【インタビュー】加藤登紀子さん 「笑顔で生きられる未来を 生活者としてエネルギー問題を考える」


【連続インタビュー】私とエネルギー 第1回: 加藤登紀子さん

WWFジャパンでは現在、原発に頼らず、自然エネルギーによる未来づくりをめざした「自然エネルギー100%キャンペーン」を展開しています。この一環として、さまざまな分野で活躍している方々に、日本のエネルギー問題についてのお考えやご意見をうかがうインタビューを行なっています。第一回は、シンガーソングライターの加藤登紀子さんです。

プロフィール

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東京大学在学中の1965年、歌手デビュー。「赤い風船」「知床旅情」など、60枚以上のアルバムと多くのヒット曲をうみだしている。2011年9月、ニューアルバム「命結−ぬちゆい」を発売。震災後の支援を活発に行なっている。WWFジャパンの顧問であり、元UNEP(国連環境計画)の親善大使。千葉県鴨川市の「鴨川自然王国」を拠点として、若い世代とともに循環型社会の実現に向けて活動を続けている。林良樹氏との共著「スマイル・レボリューション」を今秋出版。持続可能なライフスタイルを実践。震災後もエネルギー問題へ積極的に発言している。

― 加藤さんが原発問題にかかわるようになったのはいつ頃からですか?

80年代から始まった原発問題とのかかわり

80年代はじめ頃からですよね。あちこちで原発ができていく過程で、それに反対する人たちのコンサートに呼ばれることがよくありました。新潟県の柏崎で、地元の人たちがコンサート企画した時は、原発反対を表に出すと会場が借りられないし、主催できないということで、柏崎の未来を考える会というネーミングにして、誰でも来られるようにしたり。北海道の泊原発のときも、呼ばれていってコンサートをしました。

その後、96年にも、巻町で、原発の是非を問う住民投票が行われる1週間前にコンサートをしたんですが、町に原発反対の看板がひとつもたっていないですよ。原発推進派の看板は町中に林立しているという状況。私も主催者の人も、あくまでもコンサートとして企画しているので、原発反対とかについては触れないということだったんですけど、コンサートの最後に、"来週の日曜は晴れるといいわね"と言ったら、わっと拍手が起きたんですね。その「来週の日曜日」におこなわれた住民投票では、原発反対派がかなりの票をとったんです。そういう流れが、ずっとありましたね。

― 原発について、特にこれは知っておいてほしい、ということは?

原発を止めても、すぐには安全にはらなない

震災後に、いろいろ若い人に会うことがあったんですけど、そのうちの一人で、原発問題から反対運動をやってきた人から、六ヶ所村の再処理施設が動いていれば、福島第一原発の建屋の中に、あんなに使用済み核燃料がたまることはなくって、こんなに酷いことにならずに助かったのでしょうかと聞かれて、私、びっくりしまして。 まだまだ、理解されていないなと思いました。

使用済み核燃料を六ヶ所村で再処理したからといって、それで今よく言われているように、核のゴミがでなくなるわけじゃなくて、ウランとプルトニウムの入った、さらに怖いものになってでてきてしまうんですね。しかも高レベルのゴミを個体化する技術に今失敗しています。

これまで40年近く原発をやってきた結果の大きなお荷物が、どうしようもない状態で今あるということは、六ヶ所が稼動する、しないにかかわらず、ゴミはあるんだ、ということです。原発は止めてもずーっと、その後何十年か冷やし続けないといけないわけですね。

その電源が止まったらまた、福島と同じことが起こることがわかっているわけ。

今54機のうち、44機はすでに止まっているわけだけど、そのプールには、いっぱいの使用済み核燃料があり、プールの中はまだ熱が高い状態。それを危険のないように管理するだけでも大仕事よ。 もうそのプールも、各地満杯になっています。これからも稼働させるということはその使用済核燃料が増えることになるので。だから、少なくともこれ以上原発を新規に作ることは絶対ありえないし、できるだけ全廃するべきだと思います。

― 原発を止めること、新規に作らないことで、私たちへの影響はどうなると思われますか?

推進派も反対派も一緒に、せーので原発を止めよう

原発を40年やってしまった結果のごみである使用済み核燃料を作ってしまったし、原子炉自体が最後にものすごく大きな放射性物質として残るわけです。日本という地震・津波国で、こういう施設を54機も作ってしまったのは、世界的に見てもありえない無謀なことだったんですよね。

でももし原発を止めたら、市町村にとっても電源会社もそうですけど、原発から大きな利益があがっていたものがあがらなくなる。さらに維持費のお金はかかる。社会的に大きな負担であることは事実ですね。それはここまで作ってきた私たちの責任だから、多少それによって電気料金が上がるとか、社会的に負担があるということは覚悟しなければならない。私たちは共犯者ですからね。

推進派の人もみんな一緒になって、せーの、で原発をやめなければいけない感じがします。この場に及んで推進しているというのは、わかっていない人たちだと思う。

これからは、中央からもう電気は送られてこない、それぞれの地域で、循環型の暮らしをして、わりと小型の発電をしはじめている、企業は企業で自分たちで自家発電をしはじめている。
そういう、地域分散型のエネルギーっていうんですか、それは進むと思うんですよ。

そのほうが絶対、コストが下がるし、送電のためのコストもかからないし。今、自然エネルギーでも、大規模に作ろうとしていますよね。

すごくコストがかかりますし、送電の無駄もありますし、できれば、低エネルギー型のライフスタイルと、地方分散型のエネルギー供給を、進めるべきだと思いますし、実際、進んじゃうと思いますね。

― その方向へ進む兆しのようなものは、今もうあるのでしょうか?

笑顔で語れる未来像を持つことが大切

先がなくなったときには、やっぱりみんな、じわじわ別の道で生き始めるんですよ。命は待ってくれませんからね。毎日は待ってくれませんから。だから、そういう意味で、自分の力で、違うやりかたを見つけていくしかないよね、っていう現実論はぜったいに生き残ると思うし、広がると思いますけどね。

例えば、道の駅ってあるでしょ。今までは、農産物って、ぜんぶ中央に集められて、そこからマーケットに行なっていたんですよね。それが、だんだん直販になって。地産地消って言葉も一般的になってきましたし、生産者が直接、顔の見える関係で、自分の作ったものを出して行くっていうのは、ほんとにポピュラーになったんですよね。それって、でも、大きな革命ですよね。マーケットの革命。そういうことが、農業の場合には起こってる。

エネルギーの分野でも、小水力発電とかをクローズアップしてみると、実際、あっちこっちですでにやっているのが見えてくるんですよ。私たちは知らなかっただけで10年前からやってますとか、そういう人たちもいっぱいいるんですよね。そこに知恵が蓄わえられて、ノウハウがちゃんと作られてきている。

やっぱりその地域ごとに、とにかく持続可能な、大きなお金は儲からないけれど、地域としてやっていける、そういう方法を見つけて、じっくりやっていくっていうのは、唯一、笑顔で語れることじゃないかしら。笑顔で語れる未来を作らないといけないです。それがないと、もたないですよね。私たちが原発依存にならないためには、そこから脱して生きて行くときの、笑顔で語れる未来像を作る。

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スマイル・レボリューション
─ 3・11から持続可能な地域社会へ
加藤 登紀子 (著) 林 良樹 (著)

今年、私は『スマイルレボリューション』っていう本を書いたんです。
その中でも紹介しているのが、夫の藤本の言葉なんですけど、60年代の学生運動は、負の運動だったと。ネガティブな、なにかを否定して行く運動。

でも本当は、そのときに何が求められているのか、笑顔で語れる未来像が必要だった、って。そして、これからは、負の活動をきちっと正の活動、プラスに変えて行かなきゃって、70年代のはじめごろに言ってるんです。

だから私たちも、原発っていうものに反対していながらも、許してきてしまったという意味では、これから、ちゃんと原発を止めていくには、ライフスタイルをチェンジしていく覚悟を持って、笑顔で、希望を持って語らないと。未来は。(笑)

― 日本の原発の動きは海外とも関係があるのでしょうか?

生活者として何を望むのかを言い続けよう

日本の政府が脱原発に踏み切れないのは、私はやっぱり、アメリカとの関係があるんだと思うんですよね。オバマ大統領も、戦略的な意味では核を止めるっていったけど、原発は推進派なんですよ、もう圧倒的に。もし今、脱アメリカっていうのを決断したら、やっぱりそれは、かなり怖いということでブレーキがかかってるんですよね。

ただ、そういう国際関係のことを考えなければいけない立場の人たちはいるけど、世界中で圧倒的多数の、99%の人は生活者なんですよ。日本でもアメリカでもね。私は、自分の気持ちは、生活者の原則で決断していいと思うんですよね。

みんな、自分が首相かのようにね、アメリカと喧嘩してどうするんだとか言うけど、生活者としては何を望むのかっていうことを、常に言い続ける人がいなくてはいけないし、WWFなんかもそのためにあると思うんですよ。

命はなにを望んでいるか。その原則をつらぬく発言をし続けなくちゃいけない。

私は企業に所属していないから、言いやすいんですよ(笑)。
自由な表現者としての立場を選んできたわけでもあるし。だから、言えない立場に立っている人が、みんな怠けてるとは、私は思いません。みんなそれぞれ、がんじがらめになってると思います。

でもやっぱりどこかで、生活者としての視点を持ってほしいし、男の人たち、企業のトップとかにいる人たちが、毎日、ご飯を作ったり、赤ん坊のおむつを換えたりしていれば、少し変わるのに、と思いますよ。ちょっと知らなさすぎるんですよ。毎日毎日を生きている人の気持ちっていうのをね。わからなさすぎるような気がするんですね。

加藤登紀子さんよりみなさんへ一言

笑顔で生きられる未来を、丁寧に自分の生活の中に取り入れる。
その覚悟を決めて、自信を持って。
もっと偉い人が考えることだ、とは思わないで、一生活者が、生活者として、エネルギー問題を考える、ライフスタイルを決める。
それが一番大事だと思いますね。

 

 

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