COP22マラケシュ会議の1週目報告「パリ協定」のルール作りが軌道に


2016年11月7日から18日にかけて、モロッコ・マラケシュにおいて第22回国連気候変動枠組条約(COP22)および第12回京都議定書締約国会合(CMP12)が開催されています。世界各国から2万人が参加するこの会議は、「パリ協定」の発効後、初めてとなる国連気候変動会議であり、その具体的なルール作りの行方が注目されています。2週間の会期が予定されているこのCOP22では、前半の第1週目に、パリ協定のルール作りが軌道に乗りました。11月15日から始まる「パリ協定」の第一回締約国会合(CMA1)を控え、現地からの報告をお届けします。

「アフリカのCOP」

21世紀末までに、世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを約束した、画期的な国際協定「パリ協定」。

この協定が発効してから初めての開催となる、第22回国連気候変動枠組み条約締約国会合COP22(COP:Conference of the Parties)は、モロッコのマラケシュで、アフリカでは祝福の兆しとされる穏やかな雨の中で始まりました。

その開会式では、まず前回COP21の開催地パリより参加したフランスのセゴレーヌ・ロワイヤル環境大臣が、100カ国がパリ条約を批准したことを報告。

今回のCOP22を「アフリカのCOP」と呼び、気候変動問題の解決に向けた世界の正義を求めると共に、アフリカの新たな挑戦と創造性を称賛しました。

また、今回のCOP22の議長を務めるモロッコのサラフッディン・メズアール外務大臣は、協定への批准を通じて、温暖化防止に向けた意思を明らかにした世界各国の政府代表を歓迎。

2万人にのぼる会議の参加者を迎えたCOP22は、パリ協定批准の勢いをそのままに、開幕の運びとなりました。

ルール作りが軌道に乗って中身のある議論が始まった!

パリ協定は、21世紀末までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという画期的な国際協定。国連条約の中では異例の速さで、COP21での採択から1年をまたずに2016年11月4日に発効しました。しかし、パリ協定は、大枠は決まっているものの、どうやって実施していくかの詳細なルールはまだほとんど決まっていません。そこで、今後どのようにルールを作っていくかを、COP22で決めねばならなくなりました。

2週間予定されている会期の第1週目には、パリ協定のルールを作っていく特別作業部会(APAと呼ばれる)において、ルールを決めていくべき項目ごとに議論が進められることが決まりました。

たとえば、国別目標としてどのような情報を出すべきか、どうやって目標を達成しているかを見ていくべきか、どのように各国の目標が全体として2度未満に気温上昇を抑えるに足りているかを見るのか、など、テーマごとに分かれて、分科会を開催し検討する形です。

つまり、ルール作りがきちんと軌道に乗ったのです!

196か国もの国が参加する国連会議においては、まずどうやってルール作りを行なっていくか、どこで議論されるのか、そうした議論で大幅に時間を取られることがしばしばあります。

ですから、こうした議論をする軌道が明確に決まったことは、非常に大きな成果なのです。

とはいえ、議論の内容は各国がそれぞれの都合で発言をしている状態なので、まだまだ各ルールで合意していく道は遠いといわねばなりません。

それでも、-少なくともどんなルールになるべきなのか、中身のある議論が始まりました。

パリ協定未批准の国をどうやってルール作りに参加させていくか

パリ協定が発効してから開催されたCOP22は、もう一つ大きな仕事があります。

他の多くの国際条約と同様に、パリ協定の会議で決定権を持つのは、正式に批准した国の代表だけです。しかし、COP22の直前に発効したパリ協定に批准していた国は、ちょうど100か国。

日本をはじめ、批准が間に合わず、決定権のないオブザーバーとしての参加しかできないそれ以外の国も少なくありません。

つまり、こうした国がさらにまだ100か国近くある中で開催される、パリ協定の第1回会合(CMA1)において、いかに、すべての国をルール作りに参加できるようにするのか。

COP22ではこれを決めねばなりません。

その対応のため、まずはパリ協定の第1回会合を後半2週目の火曜日に開催することにして、前半1週目のうちに可能な限りルール作りを進めることにしました。そしてパリ協定の第1回会合を2週目に開催するときに、どう対応するかも同時に議論をしています。おそらくパリ協定第1回会議が開催されたら、ルール作りが終了するまで中断して、その間に上記のAPAと呼ばれるパリ協定特別作業部会で引き続きルール作りが継続される、という手立てがとられることになりそうです。

ちなみに日本はCOP22が始まって2日目にようやく批准しました。

批准してから30日後にようやくパリ協定の締約国となるので、正式には日本はCOP22におけるパリ協定第1回会合にはオブザーバーとしての参加にはなります。しかし、それにしてもあとは30日待つだけという形なので、なんとか面目を保ったといえます。

パリ協定を早く発効させようとした欧州連合やオバマ政権下のアメリカ、中国などの国に比べると遅きに失した感はぬぐえませんが、なんとかパリ協定発車の最後尾には乗ることができたのではないでしょうか。

アメリカ大統領選挙の影響は?

開催後すぐにニュースになった11月8日のアメリカ大統領選挙の結果は、COP22の会場でも大きな話題になりました。大国アメリカの気候変動政策が、今後どうなるのか、各国の政府代表団、温暖化問題に取り組む国際NGOもその行方に注目しています。しかし、ほとんどの国は「新政権の様子を注視してはいくが、我々は自国で決めた目標に向かって変わらず温暖化対策を進めていく」としています。

また、国際NGOも記者会見などで「パリ協定の合意前ならば大変な影響があったかもしれないが、パリ協定はすでに発効しており、交渉は終わって、今は協定をいかに実施していくかの段階に入っている。京都議定書の時と違って今はアメリカ一強の時代ではなく、中国やブラジルなどいくつもの大国の一つである。また政府だけではなく、自治体、投資家、ビジネス、市民社会など世界はすでに大きな潮流として低炭素化に動いており、その流れを止めることは誰にもできない」などと解説していました。

結果として、会議場の中ではこの話題に大きく動揺が走ることもなく、ルール作りの交渉が粛々と進められています。相変わらずの先進国対途上国の対立などは見られますが、いつも通りの温暖化の国連交渉が繰り広げられています。

2週目のCOP22に期待される成果

会議2週目に期待される成果としては、大きく以下の点があります。

11月15日に始まるパリ協定第1回会議において、

  • 中断や再開の手続きが決まり、いつルール作りを終了させるかの締め切りが明確に決まること
  • その締め切りに向けて、どのようにルール作りを進めていくかの工程表が決まること

2点目に関しては、たとえば何回会議が開催されるか、どの会議までにどんな提案を各国から提出させて、その提出意見をどのように統合していって、議論を次の段階へ進めていくか、専門的な議論が必要な項目は専門家を集めたワークショップを開催するか、などがいかに具体的に決まっているかが勝負となります。

一番の課題は、先進国と途上国を明確に分けて考える「2分論」と、「すべての国共通論」の対立が交渉論点のあちこちでまだ深刻に展開される中、途上国のキャパシティ・ビルディング(人材育成等も含めた能力強化)や資金支援の話などを、先進国側が中心となって具体化し、対立を和らげながら、上記の工程表を詰められるか、という点です。

2018年の「促進的対話」

パリ協定の下で各国が掲げている温室効果ガスの排出量削減目標は、今のままでは温暖化を抑制するためには不十分です。このため、パリ協定では、5年ごとに世界全体レベルと各国レベルでそれぞれ取組みを見直して、改善していくという仕組みを導入しています(図)。

その最初の世界全体レベルでの取組み見直しが、2018年に予定されており、交渉では「2018年の促進的対話」と呼ばれています(この世界全体レベルでの取組み見直しは、パリ協定が正式始動する2020年以降は、「グローバル・ストックテイク」と呼ばれるようになります)。

各国レベルでは、この2018年の世界全体での取組み見直しを受けて、2019〜2020年に、次の国別目標(NDC)を再検討・再提出することになっています(2025年までの目標を設定している国は2030年目標を初提出)。

WWFやその他のNGOは、この2018年という機会を特に重要視しています。なぜなら、この早期の機会に各国の排出量削減目標が見直されないと、世界全体の取組みが不十分なままで続いてしまい、軌道修正が不可能になってしまうことを危惧しているからです。たとえば、各国が掲げている2030年目標を、2023年頃に修正することに合意したとしても、対策が間に合わない可能性が高いからです。その間に、石炭火力発電所の増設が進んでしまったり、省エネが不十分な建物が多く建ってしまったりすれば、効果が出し難くなるからです。

ところが、この「2018年の促進的対話」については、パリ協定採択時に一緒に採択されたCOP21の決定で、主な目的と2018年というタイミングが決定されただけで、どのようにしてやるのかについては決まっていません。

仮に、どのようにしてやるのかが事前に決まっていないまま2018年を迎えてしまうと、各国代表団が集まったワークショップで、各国が取組みを紹介しておしまい、という形にもなりかねません。どうすれば意義のある「対話」となり、最終的には、各国の削減取組みの見直しにつながるのかを議論することが必要です。

しかし、今回のCOP22では当初、この問題について議論する「議題」が設定されていませんでした。これは、前回のCOP21ではパリ協定を採択するのがやっとで、そこまで細かいことを議論する余裕がなかったからです。

そのため、COP22においてWWFは、(正式な議題にないながらも)この問題が議論され、2018年の促進的対話に向けての準備作業がきちんと開始されるということを、重要視してきました。

会議が始まってから、WWFは他のNGOと協力して、この問題について、公式な議題には上がっていなくても、議論をして、今回の会議で、準備作業開始を告げる決定が出せるように各国に働きかけをしてきました。会議の合間に、個別に国々の交渉団に意見交換の場をもらい、その場で、この問題の意義を訴え、今回のCOPで決定を出すことの支持を訴えてきました。準備作業として、具体的には、各国やオブザーバーからの意見提出を募ったり、議長国が次のCOPの議長国と協力して協議を進める権限を与えたりすることが必要です。

その甲斐もあってか、当初からこの問題を重視していた島嶼国をはじめ、いくつかの国々がこれを支持してくれるようになっており、議長国モロッコが出したCOPの決定案の中にも、1行だけですが、2018年促進的対話についての準備作業開始についての文言が入るようになりました。

第2週目には、閣僚級会合が始まるので、おそらく、そこでこの問題も含めたCOPの決定案が議論されることになります。「準備作業の開始」が入るか入らないのかというのは、一見些細な点に見えますが、パリ協定の最大の特徴でもある「5年間の改善の仕組み」の最初の機会を正しく機能させるための第一歩となる課題です。このため、WWFでは、パリ協定の「ルールブック作成の開始」と同じく、第2週目でも各国への働きかけを強めていく予定です。

関連情報

現地より動画配信中!

COP22会場より、WWFジャパンのスタッフが現地の様子をお届けしています。

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