マグロをめぐる国際シンポジウムを開催しました


2010年8月3日、東京港区の東京プリンスホテルで、マグロをめぐる国際シンポジウムを開催しました。当日は、平日の日中ながら、一般の方をはじめ、企業や行政、ジャーナリスト、研究者など、130名の方がご参加くださいました。シンポジウムの様子と、各講演者にお話しいただいた内容の講演資料を公開いたします。

マグロと海の未来を考える

日本人が大好きなマグロが、近年メディアなどでも話題に上ることが多くなっています。「頼っていた輸入先でマグロが獲れなくなっている」「輸入が制限される」「日本の近海でマグロが獲れなくなっている」。また、日本の食卓への影響を指摘する声も上がっています。

今回、WWFが主催した、この国際シンポジウムでは、こうした疑問を消費者の方々と共有しながら、日本のマグロ消費について、マグロを獲っている現場の生産者、行政、NGOが、消費者と一緒に考えました。

日本の漁業問題の監督省庁である水産庁の関係者にご講演をいただいたほか、日本の主要なマグロ漁の現場からも、漁業者の方に実際に会場にお出でいただき、マグロ漁の今をお話いただきました。また、海外のマグロの漁獲の現状についても、海外のWWFの担当者から報告を行ないました。

tunas.jpg
 
イベント名 消費者と考える国際マグロシンポジウム 日本の食卓が地球環境を変える
日時 2010年8月3日(火) 10時~17時
場所 東京プリンスホテル 東京都港区芝公園3-3-1
参加費 1,000円  *WWF個人会員は無料 WWF法人会員は500円/人
主催 WWFジャパン
協力 東京プリンスホテル
備考 こちらのシンポジウムは、独立行政法人 日本万国博覧会記念機構の助成を受けて開催いたしました。

 

講演者および講演内容

講演「食卓から見たマグロ ~マグロの基礎知識」

緑川聡 (みどりかわ・さとし)
社団法人漁業情報サービスセンター流通課・主査

緑川先生には、マグロという魚について、その分類や種類、生態、さらに、日本でどのようにマグロが消費されてきたのか、その概要をお話しいただきました。

  • ■講演者略歴
    1968年、東京生まれ。東海大学海洋学部水産学科増殖課程卒業
    1993年、社団法人漁業情報サービスセンターに勤務
    現在、水産物流通統計・調査に関する業務に従事。流通課・主査
20100907a.jpg

 

講演「国内外のマグロ資源管理の現状と課題」

宮原正典 (みやはら・まさのり)
水産庁資源管理部審議官

宮原審議官には、世界のマグロの生産と漁獲の中における、世界一のマグロ消費国である日本の現状と、国内外の漁業管理の取り組みと問題、さらに第15回ワシントン条約会議でのマグロの扱いに関してお話をいただきました。

  • ■講演者略歴
    1978年、農林水産省入省
    1999年、水産庁管理課指導監督室長。以来10年以上数々の国際会議に参加
    大西洋まぐろ類保存委員会の議長も経験
    2008年より現職
20100907b.jpg

 

報告「WWFの考えるマグロと環境問題」

山内愛子 (やまうち・あいこ)
WWFジャパン 水産担当

WWFジャパンの水産担当、山内からは、WWFの「持続可能な社会」をめざした活動と、その考え方、そして、その中で取り組んでいる漁業やマグロの問題について報告いたしました。また、消費国としての日本の取り組みの重要性を訴えました。

  • ■講演者略歴
    2002年、東京水産大学資源管理学科卒業
    2007年、東京海洋大学大学院にて海洋科学博士号を取得
    2008年よりWWFジャパン 海洋プログラム水産オフィサー
    持続可能な漁業・水産物の推進をテーマにロビー、キャンペーン活動に携わる
20100907c.jpg

 

報告「地中海におけるクロマグロ漁業の歴史とその危機」

スサナ サインズ-トラパガ(Susana Sainz-Trapaga)
WWF地中海オフィス担当

WWF地中海オフィスで、大西洋クロマグロの資源保全に取り組んでいるスサナ・サインズ-トラパガからは、資源が危機的な状況になっている、地中海のクロマグロ漁業について報告いたしました。地中海では蓄養の開始以来、クロマグロの乱獲が続いており、伝統的な小規模漁業も脅かされています。

  • ■講演者略歴
    1964年、アルゼンチン生まれ。Buenos Aires Technological Institute(ブエノスアイレス テクノロジカル インスティテュート)にて海洋科学を専攻
    1992年より東京大学海洋研究所に在籍し、水産学博士号を取得。NOAAやパリ大学で共同研究者として従事した後、2006年よりWWF地中海プログラムオフィスに勤務
    地中海におけるクロマグロやその他漁業に関する政策提言やキャンペーン活動に従事
20100907d.jpg

 

報告「壱岐のマグロ一本釣り漁の現場から 1」

松尾五郎 (まつお・ごろう)
長崎県壱岐 勝本町漁業協同組合

長崎県の壱岐で、マグロの一本釣り漁をしている松尾さんは、30年前は壱岐の海が豊かで、マグロもたくさんいたことをお話しくださいました。それが、いまでは数が減っている。巻き網でマグロの成魚も稚魚も、一網打尽にする漁が行なわれるようになったためではないか。巻き網漁の規制なども今後は必要になる、マグロを獲る方も、食べる方も、未来の資源管理について考えなくてはいけないと、松尾さんは言います。

  • ■講演者略歴
    1978年 長崎県壱岐勝本町生まれ
    高校を卒業後漁師になり、8年前からは一人乗りで一本釣りを操業
    これまでで一番思い出深いのは、初めて釣った大型のマグロ(240キロ)

 

報告「壱岐のマグロ一本釣り漁の現場から 2」

大久保晃 (おおくぼ・あきら)
長崎県壱岐 勝本町漁業協同組合

同じく、長崎県の壱岐で漁業を営む大久保さんも、魚が減り続ける今の漁業の現場と、漁業者の未来に対する危機感をお話しくださいました。当たり前のように見ていた、たくさんのマグロたちの姿、それが今では見られなくなった。魚場を一生懸命守ってきたが、さまざまな魚種が減り続けている。次の世代に、海の恵みを残してゆけるか心配している。国や地域が協力して、より多くの人が協力して、これからのことを考えてゆかなくてはいけない、と大久保さんは言います。

  • ■講演者略歴
    1967年 長崎県壱岐勝本町生まれ
    中学卒業後と同時にイカ釣り漁船に乗務。多いときには、1日150箱のイカが一週間釣れたことも
    20才で船を建造し独立。現在はマグロやメダイの一本釣りに従事

 

報告「大間のマグロ一本釣り漁の現場から」

濱端廣文 (はまばた・ひろふみ)
青森県大間漁業代表理事組合長

青森県の大間で漁業協同組合長をつとめる濱端さんは「マグロ漁を若い世代に継いでいくのが難しくなっている」と、漁業の現場をお話しくださいました。最近は、マグロのえさになるイワシも、ブリの稚魚も、マグロの稚魚も成魚も、巻き網漁が全部取ってしまう、資源の保護ができていない。日本全国の漁業者が集まって、資源管理と、漁についてのルールを決めなくてはいけない、そうしないと、魚が取れなくなってしまうと、濱端さんは言います。

  • ■講演者略歴
    1941年 青森県大間生まれ
    15才から単独でマグロ一本釣り漁業に従事。これまでの記録は266キロのクロマグロ
    2001年に初めて大間漁業協同組合長に就任。2010年現在2期目を務める

 

報告「中西部太平洋:持続可能なマグロ漁業推進プロジェクトの事例」

ホセ イングルス(Jose Ingles)
WWFコーラルトライアングル・プログラム・リーダー

WWFコーラルトライアングルのホセ・イングルスからは、東南アジアでのマグロの持続可能な漁業の推進の事例を報告しました。マグロの資源は、一国だけでは保全できません。各国の行政と協力した政策による対応や、企業と協力した流通経路の明示、市場との協力関係の構築、そして、消費者の方々への働きかけと情報の発信が欠かせません。このために、WWFは多角的なパートナーと組んで活動している、私たちは、結果を出さねばならない、とホセは言います。

20100907g.jpg

パネルディスカッション

日本の消費者にしてほしいこと。これからの持続可能なマグロ消費の展望

話題提供:マーク・パウエル (WWFインターナショナル)
ファシリテーター:東梅貞義 (WWFジャパン)

パネルディスカッションでは、まずシンポジウム参加者の皆さまより、お寄せいただいたご質問票に、各パネリストの方がお答えする形で進めました。出された主な質問やご意見を一部ご紹介します。

太平洋と大西洋のクロマグロは別種ですか?どう区別するのですか?

太平洋と大西洋、2種のクロマグロは別種です。しかし、お店などでの表記は、漁獲した水揚げ港によって変わるので、売られているものがどちらかを正確に把握するのは困難です。日本では、水産物の正しい表記が、まだ十分徹底されておらず、間違いも多く横行しているようです。ちなみに大西洋のクロマグロ資源はICCAT、太平洋はWCPFCという国際機関が管理しています。

メキシコの原油流出事故の影響と対応は?メキシコ湾にはマグロの産卵場所がありますが

影響は今のところはまだ不明です。しかし、影響がおよぶ可能性はあると思われます。原油を分解するため散布されている化学物質も、環境に悪影響を及ぼすかもしれません。この原油の流出が、長期にわたる環境問題になる、といいう視点を持って取り組むことが大事です。

地中海のクロマグロ資源を管理するICCATの問題について。もっと早く対応できなかったのでしょうか?

地中海のクロマグロの資源問題については、蓄養が始まった1990年代から枯渇が懸念されていました。それが、対策にうまく反映されてこなかった理由の一つには、現地の地中海の漁業者の問題意識があまり高くなかったことが挙げられます。決められた漁獲量を守ることもできず、最終的にはワシントン条約の会議に持ち込む話にまでなってしまいました。消費を続けてきた日本にも、最大の消費国としての責任があったといえます。いずれにせよ、これからのICCATによる資源管理の強化ができるかどうかが、クロマグロ資源保護のカギになります。

ヨーロッパの資源保護の取り組みはどうなっていますか?

地中海でのクロマグロの大規模な漁は、EUでも自粛の方向へと向かいつつあるようです。イタリアの巻き網漁は現状で休漁状態。フランスでも同様にやめた方がいい、という話が出てきています。まとめてマグロを獲る大規模な漁をやっている限りは、今の守るべき漁獲枠を守ることが出来ないからです。スペインには6隻しか巻き網漁船がありませんが、この6隻が3日間操業するだけで、1年分の漁獲量を獲ってしまいます。そうなると、他の伝統的な漁業をする小規模な漁業者は暮らしてゆくことができません。
さらに重要なのは、産卵場所の保護です。2010年のICCATの会議では、前回のワシントン条約会議での提案を受け、しっかりした取り組みがなされるのではないかと、期待されています。科学委員会が算出した、科学的な回復率の数字を、各国がきちんと受け止め、それを実際の漁獲枠などに反映させて資源保護を行なう必要があります。

マグロのデータについて、もっと明らかにすべきではないですか?

確かに漁獲量などのデータは、資源管理の基盤になる、大切なものです。しかし現状では、各国がICCATなどに報告している漁獲データや、蓄養されたマグロのデータの中には、不正確なものが多く含まれている、という問題があります。蓄養は、自然のマグロを獲っていけすで太らせ、出荷させる養殖業の一種ですが、この蓄養によって、体重が50%も増えた、などというあり得ない数字が、公的に報告されています。これでは、資源管理のあり方を議論する時に、役に立ちません。これは非常に大きな問題です。

日本でのマグロ資源管理の課題はなんですか?

日本はやはり世界でも最大のマグロ消費国なので、トレーサビリティー(どこでだれが生産したかがわかる仕組み)を確立することが、一つの大きな課題。トレーサビリティーを今、マグロで初めて確立しようとしています。また、国内の蓄養についても規制をかけ始めようとしています。稚魚も成魚も、見境無く獲ってしまう大規模な漁獲も、規制の対象にする必要があるでしょう。もっとも、日本国内で稼働している、こうした漁を行なえる船は実際には限られており、大量に獲っている船は、さらに少ないのが現状です。巻き網漁なども、いきなり法規制をしく、ということではなく、何が効果的な対策になるかを検討する必要があります。
いずれにしても、問題のある漁の影響を受けている漁業の現場としては、早急な対応を期待しています。
この問題については、日本各地の漁業の各関係者が、オープンな形で問題点や、必要な規制について意見を共有していく必要があります。漁業の現場、各漁協としても規制が必要な場合もあるでしょう。持続的に資源を使うために、これは必要な措置です。

20100907h.jpg

*パネルディスカッション全体の内容は現在編集中です。少々お待ちください

 

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは世界約100か国で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP