【動画あり】都市に現れたトラがリハビリを経て自然の森へ


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

2016年10月5日、極東ロシア沿海地方南部のアルチョーム市で若いトラが目撃されました。それから2週間後の10月19日、同じ個体と推察されるトラがウラジオストク市内に出没。保護関係者が出動してトラは無事に捕獲され、リハビリテーションセンターに移送されました。検査の結果、トラは狩りをする十分な力がないと判断され、野生復帰のためのトレーニングが行なわれることになりました。そして半年以上のリハビリを経て、2017年5月15日、天然資源省のセルゲイ・ドンスコイ大臣立ち合いのもと、このトラはビキン国立公園へと放されました。野生復帰の際には、発信機付きの首輪が取り付けられており、今後も追跡調査が行なわれます。

森林破壊が引き起こす、トラの都市部への出現

絶滅の危機に瀕しているシベリアトラ(アムールトラ)

世界に生息するトラの亜種では、最大の体躯を持つシベリアトラ。

極東ロシアの森の生態系の頂点に立つ野生動物です。

現在、このシベリアトラは絶滅の危機に瀕していますが、その背景には森林破壊(や密猟)という深刻な問題があります。

さらに、シカやイノシシなどの草食動物を狙った密猟により、トラの獲物が減少。

この問題は直接、トラの個体数減少を引き起こすだけでなく、すみかを追われて飢えたトラを、人里に出没させる原因となっています。

そして近年、こうした野生のトラが食物を求め、人里や都市部にまで現れる頻度が増加。

特に、最新の調査で30~32頭のトラが生息していると推定されている沿海地方南部では、こうした事件が多発しています。

2016年10月5日には、沿海地方南部のアルチョーム市の町に、若いトラが現れるという事件がありました。

沿海地方南部では、現存する森林に対して個体数の密度が高くなっているとみられ、一方で獲物となる草食動物の数が十分でない可能性が指摘されています。

こうした環境の中で、独り立ちしたばかりの若いトラが、自分の縄張りを見つけ、獲物を捕えることができず、都市部に出てきたと考えられます。

トラが再び都市に出現

このアルチョーム市での目撃から2週間後の10月19日の夜、隣接するウラジオストク市内でも「シベリアトラを見た」という通報が警察の緊急センターに入りました。

このトラは、年齢や体格からアルチョーム市に出現したトラと同じ個体だと推察されました。

通報を受けた、警察と沿海地方狩猟局、WWF、アムールトラセンターのスタッフが現場に急行。

しかし、雪上に足跡が残る冬ならばともかく、一面が落ち葉におおわれたこの時期に、トラの痕跡を追跡するのは容易ではありません。

ドローンを使った捜索も失敗。

狩猟局の職員らが夜を徹して捜索を続ける一方、万が一トラに遭遇した時の対処法が、市民にアナウンスされました。

そして、最初の通報から24時間が経過した20日の夜10時頃、ウラジオストク市内のシャモラ湾にトラが現れたという通報が入りました。

現場に駆けつけたWWFの専門スタッフや関係者が、熱感知カメラを使用して探索したところ、ついに町に近い森の中でトラを発見。

麻酔銃により捕獲し、すぐにリハビリテーションセンターへと移送しました。

野生復帰に向けたリハビリの開始

リハビリセンターで生体検査や計測などを実施したところ、このトラは体重約140キロの3才のオスで、怪我などはなく、健康状態は良好であることが判明。

しかし、町に出没した折、イヌやネコを捕食した形跡が認められたことから、自然の中で狩りを行なう力が十分にない可能性があることがわかりました。

そこで、すぐに自然の森に戻す前に、リハビリセンターで狩りのトレーニングを受けることになりました。

「ウラジク」と名付けられたこのトラのリハビリは、屋外の森林を囲ったケージ内で行なわれ、期間中にトラが人に慣れてしまうことがないよう、職員も直接接触することはせず、操縦機能付きの監視カメラを使いながら、状態の確認とトレーニングが行なわれました。

そして、捕獲されてから半年以上が経過した2017年5月、専門家による審査を受け、いよいよ野生に復帰できることが決まりました。

待望の野生復帰

野生復帰の場所の選定にあたっては、食物となる十分な草食動物がいることや、人の住居区から十分に離れていること、さらに他のオスのトラや、クマなどの大型動物の縄張りになっていないこと、という条件が考慮されました。

その結果、沿海地方の北に位置する、ビキン国立公園内のビキン川上流部が復帰場所として決定しました。

5月15日、WWFロシアとアムールトラセンターのスタッフ、さらにロシア天然資源省のセルゲイ・ドンスコイ大臣立ち合いのもと、ウラジクはケージに入れられ、ヘリコプターでビキン国立公園まで運ばれました。

そして、ケージの扉が開かれると、周りを見渡した後、勢いよく飛び出しました。その後、しばらく辺りを警戒して駆け回った後、静かに森の中に消えて行きました。

ウラジクの野生復帰について、WWFロシア極東支部の希少種保全ユニット部門長パベル・フォメンコは、次のように話しています。

「WWFの後押しにより設立されたビキン国立公園で、保護したトラが野生復帰するというのは嬉しいことです。

ここは都市部からも遠く離れており、ウラジクが再びコンクリートジャングルに戻って来ることはないでしょう。

ここで十分な獲物を捕り、幸せに過ごすことを願っています」

ウラジクだけではありませんが、捕獲され野生復帰を果たしたトラには、発信機付きの首輪が着けられ、今後もこのトラが野生に順応できているか、また町に再び近づいていないかなどの追跡調査が行なわれます。

ウラジクが森に帰ってからまだ数カ月。本当に野生復帰を成し遂げられたのかどうかは、まだこれからの調査の結果にかかっています。

ヘリコプターで輸送しているところ

発信機付きの首輪を着けました

WWFロシアのパベル・フォメンコ

極東ロシアの森林破壊と結びつく日本の消費

トラを町へと出没させ、人との衝突事故を起こす原因になっている森林破壊は、日本に住む多くの人たちとも無関係ではありません。

極東ロシアにおいて違法伐採や大規模な商業伐採により生産された木材は、様々な経路を通って日本にも輸入されており、家具や建材などの製品として販売されているためです。

こうした製品の中には、トラの生息地を破壊することにより作られたものも混ざっている可能性があり、これらを購入することで日本の消費者が知らず知らずのうちにトラを絶滅へと追い込んでいるかもしれないのです。

このようなトラの生息地破壊に加担にしないために、WWFでは企業や消費者に対してFSC認証マークの付いた製品を調達・購入するよう呼びかけています。

FSCは、トラを含む絶滅危惧種などの環境に配慮して、木材が持続可能な方法で生産されていることを認証する第三者機関であり、その認証を受けた森林から生産された木材製品にはFSCマークが付けられます。

日本でもFSCマークの付いた商品は増えてきており、意識してお買い物をすると、テーブルや椅子といった家具、さらにはノートやティッシュ、トイレットペーパーなどの紙製品まで身の回りに多くのFSC認証製品があります。

こうしたFSC認証製品を選択的に購入することは、破壊的な木材生産に対してノーという態度を示し、持続可能な生産を支持することで、トラのすむ森を守ることにつながります。

WWFでは、これからも極東ロシアでトラの保護と森林保全に取り組んでいくと同時に、日本でも企業や消費者に対してFSC認証製品の調達・購買を働きかけていきます。

ビキン川流域に広がる針葉樹と広葉樹の織り交ざった豊かな森

FSC認証を受けた、持続可能な木材製品。

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