アムールヒョウの交通事故


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

自然保護室の川江です。

昨年、WWFも参加した大規模な調査により、極東ロシアのアムールヒョウの個体数が2007年の30頭から最大で70頭にまで増加していることが分かりました。

しかし、それでもわずかに70頭。いまだ絶滅の危機から脱したとは言えず、森林の減少・劣化と密猟が大きな脅威となっています。

さらに、アムールヒョウが命を落とす人為的な原因はこれだけではありません。

その他の原因の1つが交通事故です。

アムールヒョウの生息地の中心は「ヒョウの森国立公園」ですが、その周辺部には幹線道路が走っています。

そして昨年10月、この道路で1頭のヒョウが車にひかれて死んでしまいました。

このヒョウは「メアムール」と名付けられた8才のオスで、これまで道路の安全を確認して横断する姿が何度も目撃されており、今回、なぜ突然飛び出したのかはわからないままです。

交通事故が起きた道路

残念なことに、国立公園周辺で、希少な野生動物が交通事故に遭うのは今回が初めてのことではありません。

2014年12月には、シベリアトラが路上で死んでいるのが発見され、WWFの専門家も参加した司法解剖の結果、死亡の原因は車にはねられたためであることがわかりました。

また、その少し前にはクマも交通事故の犠牲になっています。

メアムールの生前の動画

野生動物、特に若くて健康な個体が交通事故で死んでしまうのは、絶滅の危機にある動物の個体数回復にとって大きな打撃です。

現在、「ヒョウの森国立公園」の周辺道路では、一部をトンネル化する工事が5年以上にわたって行なわれています。

しかし、トンネルだけで全ての交通事故が防げるわけでは、もちろんありません。

何より必要なのは、地域の人々に野生動物の存在に注意を傾けてもらうこと。

私たちはこれからもそうした人々と共に、極東ロシアの森と動物たちの保全活動を進めていきたいと思います。

ヒョウの保護区であることを示す看板。しかし保護区であるだけでは、保護はできません

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自然保護室長(森林・野生生物・マーケット・フード・コンサベーションコミュニケーション)、TRAFFICジャパンオフィス代表
川江 心一

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士課程修了。
小学生の頃に子供向け科学雑誌の熱帯雨林特集に惹きつけられて以来30年間、夢は熱帯雨林保全に携わること。大学では、森林保全と地域住民の生計の両立を研究するため、インドネシアやラオスに長期滞在。前職でアフリカの農業開発などに携わった後、2013年にWWFに入局。WWFでは、長年の夢であった東南アジアの森林保全プロジェクトを担当し、その後持続可能な天然ゴムの生産・利用に関わる企業との対話も実施。2020年より現職。

小学生の頃に科学雑誌で読んだ熱帯雨林に惹きつけられると同時に、森林破壊のニュースを知り「なんとかしなきゃ!」と思う。以来、海外で熱帯林保全の仕事に携わるのが夢でしたが、大学では残念ながら森林学科に入れず・・。その後、紆余曲折を経て、30半ばにして目指す仕事にたどり着きました。今でもプロジェクトのフィールドに出ている時が一番楽しい。

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