©Martin Harvey / WWF

象牙問題とワシントン条約CoP18 日本の象牙の国内市場と「決議10.10」

この記事のポイント
高価で取引される象牙を狙った密猟により、絶滅の危機が指摘されているアフリカゾウ。2016年に採択された「ワシントン条約」の「決議10.10」により、世界各国は象牙の国内取引の禁止を含めた、厳しい対応を進めています。しかし、複雑な経緯と現状を抱えた、象牙をめぐる問題の解決は、決して容易ではありません。このシリーズでは、2019年8月17日より開催される、第18回ワシントン条約締約国会議(CITES-CoP18)を前に、象牙をめぐる世界の現状と日本に今、何が求められているかを解説します。第5回目は、その日本の象牙市場の成り立ちと現状についてお伝えします。

日本の象牙取引の現状

近年、アフリカゾウの密猟を阻止するため、それまで合法的に象牙の取引ができた「国内市場」を閉鎖、つまり国内での取引を停止する国が増えています。

数年前まで世界最大の象牙市場であり、同時に密猟などによる違法な象牙の流入先にもなっていた中国は、2017年末をもって、国内市場を閉鎖。イギリスやシンガポールなどの国々も、同様の政策を打ち出しています。
その中で、長年象牙を利用し、今も大量の在庫を国内に抱え、合法的な国内市場を持つ日本の対応が注目されています。

日本国内で現在取引されている象牙は、その多くが、1989年以前に合法的に輸入された多数の象牙と考えられています。

1989年にワシントン条約で象牙の商業取引が禁止され、輸入の手立てが基本的に無くなってからも、国内で象牙の在庫が払底しなかったのは、それまでに多くの象牙を日本が輸入していたからに他なりません。

1951年から1989年までに日本が輸入した象牙の量(未加工の象牙のみ)は、6,000トン以上。そして、この象牙を供給したのは、1970年代から80年代にかけて、東アフリカ諸国を中心に吹き荒れた、アフリカゾウの密猟の嵐でした。

さらに、1989年の象牙の国際取引禁止後も、日本は2度にわたり、ワシントン条約の特別措置(ワン・オフセールと呼ばれる)として合計約90トンの象牙を輸入しました。
この特別措置は、ワシントン条約事務局の承認と監視のもと、南部アフリカ諸国から密猟に拠らない象牙のみを輸入するもので、直接、密猟を増加させるものではありません。

いずれにせよ、1989年までの輸入象牙と、その後の2回の合法的な輸入による象牙が、現在の日本の象牙の在庫を占めています。

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日本の未加工象牙の輸入実績(1951年~)<br>※ワンオフ・セール:個体数が安定していた南部アフリカ4カ国(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカ)に生息するアフリカゾウの象牙に限って、密輸由来ではない政府保管の象牙の輸出が特別に認められた(1999年日本のみ、2008年日本と中国のみ)<br>

日本の未加工象牙の輸入実績(1951年~)
※ワンオフ・セール:個体数が安定していた南部アフリカ4カ国(ボツワナ、ナミビア、ジンバブエ、南アフリカ)に生息するアフリカゾウの象牙に限って、密輸由来ではない政府保管の象牙の輸出が特別に認められた(1999年日本のみ、2008年日本と中国のみ)

象牙の流通と取り扱いに対する規制の課題

日本では今も、この在庫の象牙を原材料として、新たに製品を製造すること、販売することが、合法的に認められています。
若い世代の人にはあまり馴染みのない素材ですが、印鑑については、今も人気の高級素材の一つ。また、三味線の撥や琴柱など和楽器や、茶道具などの素材としても、良材として生産され、使われています。

さらにそれ以外に、過去に作られた象牙素材のアクセサリーや根付といった製品がアンティーク(骨董品)として、骨董市やオンライン取引を通じて売買されています。

特にインターネットでは、オークションなどを利用した個人(非事業者)による取引も可能となっています。

こうした取引に、海外から違法に持ち込まれた象牙が紛れ込まないようにする手立ての一つとして、日本では、象牙を取り扱う事業者(卸、加工・製造、販売)に対し、「特別国際種事業」として国に登録することを義務付けています。

しかし、特に近年台頭してきたインターネットでのC to C(個人間)取引にあたっては、単発の個人の取引が「事業」と見なされないため、国への事業者登録をせずに、象牙の売買ができる問題が生じています。

しかも、インターネットでの取引は匿名性が高く誰もが気軽に利用できるため、誰が売り、誰が買ったかなども不透明。
実際、違法取引に繋がる象牙の調達手段としても活用されている例が確認されています。

また、WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICが2017年と2018年に行なった市場調査の中で、実店舗において、象牙を販売する事業者が、海外へ持ち出すことが想定される外国人観光客に対して、持ち出しを助長するような態度を示したことも明らかになっています。

日本の国内市場(骨董市場と観光エリアの販路)において、製品に興味を持った客を装って「象牙を日本国外に持ち出しても良いか?」と聞いた際の販売者の回答(左:2017年、右:2018年)

日本の国内市場(骨董市場と観光エリアの販路)において、製品に興味を持った客を装って「象牙を日本国外に持ち出しても良いか?」と聞いた際の販売者の回答(左:2017年、右:2018年)

日本「からの」密輸問題

ここでいう違法取引とは、密猟されたゾウの象牙が日本に密輸入されることではなく、日本の国内から海外に向けて密輸出されている行為を指します。

ワシントン条約が禁じているのは、象牙の密輸入だけではありません。日本にゾウは生息していませんが、それでも、国内にある象牙を海外へ持ち出すのは、明らかな違法行為であり、ワシントン条約にも反する行ないです。

しかし、こうした問題に対する日本国内での対応が、現状では不十分なため、日本で容易に象牙製品を手に入れ、中国など象牙の需要がまだある国に密輸出する問題が起きているのです。

2016年8月には、1,639点(重量101.4kg)もの象牙製品が、中国河北省の税関で押収されました。その密輸出の元は日本。いずれも、日本のeコマースサイトで買い付けたものでした。
さらに、2019年4月にも、新疆ウイグル自治区の税関で押収された象牙の一部が、日本のサイトで入手したものと考えられています。

2011年から2016年の6年間で、日本から違法に持ち出され、海外の税関で押収された、密輸出の象牙の総量は、合計で2.42トンにのぼります。

2011年から2016年の間に日本から違法輸出として押収された象牙(ETIS、2017年8月時点)

2011年から2016年の間に日本から違法輸出として押収された象牙(ETIS、2017年8月時点)

日本政府の対応と決議「10.10」

ここに示された日本からの違法な象牙の数量は、全て税関で発覚し、摘発されたものに限られます。

完全な阻止は難しく、密輸に成功した例も多くあることを想定すると、この数字を大きく上回る量の象牙が、日本から海外へ密輸出されている可能性も考えられます。


この現状にあっても、日本政府は、日本の国内の象牙取引は厳格に管理されているため、ワシントン条約の「決議10.10」で勧告されている「閉鎖すべき市場」には該当しない、という見解を示しています。

ワシントン条約の公式文書「決議10.10」。ゾウの取引に関して締約国や事務局が実施すべきことを示した公式文書。CITES-CoP17(2016年)の際に、新たに「ゾウの密猟や、象牙の違法取引に関与している国内市場については、閉鎖を求める」という勧告が追加された

ワシントン条約の公式文書「決議10.10」。ゾウの取引に関して締約国や事務局が実施すべきことを示した公式文書。CITES-CoP17(2016年)の際に、新たに「ゾウの密猟や、象牙の違法取引に関与している国内市場については、閉鎖を求める」という勧告が追加された

日本で現在取引されている象牙は、過去に合法的に輸入したものであり、近年アフリカで起きている「密猟」による象牙は、日本に入ってきている事実もない、というのが、その根拠とするところの理由です。

しかし、ワシントン条約の「決議10.10」の勧告が指摘する、「閉鎖(国内の商業取引の停止)を求める」市場には、ゾウの密猟に直接寄与する市場だけでなく、「象牙の違法取引に関与している国内市場」も、明確に含まれています。

つまり、実際に、日本から違法に象牙が輸出されていることが明らかな現状においては、日本の象牙の国内市場は閉鎖されるべき市場に該当するといえるでしょう。

さらに大きな問題は、日本から密輸出される象牙が、アフリカゾウ密猟の一番の要因国である、中国の市場に流れ混んでいることです。

中国は国として、国内市場を閉鎖し、需要の削減にも取り組んでいますが、その傍らで、日本からの違法な象牙が次々と流れ込めば、闇取引が活性化され、需要自体をさらに刺激する悪い要因となる可能性も考えられます。

日本政府は、2020年までに外国人観光客を4,000万人誘致することを目指していますが、その中には、中国をはじめとするアジア圏の人々も多く含まれています。
こうした人たちが、容易に日本で象牙を手にし、海外に持ち出すようになれば、どうなるか。果たして、日本の象牙の国内市場はこのままの状態で良いといえるでしょうか。

WWFジャパンでは、こうした実情を受け、日本の象牙市場が違法取引に関わっていると判断し、政府に対し、日本の象牙の国内取引を停止するための政策の改善を要望してきました。

また同様の指摘と要望は、海外からも寄せられています。
抜本的な政策の見直しをせずに、現在も合法的に象牙取引を継続する日本の姿勢を問う疑問の声は、実際、アフリカゾウ生息国や、先行して政策を進めるアメリカなどの国々からも示されているのです。

次回は最終回、こうした国際的な批判にもさらされる中で、日本にはどのような対応が求められるのか解説します。

「第6回 日本政府の対応、そして今日本に必要なこと」へ続く。

©Conor McDonnell / WWF-UK

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