生物多様性基本法


2008年6月に施行された「生物多様性基本法」は、それまで日本になかった、野生生物や生息環境、生態系全体のつながりを含めて保全する目的を持つ初めての法律です。

生物多様性の保全に関する初の「理念法」

生物多様性条約を批准している日本では、生物多様性の保全に関係する法律、たとえば、鳥獣保護法や、種の保存法、外来生物法など、の法律に基づいて、条約が求めるところの生物多様性保全への取り組み行なう、とする立場がとられてきました。

しかし、鳥獣保護法はあくまで狩猟の対象となる鳥獣に対象が限られており、種の保存法や外来生物法も、それぞれ絶滅が懸念される希少生物の保護や、特に被害が大きいと認められた外来生物のみを対象としている法律であるため、法律の網の目からこぼれ落ちるものがあるのが実情でした。

2008年に成立した「生物多様性基本法」は、これらの野生生物にかかわる法律の上位にあって、傘のように覆いをかける、生物多様性のための「理念法」です。

つまり、生物多様性基本法は、鳥獣保護法や、種の保存法などの、個別の法律の施行状況を確認し、必要であればその改正や状況の改善を求めることができる、初めての法律となったのです。

この法律によって、諸外国では行なわれていながら、日本ではまだきちんと導入されてこなかった重要な施策が、実現される可能性が高まることになりました。

予防原則と持続可能な資源利用、民意の反映

また、生物多様性の保全に配慮しながら、自然資源を持続可能な方法で利用することや、生物多様性を保全するための予防的な取り組み、事業が開始されたあとの順応的な取り組みなどを第3条の基本原則でうたっています。

さらに、この法律で注目されるのは、第21条で政策形成への民意の反映を促している点です。
ここには、これまでよりも、国民や民間団体がしっかりと関与して、生物多様性の保全に関わる施策を作ることを明記しています。

ちなみに、この生物多様性基本法それ自体が、多くのNGOが提案していた「野生生物保護基本法(仮称)」をたたき台としています。

つまり、市民提案が、与野党議員の賛同を得て、生物多様性基本法という形で陽の目を見たのです。その意味では、NGOもこの基本法を活かしていく役割を担っていると言えます。

地域の生物多様性保全戦略

さらに、同基本法では、都道府県や市町村でも、それぞれの地域の生物多様性保全戦略を作ることを規定しています。

千葉県や埼玉県、愛知県、兵庫県などは地域戦略をすでに策定していますが、地域に根ざした生物多様性保全の取り組みが今後、さらに広がってゆくことが期待されます。

生物多様性基本法は、理念を示した基本法ではありますが、これが理念にとどまるのか、実際の保全活動に役立てられるのか、それはこれからの日本の取り組みにかかっています。

この基本法は、第10条で、生物多様性の保全および持続可能な利用のための施策に関して、毎年、国会に報告することを義務づけています。

これまでの「生物多様性国家戦略」が必ずしも検証を必要としないのに対し、これからの国家戦略は、基本法にもとづく法定計画として、実施状況が毎年、確認されるようになりました。

このような地域主体による積極的な動きが、今後ますます、国内における生物多様性保全において、重要な役割を果たしていくことは、間違いありません。

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