適正なネコの飼育を!奄美大島での新たな条例と対策


アマミノクロウサギをはじめ、多くの固有種が生息する鹿児島県の奄美大島と徳之島。しかし今、人が島外から持ち込んだ外来種(外来生物)が、その自然と未来を脅かしています。現在その影響が最も懸念されているのはネコ。2017年には鹿児島大学により、アマミノクロウサギの幼獣を襲ったネコの映像が初めて撮影されました。そんな中、奄美大島の5つの市町村が、飼い主を明確にするマイクロチップ埋め込みの義務化や、違反時の罰則などを盛り込んだ、画期的なネコ飼養条例の改正を実施しました。

外来種に脅かされる南西諸島の自然

九州南端から台湾にかけて連なる南西諸島の島々。
「東洋のガラパゴス」とも呼ばれるこの島々には、世界中でここでしか見られない多くの固有種が数多く生息する、生物多様性の宝庫です。

鹿児島県の奄美大島と徳之島もそうした自然に恵まれた場所の一つ。両島にのみ生息する固有種アマミノクロウサギはその代表的な野生動物です。

沖縄本島や中国大陸で化石が見つかっているアマミノクロウサギの祖先は、かつて南西諸島が大陸とつながっていた時代に、他の地域や島々にも生息していました。

しかし、天敵である肉食動物の進化や、生息環境そのものの長期的な変化によって、他の地域では絶滅。

アマミノクロウサギ

「大陸の断片」として孤立した島々の中で、奄美大島と徳之島の2つの島でのみ生き延びることができました。

アマミノクロウサギのように、小さな島の環境に適応し、独自の進化を遂げてきた離島の固有種の多くは今、人が他の地域から持ち込んだ「外来種」により脅かされています。

もともと天敵の少ない島で生きてきた動物たちは、身を守る手立てをあまり持たず、競争に弱いことなどから、外来の肉食動物に容易に捕食されたり、食物やすみかを奪われることが珍しくありません。

豊かな自然が残る奄美大島

外来種としてのネコによる新たな脅威

沖縄島や奄美大島でも、海外から持ち込まれ島に放されたマングースがヤンバルクイナやアマミノクロウサギを捕食する被害は有名ですが、近年は住民が飼っていたイヌ、ネコなどが野生化し、同様の問題を引き起こしています。

特にネコは、毒ヘビのハブが獲物として狙うネズミを駆除するため、集落や畜舎周辺でほぼ放し飼いの状態になっている例が昔から多くありました。

これらのネコが標識を付け、自治体に登録された所有者のいる飼いネコかどうかあいまいな個体も数多くいます。市民団体の推定によると奄美大島では現在、飼い主が明確でないノラネコが最大で数千~1万頭程度いると推定されており、希少な在来の野生生物を脅かしています。

そのため、奄美市など島内の自治体では、将来、ユネスコの世界自然遺産に南西諸島が登録されることを意識し、2011年から、飼いネコの登録などを住民に義務付ける「飼い猫の適正な飼養及び管理に関する条例(ネコ飼養条例)」を施行。対策の強化に乗り出しました。

しかし、ノネコ(野生化したイエネコ)の対策はすすんでいません。
2017年には鹿児島大学の調査でも、ノネコがアマミノクロウサギの幼獣を捕食する映像が、定点カメラで撮影され地元では大きく報道されました。

奄美大島で見かけられるノラネコ。

集落を徘徊するネコ。

自治体による条例改正の動き

現在、国や地元自治体では、森にすむようになったネコの捕獲事業などを検討していますが、ネコに限らず、外来種となる生物は、一旦野外に拡散してしまうと、駆除に大変な時間とコスト、人手がかかります。

したがって、外来種対策で最も重要なのは、外に放される外来種を増やさないよう「予防」する、という考え方(予防原則)です。

そうした中、2017年3月に、奄美大島の5つの市町村が「予防原則」の視点をより強く盛り込んだ、条例の改正案を提示。

その後の各市町村議会での審議を経て6月にこれを可決し、2018年1月の施行を決定しました。

この改正ではまず、それまで飼い主に対して実施の努力を求めるにとどまっていた、飼いネコの身体へのマイクロチップの埋め込みを「義務化」。

野外で捕獲されたネコの飼い主が明らかにできるようになったほか、屋外に出して飼育しているネコには避妊や去勢処置を施すことも義務化。また公園などでのノラネコへのエサやりも禁止され、5頭以上の飼育には各自治体の許可が必要となりました。

さらに、これらに違反した者には過料が科せられることとなった点は、特筆すべき改正のポイントです。

今回の厳しい条項を含めた自治体の条例改正は、離島の生態系を守る上でも画期的な内容です。

住民と共に進める「予防」の取り組み

こうした取り組みには、住民の理解と参加も欠かせません。

実際、これまでのネコによる被害は、飼育している地域の住民たちに、正しい情報や適切な飼育方法についての情報提供の機会や、問題に対する理解が十分でなかったことにも原因があります。

そこで、WWFジャパンでは2017年4月より、地域の市民団体と協力しながら、この問題に関する普及啓発活動を、地元の集落や小中学校で展開。

地元小学校での出前授業の様子

飼いネコが野外で問題を起こさないようにするための適正な飼育について、小中学生やその保護者を対象に、出前授業を行なうなど、飼い主の意識を変える活動を行なってきました。

こうした場では、身近なネコによる被害や正しい飼い方と新たな条例の内容を説明するとともに、多くの固有種をはぐくむ奄美の自然が、どれほど貴重で、将来の島の社会において大きな価値を持っているかを話し、それを未来に引き継いでゆくことの意味を、参加者に伝えています。

住民向け説明会の様子

重要なことは、ネコや地域の方々がネコを飼うこと自体が悪いのではなく、問題を引き起こす人の行動やその解決方法を十分に理解し、行政とも協力して対策を進めていくことに他なりません。

国や一部の自治体では、条例改正により義務化されるマイクロチップの埋め込み費用を、補助し住民が取り組みに参加しやすくなる制度を設けています。

マイクロチップとリーダー

今後、世界自然遺産登録の手続きが進む中、WWFとしてもこの地域の自然が、日本のみならず世界的にもかけがえのない価値あるものであることを訴え、国や県に対し対策事業や制度の拡充を求めていきます。

設立当初より南西諸島の自然保護に取り組んできたWWFジャパンは、今後も、外来種問題をこの地域が抱える大きな課題の一つとして、地元団体への活動とともに対策と改善を行なってゆきます。

そして将来的には、地域の方々がアマミノクロウサギなど固有種とその生息地の森の価値を共有し、その自然を守ってゆく活動モデルを、他の島々へも展開してゆきます。

ネコの人形を使い、マイクロチップの埋め込みについて説明する様子

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