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日本に生息する2種のクマ

世界には8種類のクマがいます。日本国内には北海道に生息するヒグマと、本州以南に生息するツキノワグマの2種類のクマがいます。環境省の調査によると、北海道の約55%の地域はヒグマが、本州の約45%の地域にはツキノワグマが生息しています。

クマという動物

クマの系統は、約2000万年前に食肉類から分化したと推定されています。
食肉類とは、ライオンやトラなどの大型のネコ科動物などを含めた動物のグループで、その多くが他の動物を襲って食べる肉食動物です。クマもそうした動物と共通の特徴である、発達した犬歯と、鋭いかぎ爪を持ちます。

一方、分化したクマの祖先は、植物を含めたさまざまな食物を食べるようになりました。このクマの祖先が「雑食化」の道をたどったことで、その後、クマ類は世界のさまざまな環境に対応し、生息域を広げていきました。現在、世界には8種のクマがいます。

日本国内には、北海道に生息するヒグマ(亜種としてのエゾヒグマ)と、本州以南に生息するツキノワグマ(亜種としてのニホンツキノワグマ)の2種類のクマがいます。

環境省が2000~2003年度に行なった調査によると、北海道の約55%の地域にヒグマが、本州の約45%の地域にはツキノワグマが生息しています。つまり日本の国土の半分の面積には、クマが生息していることになります。

ツキノワグマについて

歴史

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ツキノワグマ

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ツキノワグマのすむ森

学名:Ursus thibetanus

アジア大陸に起源をもつツキノワグマ(別名アジアクロクマ:Ursus thibetanus)は、現在、イラン、アフガニスタンの西アジアから、日本、韓国、台湾の東アジアにかけて広く分布しています。

このうち、日本に生息するツキノワグマは、日本が大陸と地続きであった30~50万年前の氷河期に、大陸から渡ってきたと考えられています。

その後、日本列島は大陸から切り離され、日本のツキノワグマは亜種(Ursus thibetanus japonica:ニホンツキノワグマ)として遺伝的に独自の分化をしました。

現在の日本のツキノワグマの遺伝子を調べると、大きく3つのグループに分けることができます。琵琶湖以東の東日本グループ、以西の西日本グループ、そして紀伊半島と四国のグループです。

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出典:日本クマネットワーク小冊子
「クマの保全と生物多様性」より

分布

本州と四国の33都道府県に生息しています。ツキノワグマの分布は、ブナやミズナラに代表されるブナ科の落葉広葉樹林(ただし紀伊半島では照葉樹林)の分布と重なっていることが指摘されています。

東日本では生息している森林がおおむね連続していますが、西日本では古くから進められてきた森林開発、そして戦後に進められた拡大造林(かくだいぞうりん:自然の森林を伐採した後、スギやヒノキなどの人工林を育てること)がクマの生息地を分断し、個体群を孤立させたと考えられています。

とりわけ、下北半島、九州、紀伊半島、東中国地方、西中国地方、四国の6地域のクマの個体群は孤立していて、生息数が少ないことで知られています(ただし近年、西中国と東中国地方では、生息数が回復してきているとの報告もあります)。

こうした、分断された個体群は、孤立した森林に生息し、他所への移動ができません。そのため、限られた生息地が失われたり、過剰な捕獲などによって生息数が減ると、回復が非常に難しくなります。また、近親交配が続くと、遺伝子の劣化が進み、絶滅してしまう可能性がより高くなるといわれています。

実際、こうした条件が重なり、九州に生息していたツキノワグマの個体群は、絶滅した可能性が高いと考えられています。そして四国の個体群は十数頭から多くても数十頭と推定され、絶滅が心配されています。

環境省では、こうした個体群を、「絶滅のおそれのある地域個体群」としてレッドリスト(絶滅のおそれのある種のリスト)に掲載しています。

日本のツキノワグマは、一つの亜種(あしゅ)としてみた時、今のところ必ずしも絶滅の危険が高い動物というわけではありませんが、地域別で見ると、こうした危機が存在しています。

サイズ

平均的な個体で、頭胴長(頭の先からお尻まで)は110~130センチ、体重はオスが80キロ程度、メスが50キロ程度です。個体差や季節の変動が大きく、小さい場合は約40キロ、最大で約130キロになります。記録によると、1967年に宮城県で捕獲されたオスは、体重220キロもあったといいます。それでも、世界のクマ類と比べると、小型~中型になります。また大陸に生息するツキノワグマと比較しても小型です。

食物

ツキノワグマは雑食性ですが、植物を主食としています。しかし、ウシやヒツジのように食物繊維を消化するための特殊な消化器官を持っていないので、硬くて繊維質の多い植物は避ける傾向があります。

冬眠から目覚める早春には、いろいろな植物の新芽や若葉、前年に落ちたブナ類の実やナラ類の実(ドングリ)などを食べています。

春に芽吹く若葉は、タンパク質が豊富で消化しやすいうえに、毎年安定した量を確保することができます。ですから、冬眠で絶食状態にあったクマが体力を回復させるために重要な食料になっていると考えられます。

春から夏にかけては、その時々で花や実をつける植物、そしてアリやハチなどの社会性昆虫やサワガニなどを利用します。特に、イチゴの仲間(キイチゴなど)やサクラ類などがつける肉厚で甘い果実が大好きです。

秋は、クマにとって最も大切な季節です。冬を迎える前に冬眠のために十分なエネルギー(脂肪)を貯めておかなければならないからです。ブナ科の樹木はまとまって同じ場所に生える傾向があるので、クマは一カ所で多くのブナ類の実や、ナラ類の実などを食べることができます。

ブナ類の実は脂質とタンパク質が多く、ナラ類の実(ドングリ)も炭水化物を多く含む栄養価が高い食物です。このようことからブナ類の実やナラ類のドングリは、多くの地域で、クマにとっての重要な食物となっています。さらに、ミズキ、タカノツメ、アオハダ、サルナシやヤマブドウなどの秋に実る果実もよく利用します。

このように春から秋にかけて、ツキノワグマさまざまな植物を利用しています。ある調査の結果では、全国でこれまでにツキノワグマが利用したと記録されている樹木の果実は、90種類にも及ぶそうです。

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中国山地のブナの大木。
その実はクマの貴重な食物になる

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こうした食性には、大きなメリットがあります。年によっていくつかの植物の実りが悪くても、他のものを食べられるため、植物の実りの良し悪し(豊凶:ほうきょう)の影響をあまり受けずに済むからです。温帯の森林に生育する多彩な植物は、クマにとって安定した食物だと言えるでしょう。

また、量はあまり多くないようですが、クマは夏を中心に、蜂蜜や昆虫も食べています。魚や動物の死骸を見つければ、それも食べます。ツキノワグマがシカの死骸を食べているところも観察されています。従来ツキノワグマが生きているシカを襲って食べることは、ほとんどないと考えられていましたが、最近子ジカについての報告例があります。

行動圏

まだ十分な研究・調査が行なわれていないので、よくわからない部分も多いですが、おおよそ次のように言われています。

ツキノワグマはお互いを排除する固定したなわばりをもたず、個々の行動圏が大きく重なり合うことが明らかになっています。そしてほぼ決まった地域を行動圏としますが、ドングリなどの食物が不足すると、食物を求めて行動圏を広げます。

その行動圏については、オスで平均100平方キロ、メスで平均40平方キロだといわれています。秋田県で行なわれた調査によると、平年は20~40平方キロであったメスの行動範囲が、ブナの実やドングリが凶作の秋には100平方キロを超えたことが報告されています。なお、山手線の内側の面積はおよそ60平方キロです。

クマの大きな体は、多くのエネルギーを必要とすると共に、高い移動能力も兼ね備えています。そしてなわばりを持たず、自由に移動することによって、必要な食物を得ています。その時々で利用できる食物を求め、特に食料が不足する時には、広い範囲を動き回ります。

例年、山中の食物が不足する夏、一部のクマは人里に出没し、農作物(果樹や飼料用トウモロコシなど)を食害します。そして、秋になって山にドングリや木の実が成るようになると、食害は収まります。一方、秋になっても人里への出没が収まらず、平常の年の数倍のツキノワグマが出没することがあります。これが大量出没といわれ、社会的な問題となっています。

ヒグマについて

学名:Ursus arctos

歴史

ヒグマは北半球に広く生息するクマの一種で、大型の哺乳類としては、きわめて広い分布域を持つ動物として知られています。

ヒグマは、ツキノワグマ同様アジア大陸に起源を持ち、その後2つの系統に分かれたと考えられています。

1つの系統はアジアで分化したグループです。さらにその一部は、氷河期に陸続きだったベーリング海峡を渡り、北アメリカにも移動したと考えられています。
もう1つの系統はヨーロッパに定着したグループで、かつては数多く生息していたようですが、近代以降、開発によって生息地を追われ、西ヨーロッパではほとんど絶滅してしまいました。

分布

日本のヒグマ(Ursus arctos yesonesis:エゾヒグマ)は、北海道のほぼ全域に生息しています。
そのうち天塩・増毛地方および石狩西部地方の個体群は、孤立して生息数が少ないため環境省のレッドリストに「絶滅のおそれのある地域個体群」として掲載されています。

日本のヒグマは、どこから来たのでしょうか? 
遺伝子を調べると、3つのグループに分けられることがわかりました。

  • 道北-道央型(A)グループ
  • 道東型(B)グループ
  • 道南型(C)グループ

この三つです。

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出典:日本クマネットワーク小冊子
「クマの保全と生物多様性」より

最初に北海道に来たのがCグループで、その遺伝子タイプは、中央アジアに生息する、チベット系のヒグマと近縁であることがわかっています。このグループは、日本がアジア大陸と陸続きだった氷河期に、大陸から本州を渡って北海道へ来たと考えられます。

その次にやってきたと考えられるのがBグループで、現在アラスカ東部に生息するヒグマと同じ系統です。これは、アジアのヒグマがベーリング陸橋を渡って、アラスカへ分布を広げたのと同時期に、東へ向かわず、南のサハリン(樺太)を通って北海道へ来たと考えられています。

最後にやってきたAグループは、現在シベリアや北欧、そして西アラスカに広く分布する系統で、同じくサハリンから渡ってきたと考えられています。このように、3つのグループは異なる年代に、異なるルートを経て北海道にやってきたのです。

しかし、最初にやって来たCグループのヒグマが、アジア大陸から「本州」を経て北海道に来たのに、なぜ現在、本州にヒグマは生息していないのでしょうか?

実は、ヒグマの化石は本州でも見つかっていて、数万年前までは本州にも生息していたことがわかっています。

この時代に本州では、ヒグマとツキノワグマが同じ生息地を共有していました。
しかし、やがて氷河期が終わり、地球が温暖になって本州の植生が変わると、その変化についていけずに、あるいはツキノワグマとの競争に敗れて、本州に生息していたヒグマは絶滅したと考えられています。

サイズ

環境省の資料によると、成獣で頭胴長(頭の先からお尻まで)は200~230センチ、体重は150~250キロとされています。ツキノワグマと同様に,オスの方がメスよりも大きくなります。記録によると、2002年に斜里町で捕獲されたオスは、体重400キロもあったといいます。日本では最大の陸上動物です。

食物

ヒグマは雑食性で、植物を主食としています。食性は地域により異なりますが、季節の変化によっても食べるものを変えています。

春から初夏にかけてはフキ(アキタブキ/オオブキ)を一番多く、その他ウドやイラクサ、ミズバショウなどの植物の若葉を食べます。冬眠明けのクマにとって、栄養が豊富で安定的に利用できるそれらの植物は重要な食物です。

ヒグマはこうした植物を、割合を減らしながらも、秋まで食べ続けます。
柔らかく消化しやすい植物が減る夏になると、植物性の食物不足を補うために、アリやハチなどの昆虫を利用します。これらの昆虫は社会的な生活を営むため、1カ所に集まって巣を作るため、クマは効率よく採食することができます。ある調査では、200メートル四方の森の中に一週間もとどまって、アリの巣から成虫やさなぎを食べていたそうです。

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夏から秋にかけては植物の果実を食べます。サルナシ、ヤマブドウ、マタタビなどのツル性の植物の果実、そしてミズナラのドングリ(渡島半島ではブナの実)を主に利用します。シウリザクラやナナカマドの果実も利用します。本州のツキノワグマに比べると,ブナ科の実(ブナやミズナラの実)への依存度はあまり高くないようです。

晩夏には北海道の広い範囲で、クマが農作物を食害することが知られていますが、主な被害作物は、トウモロコシやテンサイ(砂糖大根)などです。
この時期は、ヒグマにとって主食を植物の芽や葉から果実などへ変えていく移行期にあたり、食料が不足する一方で、栄養豊富な農作物が成熟するためだと考えられています。

1990年代、北海道東部を中心にエゾシカの数が著しく増えました。農林業への被害も増え、大量にシカの有害捕獲がおこなわれました。それに対応して、ヒグマがシカを食べる現象が多く確認されています。

これまでは、ほとんどの場合で有害捕獲され、処理された後に残されたシカの残骸、あるいは回収されなかったシカの死骸を食べていたと考えられています。しかし多くのクマがシカの味を覚えた結果、近年では、生きたシカを襲って食べるケースも増加しているようです。

このように、ヒグマの食性はそれぞれの季節、それぞれの場所で利用できる食物に柔軟に対応しています。そこには、農業やシカの有害捕獲といった人間の行動の影響も確実に認められているのです。

行動圏

ヒグマはツキノワグマと同じように、お互いを排除し合うような固定したなわばりをもたず、重なり合った個々の行動圏を持っていることが明らかになっています。

ツキノワグマと比べてヒグマの調査例は数が少ないため、平均的な行動圏の広さについては一概には言えませんが、メスよりもオスの方が広いことが明らかになっています。

道内の4地点で計測されたオス・メスの行動圏の範囲を以下、表で示します。
なお、北海道大学が苫小牧地区で4年間に渡って行った調査によると、オスの成獣が最も広い範囲を移動した年には、その面積は495 平方キロになったことが報告されています。東京23区の面積が621平方キロですから、これが相当な広さであることが分かります。

地域メスオス
面積(k㎡) 延べ個体数 面積(k㎡) 延べ個体数
知床半島11.5-21.5 10 199.2-461.8 2
渡島半島3.2-39.1 18 25.3-83.2 10
浦幌地域31.2-43.1 5    
苫小牧地域    277.2-495.8 3

それまで、高速道路や大きな国道、そして鉄道が走る苫小牧地区(石狩低地帯)は、従来ヒグマのような大型野生生物の移動は不可能だろうと考えられていました。
ところが、苫小牧での調査からは、道内で最も交通量が多く大型トラックが行き交う国道でさえも、交通量が減る夜中、人目につくことなくこっそりと移動したことがわかりました。

本来クマは人間を極力避けて行動する動物です。人目に触れず、こっそりと都市圏を移動していたことがわかった、この調査が良い例でしょう。

広範囲にわたって移動するクマですから、その行動圏に人間の生活圏(街や農地など)が入っていることも少なくありません。人間とクマの共生を考えるとき、広い行動域を持つクマの特性を十分に考慮する必要があるでしょう。

 

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