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象牙問題とワシントン条約CoP18 象牙の消費国で進む政策

この記事のポイント
高価で取引される象牙を狙った密猟により、絶滅の危機が指摘されているアフリカゾウ。2016年に採択された「ワシントン条約」の「決議10.10」により、世界各国は象牙の国内取引の禁止を含めた、厳しい対応を進めています。しかし、複雑な経緯と現状を抱えた、象牙をめぐる問題の解決は、決して容易ではありません。このシリーズでは、2019年8月17日より開催される、第18回ワシントン条約締約国会議(CITES-CoP18)を前に、象牙をめぐる世界の現状と日本に今、何が求められているかを解説します。第4回目の今回は、象牙の消費国で進む政策についてお伝えします。

象牙の「国内市場」と国際取引

アフリカゾウの密猟は、なぜ起きているのか。
その大きな理由の一つは、象牙に対する「需要」があるためです。

この需要の受け皿になっているのが、それぞれの国にある象牙の国内市場です。

しばしば誤解される点ですが、「ワシントン条約」で国際取引、つまり国同士の間での輸出や輸入が規制されていても、各国内では取引できる動植物が多くあります。

日本における象牙は、その代表的な例。
象牙はワシントン条約で現在、国際取引が禁止されていますが、日本の国内では売買が合法的に認められています。

国内での売買が可能でも、海外からの違法な輸入や海外への違法な輸出、すなわち密輸を完全にシャットアウトできていれば、「国内市場」が、アフリカゾウの密猟を促進させることはありません。

しかし、実際には、密輸を完全に防ぐことは困難であり、しかも一旦、密輸品が国の中に入ってしまえば、もともとあった象牙との区別も付けられないため、容易に流通してしまうことになります。

つまり、国内に合法的な市場を持つ国が、密猟や密輸に由来する象牙の「ブラックマーケット(闇市場)」になってしまったり、より大きな需要のある場所へ流れる供給源になってしまう懸念があるのです。

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象牙を利用する「消費国」の対応

こうした問題を抱えた、日本をはじめとする各国の「国内象牙市場」の在り方が今、国際的にも大きな議論のポイントになっています。

そして、この5年ほどの間に、こうした議論や新しい取り決めの結果を受けて、象牙を利用してきた国、すなわち「消費国」の国内政策にも変化が起き始めています。

中でも、最も大きな変化は、自国の象牙の「国内市場を閉鎖」する、つまり、それまで認められていた国内での象牙の売買を、原則禁止する、という判断を選ぶ国が出てきたことです。

下記は、その主な国・地域と政策の内容の一覧です。

精密機器
国/地域 政策の発表時期や内容
タイ 2013年3月:国内の市場を終了させると発表
→2015年法改正
 アフリカゾウ:象牙の所持・取引禁止
 アジアゾウ:象牙/製品の所持登録義務
EU 2016年2月:取引制限を発表
→2017年7月より
 域外への未加工象牙の再輸出禁止
→2019年8月時点
 域内および各国内でのより厳しい規制について検討中
香港 2016年6月:域内市場閉鎖の5カ年計画を発表
→2021年までに域内取引停止(※狭い例外定める)
アメリカ 2016年7月:法改正
 国内(州間)取引禁止(州内の取引は州ごとに異なる)
中国 2016年12月:国内の市場閉鎖のプロセスを発表
→2018年1月
 国内の製造・取引完全に停止(※狭い例外を定めている)
イギリス 2017年2月: 国内取引に関する議論開始
→2018年12月
 国内の商業利用を禁止する象牙法を承認(※狭い例外定める)
シンガポール 2019年8月12日:2021年9月より国内取引を禁止とすることを発表
 (※教育/宗教目的の展示や個人所持などについては引き続き認められる)

最大の象牙消費国、中国の決断

特に大きな政策転換を図り注目されているのが、近年では世界最大の象牙の需要と、合法市場を有してきた消費国、中国です。

中国はこれまで、密猟による象牙が最終的に向かう先としても世界最大といわれ、その対策の取り組みは国際的な関心の的となってきました。
この中国の国内市場がアフリカゾウ密猟の引き金となっている、という指摘と、象牙の需要の大きさに対する懸念が大きく取り沙汰された結果、中国政府は事態を収束させるため、2016年12月、大きな政策転換を発表し、実行に移しました。

2017年末をもって、国内の象牙市場を閉鎖したのです。

まずは象牙製品を製造する工場を閉鎖。その後、国内での象牙取引を全面的に禁止しました。一部美術品や個人所有の相続や贈与を認める例外は設けていますが、商業的な象牙の取引は、中国国内ではできなくなりました。

引き続き残された懸念

この大きな政策の転換により、中国は、「象牙を望まない」という姿勢を世界に示しました。
実際に、それ以降、象牙の市場価格が下がったと指摘する報告も出ています。

しかし、市場がなくなっても、需要がすぐになくなるわけではありません。
そして需要のある限り、そこには違法な象牙が紛れ込む可能性が、絶えずついて回ります。

中国が象牙の国内取引を禁止した後、TRAFFICが中国の主要都市で行なった消費者の意識調査の結果は、その懸念の一端をうかがわせるものでした。

調査対象となった一般消費者全体のうち、実に14%が、国内取引が違法となった後も、象牙の購入を希望する、という意向を示したのです。

実際、国内の取引が全面的に禁止となってから1年以上が経った、2019年になっても、依然、中国への象牙の密輸は続いています。

2019年3月には中国で7.48トン、中国へ向かう中継地であるベトナムで9.12トン、7月には同じくシンガポールで8.8トンの象牙が、税関で摘発、押収されました。
密猟由来の、またはアフリカ諸国で政府が保管している象牙が、違法に輸出される事態は、止むことなく続いています。

2012年、トーゴから中国に向かう途中でマレーシアの税関で押収された1500個(コンテナ10個分)の象牙。資材用木材パイルの中に隠されていた。
©Elizabeth John / TRAFFIC

2012年、トーゴから中国に向かう途中でマレーシアの税関で押収された1500個(コンテナ10個分)の象牙。資材用木材パイルの中に隠されていた。

進められる対策の強化

それでも中国では、税関など海外との水際の取り締まりを強化し、国内での象牙の需要を削減する政策に力を入れています。

例えば、アフリカや、象牙の市場が残る東南アジアへ訪問する自国(中国)の観光客向けに、象牙を持ち帰る事は罰則を伴う違法行為であることや、生息国アフリカでの深刻なゾウの密猟について伝えるキャンペーンを実施。
一般消費者向けのメッセージを税関や民間の企業とも協働しながら展開しています。
これはWWFでも力を入れている、ゾウの保護活動のひとつです。

©TRAFFIC
©TRAFFIC

中国で税関と協働して実施しているキャンペーンのポスター(左:2018年、右:2019年)。中国のセレブリティを起用して、国内では象牙が取引禁止であることや、旅先から象牙を持ち帰ることは罪に問われることなどを伝えている

また、イギリスやEUでも、象牙の国内取引の規制強化や禁止に向けた動きを加速させています。

ヨーロッパでは古くから、主にアンティーク市場において象牙のアクセサリーや調度品が高い人気を誇り、活発に取引が行なわれてきました。

これらのアンティーク製品は、いずれも古いもので、現状起こっている「密猟」由来の象牙で作られたものではありません。それでも、取引が可能な市場の存在が、需要を喚起し、密猟を助長する可能性を鑑み、厳しい規制の実施を判断したのです。

また、最新の動向としてはシンガポールが、国内の取引禁止を決断したことを8月、ワシントン条約の締約国会議(CITES-CoP18)直前に発表しました。

シンガポールは国内の市場は大きくないものの、中国へ向かう違法な輸出の中継地として利用されている国として注目されていました。7月にも8.8トンという大規模な押収が起きたばかりです。

このような状況を受けて、違法取引撲滅に対する強い意思表示を示すものとなりました。

「決議10.10」の影響とこれからの国内市場

象牙の活発な国内市場を有していた、中国やイギリス、EUといった国々を、政策転換に踏み切らせた背景には、ワシントン条約で定められた、一つの決議が影響しています。

各国内の象牙取引が、アフリカゾウの密猟や象牙の違法取引を助長することがないように、それぞれの国において厳しい取引規制や違法行為の取り締まりの実施を求める、条約の公式文書「決議10.10」です。

2016年に開かれた、条約の第17回会議(CITES-CoP17)で、この既存決議の中に、新たに「ゾウの密猟や、象牙の違法取引に関与している国内市場については、閉鎖(つまり国内の商業取引の停止)を求める」という勧告が追加されたのです。

これは、一見当たり前のことのように見えますが、ワシントン条約はあくまで、国と国との間での取引=国際取引を規制する条約です。

それが、問題のある各国内の象牙市場の「閉鎖」を求める、各国の内政にまで踏み込んだ勧告を行なった例は、過去にありません。

逆に、それだけ強い言及がされるに至ったことは、深刻化するアフリカゾウの密猟と象牙の違法取引に対処するためには、国同士の間での取引規制だけでなく、それ以上の対策が必要だ、という認識が国際的にも強まったことの証といえます。

こうした国際的な議論の結果が、中国やヨーロッパ諸国などの国々に影響をおよぼし、各国内の取引について見直しを行ない、政策の転換に向かわせたのです。


今、世界中でこうした姿勢を見せる国が増えています。
その中で、日本はどのような対応を取ろうとしているのでしょうか。
中国の国内市場が閉鎖された今、日本の象牙の国内市場は、世界でも最大の規模となりました。
違法事例も報告される中で、国際的にも日本の取り組みと姿勢を問う声が、強まっています。

次回は、日本の象牙の国内市場の成り立ちと現状について解説します。

「第5回 日本の象牙の国内市場と「決議10.10」」へ続く。

©Martin Harvey / WWF

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