震災で生息域が変化?コクガンの生きる海


自然保護室の前川です。
コクガン(黒雁)という名前の鳥をご存じですか?主に北海道から東北地方の沿岸域に、冬になるとやってくる渡り鳥です。

日本で見られる他のガン類と異なり、この鳥は岩場の多い海岸や沖合いに生息します。環境省のレッドリストでも、絶滅危惧2類に指定されており、また国の天然記念物にもなっている数少ない鳥です。

先日、「暮らしと自然の復興プロジェクト」の現場である宮城県南三陸町を訪れた際、海岸でこのコクガンの10羽ほどの群を見ることが出来ました。

実はこのコクガンに、ちょっとした異変が起きているといいます。昨年までほとんど確認できなかった場所で、姿が確認できるようになったのです。

この原因として推測されているのが、東日本大震災による自然環境の変化です。

普段、海上に浮かんでいる生け簀やブイ、ロープなどには、コクガンの食物となる藻類がたくさん付着しています。しかし、津波が押し寄せた地域では、こうした漁具や養殖施設が、みな流されてしまいました。

さらに、地盤沈下が生じた海岸部には、新たな藻場が形成され始めています。既存の採食場の消失と、新たな採食場の出現。これが、コクガンの生息域を変えたのではないか、というのです。

「暮らしと自然の復興プロジェクト」のもう一つの現場である、福島県相馬市の海岸でも、このコクガンが数十年ぶりに確認されたといいます。

こうした変化が本当に震災の影響なのか、またさらなる影響を及ぼす可能性があるのかどうか。その確認には、さらなる調査とデータの蓄積が必要でしょう。ただ、自然の変化が確かに起きていることは、現場でのさまざまな調査活動からもうかがわれます。
引続き調査と情報の収集につとめたいと思います。

 

20120312blog3.jpg

南三陸町で見たコクガン。現在は全国で
毎冬1000羽近くが記録されますが、
一時期、狩猟と生息地開発が原因で
個体数が減少したといいます。

20120312blog1.jpg

志津川湾に面した南三陸町の海

20120312blog2.jpg

今回行なった調査の様子。
近々ご報告いたします。

この記事をシェアする

自然保護室(海洋水産 グループ長)
前川 聡

修士(動物学・北海道大学)
渡り性水鳥の全国調査および国際保全プログラムのコーディネーター業務、WWFサンゴ礁保護研究センター(沖縄県石垣島)での住民参加型の環境調査および普及啓発業務、海洋保護区の設定および管理状況の評価業務等に従事後、2011年より東日本大震災復興支援プロジェクトと水産エコラベルの普及および取得支援に携わる。養殖業成長産業化推進協議会委員。

日本各地の漁師町を訪ねては、持続的な養殖や漁業の推進のために関係者の方々と話し合いをしています。道すがら、普段はなかなか見ることができない風景や鳥を見つけては、一人ほくそえんでいます。もちろん、新鮮な魚介とお酒も! 健康診断の数値が気になるAround Fifty

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP