「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム(CSPU)」主催 シンポジウム  サプライチェーンでの企業間連携 持続可能な紙利用の拡大を目指して 開催報告


2016年7月8日(金)、「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム(CSPU)」主催シンポジウム −サプライチェーンでの企業間連携 持続可能な紙利用の拡大を目指して− を開催しました。紙の原料調達に関しては、依然として問題が報告されることもある一方、より環境や社会に配慮した紙製品を供給・調達しようとするサプライチェーンを通じた具体的な連携事例もみられるようになりました。シンポジウムでは本コンソーシアムの取り組みについて報告するとともに、供給側の企業、業界団体からも取り組みを紹介。パネルディスカッションでは、各発表をもとに今後さらに持続可能な紙利用を拡大してゆくために、現状課題となっていることやその解決のために何ができるかなどについて議論しました。

開催概要

日時 2016年7月8日(金)13:30~16:30(受付開始 13:00~)
場所 三井住友信託銀行本店(東京都千代田区丸の内1丁目4番1号)
参加者 約120名

「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム」とは?

「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム(以下、CSPU)」は、環境や社会に配慮した紙利用の拡大を目指す企業5社が、環境や地域社会に配慮した紙の利用が社会全体で拡大、浸透することを目指し、株式会社レスポンスアビリティとWWFジャパンとの協働のもとに、2013年11月に立ち上げたものです。その後3社が新たに参画し計10の企業、団体が参画しています。

参画企業(2017年5月時点、50音順)

 

味の素株式会社、イオン株式会社、花王株式会社、カシオ計算機株式会社、キリンホールディングス株式会社、JSR株式会社、ソニー株式会社、株式会社ニコン、三井住友信託銀行株式会社

運営アドバイザー:株式会社レスポンスアビリティ


セッション1:「持続可能な紙利用のためのコンソーシアムの活動」の紹介

発表1

WWFジャパン 自然保護室 森林プログラム 古澤千明

WWFからはまずCSPUの立ち上げやその取り組みが行われている背景として、紙生産に関わる原料調達において指摘される課題について紹介しました。依然として減少し続ける世界の自然林。その要因には、木材としての利用、紙生産のための植林地開発、農地開拓、森林火災などさまざまなものがあります。とりわけ紙生産に関しては、インドネシアにおける大規模な自然林の伐採による生態系の損失、希少な野生生物の個体数減少、土地を利用する権利をめぐっての地域社会との問題が報告されてきました。

また泥炭湿地と呼ばれ、地中に大量の炭素を含む熱帯性の湿地を、植林地や農地として使用するために水路をつくって水を抜き人為的に乾燥させることで発生する大量の温室効果ガス排出は、気候変動問題への影響も懸念されています。加えて泥炭湿地を人為的に乾燥させた土地で特に起こりやすく、毎年この地域の乾季になると多発する火災によるさらなる温室効果ガスの排出、そしてインドネシアのみならず近隣国にまで広がる火災による煙が、健康問題や都市機能の停滞などにもつながっていることを紹介。現在もこれらの未解決の問題や自然林の回復計画、増強される生産能力に対する原料供給能力などについての不透明さに対する懸念が続いていることを強調しました。

発表2

味の素株式会社 グローバルコミュニケーション部 シニアマネージャー 杉本信幸
三井住友信託銀行株式会社 経営企画部 CSR推進室 後藤文昭

現在10の企業、団体が参画するCSPUを代表して味の素株式会社の杉本信幸、三井住友信託銀行株式会社の後藤文昭より、本コンソーシアムの紙利用に対する基本的な考え方や個社およびCSPUとしての取り組みについて発表しました。

とりわけ、CSPUに参画する企業が供給企業とともにサプライチェーンを通じてより協力、連携することを目的に実施した製紙・供給企業とのダイアログでは、原料調達における取り組みや森林認証紙の供給、またそうした情報の顧客へのコミュニケーションなどについて意見交換を行いました。

日頃直接やり取りすることの少ないサプライチェーンの上流企業に対して、消費側の企業の集まりであるCSPUの趣旨を直接紹介し、森林認証の仕組みやお互いが感じている課題などについて理解する機会となりました。

最後にCSPUの趣旨に賛同し、持続可能な紙利用に向けた取り組みを行うことに関心のある企業の積極的な参画を呼びかけました。


セッション2:紙の供給企業の取り組み紹介

発表1 富士ゼロックス株式会社 総務部環境経営グループマネージャー 鈴木克彦氏

発表2 日本テトラパック株式会社 環境部マネージャー 金井路也氏

発表3 レンゴー株式会社 環境・安全衛生部 部長 三浦一憲氏

発表4 日本製紙連合会 常務理事 上河潔氏

セッション2では、紙製品を市場に供給する立場の企業とその業界団体の取り組みについてお話いただきました。CSPUのような環境や社会に配慮した紙を積極的に利用しようとするユーザー側の企業が徐々に増える一方、製紙メーカーや供給側の企業における取り組みも拡大しています。

主にコピー用紙類を供給する富士ゼロックス株式会社の鈴木克彦氏からは、2004年に調達基準を制定、その後改定し、「環境」「地域住民」「企業倫理」などの基準を満たしている企業からのみ調達を行っていることを紹介。

飲料用紙容器を供給する日本テトラパック株式会社の金井路也氏からはグローバルで展開する責任ある調達の取り組み、森林認証制度FSC®を採用する理由、そして顧客の理解や消費者の認知拡大のために行っている様々なステークホルダーとの協働事例について報告いただきました。

次に段ボールなどの梱包資材を供給するレンゴー株式会社の三浦一憲氏からは、製品の軽量化、古紙利用拡大の取り組みとともに、木材パルプの調達については第三者認証品を優先し、2013年からはFSCのCoC認証に取り組み始め、拡大していること、一方で認知度の低さなど課題もあることをお話いただきました。

最後に、サプライチェーンの最上流に位置する製紙メーカーの業界団体、日本製紙連合会の上河潔氏からは、2006年の「違法伐採問題に対する日本製紙連合会の行動指針」策定に続き、2007年には「違法伐採モニタリング事業」を客観性と信頼性担保のために実施。2014年には「生物多様性保全に関する日本製紙連合会行動指針」を策定し、今後は、「合法伐採木材利用促進法(クリーンウッド法)」の施行に対応して、EUの木材規制法やオーストラリアの違法伐採禁止法などにも対応するデューデリジェンスにも取り組む計画であることを紹介いただきました。


セッション3:パネルディスカッション:持続可能な紙利用の拡大のために

コーディネーター:株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役 足立直樹

パネルディスカッション1参加者(敬称略)
富士ゼロックス株式会社 鈴木克彦氏 、日本製紙連合会 上河潔氏 、カシオ計算機株式会社 登坂久雄、JSR株式会社 秦恵美、三井住友信託銀行株式会社 丸山春代、WWFジャパン 古澤千明

パネルディスカッション1では、社内で利用されることの多いコピー用紙や文具、封筒、名刺などに使用される紙製品について、CSPU参画企業とセッション2の供給側の企業が登壇し、現状の課題や今後の連携などについて議論を行いました。

まずユーザー企業から、CSPUに参画した経緯や参画してよかった点、各社での取組み状況、そして紙調達について課題に感じていることなどを紹介しました。

CSPUへ参画したことにより、業種は異なっても同じような取り組みを行なっている企業や紙製品のサプライヤー企業から、これまで得る機会のなかった情報の入手や経験をすることができ、買う側も確かな情報をもとに製品を「選択」する必要があることをより認識できたこと、また紙の調達方針の制定や「環境」や「社会」に配慮された紙製品の調達促進などの事例が紹介されました。

ユーザー側の課題としては、まだまだ持続可能な紙利用への周囲の認知が低いこと、認証品の入手に関しては自社だけでなくサプライチェーン全体の協力が必要なこと、紙製品によってはサプライチェーンが複雑でトレーサビリティの確保も容易ではないことなどが挙げられました。一方、供給側からも、CSPU企業から出されるような持続可能性の担保された紙製品や認証紙への需要はまだ、高まっておらず、認証紙の大幅な普及のためには、認証紙を求めるユーザーが拡大することが期待されるといった声がありました。

パネルディスカッション2参加者(敬称略)
日本テトラパック株式会社 金井路也、レンゴー株式会社 三浦一憲 、味の素株式会社 成田健治、花王株式会社 田中秀輝、キリン株式会社 藤原啓一郎、株式会社ニコン 袴田淑子、WWFジャパン 古澤千明

パネルディスカッション2では、製品の容器包装や梱包材といったパッケージ類に使用される紙製品について、パネルディスカッション1と同様にCSPU参画企業と供給側の企業が登壇し議論を行いました。

CSPUに参画する各社からは、紙調達方針策定後数年が経過するもののパッケージ類への認証品導入割合は多くはない現状や、消費者が手に取るカタログや会社案内などの印刷物、名刺封筒類にまずFSC認証紙を採用し、最近は容器類にも認証紙の採用を始めたこと、サプライヤーへの説明会などを通じて、将来的には認証紙の供給が必要になるだろうことを伝えているといった取り組みが紹介されました。

しかし、同じ製品でも複数のサプライヤーから調達しているため、一部のサプライヤーが認証をとっただけではその製品を認証品に変更するのは難しいこと、認証紙を供給できるサプライヤーが限定されていて選べないこと、現在の採用品ではFSC認証紙が入手できなかった経験など、調達先も製品の選択肢も限られているといった課題も挙げられました。

供給側やWWFからは、パネル1と同様にユーザー側からの需要がまだ十分に高まってはいないことや、欧米の先進国ではすでに認証紙の採用が「当たり前」になりつつあるが、その他の国においてもFSCラベルのついた製品をよく見かける。多くの消費者が製品を選ぶ際に目にするパッケージ類への環境配慮は世界的に拡大しており、2020年の東京五輪において近年開催された大会と同様の調達コードが定められる可能性も視野に、日本でもここのところ急激に変化が起きているのではないかとの発言もありました。


参加者からのコメント

株式会社山櫻
代表取締役社長 市瀬豊和氏

ユーザー企業側に起きている問題点やご意見などの生きた情報をお聞きできることは、供給側として大変に貴重な機会であると認識し、この度のシンポジウムには、弊社から5名参加させていただきました。

弊社は、2006年から森林認証紙を利用した紙製品の製造販売に取り組み始め、供給側として認知度を上げることに苦労してまいりましたが、このようなコンソーシアムが立ち上り持続可能な紙利用の拡大をユーザー企業主導で目指していく流れが起きていることは、私にとっては感動的な場面に立っている思いです。

今後このコンソーシアムを通して、地球の持続可能な発展に向けてユーザー企業側と供給側、両者での環境への想いがひとつになっていくことを期待しています。

ビーエフ&パッケージ株式会社
環境品証部 小林久子氏
プロセッシング営業グループ 小池進氏

今回のシンポジウムに参加させていただき、積極的に森林保全に取り組み、持続可能な紙を利用していこうという動きをとっている会社があることを知りました。

日本はどちらかというと環境問題に関しては後進的なところもあります。森林資源の保全、美しい地球環境を後世に残すためにも、今後も積極的に森林管理や持続可能な紙製品の普及に取り組んでいきたいと考えます。

環境配慮型の商品を市場に出すことにより、会社として世界の森林保全に貢献し、食品を安全で効率よく安価な方法であらゆる場所にいる消費者に届けていきたいと考えています。


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