APRIL社の新たな「持続可能な森林管理方針」発表直後にNGOが違反報告


インドネシアのスマトラ島を中心に自然の森を破壊し植林地を拡大してきた製紙メーカーAPRIL社。1990年代にはじまった同社による自然の熱帯林の破壊は、貴重な野生生物の生息地を奪い生存を脅かすだけでなく、地域住民との社会紛争や森林火災、煙害など様々な負の影響を引き起こしてきました。2015年6月、APRIL社は新たに「持続可能な森林管理方針(SFMP 2.0)」を発表しましたが、直後に同社に原料を供給するサプライヤーが自然林の皆伐を行なっていることが報告されました。

APRIL社が再び誓約違反 NGOは落胆

APRIL社サプイヤーによる自然林破壊。
2014年2月の「持続可能な森林管理方針」発表以降も
自然林破壊が続いていた。

2011年7月23日から2014年10月3日までの
APRIL社の伐採許可地(黄色の枠内)。
ピンクの部分は、自然林皆伐後に見える土壌で、
濃いピンクは火災が頻発する地域(クリックで拡大)

スマトラの森には絶滅寸前のスマトラトラも生息する

1990年代前半に操業を開始してから20年以上にわたり、自社の原料調達に必要な製紙用植林地を確保するために貴重な自然林を破壊するという原料調達のあり方が、インドネシア国内のみならず世界中のNGOや研究者、そして企業からも問題視されてきました。

指摘される多くの問題に対し、同社は幾度となく森林破壊を停止するとの誓約を発表。しかし残念ながら、これらが操業の現場で完全に遵守されることはありませんでした。

近年では2014年1月に「持続可能な森林管理方針」を発表し、管理する土地においてその保護価値の高さを測るアセスメントを実施するなどの誓約をしたものの、自然林伐採の一時停止には誓約せず、スマトラ島とカリマンタン島(ボルネオ島インドネシア領)での自然林の破壊を続けてきました。1年後の2015年1月にはWWFを含む複数のNGOが、同社の操業にはそれまでと変化がないことを報告、自らが掲げた方針の改善と徹底を再度強く求めました。

その半年後の2015年6月には、APRIL社は「持続可能な森林管理方針」を改訂した「持続可能な森林管理方針(SFMP 2.0)」を発表。WWFインドネシアは、この方針が発表されたこと自体は歓迎しつつも、これまでの歴史から、方針を掲げるだけでなく確実に行動に移すことを期待すると下記の声明を発表しました。

ところがその数週間後、WWFインドネシアも参加する、スマトラ島やカリマンタン島で森林の状況や企業の操業を現地NGOとの協働でモニタリングするプロジェクト、アイズ・オン・ザ・フォレストが、APRIL社のサプライヤーが自然林の皆伐を続けていることを再び報告。8月には、同社の委託するコンサルタント企業によってもそれが確認されました。

この事態にWWFインドネシアの森林担当、アディティヤ・バユナンダは、「AHL社(APRIL社に製紙原料を供給するサプライヤー)による長年にわたる違反の歴史とAPRIL社の伐採許可地における適切な高保護価値(HCV)及び高炭素蓄積(HCS)のアセスメントが欠如したままであることを考慮すれば、アイズ・オン・ザ・フォレストは、この違反を軽視することはできない。APRIL社は、改訂した『持続可能な森林管理方針(SFMP2.0)』を実行するための適切なアセスメントが完了するまでは、すべての掘削機を停止すべきだ」とコメントしています。

下記は、本件に関するアイズ・オン・ザ・フォレストの発表です。


アイズ・オン・ザ・フォレスト・ニュース:2015年8月27日

APRIL社の森林破壊の一時停止違反を確認、NGOは同社の方針実施を疑問視

ペカンバル発:APRIL社は、同社が委託するコンサルタント企業、ハットフィールド社による監査報告書を公開した。そしてこのなかで、アイズ・オン・ザ・フォレストが指摘したAPRIL社のサプライヤーである北カリマンタンのアディンド・フタニ・レスタリ(AHL)社が、2015年5月15日より開始された自然林と泥炭地破壊の一時停止の誓約に違反していたことを認めた。

誓約された伐採一時停止は、6月3日に同社が公開した改訂版「持続可能な森林管理方針(SFMP2.0)」の一環であったが、これは、6月2日付で発表されたAPRIL社が属するロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループによる「林業、木質繊維、紙パルプの持続可能性枠組み」の一部でもあった。

6月22日、アイズ・オン・ザ・フォレストは、5月15日から6月9日までの間に71ヘクタールの自然林が皆伐されていたことを報告した。その2カ月後に発表されたハットフィールド社の分析では、39ヘクタールの「自然林の残る場所」が皆伐されていることが確認されている。さらに、73ヘクタールの「低木地」及び「伐採中の場所」が「植林準備地(裸地)」になっていることも発見した。

アイズ・オン・ザ・フォレストは、ハットフィールド社による土地分類(低木地と伐採中)が正確さを欠くため、この調査結果は不十分であり、73ヘクタールの一部では、高炭素蓄積の泥炭地での皆伐が行われていた可能性があると考えている。しかしAPRIL社は、この73ヘクタールで違反は行われていないとし、AHL社には39ヘクタールの再生のみ命じた。

過去にアイズ・オン・ザ・フォレストは、2014年1月にAPRIL社が「持続可能な森林経営方針」を発表した後もAHL社がそれに違反していたことを繰り返し報告してきた。この企業は、適切な高保護価値(HCV)及び高炭素蓄積(HCS)のアセスメントなしに泥炭土壌にある自然林皆伐を続けており、時には政府の法令や規制にも違反していた。

排水のためにつくられる水路。そもそも植林地には適さない泥炭地を開発する場合、まず土地を乾燥されるために排水用水路をつくる。

伐採地に積み上げられた自然林の木々

伐採地後に作られた植林地。ここからまた紙の原料が作られる。下の直線は水路。上の奥に残る濃い緑が自然林

WWFインドネシアのアディティヤ・バユナンダは、「AHL社による長年にわたる違反の歴史とAPRIL社の伐採許可地における適切な高保護価値(HCV)及び高炭素蓄積(HCS)のアセスメントが欠如したままであることを考慮すれば、アイズ・オン・ザ・フォレストは、この違反を軽視することはできない。APRIL社は、改訂された『持続可能な森林管理方針(SFMP2.0)』を実行するための適切なアセスメントが完了するまでは、すべての掘削機を停止すべきだ」と述べた。

また「APRIL社の違反は、同社の巨大な所有する土地に比べれば小さいものだが、今回のケースとAPRIL社の回答には、同社の方針に対する意図的もしくは非意図的な理解の欠如と実施における不適切さが示されている」とも述べた。

現地で活動するNGO、ジカラハリのウォロ・スパルティナは、APRIL社がコンサルタント企業の報告書を発表し、アイズ・オン・ザ・フォレストのアセスメントが正確であったこと証明されたことは良かったと述べたが、「APRIL社は、環境に関するコミットメントがこれまでのところ単なるリップサービスに過ぎないとする市民社会の批判を正しく理解していないようだ。我々はAPRIL社が適切に一時停止を実施し、操業の継続または開始を希望するすべての伐採許可地において直ちに適切な高保護価値(HCV)及び高炭素蓄積(HCS)アセスメントを委託するよう求める」と加えた。

カリマンタン島で活動するNGO、GAPETAボルネオのカミルッディン氏は、「なぜAPRIL社は、ベースラインとなる森林被覆図を2つの伐採許可地だけでなく、すべてのサプライヤーの操業地域で作成しなかったのか。APRIL社はカリマンタン島で広大な自然林の残る伐採許可地をいくつか所有する。これらの場所で一時停止の違反を見つけた場合、我々はコンサルタントが森林被覆図を作成するのをまた2ヵ月待つことになるのだろうか」と述べている。

 

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