© Bjorn Holland / Getty Images / WWF

多様な地球の自然環境 代表的な植生と貴重な生きもの


地球上の自然には、生物が豊かな熱帯林やサンゴ礁はもちろんのこと、砂漠や南極の海など、単に生物種の多さだけではその貴重さが判断できない環境が、数多く含まれています。環境保全に取り組もうとする時、これらの自然の多様性や違い、特徴を、きちんと踏まえた上で、活動を行なう必要があります。

生物の多様性とは、ただ生きものの数や種数が多ければいい、というものではありません。
多様性の価値は、さまざまな景観がこの地球上に存在していること、そのものにあるのです。

未来の地球の上で、多様な生命が生き残るためには、この多様な生態系と景観が欠かせないのです。

地域や気候によって変化する自然

地球上には、さまざまな生命が、気候や地形などの条件に応じて、多様な生態系を形作っています。

例えば、太陽から多くの光を受ける暖かい地域では、種が多様に進化し、さまざまな生物が息づいているのを目にすることができます。
熱帯林やサンゴ礁といった、熱帯の自然がその代表です。

一方、北極や南極に近い海のような、気温が低く、厳しい環境では、見られる生物の種類が限られており、多様性が低くなっています。

しかし、これらの環境では、それぞれ種の数は少なくとも、個体の数が多く、結果的にたくさんの生命が息づいている、という特徴があります。

地球上で見られるさまざまな自然

山地~選ばれた生きものたちの世界~標高が高く、年間を通じて、低温や強風、乾燥にさらされている厳しい環境です。丈の低い植物や、塊状になる植物が生育します。このような場所に生育する哺乳類や鳥類の中には、寒冷地の厳しい気候と、限られた植生に適応した、珍しい修正を持つものが多く含まれます。一方、自分で体温を保持できない爬虫類や両生類は、非常に希です。

 

ツンドラ~短い夏の間に姿を見せる声明の楽園~主に北半球の北部で見られ、一年を通して寒冷で、土壌に水分が多い環境です。地下に凍った土の層(永久凍土層)があるため、樹木が深く根を張れず、背の高い木がほとんど育ちません。冬の氷雪に覆われた季節が長く、短い夏の間だけ、草本や、地面にへばりつくような低い植物が大地に広がります。水鳥の重要な繁殖環境の一つです。

 

亜寒帯林~北の大地に広がる巨大な森~北半球のみに見られる森林の植生です。ツンドラの凍土が尽きて、樹木が強く根を張れるようになる緯度から広がり、カナダ、ロシアなどの国々で巨大な森が見られます。低温の季節が長く、豪雪地帯も広く含まれます。主要な樹種は、針葉樹です。「タイガ」または「北方林」とも呼ばれることがあります。

 

温帯林~多彩な顔を見せる四季の森~温帯に広く見られる森林で、地域や気候によって、さまざまな景観を見せてくれる森です。年間を通して一定の降雨がある地域には、紅葉の美しい落葉広葉樹林。雨量の多い地域には、常緑の針葉樹や照葉樹の森。比較的寒冷な地域には常緑の針葉樹の森などがそれぞれ広がります。日本で見られる森林の多くは、この温帯の森です。

 

温帯草原~見渡す限りの平原の景観~温帯の中で気候が比較的に乾燥しており、背の高い樹木による森林が形成されにくい地帯でみられる、イネ科の植物を主とした草原の環境です。低地の平原だけではなく、南米のアンデス山脈のような高地でもみることが出来ます。代表的な動物としては、ガゼルやビクーニャなどの装飾の大型偶蹄類をはじめ、草原性の鳥類も多く生息しています。

 

熱帯林~陸上で最も多様な声明が息づく森~赤道周辺、高温多湿の地域に発達します。高さ15m~40mにおよぶ、樹上環境を中心とした生態系が広がり、生存する野生生物の種数の多様さは、地球上でも屈指の豊かさを誇ります。地域や標高、気候によって、湿潤林、季節林、雲霧林といったさらにタイプの異なった森に分類されますが、いずれも高い生物の多様性が認められる森です。

 

サバンナ~熱帯に広がる野生の王国~熱帯に発達する草原に似た環境です。高木、低木の樹木が散在し、また砂漠に近い景観を見せる場合もあります。年間を通じて高温ですが、夏の一時期に降雨がある以外は乾燥しており、雨季と乾季がはっきりと分かれている地域が多くあります。アフリカなどでは、ゾウやライオンといった代表的な大型動物の生息環境になっています。

 

低木林~海と陸の風にはぐくまれて~この森は主に、世界各地の沿岸部などで見られる「地中海性気候」という気候区分に属した地域で見られる植生です。この地中海性気候は、夏は高温で乾燥し、冬は温暖で雨の多い気候で、森も、地中海沿岸に集中しています。オリーブに代表される、間伐に強く、固い小型の葉を持つ、あまり高くならない樹種が多く育ちます。

 

砂漠~灼熱と乾燥の過酷な大地~非常に乾燥した地域で、一部の例外を除いて高温の地域に見られます。代表的な植物はサボテンや、少ない雨を待って発がする一年生植物(一年で枯死する植物)など。なお、この砂漠は、あくまで、長い地球の時間の中で成立した自然環境としての砂漠です。近年の人為的な行為によって「砂漠化」した荒廃地を意味するものではありません。

 

海洋~あらゆる生命の母~気候、海流、陸からの距離、深さなどにより、海には海の多様な生態系が存在しています。とりわけ水深が浅く、太陽の光が届きやすい沿岸域には、サンゴ礁や干潟、マングローブ林といった、多くの生きものたちが生きる環境が広がっています。また、海は地球の気候を安定させる上でも、大きな役割を担っています。

代表的な地球上の植生

大きく地球の植生を色分けすると、下の地図のようになります。
もちろん、詳しく見てゆくと、その地域の標高や気候によって、限られた範囲の中にも、多様な景観が存在することが分かるでしょう。これらの植生の特徴や多様性は、それぞれの場所に生息・生育する、動植物の種類、数などによっても現わされています。

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bio01.gif 山地

標高が高く、年間を通じて、低温や強風、乾燥にさらされる厳しい環境です。丈の低い植物や、塊状になる植物が生育します。

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bio02.gif ツンドラ

一年を通して寒冷で、土壌に水分が多く、地下に永久凍土層があるため、樹木が深く根を張れません。草本や、地面にへばりつくような低い植物が大地を覆います。

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bio03.gif 亜寒帯林

北半球のみに見られる森林の植生です。ツンドラの南に広がり、低温の季節が長く、豪雪地帯も広く含まれます。主要な樹種は、針葉樹です。

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bio04.gif 温帯林

年間を通して一定の降雨がある地域には、落葉広葉樹林。雨量の多い地域には、常緑針葉樹林や照葉樹林。比較的寒冷な地域には常緑針葉樹林と、多様な植物が見られます。

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 温帯草原

温帯の中で気候が乾燥しており、背の高い樹木による森林が形成されにくい地帯に、広く見られます。イネ科の植物が中心となった草原の環境です。

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bio06.gif 熱帯林

赤道周辺に発達し、高温多湿の地域に見られます。高さ40m~15mにおよぶ、樹上を中心とした生態系が広がり、生存する野生生物の種数の多様さは、地球上でも屈指の豊かさを誇ります。

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bio07.gif サバンナ

熱帯に発達する草原の環境で、樹木が点在します。年間を通じて高温ですが、夏の一時期に降雨がある以外は乾燥しており、雨期と乾期がはっきりと分かれています。

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bio08.gif 低木林

夏は高温で乾燥しており、冬は温暖で湿潤。干ばつに強い、硬い小形の葉を持つ低木が多く育ちます。主に、地中海を中心とした地域に、広く見られる植生です。

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bio09.gif 砂漠

非常に乾燥した地域で、一部の例外を除いて高温の地域に見られます。代表的な植物は、サボテンや少ない雨を待って発芽する一年生植物(一年で枯死する植物)など。

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  • ※ここでいう「砂漠」には、現在広がりつつある砂漠化した地域は含まれません。砂漠化とは「乾燥、半乾燥、ならびに乾燥半湿潤地域においてみられる、主に不適切な人為インパクトによって生じる土地荒廃である」(UNEP,1911)と定義されており、長い目の自然の営みによって成立した砂漠とは区別されるべきものです。

bio10.gif 海洋

気候、海流、陸からの距離、深さなどにより、海には海の多様な生態系が存在しています。

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限られた地域に息づく貴重な生物たち

高山帯や砂漠のように、気温が極端に低かったり、高かったり、また乾燥していたりする地域では、多様性、個体の数、いずれも少ないケースも見られます。

これらは、その限られた地域でしか見ることの出来ない、貴重な生態系を形作っており、その場所にしか生息していない、珍しい固有種も多く確認されています。

このような環境に適応した特定の生物の中には、絶滅の危機に瀕している種も、少なくありません。これらの生物たちを守っていくためには、その生物が生きる生態系そのものを守る必要があります。

タイマイ~サンゴ礁の貴婦人~サンゴ礁が広がる熱帯の海に、多く見られるウミガメで、くちばしのような尖った口を持ち、サンゴの間に隠れている、エビやカニ、カイメンなどの動物を食べています。美しい甲羅が「べっこう」細工の材料として使用され、卵が食用に乱獲されてきたため、数が減少。最近は、すみかのサンゴ礁の破壊や、卵を産む砂浜の開発、さらに、漁網に誤って絡んで命を落とす「混獲」も問題となっており、絶滅の危機が続いています。

 

カグー~楽園の生き証人~南太平洋ニューカレドニア島の熱帯林にだけ生息する鳥で、広げると80センチにもなる翼を持ちますが、飛ぶことができません。長い間、天敵のいない島で暮らしてきたため、飛ぶ力を無くしてしまったのです。しかし、今では、人が島に持ち込んで野生化したイヌに襲われたり、島の開発によって生息地の森が失われたため、生存が脅かされています。現在、カグーは500羽以下しか生き残っていないとみられています。

 

渡り鳥たち~地球を半周する小さな旅人~冬は氷雪に閉ざされ、常に凍った「凍土」に覆われている、北極圏のツンドラ。短い夏の間、表面の氷がとけて広大な湿地が出現すると、ここは草花と昆虫の楽園になります。虫を食べ、草で巣を作る渡り鳥たちは、ツンドラの恩恵で生きる生きものの代表。短い夏の間に、ここでヒナを育てた渡り鳥たちは、秋になると温かい南へと旅立ちます。南半球で冬を越し、春になると再び、この北極圏に戻って来る鳥も、少なくありません。

 

オオヅル~熱帯に生きる世界最大のツル~オオヅルは、インドから東南アジア、さらにオーストラリア北部に生息する大型のツルで、背の高さは1.76mにもなります。熱帯の湖や沼、川、湿地や畑などでくらし、虫や小魚、小型の哺乳類、植物の根茎、主旨、農作物の落穂などを食べています。生息地である熱帯んお湿地や草原が、開発や汚染によって失われてきたため、数が減少。すでに、タイやフィリピン、中国南部では絶滅してしまったと考えられています。

 

ハキリアリ~農業を行うアリ~ハキリアリは、アメリカ大陸の熱帯圏に生息するアリで、不思議な習性をもつことで知られています。ハキリアリは、植物の葉や花びらなどを、あごで切り取って巣に持ち帰り、それを細かく砕いて、そこで培養した菌(キノコ)を食べるのです。森に実る果実や葉などを食べずに、キノコを育てて食べるこのアリは、豊かで、まだまだ未知の世界が広がる。熱帯の森の奥深さと、多様さとを物語る動物の一種といえます。

 

オオカバマダラ~ひとつの森を目指し数千キロを飛ぶ~オオカバマダラは、アメリカで広く見られるチョウで、冬になると数百から数千キロ離れた、温かいメキシコに移動します。このチョウは、限られた山地の熱帯針葉樹林で冬を越す習性があり、億単位で集まったチョウの重さで大木がたわんでしまうことも。オオカバマダラは、アメリカではよく見られるチョウですが、越冬地の森が限られているため、この森が失われると、一気に姿が見られなくなってしまうおそれがあります。

 

シロオリックス~過酷な砂漠が我が家~強い日光に反射する身体と、過酷な環境に適応した修正を持つシロオリックスは、かつて北アフリカの砂漠に広く生息していました。しかし、石油の採掘などのため、砂漠にやってきた人たちによって狩猟の的にされたため、激減。2000年にはとうとう野生のシロオリックスは絶滅してしまいました。現在、飼育されていたシロオリックスを増やして、砂漠に戻す活動が行われていますが、まだその数はわずかです。

 

ホッキョクグマ~氷と共に生きる~世界最大の陸生の肉食獣で、北極海周辺に分布。泳ぎが特異で100キロを泳ぐともいわれ、1年の半分以上を海氷上で過ごします。主食は氷の上で獲るアザラシ。春に流氷が消えると、沿岸の陸地に上陸しますが、再び海に氷が張るまでの数か月間、ほとんど何も食べずに過ごします。しかし、近年の地球温暖化の影響と見られる海氷の減少により、獲物を探せる期間や場所が減っており、絶滅も心配されています。

 

チーター~サバンナ最速のランナー~中近東とアフリカのサバンナに生息するチーターは、時速100キロを超える速さで走る地上最速の動物です。昔はインドにもいましたが、1960年ごろ絶滅してしまいました。アフリカでも、狩猟やサバンナの減少によって数が減っており、絶滅が懸念されています。自然を現象させ、分断している、牧場や農地などの開発と拡大は、チーターをはじめとする、サバンナに生きるさまざまな動物の未来に、影を落としています。

 

シマオイワワラビー~いなかったはずの動物が天敵に~ワラビーとは、カンガルーに似た、お腹に子どもを育てる袋を持つ有袋類です。その一種で、オーストラリア東部の山岳地帯の岩場に生息するシマオイワワラビーは、3メートルも離れた岩へとジャンプする能力の持ち主。かつては、今よりも広く見られたようですが、その後、ヨーロッパ人がオーストラリアに持ち込んだアカギツネに襲われ、多くの地域で姿を消してしまいました。美しい毛皮を目的とした狩猟も起きています。

 

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