若男女を問わず、野鳥の観察や撮影を楽しむことができ、散策、ウォーキング、ランニング、サイクリングの休息施設であり、展望塔からの大阪湾の風景(夕日、蜃気楼、大型クルーズ船など)を楽しむこともできる施設です。これは当園が無料で気軽に利用でき、2006年から専門知識があるレンジャーが常駐したことで平日休日を問わず、多様なニーズに応えることが可能になったためです。

【市民ボランティアによる干潟環境保全】
市民ボランティアによる清掃、ヨシ刈り、アオサ取りなどの干潟保全活動が継続して行われ、企業による清掃も継続実施されています。大阪市港湾局の「リフレッシュ瀬戸内」、「クリーンアップキャンペーン」、海上保安庁第五管区海上保安本部の「大阪湾クリーン作戦」などのボランティアを募っての清掃も定期的に行われています。継続した市民参加型の環境保全活動に対し、「平成22年度手作り郷土賞」(大賞部門)にも選ばれ、大阪南港野鳥園は、市民ボランティアの環境保全活動の場として定着してきました。
これらの保全活動等を再業務委託すると、現在の施設維持管理費よりもコストがかかると共に、業務委託先もありません。

【環境学習・体験学習の場】
大阪南港野鳥園は、大阪湾岸で見られる干潟の生きものや渡り鳥について市民が体験学習できる貴重な海辺の施設となっています。平日のプログラムでは、住之江区の住民を主体とした生涯学習、地元小学校や高校での環境教育の授業、大学のインターンシップ、大阪市職員の環境技術研修などが、レンジャーのサポートによって行われ、環境学習の場としての施設利用が図られています。また、大阪市立大学大学院は、南港野鳥園の干潟を対象として研究に取り組み、その成果が南港野鳥園の環境改善や大阪湾の環境改善に活かされています。

【不法侵入の監視】
釣り人の不法侵入、干潟での釣り餌の不法採集、園内立入禁止区域への侵入による野鳥への悪影響など、不法侵入者への対策には展望塔からの常時監視が必要です。

3.要望の詳細

1) 大阪南港野鳥園展望塔等の存続。
2) 大阪南港野鳥園展望塔の無料供用。
3) 指定管理者による施設の管理運営の維持(レンジャーの常駐など)。

以上

大阪南港野鳥園を存続させる会

  • 日本野鳥の会 大阪支部 支部長 橋本正弘
  • 公益社団法人大阪自然環境保全協会 会長 夏原由博
  • NPO法人南港ウェットランドグループ  理事長 髙田 博
  • 日本野鳥の会 ひょうご 代表 奥野俊博
  • 特定非営利活動法人日本バードレスキュー協会  理事長 村濱史郎

賛同団体(順不同)

公益財団法人日本野鳥の会、公益財団法人日本自然保護協会、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン、NPO法人バードリサーチ、NPO法人ラムサール・ネットワーク日本、シニア自然カレッジ、淀川自然観察会、浜寺公園自然の会、特定非営利活動法人とよなか市民環境会議アジェンダ21自然部会、西淀自然文化協会、TEAM魚っしょい!(大阪府)、NPO法人エスペランサ(住之江区内の地域活動団体)、NPO法人み・らいず(住之江区内の地域活動団体)、有限会社アルブル木工教室(住之江区)、安立☆ミュージックストリート(住之江区)、手づくり新聞「瓦版や」(住之江区)、地域活性化支援センター朱雀のつばさ(住之江区)、咲洲CLASS実行委員会(住之江区)、中津動物病院(堺市)、NPO法人野鳥の病院、野生動物救護獣医師協会WRV大阪支部、日本野鳥の会京都支部、日本野鳥の会奈良支部、日本野鳥の会 和歌山県支部、日本野鳥の会 滋賀、堺野鳥の会、泉北野鳥の会、河内長野野鳥の会、とくしま自然観察の会(徳島県)、NPO法人藤前干潟を守る会(愛知県)、西三河野鳥の会(愛知県)、汐川干潟を守る会(愛知県)、東三河野鳥同好会(愛知県)、認定NPO法人行徳野鳥観察舎友の会(千葉県)、千葉市野鳥の会(千葉県)、水鳥研究会(千葉県)、NPO法人ふくおか湿地保全研究会(福岡県)、八代野鳥愛好会(熊本県)、NPO法人水辺に遊ぶ会(大分県)、沖縄野鳥の会(沖縄県)(以上40団体)

本要望書に関する連絡先

大阪南港野鳥園を存続させる会 事務局 
公益社団法人大阪自然環境保全協会 理事 岡秀郎
Email:office@nature.or.jp

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