SUSTAINABLE
COTTON
JOURNEY

いつまでも、ファッションを楽しむために。
いま考えたい、地球に優しい
服の作り方、売り方、そして選び方
FACT SHEETS OUTLINE
JUMP TO THE PART

TIME FOR JOURNEY.

TOGETHER POSSIBLE.

さあ、旅を始めよう

SCROLL DOWN
Avant-garde: the water risks and opportunities facing apparel and textiles clusters ‒ Part II, Water risk facing the Industryʼs value chain. WWF Germany / WWF-Sweden.(2022)を元に WWFジャパン作成
PART
1
服になって、
私のもとに届くまで
例えば、そのコットンシャツ。どのようにして作られ、私たちのもとへ届いたか、知っていますか?
そして服ができるまでに、地球の大切な資源である水を大量に消費していることを。
いつまでも、ファッションを楽しむために、今ここで、服と水資源の問題に向き合ってみませんか?
Q

私たちの服は、
どこから来たの?

A

まるで旅をするかのように。いくつもの国や工程を経て、
私たちのもとへ。

1.
綿花を育てる
綿花を育てる イメージ写真
© Matthieu Paley
綿花を育てる イメージ写真
© Charlotta Järnmark / WWF-Sweden
2.
糸にする
糸にする イメージ写真
© Asim Hafeez / WWF-UK
糸にする イメージ写真
© Asim Hafeez / WWF-UK
3.
生地へと加工する
生地へと加工する イメージ写真
© WWFジャパン
生地へと加工する イメージ写真
© Charlotta Järnmark / WWF-Sweden
4.
染色などの加工
染色などの加工 イメージ写真
© WWFジャパン
染色などの加工 イメージ写真
© Charlotta Järnmark / WWF-Sweden
5.
配送センターへ
配送センターへ イメージ写真
© Jason Houston / WWF-US
配送センターへ イメージ写真
© Jason Houston / WWF-US
6.
商社・アパレル会社を経て店頭へ
商社・アパレル会社を経て店頭へ イメージ写真
© Ella Kiviniemi / WWF
商社・アパレル会社を経て店頭へ イメージ写真
© Ella Kiviniemi / WWF
7.
私たちのもとへ
私たちのもとへ イメージ写真
© Pauliina Heinänen / WWF
私たちのもとへ イメージ写真
© Katrin Havia / WWF
8.
廃棄・リリースなど
廃棄・リリースなど イメージ写真
© Meridith Kohut/WWF-US
廃棄・リリースなど イメージ写真
© Pauliina Heinänen / WWF
SCROLL

私たちが服を手にするまでには多くの工程があります。主要な原材料であるコットンの場合、まずは畑で栽培した綿花を収穫し、種やゴミ、汚れなどを取り除いた後、紡績工場で糸になります。糸が織られたり編まれたりして生地になり、染色や裁断、プリントなどの加工、縫製を経て完成します。さらに検品などののち、アパレル会社へ配送され、ようやく店頭に並び、私たちのもとへ。生活に欠かせない服ですが、日本の小売市場で売られている衣料品の約98%は海外からの輸入のため、これらの生産背景が見えにくい課題があります。

Q

ファッションは今、
どんな課題を抱えているの?

A

農薬使用、CO2排出、
人権問題に加え、水資源への負荷が深刻な課題に。

私たちが大好きなファッションは、さまざまな環境・社会課題を、抱えています。例えば、私たちが手にする服は、その工程すべてを通して、非常に多くの水が使われ、また水を汚しながら作られています。大量生産、大量廃棄は、ゴミ問題、CO2排出を招いています。中でもコットン製品は、栽培時に水や薬品を大量に利用することで、周辺の水環境にも影響を与えています。そして綿花栽培には児童労働、強制労働などの社会問題も指摘されているのです。今回は、私たちがいつまでもおしゃれを楽しむために、サステナブルなファッションを、コットンと水環境を通して考えていきます。

PART
2
ファッションがもたらす
⽔環境への負荷
綿花が服になるまでの一連のプロセスでは、大量の水を使用したり、
農薬使用や工場排水による水質汚染など、水環境に強い負荷をかけています。
Q

私たちの服ができるまでに、
どんな工程で水が使われているの?

A

ほぼ全てのプロセスで水が消費され、中でも原材料の栽培段階で大量に使用。

図1 アパレル業界における水の影響(使用量)グラフ
WWF compilation based on a series of 6 corporate analyses (2022).

例えばコットンの場合、原材料である綿花が栽培、収穫されてから服になるまでにたどるほとんどのプロセスで、水が使われています。衣料品のライフサイクル全体で使用される水の量の割合をまとめたデータによれば(図1)、特に最初の「原材料の生産」段階での水使用は、サプライチェーン全体の半分以上であることがわかっています。このあと、摘み取った綿花を紡いで糸を作る紡績、糸の汚れや不純物を取り除くための洗浄、糸や生地に色をつける染色、そして生地の寸法や色を安定させる工程でも、多くの水が使われ続けているのです。さらに、最終製品の服として私たちの手元にやってきた後も、汚れたら洗濯をするなど、水と関わる機会がたびたび訪れます。

このような水と深い関わりを持つ衣料品、とくにコットン製品は、地球の水環境への少なくない影響につながっています。これらが、WWFが取り組みへの参加を呼びかけている理由なのです。

水質汚染 イメージ写真
© WWF-Turkey
Q

ファッションが水環境に負荷をかけているって、どういうこと?

A

私たちが選んだお気に入りの服が、水資源の枯渇や
水質汚染につながっているかもしれない……。

図2 水ストレスがある地域で栽培される農作物 グラフ
Analysis of global crop production overlaid on Aqueduct baseline water stress.Data from Gassert et al.2013,Monfreda et al.2008,Ramankutty et al.2008,Siebert et al.2013.See WRI.org/Aqueduct © WWF

綿花は1キロの生産のために世界平均で1,931リットルもの灌漑用水を使うことが知られている(※)一方で、収穫期には乾燥する気候条件が必要で、主にインドや中央アジア、アメリカ合衆国南部、ブラジル、オーストラリアなどを中心に栽培されてきました。それらの地域では雨水だけでなく、川や湖から水を引く灌漑用水で栽培されている地域もあります。これら、栽培に必要な気候条件と、灌漑による水使用が原因で、綿は、水ストレスの高い地域で作られる割合が最も高い農産物になっています(図2)。

The ICAC Recorder, June 2021

©Pond5

中央アジアの塩湖・アラル海にはかつて世界第4位の面積を誇る豊かな水がありましたが、1960年代から綿花を含む農作物の大規模な灌漑農業を進めた結果、現在はほぼ干上がった状態に。

また、ファッションの水環境への影響には、製造加工に使われる染料や化学薬品、温水が、適切な処理をされていない排水による深刻な水環境の汚染もあります。

PART
3
水が危ない! 
淡水生態系の深刻な危機
限られている地球の淡水。さまざまな人の経済活動などにより、
淡水生態系の生きものの豊かさは、過去50年間で85%減少しました。
Q

水が危ないってどういうこと?

A

私たちが使える淡水はごくわずか。使い続けた上、地球温暖化や人口増加が進めば災害の激甚化や深刻な水不足に。

図1 地球上の水 内訳グラフ
Eau Courant: Water stewardship in apparel and textiles – Part I, Water and the Industry’s value chain. WWF-Germany. (2022) を元にWWFジャパン作成

“水の惑星”と呼ばれるこの地球上には、約14億km3の「水(H2O)」が存在します。しかしその96%近くは海水で、淡水はわずか2.48%。しかも飲料水や農業・工業に利用できる水(アクセス可能で再生可能な淡水)は0.19%しかありません。それを他の生きものとも共有しているのですから、私たちが利用できる水は極めてわずかということになります。さらに、私たちは貴重な地球の水に依存して生きていると同時に、過剰な水の採取や汚染、ダム建設や治水による物理的変化など、水環境にさまざまな影響を与えていることも事実です。そのわずかな水は地球上に均等にあるわけではなく、豊富な地域と不足している地域が偏って存在しています。さらに、気候変動が進むとその偏りによる影響がより顕著になり、干ばつや洪水の頻度、強度が増すと予測されています。

Q

淡水域の生きものにはどんな影響が出ているの?

A

過去50年間で淡水生態系の豊かさは85%減少し、多くの生きものが絶滅の危機に。

図2 淡水の生物多様性に対する主要な脅威 図版
Living Planet Report 2020. Bending the curve of biodiversity loss: a deep dive into freshwater. WWF. (2020) をWWFジャパンで改変

人類の半数以上は川や湖、用水路などの「淡水域」から3km圏内に暮らし、淡水域の生物多様性の減少につながるさまざまな影響を与えています。たとえば経済活動や生活のために過剰に水を採取したり、排水によって水質が悪化したり、湿地の農地転換やダム建設、治水などによる生物の生息・生育域の変化や侵略性の高い外来生物の蔓延も、水環境を劣化させる脅威となっています。(図1)

さらに近年では、地球温暖化による気候変動の影響も深刻です。WWFが2024年に公開した「生きている地球レポート」では、1970年と比べて淡水域の生きものの豊かさが85%減少したことを調査結果が示しています(図2)。

IUCN=国際自然保護連合の研究チームは2025年1月に、現在、世界の淡水に生息する生物約2万3000種のうち24%が絶滅の危機にあるという分析結果を発表しました。その中にはコツメカワウソや、日本固有の淡水魚の約40%も含まれています。

図3 生息環境別の“生きている地球指数”グラフ
LPI:Living Planet Report 2024 – A System in Peril. WWF, Gland, Switzerland. WWF. (2024) を元にWWFジャパン作成
Q

このまま何もしなければ、10年後の地球はどうなっているの?

A

綿花生産地の多くはすでに水リスクに直面。水不足や洪水などによって、事態はさらに深刻化。

コツメカワウソ イメージ写真
© Sanchez&Lope / WWF

私たちの生活は、地球の水環境に依存することで成り立ち、その結果さまざまな影響を及ぼしています。農業や畜産、工業などの産業は、膨大な水使用に依存して拡大してきたことで、水資源の枯渇だけでなく、水質の悪化、生態系の劣化などの影響を及ぼしてきました。その産業には、繊維産業も含まれます。

WWFが、水環境の将来リスクを予測するツールとして提供するオープンソース「Water Risk Filter」では、綿花の生産地が集中するインド、中国、アメリカ、ブラジル、オーストラリアと、製造・加工の拠点が多い中国、東南アジアなどが、現時点ですでに水リスクが高い地域であること示しています。近年、進行傾向にある気候変動により、使用可能な水の不足や、洪水などの水リスクが、さらに加速することが懸念されています。

コットン生産地の水の物理的なリスク地図
© WWFジャパン

コットン生産地の水の物理的なリスクを示した図。コットン栽培に水リスクがある地域には、紡績・染色等の繊維工場も多く集積している。サプライチェーンを通して高い水リスクにさらされていることで、企業の安定した調達・供給への影響も懸念される。

Q
そもそも淡水ってなに?
A
河川・湖沼等の塩分濃度の低い「水」のこと

河川や湖沼、湿地などにある塩分濃度の低い水が「淡水」であり、こうした環境のことを本報告書では「水環境」としています。例えば、写真のインダスカワイルカはこうした水環境に暮らす絶滅危惧種ですが、生息域の水位低下や汚染等が原因で個体数が減少しており、健全な水環境の保全が種の保全のためにも重要です。

インダスカワイルカ イメージ写真
© WWF-Pakistan
COLUMN
ファッション業界、
他にもある課題とは
バングラデシュ ビル崩壊事故 写真
© Sk Hasan Ali / Shutterstock.com

児童労働、劣悪環境下の労働など、人権侵害に関わる社会的な課題も。

繊維産業は、これまで伝えてきた水環境への影響だけでなく、原材料の綿花栽培地域での多量の農薬使用による土壌汚染や生物多様性への脅威などの問題も生じさせています。また、綿花栽培地では、児童労働、強制労働、債務労働などの人権侵害に関わる問題も発生しています。過去にはバングラデシュのビル崩壊事故によって劣悪な労働環境で、低賃金で働く衣料工場の労働者が多く犠牲となり、大きな問題となりました。

PART
4
コットン製品の
サステナブルな調達とは
労働の安全性や環境に配慮した服づくりのために、繊維産業に求められること。まずは、
原材料の生産・加工にも目を向け、サプライチェーン全体を俯瞰するところから。
Q

アパレル業界が水環境を守るためにできることには、
どんなことが考えられるの?

A

サプライチェーン全体を俯瞰して、リスクを把握し、
改善方針を策定。認証制度の積極的な活用を。

POINT 1
自社サプライチェーンの把握
POINT 2
拠点ごとのリスク特定と、改善の取り組みの優先順位付け
POINT 3
認証制度を利用したリスク低減と、取り組みの加速
慣行農法の土とオーガニック農法の土 イメージ写真
© WWFジャパン

右は慣行農法の土で、左はオーガニック農法の土。オーガニック農法の土壌は微生物の働きが活性化することで、保水力が高くなる。

アパレル・繊維産業の水リスクへの対応には、国内の自社拠点での節水、排水対策だけでなく、原材料の調達、製造加工の拠点も含めた「サプライチェーン全体」を視野に入れてさまざまなリスクを考えることが必要です。たとえば、原材料の調達とその後の加工を施す国が別々であれば、水リスクはそれぞれに異なります。水リスクは、操業に直接の影響を与える可能性もあることから、どこか一カ所でもそのリスクがあると、サプライチェーン全体、さらにはビジネスに深刻な打撃となることも。そこで、自社のサプライチェーンのどこに、どのような水リスクがあるのかを把握することが重要です。そのリスクを把握したら、改善の目標や取り組みの計画を含む「環境・調達方針の作成」を行います。ここで大切なのは、サプライチェーン全体を俯瞰したマクロの視点と、拠点レベルでのリスク対策というミクロの取り組みが含まれていることです。とはいえ、複雑なサプライチェーンのすべてを把握することはとても難しいことも事実です。

そこでWWFが推奨しているのが、信頼できる「認証制度」などの仕組みを使ったリスクの低減です。WWFジャパンは企業に対して、「Global Organic Textile Standard(GOTS)」と「Organic Content Standard(OCS)」をオーガニックに関する認証、また「Better Cotton(BC)」を、サステナブルなコットンの仕組みとして、それらの採用によるサステナブルな生産、調達への取り組みを推奨しています。

Organic Content Standard(OCS)ロゴ

原材料の95%以上がオーガニック繊維であることを示し、製品から産地の農園までのトレーサビリティが確保されたことを証明している。

Global Organic Textile Standard(GOTS)ロゴ

オーガニック繊維製品の製造加工に対する国際的な第三者認証。トレーサビリティ確保や環境、社会、人権に対する基準をバリューチェーンのすべての段階で満たしていることを示す。

Better Cotton(BC)ロゴ

より公平で持続可能な綿花生産を支援する世界的な非営利団体ベター・コットンが設定。基準を満たしていると認証されたものは、環境負荷の低減に配慮したコットンであることを示す。

MOVIE
「GOTS認証の取得を機に、循環性のあるものづくりをしていきたい。」
GOTS認証でコットンをサステナブルに クリックで動画再生

三恵メリヤス三木 健さん

「1926年創業の繊維メーカーです。オーガニックコットンで作ったTシャツは糸のスプリング力が高く、着る生地の中に空気を含んだような柔らかい感触になります。小さい会社でも、いいものを作って環境にも配慮していることが認証されれば世界でもやっていけると思い、GOTS認証の取得に踏み切りました。今は売り上げの3分の1が海外輸出です」

COLUMN
知っておきたい
サステナブルキーワード
オーガニックコットン
IFOAM(国際有機農業運動連盟)が提唱する有機農業の理念に基づき、CODEX(コーデックス委員会)が定めた国際ガイドラインを基に、各国が制定した基準に従って認証を受けた農地で、遺伝子組み換え種子を使わずに栽培された綿花。
グリーンウォッシュ
企業が効果の低い環境対策を「地球に優しい」などとアピールすること。近年は、自然共生サイトなどのイメージ先行の取り組みを優先し、自社サプライチェーンの環境負荷低減を疎かにすることも、グリーンウォッシュと見なされる。
トレーサビリティ
“一つの製品が、いつ、どこで、誰が、どのように作られたか”を明らかにするために、原材料生産、製造・加工、流通、販売に至るサプライチェーン全体において、原材料、製品を分別して管理し、追跡すること。
Q

いきものと自然、人に優しいコットンの栽培方法って?

A

世界で高まる、
自然、生きもの、人に配慮したコットン製品

TURKEY
トルコで
「ウォータースチュワードシップ」を推進
トルコ リスク地図
© WWF-Turkey

トルコでは同じ川の上流域に染色工場、下流部に綿花畑が広がり(上図)、染色工場からの排水や綿花畑の過剰取水が問題に。WWFは流域に関連する行政、農家、染色工場関係者を含むプラットフォームを形成し、水資源の保全や管理の責任を推進。畑の地表を覆うことで保水力を高め、水使用量低減のためのパイロット活動も実施しています。

トルコの農園の写真
© WWFジャパン

トルコの農園の様子。左は従来の通常農法、右は植物で地表面が被覆されている。右の農園は地表の乾燥が予防でき、土壌の保水力が高くなる。

INDIA
インドでの
サステナブルなコットン生産

インドでは、露出する地表面を覆う被覆植物や、複数の作物種を同じ畑で同時に栽培するインタークロッピング農法を導入し、農薬や化学肥料に頼らない農業を実践。プロジェクトに取り組む農家からは、土の保水力向上や、農薬による健康被害の低減に加えて、農薬などの資材を購入する費用が減ったという声が聞かれています。

インタークロッピング農法で栽培された植物の写真
© WWFジャパン
インタークロッピングを導入した農園の写真
© WWFジャパン

上はインタークロッピング農法で栽培されたさまざまな植物。下は、インタークロッピングを導入し、綿花が他の植物と一緒に栽培されている農園の様子。

今、世界では、水や土、生きもの、生産者や流域に暮らす人たちへの負荷低減を目的に、水の使用量低減や、農薬の不使用、または低減をして作られた「サステナブル・コットン」を使った製品を、企業が積極的に調達する動きが高まっており、WWFもこの動きの呼びかけ、支援をしています。WWFトルコでは水の使用量低減のため、農園にホースを巡らせ、必要な量だけを与える「点滴灌漑」や、土の乾燥を防ぐため、土壌を異なる植物で覆うなどの方法を取り入れています。さらにこの活動は、流域に関わる多様なステークホルダー、例えば中流域、下流域の綿花農家と、上流域の染色を行う企業、自治体に加え、欧米を中心としたファッションブランドとの連携による効果の拡大を目指しています。WWFインドでは、サステナブルなコットン生産とトレーサビリティを確保する仕組みの構築と、この取り組みを通した農家の生計向上を目指すプロジェクトや、製造工場での化学薬品を適切な処理による水環境への負荷削減の取り組みを行っています。

WWFジャパン・久保 優

WWFジャパン・久保 優

トルコやインドにおける持続可能なコットン・テキスタイル生産に関するプロジェクトを担当。水の使用量低減や土壌の健康、生物多様性保全を意識した「リジェネラティブ(環境再生型)農業」のパイロットプロジェクトや、流域の淡水生態系保全に向けた調査などを実施。

MOVIE
「私たちにとってベストな服って何? と考えて、オーガニックTシャツを作りました。」
GOTS認証でコットンをサステナブルに クリックで動画再生

福代 美乃里さん

生産者も笑顔でいられる服づくりをしたいとの思いで学生団体「やさしいせいふく」を現役高校生時代に立ち上げた福代美乃里さん。「自分がおしゃれを楽しむことで、多くの人の犠牲や環境破壊の上に成り立っていることを知り、衝撃を受けました。GOTS認証の『やさしいてぃーしゃつ』では人権侵害や環境破壊に配慮することの大切さを伝えています」

COLUMN
WWFと企業のサステナビリティ
推進のための連携

WWFではグローバルに、さまざまな企業との連携を通してサステナビリティに取り組んでおり、得られた成果はセミナーやウェブサイトなどを通じて広くお伝えしています。右の図はH&Mとのパートナーシップによる成果をまとめたレポートです。

ファッション関連企業の皆さまにおかれましては、自社のサステナビリティ推進への提言(PART 4参照)や、インドやトルコでのプロジェクトへの参画のご相談も承ります。まずはぜひお問い合わせください。

ご質問・ご相談など、
WWFジャパン淡水グループへ
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お問い合わせ

WWFとH&Mによるレポート 表紙画像
PART
5
【事例インタビュー】
サステナブルなコットンを
作る人、売る人
トレーサビリティの把握や第三者認証の取得、さらには綿花の生産現場まで踏み込み、挑戦している
日本企業で働く人たちをピックアップ。きっかけや悩み、やりがいを率直にお聞きしました。
Q

日本でも、サステナブルなコットン調達に向けたチャレンジは進んでいるの?

A

商社やアパレルブランドなど、日本企業からも、
先進的な取り組みが生まれています。

実際に取り組みに挑戦されている皆様へのインタビューをご紹介します。

株式会社TSIホールディングス 下地 毅さん 写真

株式会社TSIホールディングス

下地 毅さん

「お客さまが手に取る製品。サステナブルが“あたりまえ”の環境を提供したい」

インタビューを読む
株式会社TSI ナノ・ユニバース事業部 阿部 晃さん/大澤 凱心さん/大森 拓実さん 写真

株式会社TSI ナノ・ユニバース事業部

阿部 晃さん/大澤 凱心さん/大森 拓実さん

「OCS認証取得が実現できたのは、お互いの専門性を生かしチームとして取り組めたから」

インタビューを読む
株式会社TSIホールディングス 本宮 ⾭芸さん 写真

株式会社TSIホールディングス

本宮 ⾭芸さん

「水環境を守るために、トレーサビリティの把握と品質を証明する認証マークの取得を」

インタビューを読む
スタイレム瀧定大阪株式会社 ⾕⽥ 修⼀さん 写真

スタイレム瀧定大阪株式会社

⾕⽥ 修⼀さん

「優しい未来につながると信じて。繊維商社である私たちが農業を始めた理由」

インタビューを読む
タキヒヨー株式会社 ⼟屋 旅⼈さん 写真

タキヒヨー株式会社

⼟屋 旅⼈さん

「綿花の生産者に支援活動する会社と取り組みを。社会的責任を果たすことで自分の仕事にプライドを持ち続けたい」

インタビューを読む
三起商⾏株式会社(ミキハウス) 平野 芳紀さん 写真

三起商⾏株式会社(ミキハウス)

平野 芳紀さん

「GOTS認証を取得したオーガニックコットンの新生児アイテムは8年目に」

インタビューを読む
INTERVIEW

お客さまが手に取る製品。
サステナブルが
“あたりまえ”の
環境を提供したい

株式会社TSIホールディングス
代表取締役社長 CEO
下地 毅さん
株式会社TSIホールディングス 下地 毅さん 写真

2018年より上野商会 取締役社長を務め、同社がTSIホールディングスに株式譲渡したことにより、2021年より代表取締役社長に就任。2025年3月より代表取締役社長CEO。

収穫したオーガニックコットン、まもなく製品に

約50もの国内外ブランドを手掛ける大手アパレル会社「TSIホールディングス」は2022年、インドで環境と人権に配慮したオーガニックコットン栽培を展開する日本の農業ベンチャー企業「シンコムアグリテック」社と資本業務提携を締結しました。目的はトレーサビリティ(※PART 4参照)を把握し、環境負荷の低減や周辺地域の環境保全、労働者の環境改善の実現。ご自身の環境問題に関する意識やこの計画に期待することなど、代表取締役社長CEOの下地毅さんに伺いました。

マーガレット・ハウエル氏直筆デザイン画 写真

ブックシェルフには、ブランド創立から環境問題を意識したものづくりをするマーガレット・ハウエル氏の直筆デザイン画が。

「子供のころ、故郷である沖縄、宮古島の海でタンカーが座礁し、海面が廃油まみれになったことがありました。それが環境への関心を持った原点です。以来、常に環境問題には興味があったのですが、2015年に国連がSDGsを発表した時期に、社内から何か行動を起こしたいと声が上がりました。僕は面白い、いいね、やろう!と。その後、率先して動き、2021年にSDGs推進室を設置。シンコムアグリテック社を支援するプロジェクトもこのころ始まりました。インド側からは農業、貧困層をそれぞれに支援する2つの団体もこのプロジェクトに参画し、一緒になって品質管理や人権問題に取り組んでいます。現在はインドのタミルナドゥ州にある畑で試験栽培した綿花を収穫し、紡績糸が完成して、製品化を進めている最中です。今後は、畑の面積を増やして収穫量を上げ、当社のさまざまなブランドで、収穫したオーガニックコットンの製品を展開したいと思っています」

“あたりまえ”の社会づくりが、私たちの役割

「このプロジェクトでは、お客さまが手に取る製品が、“あたりまえに環境にやさしいものである”未来を目標にしています。かっこいいデザインや、着心地のよい商品を提供する際に、私たちが“あたりまえ”に環境や人権に優しい素材を使用すれば、環境やサステナブルという言葉は不要になり、その目標は実現するはず。これはアパレル業界が、環境に負荷をかけない社会を実現させるためにできることです。ただ、当社だけでは分母が小さい。今後は他社のアパレル企業や繊維商社たちとも連動し、日本中で応援するという啓蒙活動を続けたいと思っています。同業者でライバルではあるけれど、裏側では一緒に同じ原材料を使って作りましょうよ、と協働できる関係が理想ではないでしょうか。アパレル業界にいる私たちも地球の住人として、この星の限界を考えながら、使用する原材料と向き合う時期が来ました。綿花栽培までさかのぼったこの取り組みは、ファッションの未来を考えると、とても夢があることだと思っています」

クリエイティブにあふれた社長室 写真

飛行機の模型や、美しい情景の写真集、デザイナーからの絵葉書などが飾られ、クリエイティブにあふれた社長室。

撮影 / 安田光優

INTERVIEW

OCS認証取得が
実現できたのは、
お互いの専門性を生かし
チームとして取り組めたから

株式会社TSI ナノ・ユニバース事業部
商品セクション
WOMENʼS パタンナー
阿部 晃さん
WOMENʼS デザイナー
⼤澤 凱⼼さん
WOMENʼS 生産管理/繊維製品品質管理士
⼤森 拓実さん
株式会社TSI ナノ・ユニバース事業部 阿部 晃さん ⼤澤 凱⼼さん ⼤森 拓実さん 写真

写真左から、パタンナーの阿部晃さん、デザイナーの大澤凱心さん。OCS認証の書類手続きをメインで担当した、製品の生産管理担当の大森拓実さん。

アパレル業界が変わる、大きな流れを生み出すために
WOMENʼS デザイナー ⼤澤 凱⼼さん 写真

2023年OCS認証(※PART 4参照)にルール改定があり、これまで申請不要だった小売店・ブランドも認証取得が必要に。数あるブランドの中、先陣を切って挑んだのは、洗練したスタイルを提案する「ナノ・ユニバース」です。認証を取得するための手続きには取引先すべてのサプライチェーンの調査や、膨大な書類作成などをしなくてはなりません。多くの時間と労力を要するのに、なぜそこまでして取得を試みたのでしょう。主力となって動いた3人は、WWF主催のセミナーがきっかけだったと言います。

大森「僕たちはそれまで、OCS認証のことをほとんど知りませんでした。環境問題に興味はあったものの、値段やデザイン、素材などの問題で、踏み出せていなかったんです。でも、セミナーでOCS認証制度の存在を知って、取得をしたら、業界が変わる大きな流れを生み出せるかもしれないと3人で話し、挑戦してみようということに。ただ取得をするためには膨大な資料や書類を整理したりそろえるなど、手間のかかる作業がありました。

阿部「一人では難しかったと思います。知識不足なところが多くあったので、WWFさんにはセミナー後、何度も相談に乗っていただき、支え続けていただきました。何より、3人がそれぞれの専門性を生かしながらチームで取り組めたから、途中で諦めることなく進められたと思います」

大森「各取引先のメーカーには非常に助けていただいていますし、今も仕入れの数など、負担をかけていると感じます。この取り組みが安定し、ビジネス面でも良い結果を出したいと思っています」

WOMENʼS パタンナー 阿部 晃さん 写真
誰にも責められない、ファッションを

阿部「実は始めた当初、サステナブルがPRにも使えるねと話していました。でも勉強していくうちに、事態は深刻で、気軽に言ってはいけないと思い始めました。その中で大澤が、『シンプルにデザインがかっこいいものにしようよ』と言ったんです。そこから、サステナブルをPRに使うのはやめよう。まずは良いデザイン、良い服として手に取ってもらえること。その先にサステナブルがあるようにしよう、がチームの共通認識になりました」

WOMENʼS 生産管理/繊維製品品質管理士 ⼤森 拓実さん 写真

大澤「今、デザイン画を描く段階まできました。とにかく多くのお客さまに手に取ってもらえることを意識しています。売れなかった、やっぱりダメだったなんて言われたら、次に繋げることができません。僕たちは必ず成功事例にしたいんです。アパレル業界にはさまざまな問題があります。作り手として自分で自分を肯定したものづくりをしていきたい。それはデザインだけでなく、選んだ素材にしても同じことです。デザイナーとして、そしてファッションが好きな1人の人間として、この素敵な文化を誰にも責められたくありません。これからもずっと、作る人も着る人も、誰もが楽しめて、後ろめたさのない服を作り続けたいと思っています」

OCS認証取得後のデザイン画 写真

手続きを乗り越えOCS認証取得。現在はデザイン画の段階。

ナノ・ユニバース 商品写真

コンセプトは「色気を纏わせる」。気品あるデザインと品質にこだわったものづくりを貫く。

撮影 / 安田光優

INTERVIEW

水環境を守るために、
トレーサビリティの把握と
品質を証明する
認証マークの取得を

株式会社TSIホールディングス
SDGs推進部⻑
本宮 ⾭芸あおいさん
株式会社TSIホールディングス 本宮 ⾭芸さん 写真

グローバル企業のサステナビリティ部門から、再生可能エネルギー企業への転職を経て、2022年よりTSIホールディングスのSDGs推進室へ。

コットンの生産背景にある環境負荷を見直したい。

環境学の修士号を持ち、TSIホールディングス全体のサステナビリティの経営の推進を担うSDGs推進部長である本宮靑芸さん。アパレル・テキスタイル産業で大量に使用するコットンの環境負荷を見直すために、企業はトレーサビリティ(※PART 4参照)の把握が先決でもっとも必要だと話してくれました。

「私たちの会社でのコットン使用率は全体の約30%を占めていて、もっとも多い原材料になります。そしてこのコットンが、栽培から製品化に至るまでの生産背景の中で、気候変動だけでなく、水や生物多様性に環境負荷を与えていることが指摘されています。改善するためには、企業としてどのような経緯をたどって製品になり、私たちのもとまで届いているかを把握することが最も先決で必要。その経緯が不透明のままでは、どの過程でどれほど環境負荷を及ぼしているかが具体的に見えてこず、解決策を見つけることができませんから。今、私たちの会社で取り組んでいるシンコムアグリテック社との資本業務提携や、OCS認証取得はトレーサビリティの把握にもつながります。環境問題にとって、非常に効果があるのではないかと期待しています」

インド農家でのオーガニックコットン栽培方法説明の模様
© シンコムアグリテック株式会社

資本業務提携するシンコムアグリテック社が、インド農家の人たちにオーガニックコットン栽培の方法を説明。

オーガニックコットンの苗を育成する様子
© シンコムアグリテック株式会社

綿花畑の土壌を有機農法によって改善し、オーガニックコットンの苗を育成する様子。

認証マークは人や地球に誠実であることの証

「そしてナノ・ユニバースチームのOCS認証取得までの努力はこれから後に続くブランドにとって参考になるはずです。服は製品によって素材や染色、デザインがすべて異なるため、その数だけ背景があり、たくさんの人や企業が関わっています。OCS認証を取得するには、それらすべてを把握し、書類をそろえなくてはなりません。手間のかかる申請を生産担当が頑張ってくれました。さらにその後、他のメンバーがデザイン、パターンを施すという連携プレイがあったから製品化までたどり付けたのだと思います。世界的に、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)の法制化や上場企業による情報開示の動きが始まっている中で、品質の確かさが可視化できるOCS認証は、お客さまに表示できる企業の誠実さの証だと思います。まだプロジェクトは始まったばかりですが、この取り組みは社内だけでなく、社外の方々も成功させようと頑張ってくださっています。これが単なるプロモーションではなく、アパレル産業全体に広がって、ものづくりそのものが変わっていくきっかけになればいいですね。少し先になるとは思いますが、いつか生物多様性の保全を視野に入れて、綿花畑の周辺地域の生態系を回復させるといった取り組みにも挑戦したいと思っています」

オーガニックコットンを用いた社内展示会 写真
© シンコムアグリテック株式会社

社員研修の一環として、シンコムアグリテック社と栽培されたオーガニックコットンを用いた展示会を社内で開催。

撮影 / 安田光優

INTERVIEW

優しい未来に
つながると信じて。
繊維商社である私たちが
農業を始めた理由

スタイレム瀧定⼤阪株式会社
専務取締役
経営企画本部 本部長
サステナビリティ推進室 室長
⾕⽥ 修⼀さん
スタイレム瀧定⼤阪株式会社 ⾕⽥ 修⼀さん 写真

1993年入社。2015年取締役就任、グローバル事業部 事業部長として従事。2016年から専務取締役へ。現在は経営企画本部 本部長とサステナビリティ推進室 室長も兼任する。

きっかけはインドで起こったオーガニックコットンの偽装問題

スタイレム瀧定大阪では、種の選定から綿花の栽培、糸の生産までをオーガニックのプロセスで管理する「ORGANIC FIELD®(以下、オーガニックフィールド)」を2021年から展開しています。この壮大な取り組みを牽引しているのが谷田修一さん。始めた経緯や、抱えている課題について聞きました。

「きっかけは、2020年にインドで発生したオーガニックコットンの偽装問題でした。私たちは認証を持った糸を紡績会社から購入していました。しかし、その認証が偽物だったとしたら、何を信じてお客さまに商品をお届けすればいいのでしょう。社内で検討を重ねた結果、『綿花の栽培から、自分たちでやってみよう』と決意し、取り組みがスタートしました。まずは非遺伝子組み換えの種を入手するため、インドの種苗メーカーであるNSL社とパートナーシップ協定を締結。選定した種を契約農家に配布し、種まきから収穫までのすべての工程を管理し、農家にオーガニック農法を指導しています」

コットン・イン・コンバージョン 写真

オーガニックフィールドで栽培された、2年目のコットン・イン・コンバージョン(IC2)。

天竺素材のハイゲージワンピース 写真

オーガニックフィールドはさまざまなアイテムに展開されている。天竺素材のハイゲージワンピース。

吸水性と滑らかな肌ざわりにこだわったタオル 写真

吸水性と滑らかな肌ざわりにこだわったタオル。(ORGANIC FOR EVERYONE)

コットン・イン・コンバージョンの理解を広めたい

「この取り組みの目的は、トレーサビリティを確保したオーガニックコットンを作るだけではなく、農家のオーガニック農法への転換を後押しし、その畑を増やしていくことです。そこで課題となるのが、コットン・イン・コンバージョン(以下、イン・コンバージョン)の扱いです。インドの場合、オーガニック認証を取得するには、オーガニック農法を3年間継続する必要があります。この3年間に収穫される綿花はイン・コンバージョンと呼ばれ、遺伝子組み換えでない種を使い、化学肥料も農薬も使わずに栽培していても、“オーガニックコットン”とは認められず、市場でプレミア価格がつきません。この移行期間が農家にとって最大のハードルになっているのです。そこで私たちは、この3年間の綿花をプレミア価格で買い取ることで、挑戦する農家を支援しています。日本ではイン・コンバージョンへの理解が十分に広がっておらず、多くの方が『いい取り組みだけど、オーガニックコットンではないんですよね』と、そこで終わってしまうのが現状です。しかし、イン・コンバージョンを正しく理解し、価値を認めてくれる企業が増えなくては、世界でたった約1%しかないオーガニックコットンの畑は増えていきません。問題は山積みですが、我々がリスクを背負ってでも続ける取り組みが未来に与える影響は、決して小さくないと思っています」

オーガニックフィールドの綿花畑を訪れたときの様子
© スタイレム瀧定大阪株式会社

昨年「オーガニックフィールド」の綿花畑を訪れ、実際に収穫を手伝った際の様子。「生産者との交流の中でさまざまな話を聞き、気付かされることも多い」と言う。

撮影 / 松村シナ

INTERVIEW

綿花の生産者に支援活動
する会社と取り組みを。
社会的責任を果たすことで
自分の仕事にプライドを
持ち続けたい

タキヒヨー株式会社
取締役執行役員 スタッフ副担当
兼 グローバルブランドグループマネジャー
兼 サステナブルセクションリーダー
⼟屋 旅⼈さん
タキヒヨー株式会社 ⼟屋 旅⼈さん 写真

2002年タキヒヨー入社。国内のテキスタイル販売部署を経て、イタリア・ミラノ支店で3年間の研修・駐在を経験。帰国後もテキスタイルの輸出入を担当する中で、海外の高級メゾンがいち早く環境問題への取り組みを始める様子に触れ、時代が変わる予兆を感じ取ったという。

生産者と取引先をつなぐ繊維商社だからできること

繊維商社のタキヒヨーは2024年から、インドのオーガニックコットンを扱うPratibha Syntex 社(以下、プラティバ社)と取引を開始しています。「この取り組みは繊維商社ならではで、大事な役割を果たしていると思います」と、プロジェクトリーダーの土屋旅人さん。

「プラティバ社はインドの会社で、農家にリジェネラティブ農法(農地の土壌を修復・改善しながら環境の回復を目指す農業のプロセス)を教えるなど教育面での支援活動をしています。そこのオーガニックコットンを僕らが仕入れ、海外や日本のメーカーへ販売しています。これは生産現場とメーカーとの間にいる繊維商社だからできる、サステナブルな取り組みではないでしょうか。しかし、社内の合意形成は、最初からスムーズに進んだとは言えませんでした。社内でプロジェクトの説明会をしたときのこと。いくら僕が、海外で開催された環境カンファレンスに参加して感じたことを説明し、プロジェクトの重要性を説明しても、好意的な感触が得られなかったんです。これは同じ体験をしてもらった方が早いと思い、その後のカンファレンスには他の社員に行ってもらうようにしました。すると参加したメンバーが、次々と声を上げるようになったんです。どんなプロジェクトでもそうですが、誰かに言われて動くのではなく、自発的に行動してもらえるよう導くことが大事だと感じました」

GOTS認証を取得したサプライチェーンで生産した子ども服 写真
インドの工場で生産したアパレル製品のサンプル写真
インドの工場で生産したアパレル製品のサンプル写真

写真の商品はすべてインドの工場で生産したアパレル製品(サンプル)。1枚目の写真はすべてGOTS認証を取得したサプライチェーンで生産した子ども服。

取り引きを続けることが最大の支援に

「現地でプラティバ社のスタッフに、どういった関わりが支援になるかと聞いたことがありました。資金の支援や、農機具の調達などいろいろあると思ったんです。すると、『取引を続けてもらうことが一番の支援です。それが生産者を始め、工場で働く人たちみんなを継続的に支えることになるんですよ』と言われました。言われてみればそのとおりです。それこそがサステナブルな環境づくりに繋がっていくと思いました。収益を重視することは大事です。ただ、社会的責任を果たす時代が来たのではないでしょうか。今、意識を変えないと、あらゆる面で影響が出てくると思うんです。例えば新規採用で人が来ないとか、離職率が高くなるとか。自分たちの商品を堂々と薦められなかったり、仕事に誇りが持てなかったら、モチベーションも下がってしまうでしょう。僕は自分の仕事に誇りを持ち続けたい。日本はサステナビリティな取り組みに関して後進国と言われていますが、海外も最初は関心がなかったところから始まり、少しずつ変わってきました。日本でも同じように変わっていくと信じています」

Tribal Area(部族地域)の女性たち 写真
© タキヒヨー株式会社

Tribal Area(部族地域)の女性たち。リジェネラティブ農法の支援は、女性たちのエンパワメントにもつながる。

撮影 / 安田光優

INTERVIEW

GOTS認証を取得した
オーガニックコットンの
新生児アイテムは
8年目に

三起商⾏株式会社(ミキハウス)
経営企画本部 ESG推進部
執行役員部長
平野 芳紀さん
三起商⾏株式会社(ミキハウス) 平野 芳紀さん 写真

1992年入社。以来、企画・生産部門に従事、品質管理と顧客サービス部門の設立にも携わる。2023年よりESG推進部にて企業全体を通したサステナビリティな課題に取り組む。

サプライヤーとの連携によって得られたGOTS認証

子ども服ブランド「ミキハウス」を手がける三起商行は、2018年にGOTS認証取得の新生児用肌着を展開してから、製品を作り続けています。「当時はGOTS認証取得の認知度が低い時代。サプライヤーの方々がよく理解してくださいました」と話してくれたのは、認証取得から現在まで取り組みに携わり続けている、平野芳紀さん。

ミキハウス ショールーム、子育て体験空間「ミキハウスLABO」写真
© 三起商行株式会社
ミキハウス ショールーム、子育て体験空間「ミキハウスLABO」写真
© 三起商行株式会社

ミキハウス本社の地下1階にはショールームや子育て体験空間「ミキハウスLABO」が。プレママ・プレパパのための沐浴や足育などのセミナーやイベントも定期的に開催。

「あのころ、社内にはまだエシカルという視点がありませんでしたが、幅広い層のお客さまのニーズに応えたいと考え始めていました。すでにサステナブルな取り組みをしていた取引先に相談をすると、『国際的に認められていて、一番安心できるのはGOTS認証ですよ、ただ厳しい監査があることでも有名ですが』と教えてもらいました。昔から、私たちは子どものことを第一に考え、安心・安全なものづくりにこだわっていましたから、世界レベルでの管理基準で運用されるオーガニック認証であるGOTS認証は、本物志向の弊社のものづくりの考え方と合致する、ということで始まりました。そうなるとまずはすべての工程や資材に関わるサプライヤーへの説得です。最初は難色を示されましたが、当然です。原材料、薬品は適正なものを使用していることがわかる証明書や、管理方法、労働状況の書類など、提出物も多く、さらにGOTSとして扱う製品は、保管場所も製造工程も従来のラインと分けなくてはなりません。工場にとっては労力に加え経費もかかります。しかし私たちからしたら、サプライヤーには認証取得してもらわないと始まりませんから、継続したお取引を約束しますからお願いします、と何度も説得を重ねました。認証取得後は、運営までに1年、それから何度も生地の改良を繰り返し、製品化には2年ほどかかりました」

GOTS認証が信頼となり、百貨店のニーズとつながった

「私たちは素材をはじめ、生地や縫製など、製造のどの過程にも細心にこだわり、長く愛していただけるものづくりを目指してきたブランドなので、GOTS認証の製品も長期的な事業として取り組めてきたと思います。10年経ち、ようやく工場との連携や、製品の供給が安定してきました。GOTS認証により、百貨店のベビー売り場をトータルで任せていただけるようになったことは、ビジネス上での大きなメリットでした。先方も脱炭素、生物多様性などエシカルなお客さまのニーズに対応したいと思われている中で、我々の取り組みがフィットしたのだと思います。最近は、エシカルな考えの方も増えました。数として多くはありませんが、国内外でさらに広がる市場だと思います」

GOTS認証取得のオーガニック素材ベビーウェア写真
GOTS認証取得のオーガニック素材ベビーウェア写真

オーガニックという素材に加え、肌ざわりの良さにもこだわったGOTS認証のベビーウエア。品質が保証されていることもあって、プレゼント用としても人気。

撮影 / 松村シナ

PART
6
いつまでも豊かな
水環境を守るため、
私たちにできること
私たちがおしゃれを楽しむその裏側で、水環境の危機は深刻です。けれど理解を深めたり、取り組んでいる人に
エールを送る行動を始めたら、未来は変わるはず。今、ここから始めませんか。
Q

選ぶ側の私たちにできることは?

A

私たちの小さな行動の積み重ねが、未来の地球を守るはず。

買う側の私たちにも、水環境を守るためにできることがあります。まずはできることから始めませんか?

ACTION
水環境を守るために、
私たちができること
買いものの際にGOTS認証やOCS認証を探して選ぶ
作り手に応援のメッセージを届ける
いつも使っている製品のメーカーや販売店にリクエストを送る
かわいいとサステナブルが叶う「PANDA SHOP」
WWFジャパンの
「PANDA SHOP」は
OCSブランド認証を取得し、
GOTS認証製品の
開発もしています

利益のすべてが環境保全の資金として活用される公式オンラインショップ「PANDA SHOP」では、コットン製品のトレーサビリティをより強固なものにすべく、「OCSブランド認証」を取得しています。また、Tシャツやバッグ、タオルなど、GOTS認証の商品開発にも力を入れています。これからも繊維産業のトレーサビリティを高める重要性をステークホルダーに伝え、持続可能なコットン製品の普及を推進していきます。

PANDA SHOP はこちら
PANDA SHOPラインナップ例 写真

左から、「パンダロゴシリーズ」ポーチ ¥4,500、ロングスリーブのTシャツ \6,600、スウェット ¥8,800、トートバッグ ¥6,600 / カバプリントのTシャツ ¥5,500(全て税込価格)

もっと知りたい方へ
  • 「トルコでのコットン栽培・テキスタイル生産の改善とウォータースチュワードシップ推進プロジェクト」

    詳細はこちら
  • 「【動画あり】「GOTS認証」でコットンをサステナブルに~ファッションが好きだからこそ挑み続けるふたりの動画を公開」

    詳細はこちら
  • 「コットンって環境に悪い?サステナブルファッション視点でのコットンの生産と利用」

    詳細はこちら
  • 「水環境保全:中国における繊維生産改善プロジェクト」

    詳細はこちら
  • 資料案内「水リスクへの視点自社拠点から流域へ・自社からサプライチェーンへ」

    詳細はこちら
MESSAGE
~ともに地球で生きる皆さんへ~

みなさんにとって、非常に身近なコットン製品。しかし、環境や社会問題が多く指摘され、中でも水環境が深刻な問題を抱えていることを、本ページではお伝えしました。この問題を解決するためには、綿花の栽培から、製造加工、物流や販売など、商品の開発から消費者の手に渡るまでの一連の流れをしっかりと把握し、生産従事者や自然環境への影響を把握することが大切だと考えます。そして、こうした環境問題に取り組んでいる企業や人たちに関心を持ち、理解し、応援することがサステナブルなものづくりには必要不可欠です。

私たちの地球を守るために、まずは大好きなファッションから目を向けてみませんか。私たちも、解決に向かうために、さまざまな取り組みの役に立てるよう、力を尽くしていきます。

WWFジャパン
自然保護室 淡水グループ
小林俊介
WWFジャパン 自然保護室 淡水グループ 小林俊介 写真

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